ゲームを盛り上げていくために、必要なこととは?

 2013年3月15日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”の第七回が開催された。
 今回のテーマは、“僕らのゲーム業界ってなんだ……!?”という、かなりざっくりとしたもの。大まかに言えば、「ゲームのあり方が多様化する中で、いかにして今後もゲームを盛り上げていくべきか?」といった方向で、さまざまな内容のトークが展開されていった。

 今回のゲストは、お笑いタレント・アメリカザリガニの平井善之氏、コーエーテクモホールディングスの代表取締役を経て、ジンガジャパンの代表を歴任した松原健二氏、電通を経て、現在はPCオンライン・コンシューマにて行われるeスポーツを日本で促進する筧誠一郎氏、任天堂を経て、ゲームのバランス調整やチューニングなどを手掛ける“猿楽庁”を率いる橋本徹氏の4人。いつものように、黒川氏がホスト役となり、ゲストの4氏に話題を振っていく形で進行していった。なお黒川氏、およびゲスト4氏の詳しいプロフィールは、【コチラ】を参照してほしい。

“黒川塾(七)”開催 “eスポーツ”や“日本ゲームユーザー協会”の現状、ジンガジャパン閉鎖の顛末まで多彩なトークが展開_01
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▲黒川文雄氏
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▲平井善之氏
▲松原健二氏
▲筧誠一郎氏
▲橋本徹氏

“日本パッケージゲームユーザー協会”でなくてよかった!?

 最初の話題は、平井氏が2012年12月に立ち上げた、“日本ゲームユーザー協会”(JGUA)についてだ。立ち上げと同時にリリースが発表され、ホームページも公開されているものの(→【コチラ】)、いまひとつ実態がつかめず、黒川氏も「これは何なのだろう?」と不思議に思っていたとのこと。平井氏をゲストに招いたこの機会に、本人から詳しく聞いてみようというわけだ。
 平井氏が、「何なの? というのは、毎回聞かれるんですよ」と苦笑しつつ説明したところによれば、近年、ゲームが売れなくなっているという話をよく耳にするようになり、「ゲームが売れるように、みんなで盛り上げるためには?」と考えた末に決めたことなのだそうだ。団体名も、「“ゲーム盛り上げクラブ”でも、“ゲーム大好き隊”でもよかったんですが、協会って響きもいいよね、となって」(平井氏)と、それほど深い意図があってつけられたわけではないのだという。
 ただし、“協会”という響きの重さから、「中抜きをしているんじゃないかとか、おまえなんかユーザーの代表じゃない、などいろいろなご批判もいただきました」(平井氏)とのこと。このあたりのいきさつは、ファミ通.comが平井氏に行ったインタビューで詳しく語られているので、そちらも参照してほしい(→【コチラ】)。

 というわけで、ゲームを盛り上げるべく活動を始めた動機として、“ゲームが売れなくなっている”とする平井氏だが、そこに異議を唱えたのが松原氏だ。松原氏は、パッケージゲームが売れなくなっている一方で、ソーシャルゲームなどで大きな利益が上がっている現状を指摘。いまやスマートフォン用ゲームの代表格となっている『パズル&ドラゴンズ』(厳密にはソーシャルゲームかどうかは意見が分かれるところだが)を例に挙げ、「仮に(ガンボー・オンラインエインターテイメントの)1月の売り上げのほとんどが『パズドラ』だとすると、PS3用ソフトで同じ利益を挙げるには、250万本か、もしかしたら300万本は売らないといけません。逆に言えば、『パズドラ』は250万本級のタイトルを毎月出しているような感じなんですよ」と、経営者としての経験豊富な松原氏らしい表現で、“ゲームは売れている”と反論した。
 しかし平井氏にとって、ソーシャルゲームは応援の対象ではなく、「昔、自転車の前かごに、おもちゃ屋さんで買ったソフトを入れて、スゴイ勢いで家に帰りましたよね。その、“物理的に物がある”というロマンティックな感じを忘れたくない、というのが基本にあります」(平井氏)という。
 ここで、平井氏の友人として意見を求められた橋本氏は、パッケージゲームを取り巻く状況の厳しさを知るゲーム業界人として、複雑な表情を浮かべながらも、「僕にもパッケージゲームを粛々と作っている友人がたくさんいるので、応援したいと思っています」と発言。また、「僕はどちらかというと、平井君を元気にする係ですかね(笑)」(橋本氏)と、応援していく気持ちを表現した。

