さまざまなプロジェクションマッピングの実例と制作過程を紹介

 2013年8月21日~8月23日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的とした“CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2013”が開催された。

 開催2日目となる8月22日には、特別セッションとして“『日常を劇場へ』プロジェクションマッピングによる地域と産業のデザイン”が行われた。本セッションの講師は、株式会社 NHK エンタープライズ(以下、NHK)の事業本部 企画開発センター/事業開発のチーフ・プロデューサー森内大輔氏だ。

 屋外の建物をスクリーンして、プロジェクターでさまざまなCG映像を投影するプロジェクションマッピング。これは観るものを圧倒する美しい映像を映し出すだけではなく、ときには投影している建物に、あたかも昔の姿を取り戻させたり、建物を変形させてロボットのように見せたりと、観るものに感動と驚きを与えてくれるアートイベントだ。

 本セッションでは、このプロジェクションマッピングについて、これまで森内氏が制作してきた数々の作品を、その模様の動画とともに制作過程を解説した。

NHKのチーフプロデューサーが明かす――日常を劇場に変えるプロジェクションマッピングの実例・制作課程とその効果【CEDEC 2013】_01

東京駅で行われた国内史上最大規模のプロジェクションマッピング「TOKYO STATION VISION」

 「TOKYO STATION VISION」は、2012年9月22日~23日、東京駅丸の内駅舎保存・復原工事の完成を祝う記念イベントとして、創設当時の姿に生まれ変わった駅舎をスクリーンに実施されたものだ。
 上映された映像では、「時空を越えた旅」をテーマに、東京駅や鉄道をめぐる百年の歴史を、新進気鋭の作家たちが躍動的に表現。丸の内駅舎を大正時代に建設された創設当時によみがえらせたり、草創期のSLから在来線、先進の新幹線まで数多の列車が駆け抜けていったり……といった見応えのある映像で、「大正」、「昭和」、「平成」の3つの時代にわたり、1914年開業からおよそ100年に渡る東京駅の歴史を振り返った。

 このイベントでは、超高輝度プロジェクター46台を使用した国内最大規模の試みとなるため、模型上での緻密なシミュレーションを重ねて、独自の色補正フィルタを開発。投映サイズは幅120m×高さ30mにおよび、駅舎を10のパートに分けてCGを作成されている。そのこともあって国内史上最大規模の事例となり、多くの注目を集めた。

NHKのチーフプロデューサーが明かす――日常を劇場に変えるプロジェクションマッピングの実例・制作課程とその効果【CEDEC 2013】_02
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新たなランドマークの誕生を祝して、ビルの壁面がスクリーンに「東京スカイツリー プロジェクションマッピング」

 自立式電波塔として、世界一の高さを誇る東京スカイツリー。日本中がその開業を心待ちにしていた2012年5月12日に、NHKの特集番組内で隣接する東京スカイツリータウンソラマチイーストタワー(幅45m×高さ90m)の壁面を使ったプロジェクションマッピングを実施された。

 このイベントでは、番組に出演したアーティストの楽曲とともに、東京スカイツリーが立地する下町の江戸文化をモチーフにしたグラフィックや、建設過程を振り返る画像などが投映された。当初は、東京スカイツリーに投映する計画もあったが、鉄骨上の構造で投映するのが難しく、しかも建物が高すぎるためにプロジェクターを揃えるのが難しかったために、隣のビルになったという事情があったそうだ。しかしソラマチイーストタワーも、ガラス面になっていて絵が映る対象がない。そこで、ビルを借りているテナントの人たちに協力を仰ぎ、全窓のブラインドを上向きに下ろしてもらうことで、光が漏れないようにしたことで、なんとか実現にこぎつけた……というエピソードも明かされた。

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学園祭とのコラボした100周年を記念したブランディング「SEIKEI PROJECTION MAPPING

 「SEIKEI PROJECTION MAPPING」は、2011年11月19~20日、成蹊学園の創立100周年と学園祭50回目を記念した行事として、校舎本館の側面(幅70m×高さ20m)に投映したプロジェクションマッピング。ブロックゲームのようなモーショングラフィックや、光の玉が窓から窓へと移動するギミック、建物を時計に見立て内部で巨大な歯車が回る3DCG、建物の屋上から仕掛け花火”ナイアガラ滝”が降り注ぐようなアニメーションに加え、実写素材やスーパーハイビジョン映像を駆使し、華やかな祭典を演出。また、学園創立の沿革や名前の由来なども投映し、これまでの歴史とこれからの未来を共有した。

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巨大などーもくんが動く!? キャラクターの世界を立体的に「どーもくんセレブレーション」

