『ウォッチドッグス』インタビュー、第2弾

“筋書きのない世界”で物語を作るということ――『ウォッチドッグス』開発者インタビュー モントリオールスタジオ取材リポート Vol.3_01

 都市に整備された監視カメラや信号機などのインフラをハッキングで操ることで、自由度の高いゲームプレイを楽しむことができる『ウォッチドッグス』。全世界のゲームファンが注目するこの新規作品を絶賛開発中のユービーアイソフト モントリオールスタジオで、開発の主要人物へのインタビューを行った(前回の記事は→【コチラ】)。

 今回は、『ウォッチドッグス』のストーリーを担当するリードストーリーデザイナーのケビン・ショート氏と、ゲームシステムの構築と調整に携わるリードゲームデザイナーのダニー・ベランジェール氏へのインタビューをお届けしよう。

“筋書きのない世界”で物語を作るということ――『ウォッチドッグス』開発者インタビュー モントリオールスタジオ取材リポート Vol.3_02
“筋書きのない世界”で物語を作るということ――『ウォッチドッグス』開発者インタビュー モントリオールスタジオ取材リポート Vol.3_03
ユービーアイソフト モントリオールスタジオ
『ウォッチドッグス』リードストーリーデザイナー
ケビン・ショート氏

物語のテーマは、“プライバシー”と“信用”

――ケビンさんは、『ウォッチドッグス』の物語のコアとなる部分を執筆されたそうですが、まずは本作のストーリー概要について教えてください。

ケビン・ショート氏(以下、ケビン) 『ウォッチドッグス』の主人公は、エイデン・ピアースという男です。彼は過去に大きな“過ち”を起こしていて、それによって自分の家族を傷つけてしまうことになりました。そんな状況をなんとか解決しようとするエイデンは、彼の“過ち”の原因となった人に復讐するべく、その行方を追っているわけです。しかし、そこから状況が大きく変わり、シカゴの住民たちの運命を守るという立場に転換していくのです。

――ゲームのテーマは何ですか?

ケビン ふたつあります。まずひとつ目は“プライバシー”です。エイデンは、シカゴの街のインフラやネットワークを管理する“CtOS”にアクセスできるので、いろいろなものをハッキングすることができます。道行く人の電話の内容を盗聴することもできるし、メールも盗み見ることができる。そして、人々の顔をもとに、その人の職業だとか抱えている秘密などが明らかになります。そんな特別な能力をどのように使うかがこのゲームの重要なところです。力を使って興味本位で人々のプライバシーを暴くのか、それとも誰かを助けるためにその力を利用するか。そのバランスがテーマになります。

――ふたつ目はなんですか?

ケビン もうひとつは“信用”です。エイデンはゲーム中にいろいろな過ちを犯すことになりますが、それをどのように解決して主要人物の信用を取り戻すのか。そしてまた彼自身も周囲の人間をどうやって信用するのか。ゲームが進むにつれて変わっていく、登場人物どうしの“信用と裏切りの関係”にも注目してください。

――ゲームのストーリーを構築する上で、技術の進化がストーリーに追いついてしまい、困ったことはありますか?

ケビン つねに起きていますよ(笑)。『ウォッチドッグス』は4年前から開発を進めていますが、そのころはスマートフォンを使っている人がいまよりもずっと少なかったので、スマートフォンを使ってすべてのインフラをハッキングする『ウォッチドッグス』は、“未来のゲーム”だったわけです。しかし、現実ではすでにスマートフォンによる列車のハッキング事件なども登場し、現実がゲームの世界にに追いついてきていますよね。画期的だと思ってゲームで採用したアイデアが、突然現実に登場したりするので、新鮮さがなくなってしまい、困ることがありました

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シカゴを選んだ理由

――少し話を少し変えて、本作の舞台についてうかがいます。今回は、なぜシカゴが舞台に選ばれたのでしょうか?

ケビン それには、ふたつの理由があります。ひとつはシンプルな理由で、シカゴは地形的にバラエティー溢れる街だからです。都市だけではなく橋があったり川があったりと、とてもゲーム向きで楽しめそうだと。もうひとつが、今回は“CtOS”という設定を採用したので、ゲームの舞台は大規模な都市でなければなりませんでした。いくつか候補が挙がりましたが、その中でもシカゴは歴史的にも興味深いところで、かつて大火を経験していて、そこから再構築した街でもあるし、1920年代にアルカポーネに代表されるようなギャング問題で腐敗していた時代もあるわけです。そういった苦難をちゃんと乗り越えて、新しい未来の都市に成長したのがシカゴなので、“CtOS”のように大胆なアイデアでも取り入れられるだろう、と思ったからです。実際にシカゴには無数の監視カメラが設置しており、それを警察が利用しています。“世界でもっとも監視されている街”であることが、『ウォッチドッグス』の舞台にふさわしいと思いました

――開発スタッフは、実際にシカゴを訪れて考証や調査を実施したと思いますが、どんなフィードバックが得られましたか?

