2013年3月某日、東京都新宿にあるエレクトロニック・アーツの日本オフィスに男たちは集まった……新生『シムシティ』のほぼ製品版を皆様よりひと足早く遊ぶために!(メディア体験会とも言う)

 PCゲーム担当なんて大抵がお互い見知った顔、というわけで和やかな空気で……行われるわけがない。
 ある者は高みを求めて朝からクールに複数の都市を運営し、ある者はその様子を目の端で伺いつつ己の道を行き、そしてある者(というか記者)は空気を読まずに前述の複数の都市が運営されているリージョンに乱入をかまし、そして最後にやってきた者は着席するやいなや「よし、兵器作ろうか」と完全に『シヴィライゼーション』と間違えたかのようなギャグで宣戦布告。

 そう、俺たちは全員が市長。市民の皆さんの生活がかかっているのである……。

マルチシティプレイをおさらい

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▲今度のシムシティはリージョン(地域)のゲームと考えてもいいかもしれない。

 今回のメディア体験会は、2回にわたって行われたβテスト(基本的な部分はすでに掲載したβテストリポートを参照されたし)からさらに進んで、建てられる施設の制限なども恐らくほぼなく、今回の最大の要素である“マルチシティプレイ”で遊ぶことができた。

 マルチシティプレイについておさらいしておくと、今回プレイヤーは自分の都市を建設するにあたり、“リージョン”(地域)にある16ヶ所の候補地から選んでスタートする。
 この16ヶ所全部をひとりで運営してもいいし、16人で1ヶ所ずつ運営するのでもオーケー。リージョンは同時に10個持てるので、ソロもマルチもどっちもやりたいという人は分けて管理すれば問題ナシだ。

 同リージョン内の都市は高速道路などで結ばれ、人や資源の流通が起こる。グローバルマーケット(市場)も存在し、資源を安い値段で買い漁って高くなったら他の都市に売りつけて儲ける貿易都市なども実現可能。この流動性が本作の醍醐味のひとつとなっている。

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▲リージョンは同時に10個持てる。
▲世界中でメディア体験会が開催されている最中に作られていたリージョンたち。もちろん自分で作成することもできた。

中洲はつらいよ: 債権や、債権を発行すればええんや編

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▲緑色の四角がリージョン内に16個ある候補地。地形が全然違うのがおわかりだろうか?

 話は冒頭に戻る。某メディアの建設したリージョンに乱入することに決めた記者だが、なんかフツーに始めるのは面白くない。
 リージョン内の各候補地はそれぞれ地形が異なり、埋蔵されている資源なども異なっている。本作では地形そのものをいじる要素がないわけだし、どうせスタートするなら他の街にない個性を持った場所で遊びたいところ。

 というわけで市を建設する場所に選んだのは、大きな河によって見事な中洲が形成されている土地。リバーサイドのナイスなシティーを作ってやろうじゃなーい、と思ったが……。

 風向き(風下に汚染が広がる)等を考慮して、陸地側を工業地帯、中洲側を中心地にしようと始めたのはいいのだが、必然的に橋をかけなければならず、ただでさえ乏しい序盤の資金がモリモリ減っていく。

 仕方なく、二車線の一本橋のみで陸と繋がる中心地という、「それ、橋落とされたら街として死なないか」と誰もが思うであろう危険な構造のまま、金が尽きる前に道路以外の電力や下水などの初期インフラの構築に移行。それでも不足した分は債権を発行して前借りだ!

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▲いきなり中洲まで道を敷くことはなかったんじゃないかと今は反省している。
▲まぁ、こうなるよね。消防活動で殺人的大渋滞。車線を増やすか橋を増やせよ、俺。

 債権は同時に3種類が発行可能で、資金を前借りできる。借りる金額(3段階からチョイス)に応じて利子もあって要は借金なのだが、収支バランスを見て問題なく利子を吸収できるだけの黒字である場合や、ゲーム序盤のように今後明らかに税収の増加が見込まれるような場合は、都市の成長を促進させるための非常に有効な手段となる。

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▲右下が債権の発行ボタン。お金が余っている時は残高を一気に払って返すこともできる。

中洲はつらいよ: 母さん、隣の市が怖いです編

 そんなこんなで街っぽくはなってきた。最低限の公営サービスしかないし、収支バランスも割ときゅうきゅうだが、時間をかけて改善をしていけばいいだろう……と思った矢先、隣の市から放火犯が逃げ込んできているとの報が飛び込む。

 な、なんだって? 工業が発展したはいいものの健康悪化に歯止めがかからず、公害上等のハードコアシティと化した隣の市から、それでも整備してある警察網から逃れて、我が中洲のほのぼのタウンへと強盗や空き巣、放火犯などの犯罪者が続々と高速道路沿いに逃げてくるのだ。

 まだ不満の少ない市政状況を背景に最低限に抑えていた警察網なんか、彼ら腕利きの犯罪者にとっては問題にならず、後手後手にまわりつづける。橋がすぐ大渋滞になる欠陥都市では、消防車も回りきれていない。焼け落ちて廃墟になる家や工場、治安の悪化を理由に去っていく人々……。

 税収も徐々に悪化の兆しを見せていき、ギリギリプラスだが、これでは警察網や消防署の増強という一手を打てるのはいつになるやら。大型の債権発行に耐えられるかも微妙である……。

 しかし、頭を抱えて天を見上げ、ディスプレイに目を戻すと、我が市のものではないパトカーや消防車が活躍し始めているではないか。そう、他市から救援がやってきたのだ! 

