第3弾は、前回に引き続き作家陣へのインタビュー

 小説本編シナリオをたきもとまさし氏が執筆し、ドラマCDシナリオを安本 亨氏が担当、シナリオ総監修を『シュタインズ・ゲート』のシナリオを務めた林直孝氏が担当する、『シュタインズ・ゲート』の完全新作小説シリーズ。『閉時曲線のエピグラフ』、『永劫回帰のパンドラ』の2作品が現在発売中で、2013年9月26日に完結編となる『シュタインズ・ゲート 無限遠点のアルタイル』が発売される。今回、ファミ通.comでは3回に渡り、同作を特集。

 特集第3弾は、前回に引き続き、たきもとまさし氏と安本 亨氏、MAGES.の編集担当へのインタビューを掲載。今回はドラマCDの内容について話を聞いた。なお、これ以降の内容には、『シュタインズ・ゲート』本編のネタバレが多く含まれるため、ゲームを最後までプレイしていない人や、アニメを最後まで観ていないという人は注意して欲しい。

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声優さんの素も見られるドラマCDのおもしろさ

——そしてお待たせしました、ここからはドラマCDについて伺えればと思うのですが、今回はどんな内容になっているのでしょうか?
安本 亨(以下、安本) まぁ、いつもの調子の内容です(笑)。小説本編の世界線とはまったく別の、みんなでワイワイ盛り上がっている物語ですね。本当は、いちばん最初の巻だけコメディーっぽくして、あとは本編に沿った内容にしようかという話があったのですが、それだと全体的に重くなってしまうという理由と、音として聞いたときにファンの方はいつものラボメンのやりとりを聞きたいんじゃないかという話になって。では、3連作みたいな形にしようと。一応、真帆の登場から今回でひと段落つく感じになっています。
MAGES.編集担当(以下、担当) 期せずして季節ネタになりましたしね。

——そうなんですか?
担当 学園祭ネタなんですよ。

——なるほど。延期したことで、ちょうどいい時期に(笑)。
安本 (笑)。内容的には、いつもより悪ノリしています。
担当 とくに一部のキャラが(笑)。
安本 このキャラにはこういう一面があるのね、というところがちょっと出てきたりしますね。
担当 ドラマCDだと萌郁と鈴羽がいつもいい味を出しているんですけど、今回もね。
安本 萌郁、鈴羽、るかあたりが(笑)。ドラマCDだからちょっとはっちゃけちゃっていいだろう、ということで。

——書いていて楽しかった部分は、どんなところですか?
安本 それぞれがそれぞれのキャラの特性を活かした、キャラの味というか、色というのを出しているところを用意したのですが、そこは楽しかったですね。どうしても、真帆と岡部とか、真帆と紅莉栖というように、真帆中心の話になっているので、ほかのキャラクターの見せ場がなくなっちゃうんですよ。でも、ちゃんとほかのキャラクターにも見せ場ができるようにシナリオを書きました。そこは自分自身、書いていておもしろかったです。あとは真帆を演じている矢作紗友里さんが『シュタインズ・ゲート』に初参加だったので、いつものメンバーの中にぽいっと入れられた感じだったのが印象的でした(笑)。
たきもとまさし(以下、たきもと) 矢作さんはいいキャスティングでしたね。イメージぴったりで。
安本 ちょっとキツいところがありつつっていうのがいいですよね。
たきもと 初めて声を聞いた瞬間に「これだ!」って言っちゃいましたからね(笑)。難しい役どころなんですけれど、いい芝居をしてくれました。
安本 やりすぎるとキャラ的にキツくなっちゃうので、さじ加減が難しいんですけれど、とてもうまく演じてくださいましたね。

——声優さんの演技を聞いて、イメージが膨らむ部分というのもあったりするんですか?
安本 ありますね。今回ですと1巻のときは声のイメージがないままシナリオを書いているんですが、2巻以降はドラマCDで演じてもらったので声のイメージができていたので、膨らむイメージというのがだいぶ違っていて、くっきり形になってきたという感じはありました。