ケビン 開発チームはシカゴの街を何度も訪れましたが、最初はまずどんな人種や場所があるかについて調べました。その後、実際にシカゴに住んでいる市民の声を録音しに行ったのです。というのも、シカゴに住む人が話す英語はユニークなアクセントで、言いまわしも違うので。我々は何週間も掛けて、たくさんの人の会話を録音してきたため、ゲームにもそれが活かされています。また、シカゴの警察官へのインタビューを実施して、シカゴ警察で働くことはどういうものなのか、警官はどんな言葉を使うのか詳細な調査をしたわけです。ですので、『ウォッチドッグス』では、シカゴとの街が持っている雰囲気や空気感をリアルに再現することができました。ゲームをプレイすると、まるで実際の街に佇んでいるかのような感覚が味わえるはずですよ。

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プレイヤーの想像力を刺激するストーリー

――クリエイティブディレクターのジョナサン氏は、『ウォッチドッグス』のシカゴを、プレイする度に形が変わる“生きた世界”と表現していましたが、言わば筋書きのない世界で、ストーリーを作るのは難しかったのではないでしょうか。

ケビン 確かに難しいですね(笑)。エイデンが体験することになるメインのストーリーは一本筋が通っているので、通常のゲームとあまり変わりません。しかし、本作ではメインのストーリー以外の場所で、プレイヤーがシカゴの街でハッキングを使っていろいろなことをしようとするわけですよね。だから、メインストーリーの周辺で起きる出来事にもストーリーを用意する必要があったのです。我々はストーリーの整合性を取るために、とにかくたくさんのシナリオを書きました。シナリオライターのチームみんなで力を合わせたからこそ成し遂げられたことだと思います。

――メインミッションの周辺にあるストーリーとは具体的にはどんなものですか?

ケビン このゲームでは道ゆく通行人ひとりひとりが違うプロフィールを持っています。彼らをハッキングすることで、名前や職業、年齢に年収、そして過去のエピソードなどがわかるのです。私たちは、プレイヤーがそれを見たときにストーリーの空白の部分を埋められるようにしました。これは日本の俳句を作るようなもので、プレイヤーはプロフィールを見ただけで、その人の生活を想像するようになるのです。たとえば、これは私がテストプレイ中に実際に体験したエピソードなのですが、あるとき犯罪を犯した人物を追っていて、いつでも銃でとどめをさせる状況まで追い詰めることに成功しました。ちょっとした気まぐれで、その人物をハッキングしてプロフィールを覗いてみたら、“新婚”というキーワードが目に飛び込んできまして。これにより、それまで単なるNPCでしかなかった目の前のキャラクターが、一気にリアルな人物に感じられるようになったのです。“このキャラクターがいなくなったら、彼の奥さんはどう思うだろう?”、と。私はけっきょく引き金を引くことができず、相手を取り逃してしまいました。このように、プレイヤーの行動次第でストーリーが膨らんでいくのが本作の醍醐味とも言えます。周辺のストーリーをぜひ楽しんでほしいですね。

――エイデンが犯罪行為を行うと、人々からの“悪評”の増えて名声に傷がつくと効きました。名声の状態によってメインのストーリーが分岐することはありますか?

ケビン メインストーリーの分岐はありません。名声のシステムを取り入れたのは、ストーリーではなく、ゲームプレイに変化をつけようとしたからです。エイデンの行動次第で、シカゴ市民の行動が変わるようにしました。たとえば、エイデンが何か悪いことをしたら市民が騒ぎ立てて、警察が現場に来るまでのスピードが早まることがあります。しかし、逆に犯罪者から市民を助け続けていれば街のヒーローになれるわけです。自分が市民に取ってどんな存在になりたいのか、それはプレイヤー自身が決めることです。

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ユービーアイソフト モントリオールスタジオ
『ウォッチドッグス』リードゲームデザイナー
ダニー・ベランジェール氏

オープンワールドとしてのシカゴ

――『ウォッチドッグス』の開発における、ダニーさんの役割を教えてください。

ダニー・ベランジェール氏(以下、ダニー) 『ウォッチドッグス』のリードゲームデザイナーとして、ゲームの基本設計を担当しています。また、ステージの環境を構築するレベルデザイナーや、ゲームのアイデアを考案するプランナーと話し合い、すべての作業がクリアーに進んでいるか、ゲームの品質を維持できているか確認するのも自分の仕事です。

――なるほど。今回はおもにレベルデザインとマルチプレイの仕様についてうかがいたいと思います。

ダニー どうぞどうぞ。

――『ウォッチドッグス』をプレイしたプレイヤーは、すべての情報がネットワークにつながれた高度情報化社会で、インフラをハッキングして特別な存在になることができると思います。しかし、ゲームの展開によっては、インフラが整備されていない地域も登場するのでしょうか? もし登場するとしたら、主人公のエイデンはそこでは一般人と変わらない能力になりますね。

ダニー シカゴの街にはいろいろなエリアが登場します。たとえば、富裕層が住んでいるエリアや貧民街などがあります。ただし、インフラへのハッキングはゲームのコアになる要素なので、それがまったくできなくなるエリアは用意していません。エリアごとにハッキングできるものの種類が異なるようにしています。

――シカゴをオープンワールドで表現するときに、大事にしたことは何ですか?