 ありがとう、この恩は一生忘れない! そしてどこからの救援かと見ると、コレ、放火犯その他犯罪者を輩出した市じゃねぇか。これが本当のマッチ(放火犯)&ポンプ(消防車)。
 ちなみに発展だけはしてるから、かの市の大学に我が市の未来ある学生諸君が通ってるそうなんですが、グレて帰ってきたりしないか心配である(『ザ・シムズ』じゃないからそんな要素はないけど)。

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▲消防署の影響範囲(緑に光っている道)が足りてねぇぇぇぇ!
▲労働者が近くの街に通勤しにいってしまうことも。っていうかこれを書いてて左下の鉄道線路に気がついた。なぜ使わなかったんだ……。
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▲泣きっ面に蜂。竜巻発生で地味に家が崩壊させられる。他メディアでは地震が起きた者、ゾンビが発生した者も……。

中洲はつらいよ: さよなら、そして新天地へ編

 その後、パニックから突発的に「よし、港湾都市にするべ!」とギリギリの予算で船着場を設置し、1個だけ設置したんじゃ意味がないことに気がついたところで予算もなくなり、どうにもならなくなって見事ギブアップ。

1.場所選び死ぬほど大事

・今回は土地造成ができないだけに、土地選びで結構いろいろ決まる。
・クリイエイティブ・ディレクターのオーシャン・クイグリー氏に電話インタビューで確認したところ、中洲は確かに平地よりハードだが、うまく運用して、資源が豊富だったりするのを活かせば、それはそれでおもしろい特色のある街を作れるとのこと。
→つまり平地の場合と同じように街を作ろうとして失敗し、焦って中途半端な策をつぎつぎに行った記者の凡ミス
→焦らずにじっくりプレイして水の豊富さを強みにしたり、資源や都市の特化を行うレベルまで進めば、埋蔵資源や海上流通を活かせたかも。

2.マルチシティプレイの流動性はおもしろすぎ!

・自分の街だけで考えないこと。特に影響を受けやすい序盤。
・逆にすべてを自分の街だけで完結させずに済むこともある。不足しているサービスを他市からの協力で凌いで、その間に別の部分に投資するとか。
→これはひとりで複数都市をプレイする場合も、マルチプレイをする場合も同様。
→MODやDLCが出てくると、それによる新たな影響関係なども出てきそう。クイグリー氏いわく、どのレベルのMODを導入可能にするかなど、ポリシーはまだ未定とのこと。できれば、導入していないプレイヤーと分断されないような仕組みを期待したい。

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▲他市の下水を処理することもある。(高速道路上の茶色い円が他市からの下水)

3.街作りは個性が出ておもしろい!

・リージョンや選んだ土地によって、それなりにプレイに違いが出る
・効率を追求するもよし、見た目の面白さを重視するもよし。ちなみにクイグリー氏は元々アーティスト職ということもあって後者を好むとか。
・半導体産業を成長させたり、カジノシティを作ったりと都市の特化を行うと、さらにどこに注力するかが変わってくる。
・リージョン全体で国際空港の建造などの偉業の達成(膨大な材料を生産しなければならないので単独では難しい)を目指すのか、基本的にそれぞれの街作りを楽しむのかによっても違ってくるハズ。
→どちらにしても対戦とか競争ではないので、リージョンのポリシーをはっきりさせて楽しむといいかも。
→競争したければ人口などを競えるが、同一条件ではないので、それだけを目的にはしない方がいい。
・他プレイヤーの街を訪問することもできるので、覗きに行くだけでも楽しい。

 その後、残り時間で平地、しかも敷地内を高速道路が横断しているというナイスロードサイドでプレイしたら楽なこと楽なこと。発展が早いから税収もどんどん増えてくし、それを資金に道路をアップグレードすると土地も成長するので(条件が揃っていると面した道路のグレードごとに市民の建物もアップグレードされる)、残り少ない時間で遊んだだけなのに、あっという間に先ほどの中洲タウンを追い抜き急成長。さっきまでの苦労はなんだったんだ……。

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▲さらば中洲の街よ……。
▲平地でやり直したら大分楽でやんの。

4時間があっという間に過ぎて……ウィル・ライト御大が褒めるのも納得

 午後3時ほどからプレイし始めたが、4時間のプレイがあっという間に過ぎてしまい、気づけば夜。時間泥棒としての『シムシティ』の性能は相変わらず恐るべきものだ。
 しかも今回はマルチシティプレイがある。単独でプレイするなら“シムリージョン”というか、地域をどう役割分担して活性化させていくかという県知事的な遊びになるし、複数人なら前述のようなマルチプレイの楽しさがある。
 オーシャン・クイグリー氏と『シムシティ』の父ウィル・ライトの対談映像が海外で公開されているのだが、「テストプレイで飽きるほどプレイしたから」と10年間シムシティを触ってこなかったというウィル・ライト御大が、本作は楽しんでプレイできたとコメントし、『シムシティ』のスピリットを上手く活かして新しいメカニックをたくさん入れた新作に仕上げたことを、目を細めながら褒めていた。
 シンプルなルールを組み合わせて、複雑になりすぎずに奥深いゲームプレイを実現した本作、新たな時代を切り開く新生『シムシティ』にふさわしい仕上がりとなっていると言えるだろう! 発売は3月7日を予定している。

■著者紹介 ミル☆吉村
ファミ通.comの洋ゲー脳編集者。たまーに紙の仕事もしたりしなかったり。基本的には、アメリカ各地、カナダ、アイスランド、シンガポール、中国、韓国と、世界中を飛ばされまくる人。初街作りゲーは、FM-Townsのフリーソフトのシムシティクローン。

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▲そのころパリのメディアたちは人口20万超えの大都市を作っていたのであった。