 ここから話題は、“パッケージゲームは生き残れるのか?”という方向に。松原氏は、「多くの作り手は、パッケージはなくなっていくだろうと考えているでしょう。ダウンロードなら、ユーザーも便利だし、経営者としては在庫リスクがなくなるという大きなメリットがります」と説明。橋本氏も、「僕もなくなると思いますが、レコードとか、書籍、写真集などを持っておきたいタイプではあるんです。でも、ニンテンドー3DSで『とびだせ どうぶつの森』のパッケージ版を遊んでいて、ほかのゲームを遊ぼうとするときに、ロムを抜かないといけないのか、と……。そこで、やっぱりダウンロードなのかな、と……葛藤しています」と、ダウンロードソフトの優位性を語った。さらに黒川氏も、「任天堂は家族みんなで遊ぼうという方向、Kinectもみんなで体を動かして遊ぼうという提案をしましたが、今後はだんだんなくなっていく部分かな、と。PS4はGaikaiというクラウドサービスを買収したことで、ゲームをダウンロードして遊ばせようという意図も見えます。そうなると、パッケージは保有するものではなくなるのかな、と思います」と、三者三様にパッケージゲームが衰退に向かうという考えを示した。
 ここで筧氏は、オンラインゲームでそうなっているように、「ゲームがコミュニケーションを楽しむための共通言語となり、いいゲームをみんなで楽しく遊べればいいのではないでしょうか」と発言。さらに「“パッケージゲームユーザー協会”ではないわけだし、ユーザーどうしのコミュニケ―ションが楽しめればいい、というのはすばらしいと思います」(筧氏)との助け船に、平井氏も「そうですね。必ずしもパッケージゲームだけではないですから」と納得し、積極的に活動していく意欲を新たにしていたようだった。

“日本eスポーツ界の石川遼”は生まれるか!?

 続いては、筧氏が日本での“伝導師”となり、広めるべく活動している“eスポーツ”の話題に移り、まずは筧氏からeスポーツについての解説が行われた。
 筧氏によると、本来“スポーツ”には、体力的な運動だけでなく、思考力や計算力といった力で競技するマインドスポーツも含まれるのだという。欧米では1990年代後半から賞金付きの大規模ゲームイベントも開催されるようになり、トッププレイヤーは年収1億円を超えるほどなのだそうだ。ある海外のトッププレイヤーが日本に来たときのエピソードだが、世界中を転戦する中で、「ファンが空港に集まっていなかったのは、日本とアフリカだけだ」と言われたのだとか。
 それほどに世界におけるeスポーツの認知度は高く、大会はペプシやアディダスなどの一流企業がスポンサードし、RTSで人気の高い『LEAGUE OF LEGEND』の大会では、優勝賞金2億円、賞金総額6億円という大規模なものもあるのだそうだ。また、海外ではFIFA主催のサッカーゲーム大会も開催されており、優勝したプレイヤーはバロンドール授賞式の式典によばれて、メッシなどのスタープレイヤーと並んで表彰されるのだという(→【コチラ】の動画参照)。

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 では日本では? というと、指摘する間でもなく、海外ほどの盛り上がりには至っていないのが現状だ。しかし筧氏らの精力的な活動により、状況は変化しつつあるそうだ。とくに2013年は、eスポーツ専門紙の創刊や、JAPAN CUPや学生選手権の開催、東京ゲームショウで競技会“Cyber Games Asia”が開催されるなど、例年以上に盛り上がりそうな気配がある。

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 こうした動きの中で、筧氏が望むのは、「世界の舞台に日本人が出て行って活躍してほしい」ということだ。また筧氏は、小学生のころはゲームがうまい子はヒーローだったのに、年を取るにつれてそうではなくなっていく風潮に疑問を感じているそうで、「日が暮れるまでサッカーのボールを蹴っていたら、“将来はカズみたいになるのかな”となるのに、ゲームだと、“あいつは引きこもりか?”なんて言われたり。それは違うだろうと」(筧氏)。筧氏によると、韓国では、子どもの将来なりたい職業の1位はサッカー選手だが、2位にeスポーツ選手が食い込むほど、子どもの憧れの存在になっている現状があるのだという。これには松原氏は、「韓国は10年くらい前から、インターネット産業を伸ばす政策を執ってきましたからね。ゲームプレイヤーや開発者たちのインターハイのようなものがあって、成績優秀者は推薦入学をもらえたり」と、国の後ろ盾があってこそのことだと指摘。しかし一方で、「そこいくと、日本は民間主導でここまできたわけですから。そこはさすが、電通出身の筧さんですね」(松原氏)と、筧氏の活動を称えた。
 また黒川氏は、「いまのゲーム業界にはスターがいませんよね。かつて少年マガジンで伝記が描かれたようなスタークリエイターがいなくなって、いまは人よりもゲームタイトルが先に来る。でもeスポーツだと、人が先。ただ日本には、そういう人がまだいませんが」と、スターの必要性を唱えた。筧氏も、「スターが牽引するのはなんでもいっしょです。浅尾美和がビーチバレー人気を、石川遼がゴルフ人気を牽引したように。だからぜひ、(日本のeスポーツプレイヤーも)世界に出ていって、憧れの選手になってほしいですね」と語った。

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▲筧氏からは、“白ゲーム”、つまり誰でも好きにカスタマイズできる、公正な電子格闘競技を制作するプロジェクト“EF-12”についても紹介された。多くの人気格闘ゲームを手がけてきた名うてのクリエイターが多数参加している本プロジェクトの詳細は、http://ef-12.com/にて。

ジンガジャパン突然の閉鎖、その顛末とは……?

