30時間のジャムセッションの成果は?

 2013年11月24日~25日の2日間、東京・御茶ノ水のデジタルハリウッド大学にて、“PlayStation Mobile GameJam 2013 Winter”が行われた。当日集まったメンバーがチームを組み、限られた時間内で、ゼロからゲームを作り上げるイベント(ゲームジャム)は、近年日本でも盛んになってきているが、こちらは、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)が提供する開発ツールPlayStation Mobile(PSM)を使って、30時間でゲームを制作するという催し。デジタルハリウッド大学主催、SCEJA共催で、今回が2回目の開催となる(⇒2013年7月に行われた前回の模様はこちら)。

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 イベントには、ゲームメーカーに在籍するプロから、アマチュア、学生さんまで幅広い属性の作り手が参加。A~Fまでの6チームに分かれてゲーム制作に取り組んだ。特筆すべきは、今回名立たるゲーム会社の社長がゲームジャムに挑戦するという点。参加するのは、アクワイア 遠藤琢磨氏、ノイジークローク 坂本英城氏、ビサイド 南治一徳氏、ムームー 森川幸人氏の4名。4人の頭文字をとって、“M.E.N.S.4”と名付けられた社長チームがどのようなゲームを作り上げるのか、注目が集まった。ちなみに、今回はPSM SDKサポートメンバーを中心としたSCEのスタッフもゲストチームとして参戦している。

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ムームー 森川幸人氏
アクワイア 遠藤琢磨氏
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ノイジークローク 坂本英城氏
ビサイド 南治一徳氏

 なお、“PlayStation Mobile GameJam 2013 Winter”では、決められたテーマにしたがってゲーム制作に励んでいくことになるのだが、今回与えられたテーマは“スタート”。はたして、どのようなゲームができあがるのか?

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 さて、先ほどもお伝えした通り、ゲーム制作に与えられた時間は、11月23日午前10時~翌24日午後4時までのきっかり30時間。来場者は、会場で初めて顔を合わせたメンバーとチームを組み、いちからゲームを作り上げていくことになる。30時間というのは、ゲーム制作の時間としては極めて短い。やはり、というべきか、会場に寝袋を持ち込んで、仮眠を取りながら開発に励む……という参加者も多かったようだ。とくに制作が佳境に入る2日目午後ともなると、疲労度もひとしお……と思われるが、そこはゲームジャムに参加する皆さんのこと、目をキラキラさせながら、ゲーム作りに励む姿が印象的だった。まさに、“濃密なとき”を過ごしたのだろう。以下、各チームが制作した作品の概要をお届けする。

■Aチーム
カオスフレンド スタートアップゎ蜜の味☆
 主人公はスタートアップ企業の社長として、友だちを集めてウォール街でのし上がっていく。今回のゲームジャムでは、28章中4章までできあがったとのことだが、肝心のデモプレイでは、ウォール街らしきマップ上をキャラが移動していく……というシーンしか見られず。構想は大きかったようだが、参加者からは、「サウンドを担当していたのですが、ぎりぎりまで実装されなくてヤキモキしました」、「前回3位だったので、今回は優勝を狙ったのですが、プログラマがふたりしかおらず、きつかったです」といった苦労がしのばれるコメントも……。

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■Bチーム
まおうなんてやりたくない!
 “スタート”がテーマなので、“スタートしないようなゲームにしよう”ということで、人間と戦いたくない、怠け者の魔王が、部屋にこもって戦争を強要しようとする悪魔大臣たちをやりすごすというゲーム。悪魔大臣は4匹おり、部屋に入ってくる大臣に応じて異なるボタンを押し、違う場所に隠れる……というアクション。

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■Cチーム
COLA STARTER
 “スタート”はまさに“スタートダッシュ”ということで、ボダン連打で力を溜める……という発想からPS Vitaの加速度センサーを駆使して、ゲーム中のコーラを振り、どこまでキャップを飛ばせるかを競うゲームが誕生。アイデアが光る1本だ。PS Vitaを縦に振ると上下の位置が変わり、横に振るとパワーが溜まっていく。実際にコーラの音を使用したのだとか。

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■Dチーム
Life Born
 “スタート”といえば、生命誕生ということで、60億年前に、人類の先輩だった微生物が、人間になるまでを辿るゲーム。ジャイロセンサーを使って、水の中にいる微生物を誘導し、陸地に上げることが目的となる。微生物は障害物にあたると即死してしまうので、いかに障害物を避けていくかがキモ。とはいえ、“自機が思い通り”、“歯切れのよい操作感”という現在のゲームに反旗を翻すかのように、本作では“自機は思い通りにいかず”、“操作感はもったり”を心がけている。ゲームはゆったりとした強制スクロールで移動……と、独特の操作感が特徴の1作。

