カナダのゲーム産業がアツい

緊急事態発生により、まさかの取材中止!?『スプリンターセル ブラックリスト』トロントスタジオリポート ~その1~_01

 ゲームファンなら、近年、世界で有数のゲーム開発スタジオがカナダに集まっているというニュースをどこかで目にしたことがある人も多いはずだ。カナダの都市モントリオールでは、ユービーアイソフトが世界最大規模のゲーム開発スタジオを、バンクーバーではエレクトロニック・アーツが巨大なゲーム開発スタジオを築いており、それぞれゲーム産業の中心となっているのは有名な話。そして、ユービーアイソフトは2010年に人口470万人が暮らすカナダ最大の都市、トロントにゲームスタジオを新設した。カナダの商業と文化の中心地であるトロントの街に設立された新スタジオとは、いったいどんな施設なのか? 現地を訪れたファミ通.com取材班が、その様子を3回にわたってお届けする。

そもそも、なぜカナダなのか?

 ユービーアイソフト トロントスタジオ(以下、トロントスタジオ)のリポートを始まる前に、どうしてカナダにゲーム会社が集まって来るのか、簡単にチェックしておこう。カナダのゲーム産業が大きく発展を遂げた理由はいくつか考えられるが、もっとも大きな要因は、カナダ連邦政府およびケベック政府が採用したゲーム産業への税制優遇措置にほかならない。カナダでは、ゲーム産業への税制上の優遇制度が設けられており、ゲーム会社は開発にかかる経費を大幅に抑えられる。その上、ゲームプロデューサーへの奨励金といった制度も用意されていたりと、起業家やクリエイターたちにとってまさに夢のような場所なのだ。詳しくは、ファミ通.comで2010年11月にアップした記事「モントリオールで見た、ゲーム開発の最新事情」(→【コチラ】)を参照のこと。記事にはカナダのゲームスタジオの雰囲気や、実際にカナダでゲーム開発に携わるクリエイターたちの生の声が掲載されているので、興味があればぜひ読んでほしい。

 ちなみに、この取材のためにカナダを初めて訪れた記者の目から見たトロントの様子は→【コチラ】。トロントの街並や、そこで暮らす人々の生活が気になる方は、ぜひクリックされたし! 「そんなことよりもトロントスタジオの様子が気になる」と言う方は、飛ばして読み進めていただいてもOKだ。

第1弾は『スプリンターセル』新作

 トロントスタジオのデビュー作は、2013年9月5日に発売予定の『スプリンターセル ブラックリスト』(以下、『ブラックリスト』)だ。同作は今年で10周年を迎える『スプリンターセル』シリーズの最新作で、ユービーアイソフトが誇る看板タイトルのひとつ。

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 『ブラックリスト』では、これまで数々の極秘任務を遂行してきた伝説的な諜報員サム・フィッシャーが、正体不明のテロリスト集団“エンジニア”の消息を追って、世界各国を飛び回ることになる。前作の『スプリンターセル コンヴィクション』(以下、『コンヴィクション』)と大きく異なる点は、サムが再び国家のために戦う点。前作のサムは、最愛の娘の命を奪った政府組織への復讐を誓う一匹狼であったが、『ブラックリスト』では諸問題を解決し、大統領直属の特殊部隊“フォースエシュロン”のリーダーとして登場する。そのため、今回はアメリカ政府公認の最新鋭のガジェットを駆使してミッションに臨むのがポイント。前作でサムのトレードマークとも言える複眼ゴーグルがいまいち存在感が薄いことを嘆いていたシリーズのファンにとっては朗報だろう。『ブラックリスト』では、ファンが慣れ親しんだ姿のサムを操ることができる。