——なるほど。シナリオを書く際に、ドラマCDならではの難しさというのはありますか?
安本 みんなを平等に出したいんですけど、それがなかなか難しいんです(笑)。キャラクターによってはどうしてもしゃべらないキャラクターとか、おとなしいキャラクターとか、なかなか絡ませづらいキャラクターがいるんですよね。岡部、ダル、紅莉栖でわいわいやっちゃうと、ほかのキャラクターが置いてけぼりになっちゃうというのもあって。
たきもと とくに萌郁はキツいですよね、ドラマCDだと。
安本 そうなんですよ! でも、萌郁だけ外すわけにもいかないじゃないですか。後藤(沙緒里)さんに来ていただいて、しゃべるところが少なくなっちゃうと申し訳ないので、説明キャラになったりしています。この作品では、毎回萌郁に「トゥットゥルー」って言わせているんですけれど、最初は恥ずかしそうに、言いにくそうにしているんですけれど、今回はスルっと言ってもらったので、萌郁の「トゥットゥルー」が成長していくという聴きどころがあります(笑)。

——ドラマCDも成長の話だったんですね(笑)。
安本 ぜひ1巻から比較してもらいたいですね(笑)。
たきもと 極端な話、萌郁はSEだけでも成立しちゃいますからね。ケータイをいじっている音と、着信音とで。あとは岡部が受信した内容を読むだけでいいですから。
安本 でも、ラボメンはみんな揃わないとね、やっぱり。だから、あの手この手でしゃべってもらっています。

——ドラマCDならではの聴きどころというのは?
安本 役者さんの演技が激化していくところですね。よっぽどのときはさすがに止めるんですけれど、だんだんダルとかタガがハズれてくるので(笑)。
たきもと ダルに引きずられてオカリンもだんだんエスカレートしてくるんですよね(笑)。
安本 役者さんのいい意味で遊んでいるところが、たまにポロっと出てきたりするのが、ドラマCDならではのおもしろさだと思います。
たきもと その中で今井さんの真面目さが出てくるんですよ。あの人は崩さないですからね、紅莉栖を。一生懸命抵抗して(笑)。
安本 なんかね、やりたそうなんですよ。岡部やダルの暴走に混ざりたいんだけど、そこに引っ張られると全体がグダッとしてしまうので、一生懸命手綱を引いているんです。
たきもと ダルとオカリンがエスカレートしていく中での、今井さんのがんばりが聴きどころなんじゃないですかね(笑)。
安本 あのふたりが絡むとどんどんエスカレートしていくので(笑)。
担当 今回のドラマCDに関しては、3人ともいっしょに録っているので、セリフのキャッチボールがすごくいいですよね。
安本 息が合ってますね。

——声優さんの演技で膨らんだ部分がすごくおもしろくなったときに、作家さんとして悔しかったりということはないのでしょうか?
安本 僕はぜんぜんないですね。むしろ、「いいぞもっとやれ」という感じで(笑)。
たきもと 僕もそうですね。なんなら台本の通りに演じなくてもいいぐらいに思っています(笑)。
安本 今回のものではないですけれど、コミケで販売したものなんかはそれぞれアドリブで素の部分がポロっと出ていたりしていておもしろいですよ。役者さんの素の部分がちょっと見えると聴いているファンの方もうれしかったりするじゃないですか。本気で笑っていたりとか。
担当 今回の夏コミのドラマCDは振りきれかたがすごかったですよね。
安本 関さんがこうくるから宮野さんがそれに被せていって、今井さんがさらに……みたいな。収録現場でも毎回僕らはゲラゲラ笑いながら聞いてます(笑)。

新作の企画が進行中!?

