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 レッドブル・ジャパンが、今年もゲーム大会“Red Bull 5G”を開催する。すでにエントリーが開始されており、決勝は今年の年末に開催予定。昨年“日本のゲーマーに翼を授ける”ことを目標に立ち上がった本イベントは、これまでのゲーム大会にはないレッドブルならではのハイクオリティーな決勝イベントを実現し、関係者を驚かせた。
 では昨年の成功を踏まえた今年は、どんな意図で開催されるのか? 昨年行ったインタビューに引き続き、Red Bull 5Gのプロジェクトアドバイザーを務める、株式会社グルーブシンクの松井悠氏に話を聞いた。

Red Bull 5Gを10年続ける、そのための“2年目”

ここでしか見られない戦いがある! 2年目を迎えたレッドブルのゲーム大会“Red Bull 5G”についてプロジェクトアドバイザー・松井悠氏を今年も直撃_01

――まずは去年の大会の感想からお聞きしていいですか。
松井 去年もインタビューしていただきましたが、大会発表の時点で皆さんが疑問に思っただろう「なぜレッドブルがゲーム大会をやるのか?」という部分は、会場に足を運んで頂いた方には「これを見せたかったのか」と伝わったのかなと思います。来場した皆さんから「また来たい」という声も頂いていて、初年度としては及第点を取れたと言えるかもしれません。

 ただ個人的には、アベレージ(平均点)以上のスコアは出たけど、まだ詰められるところがあったなと。開場が遅れてしまったとか、配信をもっとうまくやれたんじゃないかといった部分ですね。例えばゲームの映像と選手の映像のスイッチング。海外のプロリーグなどでは、カメラワークがしっかりしてかっこよかったりするので、Red Bull 5Gでも、もっといい映像が作れたんじゃないかと思います。

 何か大きな失敗があったというわけではないんです。出場した選手から「こんなゲーム大会はなかった」とか、「あそこに立てたのが嬉しい」といった感想を貰えたのは僕らにとっても成功でしたし、来場者の皆さんにも“Red Bullがゲームを解釈するとこうなる”というものを見せられた。タイトルの使用許諾を出して頂いたパブリッシャーさんや、取材して頂いたメディアさんからの反応も良かった。総じて評価は高かったんですけど、僕の中には不満があって。

――まだまだ出来ると。
松井 そうなんです。実は今年の1月からずっと次に向けた定例会議をやっていて、そこでRed Bull 5Gはどうあるべきかとか、今年はどうしようかというのを話し合って来ました。そこでプロデューサーさんから「(今年は)去年の不満点をきっちり潰して、ちゃんと一年を回しましょう」という提案を頂いたんですね。僕は単発でイベントに関わることが多かったんですが、そうじゃなくてコレ、“Red Bull 5Gを10年、15年続けていくイベントにするためにはどうするか”という話なんです。

――とりあえず単発で成功させる、というのとは大分プランニングが違ってきますね。
松井 そうです。今年はジャンルも変わっていないし、タイトルも5本中3本はバージョンアップした程度の違いで、実は運営側に必要以上の負荷がかかる無理はあまりしていないんです。それよりも、去年の一連の流れを通して、もっといいものを2年目としてお届けしようと考えています。
 去年はすごくいいもの、誰も見たことがないものを垣間見せることができた。そういった驚きとかカッコ良さがあったわけですけども、それをみんな一回知ってしまったので、その上でどう上回るものを提供するか。ハードルが上がるなぁと思っています(笑)。

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タイトル選定でアンケートしたワケ

――今年はタイトル選定から、すでにイベントになっていましたね。
松井 そうですね。去年は最初にタイトルが発表されていて、その上で「へぇ、Red Bull 5Gっていうのがあるんだ」という流れだったんですけど、今年はタイトルを選ぶところからオープンにしたいと思いまして、2月にアンケートを取るところからスタートしました。
 なぜそうしたかと言うと、Red Bull 5Gを自分たちとは関係のないイベントと思って欲しくなかったんです。例えば海外のeスポーツ大会の予選の形であったりすると、そもそもタイトルの決定権が日本サイドになかったりする。あるいはメーカーが主催する大会だと、タイトルがまずありきで決まっていて、それで募集がかかる。それを変えたいなぁというのがあって。
 アンケートは参考意見の聴取という形で行ったのですが、ユーザーの声を聞く姿勢を取るという以外の理由もありました。それは、自分たちが把握できていないプレイヤーコミュニティが絶対にあるので、そこの熱量やコミュニティーリーダー(コミュニティの中心となる人物)を知りたかったんです。
 だから、アンケートを開催してからTwitterを追ったり、掲示板を見に行ったりして、情報がどういう風に伝播していくのかをチェックしていました。それと、結構回答事項が長いアンケートをわざわざ書いて応募するのをどれぐらいやってくれるのかも見たかった。

