「ユーザーの“半歩先”でニーズに応える」バンダイナムコゲームスの挑戦
強力なIP(知的財産)を軸に、家庭用ゲームはもちろん、モバイル・ソーシャルゲームでも成功を収め、2013年3月期も3年連続となる増収増益を達成したバンダイナムコゲームス。変化が激しい近年のゲーム業界において、著しい成長を続けているのは驚異的だ。
同社が快進撃を続けている要因とは? そして、新世代機が登場し、ゲーム業界が新たな時代へと移り変わろうとしている中、同社の取る戦略とは? バンダイナムコゲームス取締役の浅沼誠氏に話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 林克彦)
※この記事は、週刊ファミ通2013年9月5日号(2013年8月22日発売)に掲載されたものと同内容です。
取締役 第1事業本部 本部長
浅沼 誠氏
Makoto Asanuma
ユーザーのニーズとのズレがようやく修正できてきました
――昨年度も増収増益を達成されて、近年絶好調ですね。その要因について、どのように分析されていますか?
浅沼 誠氏(以下、浅沼) ひとつには、やはりソーシャルゲームというカテゴリーの成長が大きかったです。とは言え、ソーシャルゲームをやってるメーカーさんがすべて好調かというと、そうではない部分もありますよね。その中で弊社が好調を維持できているのは、いち早くプラットフォーマーさんといいビジネスができたのが大きかったと思います。
――いち早く事業を進めることができた要因は、どこにあるのでしょうか?
浅沼 我々には多くのゲームIPとキャラクターIPがあり、いままで、家庭用ゲームや、PC用オンラインゲームなど、いろいろな“ゲームの出口”にリリースしてきました。そこでいちばん大事なのは、「ユーザーさんが多くいるところに、そのユーザーさんが求めているものをお届けする」ことだと思っています。ですから、グーッとソーシャルゲームが盛り上がった時期にも、「早くそこにコンテンツを提供しなければいけない」と強く考えたのです。
――なるほど。そこにお客さんがいるから、というわけですね。
浅沼 最初にMobageさんで『ガンダムロワイヤル』をリリースしましたが、非常にいい反応でした。“反応”というのは、単に売り上げがいいというだけでなく、ユーザーさんのリアクションがとてもよかったんです。そのとき、その時期ではまだ新しいプラットフォームだったMobageさんのところに、多くのユーザーさんが集まっていることを実感しました。それならば、我々としては、活用できるキャラクターIP、ゲームIPのゲームをどんどん投入すべきだろうと。そこで一気に、ブレーキを踏まずにいけたところが、先行できた理由なのかな、と思います。
――一方で、家庭用ゲームも好調ですね。
浅沼 そうですね。家庭用ゲームにもアーケードゲームにも、ユーザーさんのニーズがまだまだあります。移り変わる部分もありますが、ニーズは増えて、多様化しているのではないかと思います。たとえば昨年発売した『逃走中 史上最強のハンターたちからにげきれ!』は、テレビ番組とタイアップしたタイトルですが、1年間かけて50万本も売れました。
――あれには本当に驚きました。
浅沼 僕も、正直予想できませんでした(笑)。また最近では、『ガンダム』のパッケージソフトがきびしい状況になっていた中で、『ガンダムブレイカー』が非常によく売れてくれました。いまも今後も、ソーシャルゲームを遊んでいるからパッケージゲームやアーケードゲームを遊ばない、ということにはならないと思うんです。選択肢が増えている中で、ユーザーさんが望むことであれば、しっかり、それぞれにコンテンツをリリースしていくことが大事だと思います。
――とは言え、トレンドが目まぐるしく変化する中で、“ユーザーが望むこと”を正確に掴むのは困難ではないですか?
浅沼 そうですね。実際、数年前あたりは、作り手の「これがいいんじゃないかな?」という部分と、「いま何が求められているのか」という部分がズレていたと思います。それは、『ガンダム』のゲームが毎月のように出ていたり、という部分も含めてですね。いくら『ガンダム』が好きなユーザーさんでも、そんなに買えるわけがないですから。そういった、市場、エンドユーザーが求めるものについて、やっと理解ができるようになってきたのかな、と。
――それができるようになったのは、何か要因があるのでしょうか?