——ちなみに、おふたりは『シュタインズ・ゲート』の魅力というのは、どんなところにあると思いますか?
たきもと 林君がいないところでしゃべっていても大丈夫なのかな?(笑)
安本 本人が嫌がるぐらい褒めちぎればいいんですよ(笑)。「逆に気持ち悪いわ!」って言われるぐらいの。
たきもと (笑)。さきほども言ったんですけれど、僕はあくまでもいちユーザーとしてプレイしていて、仕掛けも知らず、何の先入観もなくプレイできたのでとても楽しめましたね。僕自身、志倉さんと林君との付き合いが長いので、一段パワーアップしたなという印象がありましたね。たぶん、うまくかみ合ったんだと思います。世界線の選択というと変かもしれないですけれど、志倉さんと林君が出会ったことが重要だったのかなと思いました。
安本 そうですね。志倉さんは閃きのタイプで、林さんはどちらかと言うと職人肌なところがあるので、志倉さんの閃きを、林さんが構築していくというところのかみ合わせがよかったのかもしれないですね。
たきもと 林君ってわりと志倉さんに対してうまいんですよ。志倉さんの言ったことをうまく変形して志倉さんに返すっていう技を持っているんです。これは僕にもできない技なんですけれど(笑)。『ロボティクス・ノーツ』のときにインタビューで志倉さんが仰っていたんですけれど、「本当はもうひとりいたはずのキャラクターを林直孝がいつのまにか減らしてしまった」というエピソードがあって。思わず笑っちゃったんですけれど、そういうことをするんですよ、林君は。「たとえ志倉千代丸が怒ろうが何をしようが、僕はこれがやりたいんだ」って思ったらやり抜く部分と、職人肌な部分が、うまく志倉さんと合致したんじゃないかと思います。あまり褒めちゃうと悔しいんですけれど(笑)。
安本 世界観とキャラクターがうまくマッチしているというのもありますよね。林さんって独特のキャラクターを作るじゃないですか。
たきもと それはありますね。志倉さんはわりとイメージの人なんですよ。ビジュアルとか映像とか。それに比べて林君はイメージではなくて文章優先で出てくるらしいんですよ。そのふたりがうまく組み合ったということなんじゃないですかね。そこに松原(達也)さんの演出が入ってきて、いっそう地盤が固くなったというか。Trueルートに入るときの演出なんかは、皆さんもそうだと思うんですけど、すごく熱くて。『シュタインズ・ゲート』の魅力として、松原さんの演出とデザインワークは欠かせないですよね。
安本 細々としたデザインなども松原さんが作っているんですよね。そういった部分で世界観を作っているところも当然あって。
たきもと 3人の才能がピッタリ合ってできた傑作なんだと思います。ある意味、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択だったのかなと思いますね。いいチームでできているなという印象でした。それと『シュタインズ・ゲート』の魅力といえば“爽快感”があると思います。あれだけの物語でも、よく読んでみるとおかしなところや矛盾してるところは見つかるんですよね。おそらくユーザーさんも気づいているところだとは思うんですけれど。でも、そんなことどうでもいいじゃんっていう爽快感がある。
安本 そんなことを気にさせない力技というか(笑)。ぐいぐい持っていく感じですよね。
たきもと ある意味力押しなんだけど、それを力押しに感じさせないんですよ。
安本 納得させちゃう気持ちよさというのはありますよね。
たきもと 1980年代の傑作である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と通ずる部分があって、考えてみるとおかしいんだけど、構成で一気に見せてしまうという力強さと爽快感を感じました。おかしいところをおかしいと感じさせないというのは、SFには大事なことなので。
安本 あとはキャラクターがそれぞれすごく立っているというのもありますよね。たぶん、岡部のキャラクター的に、まわりもけっこう強烈なキャラにしないと岡部だけがすごく目立ったり、ほかが沈んだりしちゃうんです。でも、みんなわりと強烈なヤツらで集まっているのでそうはなっていない。そういうキャラクターを作り上げたというのが勝因なんじゃないですかね。
たきもと 岡部は、何気にいそうでいないキャラでしたからね。

——そうしてプレイされていたゲームに関わるようになるというのは、どんな心境でした?
安本 プレッシャーがデカいというのはありましたよね。人気作品ですし。精神的にけっこうしんどかった記憶があります。スケジュール的な部分でのしんどさもありましたけど(笑)。
たきもと 僕は林君と仲よかったこともありまして、うれしさかったですね。わからないところはすぐに電話して聞けるということもあり、それほどプレッシャーは感じていませんでした(笑)。
安本 たきもとさんは、電話しすぎですよ(笑)。
たきもと 林君のことが好きすぎなのかなぁ?(笑)
安本 そのうち、着拒とかされますよ(笑)。
たきもと ヤバいなぁ(笑)。
安本 ……でも、最初は物語が入り組んでいるから、自分の中に落とし込むのがけっこうたいへんでしたね。喫茶店で7〜8時間ずっと話をして(笑)。
たきもと まず志倉さんの考えたアトラクタフィールド理論というのを理解するところから始めなきゃいけなかったですからね。
安本 わりと思いこんでいたりする部分があったりして、そこを正していくのがたいへんでした。
たきもと 自分でシナリオを作るとなるとやっぱり違うんですよね。制約がもっときびしいんですよ。ゲーム本編に書かれていない、志倉さんたちの中だけの取り決めというのがあって、それは当然制作側に入ってみないと教えてもらえないので、僕らがゲームをしていた状況ではわからないルールがあるんです。それがかなり足かせになりましたね。みんなで会議をすると、「それはダメです」とか、「それは無理です」ということがけっこうあって。