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 なお、これはスタジオでの取材で明らかになったのだが、トロントスタジオのデビュー作に『スプリンターセル』シリーズの新作が選ばれた要因は、人員募集を円滑に進めるためらしい。新しいスタジオには、当然新しい人材が必要となる。ユービーアイソフトが誇るトリプルA級タイトルである『スプリンターセル』シリーズの開発に取り組んでいると発表すれば、予算も確保しやすいし、求人もしやすくなるというわけだ。こうしてトロントスタジオは多くの人員を募集し、2010年の設立当初はモントリオールからの移籍組が30名程度だったのが、現在は300名が在籍中で、2020年までに800人にするべく人員を増強中とのこと。ファミ通.comの取材班は、まさに急成長を遂げている最中のトロントスタジオを直撃した。

古そうに見えるけど、新しい

 2010年、ユービーアイソフトは米企業ゼネラル・エレクトロニック社が使っていたレンガ造りの古いビルを改築してトロントスタジオを設立。現在は、建物の2階と、3階の約半分を使っているという。レンガ造りの建物に、最先端・最新鋭のゲームを作るためのテクノロジーが詰まっていると考えると、不思議な感覚だ。

 スタジオを案内してくれたトロントスタジオ所属の女性スタッフによると、3階ではまだ表に出せない新プロジェクト(!)が始動中なので、今回は2階の『ブラックリスト』の開発現場を見せてくれるという。個人的には新プロジェクトの内容がものすごく気になったが、はやる気持ちを抑えて『ブラックリスト』の開発現場に向かうことに。

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▲外から見たトロントスタジオ。建物は3階建てとなっており、ユービーアイソフトの入り口は2階にある。
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▲建物の中に入り、2階へ上がると受付でユービーアイソフトのロゴがお出迎え。
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▲受付の隣にカフェテリアを発見。アーケードの筐体では『Dr.マリオ』と『餓狼伝説スペシャル』が稼働中。

いざ参ります

 厳重にロックされたドアを通ると、そこには広大なスペースが広がっていた。トロントスタジオの開発現場には仕切りがほとんどなく、手前側から奥まで一気に見渡せる、開放感がある作りとなっている。大きな窓からは明るい光が差し込んでいて、清潔感が感じられるスタジオだ。記者が訪れた時期は、ちょうど開発の追い込みがひと段落したところらしく、スタジオ全体に和やかなムードが漂っていた。この明るくてモダンな雰囲気のスタジオの中で、ダークかつハードな世界観を持つ『ブラックリスト』が開発されていると思うとおもしろい。

 スタジオを歩いていると、いたるところで同じ絵柄のポスターが見つけられた。これは何かと言うと、トロントスタジオが独自で開催している“Ubibash”と呼ばれるイベントの告知だ。毎週金曜日には開発チームのメンバーがカフェテリアに集まり、アルコールを飲みながらプロトタイプのゲームをお披露目する場のようだ。いったいどんなゲームが発表されているのか、……気になる!

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▲スタジオ内は明るく、開放的。この日はスタッフもリラックスしている感じだった。
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▲“Ubibash”の告知ポスター。複眼ゴーグルを装着したキャラクターがとてもキュート。
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▲ストレスが溜まったスタッフは、タイヤにぶらさがってリフレッシュ!

スタジオの隣に、スタジオ

 続いて案内されたのは、トロントスタジオに併設されたパフォーマンス・キャプチャーのスタジオだ。パフォーマンス・キャプチャーとは、役者の身体のあちこちにセンサーを設置し、センサーの信号をキャプチャーする技術。従来のモーション・キャプチャーと比べてより細かく役者の演技や表情の変化をとらえることが可能となっている。トロントスタジオのように、開発現場とパフォーマンス・キャプチャーのスタジオが隣り合っている施設は世界的にも珍しいようだ。

 と、ここで『ブラックリスト』のカットシーンの演出を担当したシネマティック・ディレクターのデヴィッド・フットマン氏が登場。デヴィッド氏は「自分たちでスタジオの設備を作りかえられること、開発の初期段階にスタッフ自身がスーツを着てテストできることがポイント」と、併設スタジオを持つことの利点を教えてくれた。『ブラックリスト』のカットシーンの見どころについて聞くと、「照明と演技、そしてテンポの早いテレビドラマのように、すぐれたシナリオとともに流れる自然な会話が特徴です」との返答が。