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■Eチーム
ラーマーやな? ~それホンマに世界創造??~
 ずばり、神々の遊びアクション。登場キャラは、シヴァ、ブラフマー、ヴィシュヌという、ヒンズー教の最強神。遊びながら人類を創造している……という設定で、60秒間球(惑星)を転がし続けて、サイズを大きくしていくのが目的。デモプレイでは、シヴァ役のプレイヤーとヴィシュヌ役のプレイヤーがピンボールよろしく球(惑星)をやりとりし、それにブラフマー役が横からちょっかい(?)を出して、“創造神”の名に違わぬ進化を球(惑星)に加えていくという内容。まさに、神々の遊びアクション。

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■Fチーム
ONE BUTTON JK 40秒で支度しな!!
 JKというのは、もちろん女子高生のこと。1日のスタートは朝……ということで、女子高生の忙しさのすべてを詰め込んだゲーム。名づけて“ワンボタンで遊べるハードコアアクション”。トイレ、シャワー、朝食をミニゲームに見立てて、40秒でのクリアーを目指す。

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▲社長チームの企画書。シンプルな内容ながら、あ・うんの呼吸で、目指すゲームはしっかり共有できたとのこと。

■M.E.N.S.4
スタートォ
 スタート+10=『スタートォ』というオヤジギャクようなネーミングのタイトルは、フィールドに隠された10個の星を探すとクリアーという内容のアクションゲーム。星を探す道具は楽器。楽器を鳴らすと音のリングが広がっていくのだが、隠れた星にリングがあたると、リングの拡大が止まるので、在処がわかるという趣向だ。楽器には、トライアングル、スネアドラム、サックスの3種類があり、楽器ごとに属性が異なる。いかに、敵のカラスの魔の手から逃れて星を集めていくかがカギを握る。30時間で作ったサウンドは27データ(BGM3曲、JINGLE3曲、DE21個)、パーツ・レイアウト類163個というリポートが発表されるや、会場からは物量の多さにどよめきが湧いた。「メンバーが優秀で、ツーカーという感じで、会話がほとんどなくても平気でした。ちょっと寂しかったですが(笑)、無駄がなかったですね」(遠藤氏)、「とんがったアイデアで玉砕するか、30時間できっちり作れるものの2択だったのですが、後者を選びました。何も言わなくてもデータが上がってきましたね。楽しいまま30時間が終わりました」(森川氏)、「いっしょにゲームが作れて、夢のような組み合わせでした。疲れたけど、達成感はありますね」(南治氏)、「皆さんの制作スピードの早さは驚きです。社長だけあって、決断が早いですね。企画会議は1時間で終わって、そこから開発に時間がかけられました」(坂本氏)と、みなさん社長どうしの共闘を堪能した模様。そんな“ジャム”の成果か、出来上がったゲームはとてもクオリティーの高いものでした。

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■おまけ参戦・SCEチーム
Tortise Frip
 前回『ザ・指摘者』というゲームで無残な目にあったSCEチームは、リベンジとばかり『Tortise Frip』を制作。内容はというと、月にいるうさぎに杵を届ける……というアクションゲーム。ロケットの行く手を邪魔するのは衛生で、タッチ操作でいかにうまくかわすかがキモ。“スタートに沿ったエンディング”ということで、ロケットが月に刺さると“Tortise”という文字が倒れて“Start”に変化するという趣向だったらしいのだが、デモでは確認できず……。終了8分前にプレイアブルができたとのことで、最後は調整不足だった!? とはいえ、メンバーは本来PSM SDKのサポートのために来ていたので、イベントがつつがなく終了して何よりだったのでは? とはいえ、「ゲーム作りは楽しい、というのがわかったのが最大の喜びです」というPSM担当の浅野さんの言葉には実感がこもっておりました。

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▲進行役は、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア パブリッシャーリレーション部 ディベロッパーリレーション課 アカウントマネージャー 伊東章成氏

 審査員は、デジタルハリウッド大学大学院学長 杉山知之氏、デジタルハリウッド大学 准教授 香田夏雄氏、アクティブゲーミングメディア 大阪本社 営業マネージャー 伊藤雅哉氏、そして、SCEJA パブリッシャーリレーション部ディベロッパーリレーション課 多田浩二氏の4名。当初、審査対象かと思われていた社長チームは、ほかの参加者との条件の違いなどから選考外に(ほかの参加者はイベント当日に初顔合わせをしてゲーム制作に取り組んだのに、社長チームはすでにメンバーが決まっていたなど)。社長チームを外した上での上位3タイトルは以下の通り。

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審査員は、左からデジタルハリウッド大学大学院学長 杉山知之氏、アクティブゲーミングメディア 大阪本社 営業マネージャー 伊藤雅哉氏、、SCEJA パブリッシャーリレーション部ディベロッパーリレーション課 多田浩二氏、デジタルハリウッド大学 准教授 香田夏雄氏の4名

