キーパーソンが語る『ウォッチドッグス』

話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_01

 世界中のゲームファンが注目する新作アクション『ウォッチドッグス』。ファミ通.comの取材班は、本作の開発を手掛けたユービーアイソフト モントリオールスタジオを訪れ、開発のキーパーソンへのインタビューを行った(前回の記事は→【コチラ】)。ここからは、インタビューの内容を掲載する。

 「『ウォッチドッグス』のゲームデザインは、『パックマン』を参考にしている――」。そう語るのは、『ウォッチドッグス』のクリエイティブディレクターを務めるジョナサン・モーリン氏だ。すべてがネットワークで管理されている近未来の都市で、インフラをハッキングして進めていく新機軸のアクションゲーム『ウォッチドッグス』。本作の開発における“現場仕事”のトップであるジョナサン氏は、プレイヤーが惰性でゲームを遊ぶことがないように、つねに予測不能なことが巻き起こる、“揺らぎのある世界”を構築したかったという。

 そんな世界を作り上げるために役に立ったのが、往年のパズルアクションゲーム『パックマン』のアルゴリズムというわけだ。『パックマン』の敵AI(人口知能)の行動パターンは、ひとつひとつはシンプルだが、何種類かが組み合わさると、プレイヤーの予測がつかないものになる。ジョナサン氏はその点に着目し、『ウォッチドッグス』のオープンワールドに行き交う人々や警察、犯罪者などの行動パターンを定義していった。これにより、「プレイする度にシチュエーションが変わる、刺激に満ちたゲームプレイを実現することができた」と、氏は語る。ここからは、ジョナサン氏へのインタビューを掲載する。『ウォッチドッグス』という完全新規のプロジェクトがスタートするまでの話や、本作のゲームデザインがどのように決まっていったのか、非常に興味深い内容となっているので、ぜひ最後まで読んでほしい。

話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_02
話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_03
ユービーアイソフト モントリオールスタジオ
『ウォッチドッグス』クリエイティブディレクター
ジョナサン・モーリン氏

『ウォッチドッグス』が、起動するまで

――まずは『ウォッチドッグス』の開発がスタートするまでのプロセスを教えてください。本作は、2012年にE3(毎年アメリカで開催される世界最大規模のゲーム見本市)でサプライズ発表されましたが、正式発表までにどのくらいの潜伏期間があったのでしょうか?

ジョナサン・モーリン氏(以下、ジョナサン) 我々が表舞台から隠れていたのは3年くらいだと思います。発表から1年くらい経っているので、開発期間は4年間ほどですかね。

――潜伏期間中、早く発表したいというフラストレーションはありませんでしたか?

ジョナサン いえ、フラストレーションというよりもワクワクした感じのほうが強かったです。でも、さすがに開発初期には不安がありましたけどね。今回『ウォッチドッグス』の開発にあたって、会社が特別なサポートをしてくれたわけですけども、その期待に応えられるか心配でした。“必ず成功するレシピ”はありませんからね。でも、結果的には会社にも待ってもらえるだけ価値があるものになったと思います。

――『ウォッチドッグス』の開発には、多くのスタッフが携わっていると聞きました。これだけ規模の大きいゲームを、3年のあいだ表に出さなかった、その秘訣はなんですか?

ジョナサン それは、すべての人に対して嘘をつくことです。……それは冗談ですけども(笑)。でも、何か画期的な方法を実践したわけではなく、すごくまっとうなやりかたでプロジェクトを進めたんですよ。それは、ゲームの存在を教える相手を絞るということです。会社の上層部はもちろんですが、半分以上のスタッフが、我々が何を作っているか知らなかったと思います。ミーティングをするときも人払いを徹底しましたから。

――『ウォッチドッグス』の開発時のコードネームはなんですか?

ジョナサン “NEXUS(ネクサス)です。これは“ネットワークのポイントをつなぐ”という意味です。それは『ウォッチドッグス』のゴールを示しています。何年もゲームを作っていると、実現すべき目標がだんだんブレてくることがありますが、このゲームでは当初のコンセプトを維持できたのがよかったです。

――『ウォッチドッグス』は、プレイステーション4やXbox Oneといった新世代機で発売されること、トリプルA級の規模であること、専用の新しいゲームエンジンに対応していること、完全新規の作品であることなど、特別な条件が揃ったゲームだと思います。ゲームのアイデアが生まれてからそれを実現するまでに、ユービーアイソフトの中でも多くの承認が必要だったと思いますが、いったいどんなプロセスを踏んだのでしょうか?