――プレイヤーコミュニティの尊重というのは昨年も出てきたキーワードですね。
松井 はい。「ゲーミングシーンに翼をさずける」という去年と同じコンセプトにおいて、どれぐらいその“翼”を欲しているコミュニティがあるのか、そして僕たちのメッセージはどれぐらい伝わっているのか。そういったことを念頭に反応を見ていて、当然中にはトンチンカンな反応もあるわけですけども、それも「この人達はRed Bull 5Gをこう見ているのか、メッセージの出し方がまずかったのかな」と反省材料にさせてもらって。

――投票の段階で結構各コミュニティの盛り上がりがありましたよね。
松井 ありました。ジャンルによっては投票数が少ないものも結構あるんですが、ファイティング、FPS、フリーはすごい盛り上がりました。
 例えば『AVA』は運営チームが猛烈に後押ししていて、一方で『Halo4』はコミュニティ側が主導して盛り上げていて。それから格闘ゲームだと『北斗の拳』、『ソウルキャリバー』、『バーチャファイター』、『スーパーストリートファイターIV』、『鉄拳』の人気が高く、どれがFinalsに行っても盛り上がるだろうというのが見えるぐらいの熱量がありました。

――例えばフツーに大会をやるのなら、フリー記入でやっていましたけども、そうしないで、定番タイトルだけが並んでいて、最後に一応フリー欄が設けてあって、「どうしても他を挙げたければそこに書いてくれ」というような、よくあるやり方もありえるわけですよね。でもそうしなかったのは、何が来ても一応は検討するという姿勢を出したかったということでしょうか?
松井 まず募集前から絶対に僕らが想定していないようなタイトルが来ると考えていました。それに(すでに票が入っているタイトルを全部表示するような)プルダウン式の長いメニューとかにしても、多分探してくれないと思うんですよね。そういった実務上の理由と、まずは見てみようという考えの元でフリー記入にしたんです。変な言い方ですが、悪ノリして入れてくる人がいたとしても、それも含めての熱量だと思います。
 ただ、一位になったからといって確定するわけではないし、実際問題、流通していないハードだといろいろと難しいんですよ。例えば『ぷよぷよ』だと、「アーケード版の『ぷよぷよ通』でやりたい」という声も多いんですが、基板がどこかにはあるけど大会用の調達が現実的ではなかったり……。

――参加できる間口が既存プレイヤーじゃないと極端に狭いというのも、それはそれで問題ですからね。
松井 そういった部分も含めてタイトル採用やルール策定をやっています。メーカーさんに話をさせて頂く時も、温度感や協力体制といった部分の違いが当然あって、昨年でしたら『グランツーリスモ5』でRed Bull 5G仕様のマシンを作っていただいたことも、大きな話題になりました。

――去年出ていないタイトルの担当さんとの交渉などもあったと思いますが、去年との反応の違いはありましたか?
松井 結構、ご存知の方が多かったです。「このタイトルを使って」というオファーもいくつかありましたし、去年と比べるとお話がしやすかったです。大会の写真などもあって「こういうイベントなんです」と説明できますしね。

5回の配信でタイトル発表したのは「ちゃんとゲームを伝えるため」

――そして選考を経て、タイトル発表を5回に渡って配信しました。投票が終わった時に松井さんに「タイトル発表を放送したら面白いですよね」と冗談で言っていたのが、まさか実現するとは(笑)。
松井 実はその時にすでに仕込んでいたので、ドキッとしました(笑)。なんでやったかと言うと、アンケートが全部で7400票ぐらい来ていて、ネタ投票も含めて200タイトル近くあったので、まず絶対に注目されると思ったんです。最初は1時間番組で全部やればいいかなと思ったんですが、会議で分割して5回やりましょうと……後で言わなきゃよかったと思ったんですが……。