★3位
Bチーム『まおうなんてやりたくない!』
 「“スタート”というテーマで、“スタートしない”というのはよく考えたと思います。悪魔大臣によって隠れる場所が異なるというキャラ設定もいいですね」(多田氏)

★2位
Dチーム『Life Born』
 「1位との差は僅差でした。ジャイロセンサーを使って操作をするということで、触ってみたいと思わました」(多田氏)
 なお、Dチームは審査員特別賞として、アクティブゲーミングメディア伊藤雅哉氏が選ぶ“PLAYISM賞”と、社長チームが選ぶ“社長賞”も受賞している。伊藤氏は、「純粋におもしろそう。ふつうにやってみたいなと思わせました」、社長賞の選考をした森川氏は「30時間でまとめるのは現役じゃないときびしい。とんがったゲームか30時間でまとめるゲームか……ということで、前者をやってくれました。伸びしろのある作品です」と絶賛。

★1位
Fチーム『ONE BUTTON JK 40秒で支度しな!!』
 「コンセプト通りでわかりやすい。40秒できっちり遊べるのもいい。ドット絵やサウンドも含め、まとまっています」(多田氏)

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▲優勝したFチームにはプレイステーション Vita本体が贈呈。
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 審査委員長を務める杉山知之氏は、「ゲームジャムは楽しい催しで、30時間でここまでできるんだといことを、皆さん感じられたと思います」とコメント。さらに、SCEJAの多田浩二氏も「ゲーム作りはなかなか一筋縄ではいきません。いろいろな人との出会いが可能性につながると思います。優勝したチームは配信までもっていってほしいです」とのことだ。

社長チームに聞く、「本当にジャムセッションのようだった」

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 最後に、無事戦いを終えた、社長チームの4名にコメントをいただいたので、ご紹介しよう。

――“PlayStation Mobile GameJam 2013 Winter”に参加してみてのご感想をお願いします。

森川 これで平常営業に戻れるのでほっとしています(笑)。やっぱりすごいメンバーでやれるのは楽しいですよ。この人数でも作れるということを改めて実感しました。

――体力面で心配されていましたか……。

森川 最悪ですね(笑)。体によくないです。そういう意味では大変ですけどね。まあ、集中してやれるのはいいですけど。(ゲームを作るのに)1年か、30時間かというギャップがすごいですね。

遠藤 私は、ジャムセッションという意味で、できる人たちが集まってジャムをしたという意味では、プロどうしのセッションはすごい刺激になるなと改めて思いましたね。南治さんのラストスパートもすごかったし。森川さんの絵もすごくて、坂本さん今回初めてパワーポイントも覚えてくれて(笑)。

森川 広報担当だもんね。

遠藤 「(私が)プレゼンできないや!」と言ったらやってくれて、そういった意味では臨機応変に対応できる社長さんだなと思いました。すごく助かりましたね。

南治 自分は、このチームでやれたのが楽しかったですね。基本的には、まだプログラムをやっていたりするので、難しいことはやっているのですが、そういうのがぜんぜん違うスタッフとやれたのがよかったです。

坂本 実際に制作をすることで、忘れていた感覚を取り戻すことがあって、「うちの社員は毎日こんなことをやっているんだ」ということがわかったり、ゲーム業界の世の社長さんは、ぜひ参加していただいたほうが、いいんじゃないかと(笑)。

遠藤 それは難しいかも(笑)。名前じゃない、手が動く社長さんを集めるのもじつはたいへんなんですよ。

――できあがったもののクオリティーはダントツだったですね。

遠藤 コンセプトがすごくよかったし、坂本さんがいるということで、音を活かそうということで、いろいろなところで、メンバーに合わせた形になったということが、よかったです。すごかったですよ。私ぜんぜんだまっていたのに、パッパッパッと決まっていったので。

坂本 とくに口には出さないのですが、お互いがお互いの長所を活かそうということは、ありましたね。森川さんのキャラクターはかわいいので、かわいい音をつけようとか。

森川 音楽のバンドってこういうことなんだろうね! セッションとか。初めて会っても、お互いの長所を活かしあえる。

坂本 本当にジャムセッションみたいな感じでしたね。

――本作の完成版が世に出るということは?

遠藤 そうですね……。ふだんの業務が忙しいので、ここから完成のためにどれだけ作業ができるか……というのはちょっと怪しいのですが、できれば何らかの形で出したいですね。

森川 売るっていうよりは、遊んでもらいたいですね。30時間でここまで作れるという。

――ぜひ、実現してほしいですね。

遠藤 参加できない人にも、指標になるべくなんか出せるといいなと。

――ちなみに、次回の参加はどうですか?

遠藤 スケジュールが許せば、ぜひ参加したいです。

森川 体が許してくれれば(笑)。