米時間の3月25日から29日にかけてサンフランシスコで行われた、ゲーム開発者の国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013。
アクションアドベンチャーゲーム『ラ・ムラーナ』を開発したNIGOROの楢村匠氏は、今年のGDCで日本から参加して講演を行ったひとりだ(リポート記事はこちら)。またその2週間前には、京都で行われた「日本のインディーゲームを海外に紹介する」という趣旨のイベントBit Summitにも参加している。
インディーゲーム開発者も多数参加するGDCと、日本のインディーゲームを海外へ発信しようとするBit Summitを経て、楢村氏は何を思ったのか? そこで最終日に話を聞いた(インタビューは29日に実施)。
――まずはGDCの感想を。
楢村匠氏(以下、楢村) GDCも初めてでしたし、アメリカ自体も初めてなのですが、いい意味で大雑把ですね。予約してないと入れないという所がちょっとお話すれば「いいぜ」ってなったりとか(笑)。事前に準備とか確認を取っていたのがアホみたいに感じるぐらいでした。
一番衝撃を受けたのはIGFアワードとGDCアワード。まさか、あんな大々的なショーみたいな感じで受賞式をやっているとは思わなくて。あれを見るまでは「インディーとして好きにゲームを作っているんだから、海外の成功した作家とそんなに変わらないだろう」と思っていましたけど、あれに出ると出ないとでは全然違いますね。そういう意味でカルチャーショックをいろいろと受けています。
――あの場所を奪ってやろうといった感じはありますか?
楢村 『Spelunky』(Derek Yu氏による2Dアクションアドベンチャーゲーム。GDCアワードではゲームデザイン賞とダウンロードゲーム賞にノミネート)がエントリーされていたじゃないですか。
彼はちょいちょい『ラ・ムラーナ』に影響を受けたと言ってくれていたので、彼が受賞したら『ラ・ムラーナ』について何か言ってくれないかなと思っていたんですが、ことごとく『Journey』(邦題:『風ノ旅ビト』)に取られてその目も消えたので(笑)。
帰る時にできるだけステージの近くに寄って目に焼き付けて、ここに立たなきゃ、せめてその手前のノミネート者用の席に行けるぐらいにならないと、(海外のインディーゲーム開発者と)同じような成功とは言えないなと思いましたね。
――『Spelunky』なんか見ていてもそうですが、IGFアワードとGDCアワードの垣根がない感じですよね。(編注:本来GDCアワードがGDC自体の本賞、IGFアワードがインディーゲーム賞という性格がある)
楢村 全然ないですね。あれもXbox 360にリメイクしたのがGDCアワードにダウンロードソフトとしてノミネートされて。最初はそれぞれ違うところで受賞式をやるものだと思っていたんですけど、IGFが終わったら同じ会場でそのまま普通のアワードもやっていたので、同列に扱っているんだと思いました。
――中には両方にノミネートされているところもあって。
楢村 そうですね。『ラ・ムラーナ』が海外でWiiWareで出るかもという時に、知らないうちにエントリーはされていたみたいなんですが、Steamでやっと出るというこのタイミングでエントリーしてみようかと思ったら同じ作品で2回エントリーするのはダメと言われて。
日本の作品も(GDCアワードに)3つぐらいエントリーされていて、入れないわけではないというチラッとした可能性は感じましたけど、あそこ(壇上)に行くにはあと何が必要なのか、というのは考えましたね。
だからといって、海外のインディーゲームで好まれそうな絵柄にしたほうがいいのかとか、そういうのもちょっと違うような気がするし。自分なりにあっちに選んでもらえるようなもの、なおかつ自分らしさを絶対に消さない道があればな、と思っています。
外人のパーティーに行くと日本人全然いなかったんで、アメリカ人ウォッチをして、「こっちでも好まれるキャラクターデザイン……こっちの顔を参考にしようかな」とか、いろいろと考えることは増えましたね。
それと、各メディアに講演の内容が載って、それを元に日本でユーザー同士の議論が起こっているのもチェックして。議論が起こってくれること自体、いいことじゃないですか。去年の「クソだ」発言(※)でも議論は広まっていましたし。IGFとGDC合わせてどっちもインディーばっかりだったじゃないですか。GDCでもAAA(大規模タイトル)は一個ぐらいしか入っていなくて(参考)。あのニュースが知れ渡るだけでも、日本でインディーの見られ方、重要性がちょっと変わったり、議論が起こるのを期待したいですね。