——よくユーザーの方が『シュタインズ・ゲート』は世界線を変えれば何でもできるから、シナリオライターは楽でいいよね、みたいなことを言っていたりしますけど、じつはかなりご苦労されているんですね。
たきもと ホントにいろいろなルールがあるのでたいへんなんです(笑)。
あとは綯ちゃんルートを書きたいって言ったら、「それは僕が書くからダメです!」って林君に言われました(笑)。「それは譲りません!」と言われて。
安本 林さんは、綯ちゃんに関しては、いろいろ思い入れがあるみたいですよね。
たきもと 綯だけうるさいんだよなぁ。監修も綯のチェックがすごくきびしくて(笑)。

——(笑)。もし今後『シュタインズ・ゲート』関連で関わることになったとしたら、どんな物語を書きたいですか?
たきもと 僕はいちばん当初にあった“ダル・ザ・スーパーハカー”ですね。これは林君とすごく盛り上がったので、ぜひ書きたいんです。内容は、ダルの秘密のバイトの話ですね。そうすると岡部も紅莉栖もほとんど出てこないので、はたしてニーズがあるのかという疑問は残りますけどね(笑)。
安本 僕はガッツリメインで書いたことがないキャラクターを書いてみたいですね。
たきもと 綯ちゃんの話をあえて書くというのは?
安本 それは林さんに怒られますから(笑)。得意、不得意じゃないですけれど、転がしにくいキャラクターをあえて書いてみたいですね。僕としては萌郁、フェイリスあたりですかね。そういうキャラクターをメインに据えた話もおもしろいんじゃないかなと。
たきもと 小説とかよさそうですよね?(チラッ)
担当 ひょっとしたら、近い将来になんらかの発表ができるかもしれませんね。
安本 いったい何が来るんですかね?(笑)
たきもと 綯ちゃんの外伝とか(笑)。
安本 だから、それは林さんのチェックがきびしいから(笑)。ちなみに、僕は天王寺裕吾とか好きなんですよ。ハードボイルド系で。
担当 それは『ブラウニアンモーション』があるじゃないですか。

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安本 (笑)。でもアプローチを変えて描けると思うんですよね。あんな風貌なのに、女言葉でメール打ってるんですよ? それでメールを打ってる途中で綯に話しかけられて、ついつい女言葉で「何かしら?」とか言っちゃって(笑)。
たきもと 「お父さんがおかしくなっちゃったー!」って言われてね(笑)。4コマとかにできそう。FBとしてメールを打ってるときは、お母さんの恰好をしてるとかね。

——(笑)。妄想が膨らんでいますが、そろそろお時間ということで、最後に読者の皆さんにひと言メッセージをお願いします。
安本 小説のほうは、初期のプロットを読ませていただいていたのですが、おもしろいことが保証できる内容になっています。ぜひ楽しみにしてください。ドラマCDは、「バカなことをやってるな」みたいな感じで一服の清涼剤的に楽しんでもらえれば(笑)。役者さんがノリノリでやられている部分もあるので、おもしろいですよ。この作品に関わっている方々の『シュタインズ・ゲート』愛みたいなものが溢れているので、そういうところも楽しんでいただければ。
たきもと 企画の最初の段階から、いわゆるドラマCD『無限遠点のアークライト』から派生した作品にしようという話だったのですが、あのドラマCDに出てくるダメなオカリンは、『シュタインズ・ゲート』という作品にとって、無駄な人物だったのかどうかという答えが、今回の小説で描かれています。あの無駄に見えるオカリンがホントに無駄な存在だったのか? ぜひ見守っていただければと思います。

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