――まぁ5回やるのは大変ですからね(笑)。
松井 分割したのは、タイトルが決まった時に、そのタイトルの人たちは喜ぶんですが、そこから見なくてもよくなっちゃうんですね。そうではなくて、むしろそれ以外のタイトル・ジャンルの人たちにも、ちゃんとそのタイトルのバックグラウンドやシーンを伝えよう、と。
 理想論ですが、例えば別のFPSタイトルをプレイしている人たちが予選に向けてそこから『Halo4』をやり始める……、いわばコンバートできる時間は一応あるわけですから、そのためにもゲームシーンやその魅力をしっかりと伝えたいですし、会場に来た時に「俺このゲーム知らないからなー」ではなくて、ある程度番組を通じてわかってくれていれば、理解度も違ってくる。
 だから、このシリーズはこうですとか、去年はこんな試合が行われましたといったことをちゃんと伝えたかったんです。試合に出ようと思っている人たちには、「何で俺のタイトルじゃないんだ」とか、「そんなの知ってるよ」とか「いいから次の見せろよ」とストレスを感じることもあったと思うんですけど、そこはあえて。

――バーっと発表だけやるんじゃなくて一個一個ちゃんと説明するためには、分割してそれぞれに時間を割けるようにするしかなかったと。
松井 はい。タイトルのプロデューサーさんに解説して頂いたり、一般のゲーム番組とは違った形で、ちゃんとそれぞれのタイトルを説明したかったんです。それであわよくば「じゃあ出てみようかな」と思ってもらえたらいいなと。そういった意味では、平均して1万5000人ぐらいの累計視聴者数はあったので、一安心しました。

選手とコミュニティを信頼するところから新たな関係が始まる

――ジャンルで分けて発表と解説をまとめたことで、レーシングゲームをやっている人が格闘ゲームの発表を見るようなことはなかったかもしれませんが、同ジャンルのそれぞれ別ゲームをやっている人が見に来ているなという感じはありましたね。
松井 はい。思ったよりコメントが荒れなかったのも良かったです。もっとひどいことになるんじゃないか、と懸念していました。

――格闘ゲームの時に「『大江戸ファイト』来るか?」とか書き込んでいた僕がむしろタチの悪い部類なぐらいでしたね(笑)。それはともかく、アンケート経過も可能な範囲で誠意ある公開をしていたように見えました。
松井 なんで選ばれたか、なんで選ばれなかったかの線引きは具体的に公開しないように考えています。「こうだからこのタイトルはダメ」という形で伝わってしまいかねないですし、それは僕らとしても本意ではないので。

――でも経過の公開では、必ずしも今が旬ではないタイトルでもちゃんと触れていたりしましたよね。そうせずに本命以外のタイトルをガンガンスルーしてしまう手もあったわけで。
松井 そこはせっかく書いてくれたというのもあるし、ちゃんと声を聞いているよというのを示したかったという部分が大きいですね。僕もいままでゲームをやっているし、熱量も知っているので、何らかのフィードバックはしたいなと。

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▲これが“指さし確認”。東西が2-2で迎えた最終戦、この連鎖で東軍の優勝を決めた。

――何もフィードバックしないでいきなり「タイトルこれだから、じゃあ後は予選よろしく!」とやってもいいし、いろいろ公開することでそれがリスクになる可能性もあるのに、誠意があるなと思っていました。
松井 最悪、発表に関連して炎上する可能性も覚悟していました。でもそこはリスクとして理解しつつ、タイトルのプロモーションイベントでもないのでちゃんと発表するしかない。
 去年のRed Bull 5Gが良かったのは、選手がすごくいい試合をしたからだと思うんです。僕や関係者が出来るのは器を作るところまで。そこから先は選手に委ねられていて、選手がすごくいいガッツポーズをしてくれたとか、『ぷよぷよ』で指さし確認が決まったとかそういったことは、僕らが運営を信頼して、選手が運営を信頼してくれた結果だと思うんですよね。'Red Bull 5Gがもし失敗するとしたら、それは変に“お客様”のような扱いをしてしまった時とか、逆に選手が僕らに対しての信頼感を失ってしまう時''じゃないかなと。