 つぎの話題は、世界最大手のソーシャルゲームメーカー“ジンガ”の日本支社、“ジンガジャパン”について。ご存じの通り、松原氏が2011年5月から代表取締役CEOを務めていたジンガジャパンは、米ジンガ本社の意向で、2013年1月に解散している。松原氏から、その経緯などが語られた。

 まず松原氏がコーエーテクモゲームスを退社した後、ジンガジャパンに入社したのは、もともとオンライン・モバイルコンテンツを手がけてきたこともあり、「これからはソーシャルゲームをやりたい」と考えていたところに、ジンガからのオファーがあったためなのだそうだ。とくに当時、『コマンド&コンカー』などの名作コンシューマータイトルを手がけた後、世界的大ヒットソーシャルゲーム『CityVille』を生み出したマーク・スカッグス氏との出会いからは大きなインパクトを受けたとのこと。松原氏の「家庭用ゲームと比べて、ソーシャルゲーム制作は物足りなくないか?」との問いに対する、「1ヵ月に2億人のユーザーに遊んでもらえるなんて、うれしくないはずがないだろう?」というスカッグス氏のシンプルな答えに、大いに心を動かされたのだそうだ。

 そして松原氏はジンガジャパンでの仕事をスタート。日本で受ける“ガチャ”や“カードバトル”はアメリカ人には理解されにくかったものの、なんとか本社を説得し、日本に開発部隊ができて、ようやく体制が整い、自前のタイトルがリリースされる。日本では他社のソーシャルゲームも大きく伸びていた時期で、いよいよ成果が上がる……となったところだったが、ジンガがグローバルで敢行した拠点の統廃合や人員削減の一環として、ジンガジャパンは突然のクローズとなる。松原氏は、「世界の中で、ジンガのパフォーマンスがガラガラっと落ちていた時期で、何かしないといけないだろうというタイミングだったんです。でも、日本ではうまく行きかけていたので、影響はないかと思っていたのですが……。数字を見るともったいなく、納得はいかないけど、それとは違う次元の話なので、仕方がないかな、と」と残念そうに語る。松原氏の分析では、ソーシャルゲームは一定のシェアを確保しないと利益を得にくいため、ジンガが過度に“シェア至上主義”を進めた結果、その反動が一気にきたのだろう、とのことだった。

 ただし松原氏は、ジンガジャパンでの経験は大きな収穫もあったと語る。とくに、ジンガが世界で成功するためのやりかた、つまり日本のように“成功してから世界へ”ではなく、最初から世界をターゲットにするやりかたは、とても勉強になったとのこと。「日本では、まず日本で成功するために、世界では通用しない形で始めるから、そこから先に進みにくい。でもジンガは、最初から世界を目指す形で、そのスモールなものから始めてから、一気に世界へいく。グローバルを最初から考えている会社なんですよ」(松原氏)というわけだ。
 また、松原氏がジンガジャパンで手がけ、現在はジンガ本社がサービスを継続している『あやかし陰陽録』は、「台湾、中国では、おそらく日本のゲームとしてはいちばん流行っていると思います」と、とくにアジア圏で人気を博しているのだそうだ。「我々の手を離れたコンテンツではありますが、我々が生み出した物なので。海外の人が価値を認めてくれているのは、気分がいですね」(松原氏)。


 最後に、ゲストの4人から、それぞれ近況と今後の豊富が語られた。

平井氏 いまは、もう少し楽しめるコンテンツをおこうかとか、ゆっくりホームページの制作などを進めています。基本的に、メインはユーザーで、そこではユーザーがいちばんになれる、というものにしたい。今後は、多くの人に会員になってもらえるようなシステムを作ろうかと考えています。後は、大会を開催して参加してもらうとか、徐々にやっていこうかな、と。一生懸命やりますよ!

松原氏 私は、自分で直接ゲームを作ったことは、プロデューサーの立場としてしかないのですが、もともとエンジニアだということもあるので。去年NPO化された、私も理事をやっている開発者の集まり、IGDAで、いろいろな活動をしています。目立つところでは、復興支援もかねてやった“福島ゲームジャム”(詳細は【コチラ】)などですね。また、日本でいちばん大きなゲーム開発者のためのイベント“CEDEC”も、5000人が集まるイベントになりました。ゲームの世界も大きくなってきて、「何を作ればいいの?」「あれを作ってみたんだけど」と情報を求めている人が多くなっています。ゲームは遊ぶと楽しいけど、作るともっと楽しい、ということで、今後も進めていきたいですね。

筧氏 eスポーツをJリーグのようにする、というのが目標です。ゲームユーザーが世界を目指してがんばって、世界に出ていってもらう。また小野口さん(前述、EF-12プロジェクトの主要メンバー)のように、開発者にも、世界に通用するゲームを作っていただく。日本のゲーム業界が世界のスタンダードになれるように、いっしょにやっていけたらと思います。

橋本氏 僕がこれからやらなければいけない、やってほしいことは……僕や筧さん、松原さんは、あと10年もしたら還暦ですよね。今後は、60歳を超えても遊べるゲーム機、ゲームというのが必要だな、と。何より、自分やりたいから(笑)。老眼になり、反射神経も落ち……それでもボケていったりしないように。そこは日本ゲームユーザー協会、黒川塾の企画でもやってもらいたいし、僕も力になりたいな、と思います。

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