浅沼 難しいですが……。簡単に言うと、当たり前のことをちゃんとやっていくことなんですよ。長年ゲームを作っていると、いいと思ったものが売れなかったり、逆に「これがなぜ売れちゃうの?」といったこともあったりして、混沌としてくると思うんです。その整理がついていない状態のものが多かった。そこを、ふつうに考えて、話し合って、「うちの強みを活かしていこうよ」となったんです。
――御社の強みとは、強力なIPですね。
浅沼 そうですね。そこにしっかり特化していこうと。弱いところを補完することもひとつの方法ですが、状況がきびしいときには、強いところを伸ばしていったほうがいいと思うんですよ。そのほうがネガティブにならないですし(笑)。そうやって整理していくと、みんな納得して仕事ができるようになったというのもあって、それも大きかったですね。
――結果として、IPを軸にしたタイトルで成功を収めている一方で、『GOD EATER
(ゴッドイーター)』のような新規IPも躍進していますね。
浅沼 『GOD EATER(ゴッドイーター)』は久々に生まれたいいオリジナルIPなので、大事にしたいですね。こうした新しい、いちから立ち上げるゲームIPを今後どうやって作っていくかは、大きな課題です。
――そういう意味では、『月極蘭子のいちばん長い日』はおもしろい試みですよね。
浅沼 やはり、新機軸を見せていかないと面白くないですよね。とは言っても、ゲーム業界も歴史が長くなって、なかなか新しいものは出てきません。となると、フュージョン、融合させていくことを考えないといけない。弊社で言うと、PS3フォーマットで、『マクロス』の劇場版アニメとゲームを合体させたハイブリッドパックを発売して、非常に好評をいただきました。そもそもキャラクターIPは、アニメからゲーム化しているものが多いですし、我々のユーザーさんと、アニメコンテンツとは、非常に親和性があります。ですので、いままで、ゲームにアニメを付ける、もしくはアニメにゲームを付ける、ということをやってきましたが、そこを同時にやってもいいんじゃないかと。こういったチャレンジは、今後もどんどんするべきですよね。
※関連記事:【『月極蘭子のいちばん長い日』――『SHORT PEACE』プロジェクト第5番目の作品はゲームだった!】
いろいろなチャンネルを用意してユーザーが選択できるように
――最近では、『 スーパーロボット大戦 Operation Extend(オペレーション エクステンド)』をダウンロード専用で章立て配信したり、フルプライスのタイトルをダウンロード専用で販売したりと、“売りかた”についても新しいチャレンジが目立ちますね。
浅沼 『スパロボ』については、大きいゲームなので、やはり完成までには数年かかってしまいます。そこでユーザーさんが、「何年も待つよりも、1章ずつでもいいから早く遊びたい」と思ってくれるのならば、それもありだろうということですね。
――なるほど。ダウンロード販売自体の利用率も上がっているのでしょうか?