――僕はそこがいい所だと思うんですよ。レッドブルのような大きなスポンサーがついている大会だと、ゲームにあまり興味が無いちょっと偉い人が出てきて挨拶して、後は結果しか求めていないようなことを見かけます。でもRed Bull 5Gではコミュニティ本位であるということが確立されているなと。
松井 昨年のインタビューでもお話しましたが、「レッドブルさんは結構本気でゲームシーンに翼を授けようと考えているよ」ということはプレイヤーにもよく話しています。
 去年一年間仕事させて頂いて、プレイヤーに対して真摯に向き合うという姿勢は個人的にも感じていて、これは企業文化だと思うんですけど、ほかのエクストリームスポーツなどのアスリートに対するのと同じ接し方をされている印象があります。大会に関わっていない他の社員さんも、(上から目線の)「あぁ、ゲーマーなのね」という姿勢ではなくて、「すごいよね、ゲームうまいのって」と、ちゃんと尊重してくれている感じがあって。
 ゲーマーっていつも(社会から)阻害されていたりする中で、プレイヤーたちもそういったものは感じると思うんですよ。負けた人もすごく大会を楽しんでくれていて、西の予選で負けた人が自腹で東の予選に来てくれたり。

ただのゲーマーから選手に、そしてチームへと変化した瞬間

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――今だから言えますけど、個人的には東西対抗戦という形式がうまくいくか疑問だったんですよ。というのも、ゲーム大会は往々にしてクラン(チーム)ベースだったり個人ベースだったりするので、別ジャンルのプレイヤーと同じチームだって言われてもまとまるのかと。普通の大会では、自分の試合以外気にしてないことが多いじゃないですか。でも最終的にチーム感がすごい出ていましたよね。あれは選手が流れにうまく乗ってくれたと考えればいいのでしょうか。
松井 それはプロデューサーさんの力が大きいと思います。オフライン予選では会場の都合上、ジャンルごとに進行していたので、最終的に同チームとなる出場選手が一同に会する場所がなかったんですよ。だから揃ったのはここ(レッドブル・ジャパン本社)でやった前日のパーティーが最初なんです。
 で、パーティーで「今からユニフォームを配る」っていうことになって、渡されたリュックを開けると帽子とユニフォームが入ってて、そこでみんなに着てもらうと、名前が刺繍してあるんですね。
 そこでみんなゲーマーから“選手”に変わった。そこからは赤と青に分かれて「明日どうする」とか喋り始めて。まだその時点では各チームのリーダーを決めるだけで、試合の進行順などは教えてなかったんですけど。そんな感じに前日から徐々にチームとしての雰囲気が醸成され始めて、当日みんなで会場に行って、ステージを見た瞬間にさらにピリッと空気が変わって。それまでは同じ“ゲームをやっている仲間”だったのが、そこでチームが生まれた。
 多分これって、レッドブルの他のイベントをやっていく中で生まれたノウハウだったと思います。正直、僕のやってきたゲーミングイベントのノウハウにはないものでした。ちなみに最初から団体戦にしようとは考えられていたそうなんですが、団体戦の一体感からの選手の盛り上がりは想像以上だったそうです。Finalsでは他ジャンルの試合中は控え室で待機していてよかったんですが、自然と「ステージの周りにいていいですか」と要望が出て、他ジャンルの試合を応援していて……それも良かったですね。

代表して前に立って戦う覚悟

――大会後の反応を見ていて、それまでは顔出しなどを嫌がっていた選手が、あの場を経験することによって、コミュニティを代表して自分が前に立つことの重要性を悟っていたのが、すごくいいと思いました。
松井 もちろんああいう場所で目立つのが嫌な選手もいると思うんですけど……一回あそこに立っちゃったらやめられないと思いますよ、正直(笑)。