ジョナサン 『ウォッチドッグス』は、私がクリエイティブディレクターになってから初めてのプロジェクトだったわけですが、いろいろと多くのことを学ぶことができました。会社を納得させるために、プレゼンテーションを何度も何度も重ねまして。ひとつのプレゼンテーションを行うために、1週間かけることもありましたよ。ひとつのアイデアを誰かに売るということは、何かをデザインするようなもので、できるだけ細かくわかりやすく説明しないといけません。そして、説明するだけで終わりではなく、相手の反応を注意深く観察する必要があります。たとえば、相手の反応によって、「こういう言葉はいいけど、これは通じなかった。マーケティング部門にはこの言葉、また別の部門にはこの言葉」といったように学んでいったわけです。そうやってゲームのことをいろいろな角度から見つめることで、クリエイティブに役立ったり、仕様の決断にも影響を受けました。

――プレゼンテーションを成功させるためのコツを教えてください。

ジョナサン 私はビジュアルを大事にする人間なので、プレゼンテーションではおもにアニメーションやアートワークなどを使い分けました。そのほうが言葉で説明するよりも正確なものが伝わると思いまして。また、ゲームのテーマのひとつである“セキュリティー”はコンテンポラリーな話題で、多くの人々が関心を持っています。だからときには時事的なニュースをプレゼンに盛り込むこともありました

話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_04

『ウォッチドッグス』のボードゲームが存在した!?

――実際にプロジェクトがスタートしたとき、同じビジョンをスタッフで共有するのが難しいと思います。そのためにどんな方法を実践しましたか?

ジョナサン 欧米でゲームを作り始めるときは、みんな現実的で効率がいい方法を取りたがるのですが、今回のはまったく逆の方法を取りました。我々は、最初にウォッチドッグ』のコンセプトを盛り込んだオリジナルのボードゲームを作ったのです。イギリスに“スコットランドヤード”という、警察と泥棒が追いかけっこするボードゲームがあるのですが、それをゲームをもとに自分たちなりに改変して。

――『ウォッチドッグス』風のボードゲーム! それは気になりますね。いまも残っていますか?

ジョナサン もちろん残っていますが、不格好なので見せられませんよ(笑)。で、そのボードゲームをプログラマーを始めとするチームのすべての人にプレイしてもらったんです。そうやってゲームのテーマに少しずつなじんでもらって、意見を集めたのが第一段階。そして、つぎの段階でゲームのプロトタイプを作成しました。それはシティをコントロールするというもので、そのなかのひとつのアイデアで、いまのゲームにも活かされているのが、信号をハッキングすることです。ボタンを押すことでリアルタイムに街をコントロールするというのは、そのときに感じてもらえたと思っています。

――世界有数かつ最先端のテクノロジーを有しているモントリオールスタジオで、ボードゲームのようにアナログな作りかたをしているのがおもしろいですね。

ジョナサン ゲームを作るということは、ビデオゲームもボードゲームでも基本は同じだと思っています。ゲームのおもしろさは、プレイヤーの経験次第でいろいろな結果が生じることだと思います。たとえば、碁やチェスの世界は、ルールが限定されていますが、その中で可能性の多様性を表現できるから刺激的なわけです。ルールをぜんぜん知らない人が遊んだら、ただコマを動かしているだけでおもしろくありませんよね? 『ウォッチドッグス』でも、シチュエーションごとにいろいろなできごとが発生します。もし相手がクルマで逃げたらクルマ止めをハッキングすればストップできるし、信号を変えればほかのクルマを使ってジャマできます。“この行動を取ったら必ずこれが起きる”という安定した行動はありません。ただし、そういう状況を一度経験すれば、つぎのプレイで可能性を考慮して遊ぶようになるのです。プレイヤーがゲーム経験を重ねることでゲームがリッチになっていくのが、このゲームのおもしろいところです。グラフィックやテクノロジーはもちろん大事ですけど、それよりもどんなツールを作るかが大事です。

――“予測不能なもの”をコントロールするのは難しそうですね。

ジョナサン プロトタイプ版は基本的にふたり用で、ターンベースでプレイするんですけども、何回か遊ぶとお互いの行動を予測できるようになってきます。するとクルマの自動運転のように惰性で遊んでしまい、そうなると途端におもしろくなくなります。そこで、我々が実際のゲームで参考にしたのが『パックマン』です。このゲームは一見シンプルですが、ランダム性があり、いろいろなコンビネーションがあるのでとても予測しづらいのです。何年も続けてプレイしてもクリアーすることができません。『パックマン』のように状況を複雑にすることで、ゲームをよりおもしろくできると考えました。

――なるほど。『ウォッチドッグス』の遊びの源流は『パックマン』がベースになっていると。『パックマン』のランダム性は『ウオッチドッグス』のどの部分に生きているのでしょうか?