※『FEZ』開発者のフィル・フィッシュ氏が日本のゲームについて問われた際に出た発言。本人はすでに謝罪している。
――ソニーが会期中にインディーゲームのショーケースイベントをやったり、マイクロソフトは以前からXbox LIVEでインディーゲームをやっていたり、任天堂がUnityと組んだりしていて、全体的にインディーが重要視されるようになってきている感もありますが……。
楢村 僕の感じる範囲では変わっていないです。関係者に聞いたんですが、そこは国によって違うと。例えばSCEAはインディーどんと来いといってショーを出来るぐらいですから重要視しているんでしょうが、日本では同じではないと言ってましたね。任天堂がUnityと提携したり、Webフレームワークで簡単に作れるようになると言っていましたけど、だからといって重要視とか優遇という印象は受けなかったですね。
簡単になったという話ではあるかもしれないですけど、App Storeみたいに好きなように出せるようになるかと言ったら多分そうはならないと思うんで。まだまだ大変なのは余り変わらない気がします。
――講演などは回られましたか?
楢村 英語の講演を見ても恐らく理解できないので、自分の予習のために同じ日本人の講演を何個か見て回ったりしていました。
――何か面白いのはありましたか?
楢村 同じような境遇のクリスピーズの片岡さん(『東京ジャングル』の片岡陽平氏)の講演は見て面白かったですし(本誌リポート記事はこちら)、この後“The Art of Journey”、『風ノ旅ビト』のアートの講演は頑張って聞いてみて、あのグラフィックをなんで思いつくのか、少しでもわかればと思っています。
今回はドタバタしていてあまり講演を回れなかったのですが、今後の反省点として、アメリカ人のスピーチの身振り手振りの大きさとかは、どれか一個見ておけばよかったなと思いますね(笑)。
――Bit Summitでもお会いしましたが、Bit Summitに出て、GDCに来て、IGFアワードを見て、ここ数週間を通しての感想はどうですか?
楢村 Bit Summitもそうですし、初めてGDCに来て講演をして、どちらも始まったばかりという感じが強いですね。Bit Summitがあった頃は「あぁ、こんなイベントができるんだったら大分状況が変わるな」と思っていましたけど、こっちに来たら「あれは入り口に立っただけだ」と。
日本人がこっちに来て講演をするといっても、「どれ行こうかな」とパンフレットの一覧を見た時に目に止まらないと思うんですよね。会社名も知られていないし。せめてタイトルに『ラ・ムラーナ』って入れればよかったと反省しているぐらいなんですけど。
――その辺りのテクニックはめちゃくちゃ長けてるんですよね。タイトルに釣られて行ってみると「タイトルにこう書いたけど違うから。でも私が今日お伝えしたいのはね……」って、渋いけどイイ話が始まったりする。
楢村 そう。そこは全然気が回らなかったので反省してます。これだけある中で選ぶんだったらここ(タイトル)でまず目を引かないと駄目だと。
そういう、参加してやっとわかったというレベルですし、Bit Summitにしても、海外から記者がやってきて、渡航費会社に出してもらって来たのに会場が狭いからって廊下でダベってて、上がった記事がほんのちょっとなんてことも後でわかりましたし、もっとすごい記事を書いてもらえる、呼ばなくても来てもらえるようになるには、まだまだ始まったばかりだなと思います。
――日本のインディーゲームの現状については講演でも話されていましたが、海外にどうアピールするかは今後の課題と。
楢村 「日本のインディーゲームはどうなっているんだ」と聞く人も多いですけど、聞きもしない人の方がまだまだ多い。「僕らのゲーム地味だけど面白いよ」と言ったって、ゲームは海外にもいっぱいあるわけで、わざわざ日本のゲームを探すということもしていないので、今回フィル・フィッシュ氏の言葉を借りて講演をやったのも、これだったら記事を書かれるだろうという目論見があって。もう手段は選ばずに、何か注目を浴びることをしないとスタートもできないなと思ってやっていましたね。
もう、あらゆる手段です。アピール用のチラシを持ってきているんですけど、ビデオカメラが回っているのを見たら(編注:GDC会期中は通路などでビデオリポートやインタビューが撮影されている)映り込むように歩いたり(笑)。すごいささいなことですけど、本当に手段は選んでないです。
――露出する機会を作らないと取り上げられもしないということですね。でもFlashゲームなどでもそうですが、一度“発見”されると海外で遊ばれていたりするじゃないですか。そのあたりのトライをされているのは、過去の経験からでしょうか?