――前に出ることによっていろいろ言われるようなリスクも当然ある中、優れたプレイヤーが前に出るのはコミュニティが広がっていくために非常に大事なことでもある。その覚悟を決めるか決めないかというのはものすごい大きな違いだと思うんですよ。
松井 例えば昨年のFPS部門の『バトルフィールド3』などだと、それまでコミュニティベースのPC版を使ったLANパーティーの大会などはあっても、コンソール(家庭用ゲーム機)での大会というのは一度もなかったと思うので、その意味でもすごく彼らにとって初めての経験だったと思うんですね。
 ニコ生の配信を見ていても、オンラインFPSの大会などだと、試合に関係ない悪口が書かれて荒れることがあるので「そうなったら嫌だなぁ」と思っていたんですけど、「俺もあそこに立ちたい」とか「あのユニフォームを着たい」といったような前向きなモチベーションのあるコメントが多くて、そこもすごい良かったですね。僕からは選手たちには「顔を出してステージに上がると何か言われると思うけど、それは妬みでしかないから、気にしないで胸を張っていい試合をすればいいと思うよ」ということも言っていました。

関連イベントも含めて完成度を高めていく

――さて昨年をふまえて、今年ならではのテーマはなんでしょう。
松井 先程も話しました通り、まずは2周目をしっかりやって、ある種の日本でのゲーミングイベントの完成形であるとか、憧れられるもの、ここに出たいと思ってもらえるものを目指しています。
 もうすでに『Halo 4』などでは「あそこで戦いたい」といった声がかなり聞こえてきているので、そこは結構達成しつつあるかなと思っているんですけど。Red Bull 5Gとはちょっと違ったものも今計画していて……。

――おっと、新イベントですか?
松井 まだ具体的なプランにはなっていないのですが、『Halo 4』を使ったゲーマー強化合宿のようなものをやろうという話をしています。高専とか、大学の学生さんとか、専門学校生さんがキャンプに参加することでRed Bull 5Gを疑似体験しようというイベントで……。
 ただ、それでRed Bull 5G予選免除ってなるのはやっぱり違うと思うので、東と西のオフライン予選にリポーターとして派遣したり。Red Bull 5G Finalsに繋げる企画として、例えば学生さんのエキシビションを通じて一回ちゃんと『Halo 4』ってこういうゲームなんですよと説明した上で、本番に繋げようとか、そういったことを考えています。
 このゲーマー強化合宿は座学から始まって、そのゲームのトップクラスの選手を呼んで指導してもらった上で、3チームで戦って1位になったチームのうち2人を応援サポーターにするといった感じでやろうかなと。参加者もハードコアゲーマー、未経験ゲーマー、女性ゲーマーなどをうまく配分して、完全にガチンコというより、『Halo 4』を通じてRed Bull 5Gの世界に入ってくれたらいいな、とか。
 コアゲーマーだけに情報やイベントを投げてもいつか枯渇してしまうので、裾野を広げつつ、コアにもアプローチするという形ができればいいなと。でもコレ、さすがにやれるのは1タイトルが限界なんじゃないかと思っているんですが(苦笑)、究極的には5ジャンルでやりたいですねぇ……。

――そういう周辺イベントも絡めつつ、よりイベントの完成度を高めていくと。
松井 そうですね。先ほどのタイトル発表の配信もそのひとつです。僕らはタイトルを売ることが目的ではないので、コミュニティに対してどういうリーチをするべきかといったことを常に考えています。北九州市で『鉄拳』の大きな大会が開かれると聞けば、主催者の方に連絡してステッカーやポスターを提供して配って頂くとか。折角なので一緒に盛り上げましょうというオープンな状況に出来ていると思います。
 おそらく、ですがコミュニティから変な意味で嫌われてはいないかなと……去年も言いましたけど「俺らを食い物にしようとしているぞ」という誤解は多分ないんじゃないかなと思います。

各タイトル展望

――ではそろそろ、今年の採用タイトルについてお伺いしようと思います。まずはスポーツ部門。去年に引き続き『FIFA』シリーズの『FIFA 13 ワールドクラス サッカー』が選ばれました。
松井 これに関してはほぼ一択と言っちゃってもいいのかな……『FIFA』のシーンを知らない人にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、西の代表の前田朋輝(ともプー)選手と東の代表のjengaman選手という2強がいて、公式大会も含めて2-3年ずっと戦っていて、ともプー選手がずっと勝っていたんです。でも昨年の大会で初めてjengaman選手が勝って、世代交代が始まったかなという状況なんです。それが今年どうなるのかもう一度見てみたいですね。ともプー選手がその波を拒否するのか、あるいはさらに新たなプレイヤーが出てくるのか。
――そのストーリーの続きを見てみたいと。
松井 はい。現時点では、『FIFA 13 ワールドクラスサッカー』で発表をしていますが、もし、大会開催前に続編がリリースされ、そのバージョンでプレイしたい、という声が大きかった場合、タイトルの変更も検討する予定でいます。