 「どーもくんセレブレーション」は、2013年2月2日~3日、NHKのテレビ放送開始60年を記念して、これまでNHKが伝えてきたテレビの60年を”どーもくん”が旅するプロジェクションマッピングを実施したもの。全長4メートルの巨大「TV60年どーもくん」3体(FRP製)を制作し、これにも投映を行った。“大河ドラマ”、”東京オリンピック”、”アポロ月面着陸”、“紅白歌合戦”など、さまざまな世界に合わせ、“どーもくん”のコスチュームが変化。奥行きのあるキャラクターに合わせた3D技術を用いて複雑なマッピングを実現した。

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夏の夜に浮かび上がる幻のダイオウイカ 巨大模型(3D)+気象データ(D)「深海4Dスクエア」

 「深海4Dスクエア」は、2013年7月19日~21日、夏のNHKスペシャル「シリーズ 深海の巨大生物」と、国立科学博物館で実施する特別展「深海」の開催に合わせ実施した、真夏の東京ミッドタウンで“深海”を感じるイベント。
 2012年夏、深海で生きている巨大イカ“ダイオウイカ”の撮影に初めて成功したことが大きな話題となったが、このイベントでは、その“ダイオウイカ”を制作して釣り下げ、三方向からプロジェクションマッピングを投映。360度のどの方向から見ても、ダイオウイカが光に包まれ、不思議な輝きを放つように見せていた。また、このプロジェクションマッピングでは、ダイオウイカが生息する小笠原諸島の気象データをリアルタイムに取得し、それを使って投映するCGの色彩やパターンを変動させたものを即座に反映。つねに変化を続ける自然現象のような映像体験を実現していた。

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スケーターと映像が一体となった鮮烈なパフォーマンス「2012 NHK杯フィギュアスケート競技大会」

 「2012 NHK杯フィギュアスケート競技大会」は、2012年11月24~25日、2012NHK杯国際フィギュアスケート競技大会のエキシビションにて、スケートリンクへ映像を投映したもの。
 開催地のジュニアスケーターによる氷上演技「東北からの“ありがとう”スケーティング」で、フィギュアスケートと映像がマッチした新しい映像を制作。カメラ、センサー、プロジェクターを巧みに組み合わせた「インタラクティブ描画システム」により、選手の位置をリアルタイムに解析し、スケーティングの足下に滑走の軌跡を描いたり、光の花が咲かせ、これまでにない幻想的なショーとなった。

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会津若松の夜空に咲く光の桜 クリエイティブによる地域活性化「鶴ヶ城プロジェクトマッピング はるか」

 「鶴ヶ城プロジェクトマッピング はるか」は、東日本大震災から2年目の2013年3月9日~10日に実施されたもの。森林総合研究所が開発した新種の桜「はるか」に東北復興への想いを込めて、その小さな苗木が、10年後に大輪の花を咲かせる……といった映像が、福島県会津若松市の鶴ヶ城の壁面に投映された。大河ドラマ『八重の桜』のテーマ音楽をバックに、会津地方の自然や文化をモチーフにした趣の深い映像だ。

 このケースでは、鶴ヶ城天守閣の複雑な形へ正確に合わせた映像投映が必要になる。シミュレーションでは、樹などの複雑な形を試してみたが実現が難しく、結果としては、縁取るような映像のほうが効果的だったという。

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プロジェクションマッピングは大規模な光のエンターテインメント

 最後に森内氏は、プロジェクションマッピングには、「スペクタクル観光」、「クリエイティブ産業」、「シビックプライド」の3つの効果があると語る。

 「スペクタクル観光」は、イルミネーションやライトアップ、花火のように公共空間で実施される大規模な光のエンターテインメントで、ここでしか味わえないLIVE体験を楽しめる効果。そこから、テレビや新聞などの各メディアはもちろん、SNSなどにも紹介され、集客も多く望めるため、開催地周辺では宿泊施設や飲食店などへの収益にもなり、地域の観光需要の創出につながるとした。
 「クリエイティブ産業」は、
 さらに、プロジェクションマッピングが盛んになれば、制作を行う企業、クリエイターの創出につながり、“クリエイティブ産業”の活性化が期待できる。
 そして「シビックプライド」とは、“市民意識”といったところだろうか。森内氏は、プロジェクションマッピングが、世代や属性を越えた感動の共有、地元や地域文化の情報配信の活性化を促し、人の集まるまちづくりにつながると主張する。
 森内氏は、今後もいくつかの計画があることを明かすとともに、「これからもクリエイターや地域の皆さまと一緒になって、新しい体験を創り出していきたい」と語った。

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(取材・文:川村 和弘)