浅沼 タイトルによって違いますが、全体的には増えつつありますね。たとえばPSP版の『デジモンワールド リ:デジタイズ』では、ダウンロード版の販売比率が結構高いんです。『デジモン』のユーザーは幅広くて、大まかに大人層と子ども層に分かれているのですが、大人の層は、「パッケージを店頭まで買いに行く時間がないのでダウンロードしてしまおう」という方も多いのではないかと思います。そんなふうに、いまは店頭販売だけではなく、ネット通販も、ダウンロードもある。そんな中で、ユーザーさんが何を望んでいるのかを考えなければいけない。いろいろなチャンネルを用意して、選択してもらえるようにすることが必要な時代になっているのだと思います。
――ネットワーク関連では、オンライン専用で基本プレイ料金無料の『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』も、非常に好調ですね。
浅沼 あれも、企画の段階では、「きびしいのでは?」とも言われたんですよ。ちょうどソーシャルゲームが流行り出して、時代が“ちょいゲー”と言われるような、気軽に遊べるゲームの方向に流れている中でしたから。スマートフォンや携帯電話の「いつでもどこでも遊べます」というゲームと比べると、まずPS3を持っていないと遊べないし、ネットにつないで、テレビの前に座って……と、制約は非常に多いです。でも始めてみたら、本当に多くのユーザーさんが遊んでくれています。
――基本無料という、いま風のスタイルでありながら、中身は本当にゲームファン向けのタイトルですからね。
浅沼 もちろん『ガンダム』というタイトルの特性もあるとは思いますが、「こんなに自由に遊べますよ」というものと、制約があって、“そこでしかできない遊び”というのは、両立するんだなと。絞り切って、カリカリに極めたものを遊びたい、というユーザーさんの思いもやはりあるのだと、非常に参考になりましたし、今後の指針になりましたね。
発売タイトルは昨年度とほぼ同数 東京ゲームショウも盛り上げたい
――家庭用ゲーム全体の展開についてはいかがですか? 今期も、非常にタイトル数は多くなるようですが。
浅沼 弊社は、本当に発売タイトルが多いですからね(笑)。今年度も、タイトル数は、昨年とほぼ変わらないと思います。
――そこは意識的にタイトル数を維持されているのですか? それとも自然とそうなっているという感じなのでしょうか?
浅沼 意識的に減らさないようにしているというのも、少しありますね。100万本売れるソフトではなくとも、そこにユーザーさんがいるならば、出していきたい。たとえば『プリキュア』のゲームを楽しみに待ってくださっている子どもさんもいると思います。そこはしっかり出していかないと、ユーザーさんに申し訳ないという気持ちもありますから。そして、もちろん、王道の『ガンダム』や『ワンピース』もやらなければいけないし、『逃走中』のようにチャレンジもしていかないといけません。さらに、「ぜんぜん関係ないけどこんなのどう?」みたいな、ユニークなものもやっていくべきだと思います。……そうしていくと、自然とボリュームは多くなりますよね(笑)。
――まだまだ未発表のタイトルもありそうですし、期待しています。9月に開催される東
京ゲームショウでは、どんな展開を考えておられますか?
浅沼 やはり、IPを軸とした展開を考えています。中心になるのは、『GOD EATER 2(ゴッドイーター2)』と、週刊少年ジャンプ創刊45周年記念作品の『Jスターズ ビクトリーバーサス』と、そして……といったところです。試遊とステージを中心に展開しますので、ぜひブースに来ていただきたいです。
――秘密の大きなタイトルもありそうですね。楽しみにしています。
浅沼 ええ、楽しくやりたいですよね。ゲーム業界全体が元気なところを見せたいです。
南米とアジアの市場が重要 新生『パックマン』では世界展開を
――グローバル展開についてはどのようにお考えですか?
浅沼 最近では、北米と欧州だけではなく、それ以外の市場も非常に重要視しています。具体的には、アジアや、最近ホットな南米ですね。ブラジルでは、昨年度も『聖闘士星矢戦記』を発売しましたが、現地で日本のアニメをテレビ放送しているため、とても人気があるんですよ。昨年、弊社のプロデューサーが何人か現地に行きましたが、「わざわざ僕たちの大好きなゲームコンテンツを持ってきてくれた」ということで、マスコミも多数集まってくれたくらいです。
――それはうれしいお話ですね(笑)。
浅沼 ええ(笑)。アニメキャラが非常に強いということで、今期も何タイトルか発売を予定しています。新しい市場として、ブラジルを中心に、ペルーなども含めて、どこまでいけるのか、引き続きリサーチをしているところです。あとは香港や台湾、中国、東南アジアなどのアジア圏ですね。最近は東南アジアが経済的に注目されていますが、そこにはまた、我々のユーザーさんがいると思いますので、調査研究しながら進めています。すでに、香港や台湾などの近しいあたりでは、ずいぶん前からしっかりやっていますので、きっちり結果が出てきているんですよ。ですので、サポートも、いままでは都度つどやっていたところも、1タイトルごと、国ごとにきっちりやっていくように改めています。
――北米、欧州市場についてはいかがですか。
浅沼 やはり市場としては大きいですからね。より精度を高めて展開していきたいという思いはあります。
――それは具体的にはどのような?