楢村 Flashゲームの時にやっていた、とにかく知らせようという展開の工夫みたいなものは、『ラ・ムラーナ』を売り物として出した頃から、ちょっと僕らも忘れていたところがありましたね。
あの頃はさっと遊べるようなものを作ろうとか、話題になるようにこっちからサイトに投稿してやろうとか、いろいろやっていましたけど、ちょっとその辺は最近は固くなっていた気もします。海外でリリースするための契約で疲れていたりとか、結果待ちでヘタに動けなくてじっとする期間があったり。
そんなこんなで、僕がGDCに来ているあいだ、一日が終わる度にニコニコ動画で今日の報告をしてみたりはしています。やらないよりはいいし、始めないと本当に誰にも注目されないので。始めて、それを続けて行かないと力にならない。
今回GDCに来たのも本当に入り口で、次また講演に呼ばれるか知らないですけど、それでもGDCに来てまたチラシ配ったり、自分のゲームがスゴいかはともかく、作ったらとにかくエントリーするとか、そういうことはくり返していこうという気になりましたね。
――次の作品に影響はありそうですか?
楢村 ありますあります。いま、自分たちのやりやすいシューティングゲームというジャンルと、ドット絵で、何回でも遊べるという、売り込みとしては地味な感じのある「やれば面白いよ」というタイプのゲームだったんですけども、僕のグラフィックがちょっとピンと来ないところがあって、煮詰まっていた感じではあったんです。
「でもそのまま続けるしかないかな」と思っていたんですが、今回いろいろ見て回ってみて、注目を集めるためにキャッチーにするとか、わざと派手にするといった感じではないですけど、「なんかコイツらのやっていることはすごそうだぞ」と感じさせるとか、画を見ただけでやろうとしていることが一発で伝わるとか、そういう工夫はしなきゃなと、自分の担当のグラフィック面で思います。
それとギミック……あんな講演をしてしまったので、トラップ仕掛けて殺しにかからないと申し訳ない(笑)。そんなつもりは新作ではなかったんですけどね。“誰でも遊べるシューティング”って思っていたんですけど、“ゲーマー殺しの男”、“プレイヤー殺しの男”という記事のタイトルが散々拡散されてしまったので。
海外の取材を受けても、英語は通訳任せだから流しながら聞いている程度なんですが、それでもいろんな人が「トラップ」、「ユアトラップ」って、トラップっていう単語がすごいいっぱい出てきて……俺のことどう思ってるんだろうと(笑)。
――そのイメージを逆に利用してしまうという手もありますよね。
楢村 そうですね。罠が欲しければ来い、ぐらいの。
――では新作も制作進行中ということで。
楢村 こっちに来ている間も日本にいるプログラマーが着実に進めてくれていますね。僕が帰って「ここはやり直す!」とかやってしまいそうな気はするんですけど……。
シューティング自体は『ラ・ムラーナ』が期待以上に売上とかが出ず、もっと短いスパンで出せるように選んだというのが強くて、「こういうゲームを作りたい」というのが根っこにあるわけではないので、急ぐというよりも、しっかり芯の通ったコンセプトを磨き上げるようなテコ入れはしたいなと……まだスタッフには何も言ってないですけど。
今年中に動いてるところを見せられればと思います。今はもう完成するまで絶対にやらせないという感じではなくて、「一面できたから遊んでみてよ」というスタイルも大分増えてきているので、遊んでもらってフィードバックをもらうとか……体験版で簡単そうな所に思いっきりトラップを仕掛けるとか。
――ダハハハハハ! 宣言した以上はと。
楢村 そういうことを繰り返していったほうがウチらしいかなと思いますね。
――PCだけで見てもさまざまなプラットフォームで出されていますが、プラットフォームによる違いなどはありましたか?