ダニー ランドマークとして有名な場所は押さえつつ、主要なビルや幹線道路を再現しています。もちろん、ゲームとして楽しめるようにデフォルメしなければならないので、そこをどうするか悩みました。本作ではハッキングだけではなく、銃撃戦などのバトルシーンも登場するので、身を隠せるオブジェを街のあちこちに用意しています。

――シカゴの街の広さはどのくらいですか?

ダニー 広大な都市部とそのまわりのエリアを収録していますが、このゲームではオープンワールドの広さではなく、“そこで何ができるか”ということに注目してほしいです。開発チームは“面積”よりも“密度”を重視しています。本作のストリートでは、インフラをハッキングして、信号を変えたり、人々の情報を盗み見たり、突発的に発生する犯罪を防いだりと、いろいろなことができます。

――広い世界を移動するには乗り物が必要不可欠だと思いますが、どんな乗り物が登場するのでしょうか? 

ダニー 空を飛ぶ乗り物は登場しませんが、列車や船など、地上と海上を移動する乗り物は多数用意していますよ。

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気になるマルチプレイの仕組みは!?

――なるほど。ここからはマルチプレイの仕組みについてお聞きします。本作のマルチプレイについて簡単に説明してもらえますか?

ダニー シングルプレイとマルチプレイが融合したシステムは本作の売りのひとつです。ネットワークにつないだ状態でシンプルプレイを遊んでいると、ほかのプレイヤーがハッカーとして侵入してくることがあります。このとき、ハッカーは何をするのも自由です。侵入した先で相手のプレイヤーをハッキングすることもできますし、ただ黙って眺めているだけでもOKです。侵入された側は、“相手から何をされるかわからない”というスリルが味わえるのです。もしハッキングを仕掛けられた場合、制限時間内にハッカーを見つけ出して撃退しなければ、相手のハッキングが成功します。

――ハッカーとして侵入してくるプレイヤーはひとりだけですか? それとも複数人が入ってくることもあったりとか。

ダニー 現時点では詳細は明かせませんが、ハッカーはひとりだけではなく、人数が増えることもあるかもしれません。

――ほかのプレイヤーが自分のゲームに侵入してくると、すぐにわかるのですか?

ダニー いまはまだ「状況によってはわかります」としか言えません(笑)。相手の侵入がわかったら自分を守りやすくなるでしょう。

――となると、基本的に誰かが入ってきてもわからないわけですよね。相手はいつの間にか、AI(人工知能)で行動する群衆のひとりに勝手に紛れ込んでいるのでしょうか。

ダニー その通りです。だから、本作にはステルスアクションゲームの要素も含まれていると言えるでしょう。ハッカーはプレイヤーにこっそり近づいてデータを盗むことが可能です。これにより緊張感が高まります。

――ハッカーの目的は、プレイヤーを殺害することではなく、ハッキングするということのようですが、具体的には何をハッキングするのでしょうか?

ダニー 本作にはハッカーたちのリーダーボードが用意されていて、ハッキングに成功するとポイントが増加し、自分のランキングが上がっていく仕組みです。だから、ハッカーにハッキングされたからといって、プレイヤーが損をすることはありません。どちらかというと精神的なもので、プライドを傷つけられることになります

――マルチプレイでは、プレイヤーにとってネガティブな要素はないのですね。

ダニー ええ。すべてがプレイヤーにとって楽しい経験にしたいので、罰則やリスクを課すことは考えていません。殺し合いをするという暴力的なゲームにはならないので、多くの人に体験してほしいですね。

――とは言え、E3 2013(毎年アメリカで開催される、世界最大のゲーム見本市)でのクローズドデモでは、プレイヤーどうしの戦闘がくり広げられていました。どんな条件が揃うと戦闘になるのでしょうか?

ダニー 戦闘に突入する前に、いくつかステップを踏まないといけません。もっとも重要なことはハッキングされた側が戦闘に関係するアクションを起こすことです。ハッキングされたからと言って、ほかのプレイヤーと戦いたくないひとは戦わなくていいのです。すべてのプレイヤーは守られているので、対戦に興味がない人は安心してゲームを進められますので、ご安心ください。ちなみに、ほかの人のゲームに侵入してハッキングをくり返していると、コミュニティーの中で名が売れて狙われやすくなります。

――誰かのゲームに侵入するときは、対象となるプレイヤーが選べるのですか?

ダニー 誰かを指名して侵入することもできますし、ランダムで侵入も可能です。自分が誰にハッキングされたかもデータとして残っているので、リベンジしにいくこともできます。

――たとえば、自分のフレンドの世界にも侵入することができる?

ダニー フレンドをターゲットにすることはできますよ。もしフレンドを敵に回したければですが(笑)。ほかのプレイヤーのゲームに侵入するうちに、もしかしたら意気投合してフレンドになるかもしれません。そんなときはおもしろいターゲットになると思います。

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