――フリージャンルの『ぷよぷよ!!』はいかがですか?
松井 まぁとにかく昨年の戦いが熱かったですよね。コミュニティ活動もずっと続いていて、「そこまでするか」と驚いたんですが、アンケートを行っていたときに、『Halo』コミュニティに対してコンタクトを取って、共闘を呼びかけたんですよ。タイトル越しのコミュニティがうっすら見えたのはすごいうれしかったです。
 『大乱闘スマッシュブラザーズ』についても票がすごく多かったので悩みました。スマブラコミュニティにしてみれば「なんで俺達じゃないんだ」という思いでしょうが、最初にお話したような、去年やったことをもう一度なぞってよりよい物をという考えの中で……。

――どうやっても苦渋の決断にしかならなそうですね。どちらも極まった人のプレイは本当にヤバそうですし。
松井 フリージャンルについても、引き続き走りながらいろいろなやり方を考えていきたいと思っています。

――レーシング部門は『グランツーリスモ5』になりました。
松井 去年の話になりますが、当初のルールでコリジョン(衝突)をオフにしていたんです。なぜかと言うと、オンだったら例えばカーブで突っ込んで走路妨害できてしまうから。実際に他の大会でも起こった問題だったんですね。で、選手にそう説明したら、「僕たちはクリーンに走るからオンにしてくれ」と。決勝の参加選手4人全員がそれでいいと言ったので、前日にルールを変えたんです。
 そうしたら本当に2対2の素晴らしいレースが行われて、想像以上にすごかったんです。今年はよりエグいコースを採用しているので、かなりおもしろいレースが期待できるんじゃないかなと思います。マドリード市街地の狭いコースをシトロエンのレッドブルペイントのクルマで疾走するのが予選で、本戦ではGTRで走るんですけど、また去年とは違うレギュレーションで、上がってくる選手も変わるのかといったところも注目です。

――今年もポリフォニー・デジタルさんからの協力があるそうですね。
松井 バリバリ協力頂いています。今年はエントリーに関してもグランツーリスモ公式サイトで一括して行なって頂いています。去年はRed Bull 5Gと公式サイトでダブルエントリーしなければいけなかったのですが、それはわかりづらかったので一元化しましょうと。『グランツーリスモ6』を作っていらっしゃる中で、こういうコミュニティイベントに対してご協力を頂けて、本当にありがたいですね。

――そしてFPS部門は『Halo 4』が選ばれました。
松井 これは正直コミュニティの熱さだと思います。発表の配信に来てもらった女性プレイヤーがいるんですが、最初、Halo女子部というのがあるというんで、面白そうだと思ってコンタクトを取ってみたら、北海道在住だっていうんですよ。それで、これは来てもらうのは難しいだろうということで「ではスカイプのビデオチャットかなんかで番組出て頂けませんか」と方針を切り替えようと思ったら、「出ます」と。それで最終的に来てもらって、リハーサル中に『Halo 4』のロゴがモニターに出たら号泣を始めちゃって、本番でも泣いてて、本当に熱いんです。
 『Halo』もオフィシャルの大会が今年開催されるまで5年間なかった、一方海外ではプロプレイヤーが生まれているという状況の中で、それでもみんなシリーズをずっとやってきていて、何とか盛り上げたいと考えているんですね。スタジオを借りて大会を開いているなんて人もいるぐらいで。
 そこで(Red Bull 5Gの)プロデューサーさんに「“翼をさずける”というキーワードに合致しているコミュニティは『Halo』なのかもしれません」というお話をしまして。正直、『AVA』も運営サイドの盛り上げがすごいし、僕も『AVA』のオンライン・オフライン大会に関わらせていただいているので、どっちが来ても問題なくオペレーションできるんですよ。でもそこで、“翼をさずける”というキーワードにどちらがふさわしいのか、どちらが必要としているのかを考慮して……。 本当に説明が難しい話で、どちらがふさわしくないとかどちらがダメという話ではないし、『ぷよぷよ!!』と共闘したのが良かったからとか、女の子が泣いたから選ぶとかいうわけでもないんですけども。
 試合ルールについては、現在海外のプロリーグで採用されているルール・マップを使用する予定です。こちらは、プロリーグのオーガナイザーさんに連絡をとり、使用許諾を含めた協力関係の構築を行っているところです。