楢村 ウチで売ったほうがいいやということもありますが、海外なのであずかり知らぬところもありますし、どちらかと言えば違いというよりも、お祭り騒ぎ的なバンドルサービスとか、セールとか、よくあれだけやるなと。
こちらとしては定価で売りたいのですが、今は名前を広めてもらう時期ではありますし……本来『ラ・ムラーナ』はWiiwareで出てプロジェクトが終わりだったハズで、まだ全然目標に到達に達していないとはいえ、一度完了したタイトルではあるので、名前が広まるんだったらどうぞどうぞとオーケーを出しています。
まぁでも、そうやっていろいろな所で出したので、各プラットフォームでついているファンがちょっとずつ違うから、別々に広がっていってくれるのは良かったと思いますね。
――Steamで出ることが決まりましたが、そこでのもうひと伸びを期待していますか?
楢村 していますね。今GDCに合わせて予約を始めていて、予約自体はすでに知っている人が買いに来る感じなのでそこまで数を期待しているわけではないのですが、本番での売上というのはちょっと僕らも想像がつかないですね。「失敗したタイトルでもこれだけ売れたから」と言われても、そんな数字を見たことがないので「嘘だぁ」と思っているんですが。
まぁ、広がってくれるとは思っているんですけど。何十万本も売れたというタイトルについて詳しく聞いてみると何年かかけて達成していたり、出したらすぐドカンと行くのかもしれないし、長くかけて伸びていくのかもしれませんし。これもひとつのスタートですね。
――後が続くような道を切り拓きたいという思いはありますか?
楢村 Bit Summitでも話せた人には言いましたけど、みんながみんな海外で出したいと思っているわけではなくて、自分が作りたいものを作って、作り続けられればいいという人もいるでしょうし。僕らも元々そういったタイプでしたしね。あるいは大きな同人サークルのように、国内で十分にできてしまうところは無理に訳さなければいけないという大変な思いをしなくていいわけですし。
みんながみんなこっちに来なくてはダメだと言うことはできないんですけども、自分たちのやり方が一例となれば、「ちょっと本腰を入れてこれを本職にしよう」という覚悟まではできなくとも、「売ってもらえるんだったら挑戦してみたい」と思う人がちょっとでも増えればいいと思いますし、Playismともちょっと話していたんですけど、海外に出そうと思っていないので、海外に出そうという作りになっていなかったりするんですよ。テキストが英語で表示できない作りになっているとか。ああいう所も、海外で出す気がなくても、いずれ声がかかった時にさっとできるようにメッセージの表示方法を考えておくとか、そういったものを共有できたらなと思いますね。
――自分は海外ゲームが好きなのですが、逆のパターン、日本語に差し替えられるようにするのに時間がかかるケースを見てきているので、よくわかります。
楢村 ありますね。「なんだ2バイト文字って」とプログラマーが降参したりとか。講演のあと、質問に来たカナダ人が、「僕もひとりでやってて、日本で出したいんだけどどうやればいいのか」とか言ってたんですけど、日本で英語を話せる友達を作れとか、こういう所に注意して作っておくといいとか、そういう共有からでも、日本と世界のインディー開発者が一緒になれば、もっとみんな楽になるのになと思いましたね。
――最後に今後の活動への意気込みを。
楢村 うーん、飛行機の中で寝たら忘れてしまいそうですけど(笑)、現段階で、Steamで資金がどれぐらい得られるかで後どれぐらい活動できるかとか、もう1作作らなきゃとか決まってくると思うんですが……。
これを仕事にしようと思ってほかの仕事を切ってやっているわけですから、ずっとこの仕事でゲームを作っていけたらというのは変わりないと思うので、たとえば会社がダメになったとしても、多分またグループ制作に戻ってでも続けたいと思います。世界に挑戦するのも結構楽しいっちゃ楽しいので。
まだ「自分が満足出来ればそれでいいや」ぐらいの発想だったのを、少しずつでも切り替えて、もっともっと広く遊ばれるような工夫をしつつ、自分のやり方を探しつつやっていきたいですね。帰国したらまずその辺のことを、ひとりきりになって籠りたいぐらいです。
――ありがとうございました。期待してます!