ジョナサン 『パックマン』は本当にすばらしいゲームですよ。現代の複雑そうに見えるゲームでも『パックマン』の要素をベースにしているゲームがたくさんありますから。主人公のパックマンの敵としてモンスターが登場しますが、彼らは何種類かのパターンに分かれて行動します。パックマンが移動する場所を予測して動くモンスター、パックマンの反対に動こうとするモンスター、まったく予測不能な動きをするモンスター。ひとつひとつを見るとシンプルですが、それらが組み合わされると、ものすごく複雑に見えるのです。『ウォッチドッグス』も同じで、街にはエネミーがいて、警察官がいて、通行人がいて、ヘリが飛んできたりと、さまざまな要素が複雑に絡み合っている。プレイヤーは経験を重ねて複雑な状況を解決することにあります。『パックマン』と『ウォッチドッグス』に共通しているのは、プレイヤーの能力や知能をリスペクトしていることです。“プレイヤーはこれを乗り越えられるだろう”と信じて作っているわけですから。最近のゲームはグラフィックがリアルになっていて、キャラクターもまるで人間のような感じですが、けっきょくAI(人口知能)が行動を決めるので、その仕組みをよく考えなければいけません。

話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_05

ゲームシステム・トレンドの先を読むということ

――そんな“揺らぎのある生きた世界”に画期的なネットワークシステムが結びついているのが『ウォッチドッグス』のポイントだと思います。ゲーム業界ではシングルプレイとネットワークを介したマルチプレイが融合したシステムがトレンドですが、『ウォッチドッグス』の開発チームは、4年前からこうなることを予見して作っていたのでしょうか?

ジョナサン 我々は開発当初からネットワークの重要性を感じていて、どうやってゲームに有効に取り込むか考えていました。というのも、最近はいろいろな娯楽で溢れかえっています。スマートフォンユーザーは端末ひとつでWebサイトのブラウジングやゲーム、読書などが楽しむことができますし。ゲームはこれらのエンターテインメントとプレイヤーの時間を食い合って競争しているわけです。だから、一度プレイして終わりのゲームを作ってもダメだと思っています。たとえば、ネットワーク機能を強化して友だちが遊んでいるから自分も遊ぶとか。新世代ゲームが登場する時期は、新ハードの新機能を使ってゲームを作ろうとする人もいますが、私は、ゲームを遊ぶ人たちがどんな行動パターンや興味の対象があるのかについて知ることが大事だと思っています。『ウォッチドッグス』では、現代のゲームファンのニーズに合うようにマルチプレイをデザインしました。

――いまスマートフォンの話がでましたが、現代のスマートフォンといえば、取引先に電話したり、友だちに連絡したり、家族にメールしたり、仕事やプライベートのスケジュールを管理したりと、小さい端末にユーザーの生活の“すべて”が入っていると思います。だから『ウォッチドッグス』のように、主人公がスマートフォンの端末で都市のインフラをハッキングすることにリアリティーが感じることができました。でも、4年前というとスマートフォンがいまほど普及していなかったと思います。そんな中でこのアイデアが出てきたことに驚いたのですが、テクノロジーの進化を予見できたのはなぜですか?

ジョナサン ゲーム業界は、世間のトレンドを読んで、ユーザーに最先端の遊びを提供するのが使命ですから、物事がどう移り変わるか、いろいろと予測を立てないといけません。『ウォッチドッグス』はちょうどiPhoneが出てきて、世の中が変わろうとしていたところに、うまく入っていくことができました。そういう意味ではすごくタイミングがよかったと思うし、ゲームのアイデアと現実がうまく結びついたと思います。

――ゲームの発売までもう少し時間があると思いますが、日本のファンはこのゲームのどのポイントに注目しながら待っていればいいでしょうか?

ジョナサン 本作のポイントは、アクションで自由さと自分を表現できることです。完全新規の作品というのは、新しい体験を提供しなければならないと考えています。『ウォッチドッグス』を何かにたとえるとしたら、私は楽器だと思います。たとえば、ギターは始めのうちはうまく弾けませんが、音楽の知識を学ぶことで、自分なりの多彩な表現ができますよね。『ウォッチドッグス』でもそれは同じです。ハッキングでできること、そしてできないことを学べば、自由自在にゲームを楽しむことができるでしょう。プレイヤーの皆さんには、このゲームを使って、私たちクリエイターが想像もつかないような遊びかたを実現してほしいと思います。そんな自由度の高いゲーム性にぜひ注目してください!

話題の新作『ウォッチドッグス』の源流は日本が誇る“あの名作ゲーム”にあった!? モントリオールスタジオ取材リポート Vol.2_06

 次回の更新は9月12日(木)予定!