浅沼 十年前にやって失敗したことでも、「本当はニーズがあるのではないか?」というものもあります。たとえば『テイルズ オブ』シリーズは、数年前からきっちり展開し直していて、いい結果が出ているんですよ。いわゆる“JRPG”は受けない、と言われたりもしましたが、求めているユーザーはいるんですよね。ちゃんとユーザーがいるのであればビジネスになります。ですので、再度、我々が持っているゲームについて、どの地域にユーザーがいるのかしっかり調べていって、皆さんが望むものを提供できるように、精度を上げながらやっているところです。
――となると、引き続き全世界に対してビジネスをしていくということですね。
浅沼 そうですね。全世界での展開というところでは、いまは新生『パックマン』に力を入れています。まずアメリカで、フル3DCGの新しい『パックマン』アニメのテレビ放映が始まりました。この新しいアニメ版『パックマン』のゲームも発売になります。旧型の元祖『パックマン』と合わせて、大々的に展開します。
新世代のゲームはまさに研究中 ”スピード”を重視してニーズに応えたい
――PS4、Xbox Oneが発表され、いよいよ新世代機が出揃いますが、今後の展望についてはいかがですか?
浅沼 当然、新しいハードが発売されるということは、そこにユーザーさんがいらっしゃるということ。それならば、そこにゲームを供給しなければいけないだろうと、研究や準備を進めています。ただ、今回の新世代機は、大きく進化をしていますが、その進化が、従来よりも高度と言いますか……。
――いままでのように、誰にでもわかりやすい進化ではない、という意見もありますね。
浅沼 もちろん、ハードメーカーさんがそこを突き詰めて、グッと進化したハードになっていますが、それを僕らがソフト開発で、どう表現していくのか。何をおもしろみとして提供できるのかは、難しいですよね。初代プレイステーションのときは、コンセプトとしては、ポリゴンでガンダムを動かすだけでも、インパクトを生み出すことができました。でも、いまはそういう時代ではないですよね。ハードを研究して、バンダイナムコゲームスだからできることとは何か、バンダイナムコゲームスだから作れるおもしろいゲームとはどんなものなのかを、一生懸命考えています。
――それでは最後に、御社が今後重視していくことを教えてください。
浅沼 やはり重視するのは、「ユーザーが求めているもの」ですね。もしくは、「ユーザーが求めたいと思っているもの」。そういったニーズをつかんでいくことだと思います。現時点で言えば、『ガンダム』ユーザーさんや『ワンピース』ユーザーさんなどを絶対に裏切ってはいけません。そして、それを踏まえたうえで、つぎに何をやっていくのか。ひと言で言うのは難しいですが、“時代を半歩リードする”ことが重要なのではないでしょうか。行きすぎてもいけないし、遅れてもいけない。そのためにはスピードが重要になります。単に「早く作ろう」ではなくて、「早く考えよう」ということですね。早く皆さんのもとにお届けするために、その前段階として、すぐに考え、すぐに結論を出して、スピード感を持って進めていく。それが大事だと思います。
ゲーム新時代のキーワード
浅沼氏が新時代のキーワードとして挙げたのは、“災いと幸福は表裏一体である”ことを意味する故事成語だ。ゲーム業界がめまぐるしく変化を続ける中で、浅沼氏は、「成功しても驕らず、失敗しても必要以上に落ち込まず。つねにチャレンジを忘れない姿勢で仕事に臨むべきです」と語る。バンダイナムコゲームスが目覚ましい成長を続けていられるのも、挑戦を忘れないからこそなのだろう。