――最後は格闘ゲーム。『鉄拳タッグトーナメント2』ですね。
松井 原田さん(原田勝弘氏)に「どうですか」と聞きに行った時にご提案を頂いて……ちょっとびっくりする仕掛けができるかもしれません。それがぜひやりたい内容で、他のタイトルだと難しそうかなと。そういったご協力もありますし、後は昨年を踏まえた上で、もうちょっとアーケードのコミュニティと繋がることもできたな、という思いがあったんですね。
 「じゃあなんで『スパIV』じゃないんだ」、「『バーチャ』じゃないんだ」というのは当然あるでしょうがひとつにはRed Bull 5Gは「(すでに)盛り上がっている所に乗っかってしまおうというカルチャーではない」ということもあって。
 というのも、例えば『スパIV』ってもうスゴいじゃないですか。そこにただ乗っかっていっても「人気に乗っかろうとしているのかよ」と思われてしまうんじゃないかと。『AVA』でもそうだと思うんですけど、それはどうなんだろうと思うんですね。じゃあ『鉄拳』が盛り上がっていないのかという話でもないので、本当に難しい話なのですが……。

――おっしゃりたいことはわかります。例えば『AVA』は日本のオンラインFPSの中でもすごく運営サイドとコミュニティが積極的で、トップの大会だけじゃなくて地方のイベントも頑張っていて……ある意味“間に合ってる”と思うんですよ。もうすでにスゴいことをやっている。もちろんそれで満足することなく、Red Bull 5Gという普段とは違うステージで力を見せたい、コミュニティを拡大したいという思いがあるのはわかるんですけども、先ほどから出ているような“コミュニティに翼をさずける”という観点からすると、個人的には「ここは『Halo』だな」とRed Bull 5Gの選択に納得できる。
 それと同じように『スパIV』も世界的な大会からコミュニティ主導の大会まですごくいろんな動きがあって、「Red Bull 5Gじゃないと」というのはない。コミュニティ外でもトップ選手の名前を知っていたりするゲームはあれぐらいですよね。まぁでも、この“間に合ってる”かどうかというのも、総合的に判断を下す上でのあくまで一要素ということですよね。
松井 そうです……。それに『鉄拳』コミュニティはこの大会のことを知らなかったと思うんですよ、アーケード勢が多いですし。そういうところに球を投げて開拓してみたい。僕が『鉄拳』上がりということもあって、「だから『鉄拳』にしたんじゃないか」と勘繰られるかなとも思ったんですが、今の『鉄拳』プレイヤーはストッキング松井(松井氏のプレイヤーネーム)とか知らないですから(笑)。

――そういったさまざまな要素を総合的に判断して決定されたと。
松井 はい。会議をやって合議制で決めたのですが、決定自体はそれほど難しいプロセスではありませんでした。アドバイザーとして「このタイトルであることは問題ないですが、ゲーム機が違うので転換が大変ですよ」といった助言や情報共有を行いつつ、割とすんなり行きましたね。

――では最後に展望を。
松井 大会へのエントリーは、現在公式サイトでオープンしていまして、9月の東京ゲームショウ明けまでやります。ゲーマー強化合宿も8月~9月にやると思いますので、そういった盛り上がりを通じてさらにRed Bull 5Gがステキなイベントになれば思います。そして10月にオンライン予選を、11月に西と東でオフライン予選、12月のオフライン決勝へと繋がっていきます。今年はTABLOIDというスゴいかっこいいスペースをお借りして決勝を行う予定です。
 今年選手で出る人にはすごくいい試合を見せてほしいですし、そのための器作りが僕らの仕事だと思っています。あれだけいい物を見せたし、あれだけいい試合を見せられてしまったので、あれを超えるもっといい物を提供したいですね。
 
――そこでしか見られないものがまた見られるということですね。
松井 絶対に足を運ばないとあの空気感はわからないですよ! レッドブルの熟成してきたカルチャーと日本が熟成してきたゲームカルチャーがすごく気持ちよく混ざっているので。チケット販売が始まったらぜひお早めに手に入れてください。