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▲スタジオにはたくさんの照明が設置されている。これは、役者の顔に影が落ちないようにするためだ。
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▲シネマティック・ディレクターのデヴィッド・フットマン氏。手にしているのは撮影用のカメラ。
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▲表情の演技をキャプチャーする、ヘッドマウントカメラ。役者はこの装置を装着して演技を行う。
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▲サムの3Dモデルとなった俳優のエリック・ジョンソン氏(右)と、軍事コンサルタントのケビン・セコース氏(左)。

DIY精神の神髄を見た

 パフォーマンス・キャプチャーのスタジオのバックステージには、チェーンソーやドリルなどの工具が。これらを何に使うかというと、木材を加工してカットシーンの舞台道具にするらしい。たとえば、サムが段差を乗り越えるシーンを役者が演じるときは、木材で段差を作ってその上を役者が乗り越えることになる。考えてみれば、パフォーマンス・キャプチャーのスタジオでは役者の動きだけをキャプチャーすればいいので、オブジェクトの色や質感などを気にしないでもいいのだ。それにしても、木材を加工して舞台道具を自前で用意するなんて、見上げたDIY(Do it yourself=自分でやってみよう)精神だ。いまどきのクリエイターには、日曜大工のスキルも必要なのだろうか!?

 そんなつまらないことを考えながら取材を続けていた記者に、スタジオのスタッフが声を掛けてきた。聞けば、パフォーマンス・キャプチャーで役者が着ているセンサーつきの特殊スーツを試しに着てみるか? という提案。彫りが深い男前で、身体もシュッと締まった俳優のエリック氏は特殊スーツを着てもカッコイイけど、ぽっちゃりな自分が着ても残念な感じだろうなあ……と、縮こまっていると、今回のスタジオツアーに同行していたユービーアイソフト日本法人の広報Fさんから「おもしろいから着てくださいよ。つーか、着れ。」とのお達しが。なし崩し的に、昼食後にスーツを着ることになってしまった。とは言え、結果的にこのスーツを着る機会は訪れなかったのだが……。その理由は後述しよう。

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▲いったいどこの工場に迷い込んでしまったのかと不安にさせてくれるバックステージ。色とりどりの工具が並ぶ。
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▲舞台道具にもセンサーを装着してデータを取る。その後、アニーメーターがテクスチャを貼りつければゲーム内のオブジェが完成する。

訓練ではありません

 パフォーマンス・キャプチャーのスタジオを見学したら、いよいよ開発におけるキーパーソンたちへのインタビューの時間。ひとり目は、『ブラックリスト』のクリエイティブディレクターを務めるマキシム・ビラ氏。ママキシム氏にはE3(毎年アメリカで開催される、世界最大のゲームの展示会)の会場で何度か会ったことがあるのだが、いつでも真摯に取材対応してくれる、真面目で誠実な人物だ。……おまけにイケメン!

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クリエイティブディレクター
マキシム・ビラ氏

 この日はインタビューの時間をたっぷり取ってくれたので、いろいろな話を聞くことができそうだ。さあ、マキシム氏に最初の質問を投げかけよう――としたその途端、突然けたたましい警報の音がスタジオ中に鳴り響いた。最初のうちは警報の故障かと思い、そのままインタビューを続けようと試みたが、警報音は大きくなる一方。そして、困惑している記者たちの前に別のスタッフが現れ、「Real emergency!(マジで緊急事態だよ!)」との声。気づけば、館内の全スタッフが緊急避難する事態となっていた。……トロントスタジオにいったい何が起きたのか? そして、この取材はどうなってしまうのか? この続きは、2013年8月21日更新予定の記事で!

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