日本でも4月25日にプレイステーション3とXbox 360で発売される、FPS(一人称視点シューティング)『バイオショック インフィニット』。
 世界で高評価を受けた『バイオショック』のスタッフが手掛ける正統続編として注目を集める本作について、リードライター(脚本家)のドリュー・ホームズ氏と、リードアニメーターのショーン・ロバートソン氏に話を聞いた。
 ちなみに結構突っ込んだ内容になっているので、ゲーム本編についてはプレビューデモのプレイリポートを、本作に込められた開発スタジオIrrational Gamesの哲学についてはスタジオツアーのリポートや、ケン・レビン氏へのインタビューなどをチェックしてから読むのをオススメしたい。

開発過程でエリザベスのキャラクターが変わった理由とは

――ストーリーライティングの面で初代『バイオショック』と『バイオショック インフィニット』の違いを端的にあらわすと?
ドリュー・ホームズ(以下、ドリュー) 『バイオショック』の海底都市ラプチャーは、死んだ街でしたよね。もう決定的なことはすべて終わってしまっていた。そしてプレイヤーはビッグダディやリトルシスターを見る傍観者のような存在でもありました。
 これに対して、今度の空中都市コロンビアは、生きている街です。あなたは大きな戦いが起こる前にコロンビアに到着します。そしてこれから起こる事件に積極的に関わっていくことになる。これが大きな違いです。

――発表当初からエリザベスの顔が大人っぽくなった気がしますが、その過程でストーリーやセリフに影響はありましたか?
ドリュー エリザベスは本当に本作で非常に重要な位置を占める存在です。彼女自身もストーリーを通じて変化していくのですが、彼女が周囲の世界やブッカーも変えていきます。

 Irrational Gamesとしては、ビデオゲームとして物語をどれだけ進化させ、インタラクティブなものにしていくかに注力しています。ですので、物語を書きながら、プログラマーがバグを取るのと同じように、シナリオのここがいいから膨らませようとか、よくないから変えようと、どんどん変化させていきます。2011年のE3に出したものから、さらに物語も変わり、進化しました。彼女のルックスも、ストーリーの開発が進むに連れ、キャラクターが変化するにしたがって変化したものです。

リードライターとリードアニメーターに聞く『バイオショック インフィニット』インタビュー【バイオショック特集】_04
リードライターとリードアニメーターに聞く『バイオショック インフィニット』インタビュー【バイオショック特集】_05
▲左がちょっと前のエリザベスで、右が最新版のエリザベス。

 我々のゴールは、プレイヤーがゲームの中の世界、そして物語と深い繋がりを持つことで、ゲーム中ずっと一緒にいることになるエリザベスは、その点においても重要な存在であるのがおわかりいただけるかと思います。

リードライターとリードアニメーターに聞く『バイオショック インフィニット』インタビュー【バイオショック特集】_01
▲「デイジー・フィッツロイは諸君らの怒りの声を聞く!」というプロパガンダポスター。

――“ファウンダーズ”と“ヴォックス・ポピュライ”というふたつのグループが出てきますが、ライターの観点からこの両者の性質を教えてください。
ドリュー ファウンダーズはカムストックに従って街を支配しているグループで、(恐らくキリスト教右派風の)宗教的な背景や人種差別的な性質、自分たちは特別で何をしてもいいという強い感情を持っています。そして黒人やアイルランド人などを労働者階級のマイノリティとして扱っているんです。
 こうした抑圧に対して立ち上がってきたのがヴォックス・ポピュライです。デイジー・フィッツロイに率いられたグループで、名称は“人民の声”という意味です。
 この政治的摩擦は、労働者の権利主張が強まり始めた1912年当時の状況を参考にしています。

――プレイヤーの選択はストーリーにどう影響しますか? 例えば序盤では、白人と黒人のカップルにボールを投げるか、司会者にボールを投げるか問われました。
ドリュー 初代『バイオショック』と異なり、本作ではそれほどストーリーが枝分かれしません。今回はプレイヤーに、自分たちは何なのかを考えさせるような感じにしています。
 『バイオショック』の場合は、リトルシスターを助けるかハーベストするかという選択がありましたが、何回も繰り返すと無感覚でやるようになってしまって、哲学的な思考が行われなくなってしまうんですよね。
 ですので今回は、モラルに関わるさまざまな選択について考えてもらうよう、仕組みを考え直しました。プレイヤーは哲学的に自問自答しなければいけないいくつもの選択肢を前に決断を迫られることになります。
 ボールを投げるシーンは、プレイヤーにこの世界に参加している感覚を味わってもらうという目的もあります。投げるか投げないかという程度の選択肢では、十分に機能しません。哀れなカップルに投げるのか、大変なことになるのを覚悟して司会者に投げるのかという選択だから考えさせるのです。
 その時に、自分がゲーム世界の中でどういう存在としてあるのかに注意を向かせるんです。そしてその行動を内面化させて、何が正しくて何が間違っているのかを考えてもらう。人間としてそれをどのように感じるのか? それが今回の仕掛けです。

――非常にさまざまなシチュエーション別のセリフが用意されているのだろうと思うのですが、もし最短プレイをした場合、エリザベスのセリフは何%ぐらい聞き逃してしまうのでしょうか?
ドリュー 割合で言えばそんなに大きいものではありません。最短プレイをした場合でも、エリザベスの冒険と彼女の基本的なキャラクターについては知ることができます。逆に、コロンビアの歴史的背景についての、例えば目の前のビルに対する彼女のコメントなどは聞きもらしてしまうでしょう。
 だからといって隅々まで歩かないといけないというわけではなくて、最短プレイをしても、我々が本当に伝えたいことは必ず聞けるようになっています。エリザベスのセリフをすべて聞かせることが本作の目的ではないので(笑)。大事なのはプレイヤーが世界やエリザベスと深い繋がりを持つことであって、もしかすると人によっては短いプレイの方がそうなる人もいるでしょう。
 ですので、ちょっと道を外れて特別なセリフを聞くのも楽しいのですが、大事なのはあなたがどう冒険をしたいか、どのようにエリザベスと関係を築きたいかということです。

――本作を作るにあたって影響を受けたエンターテインメント作品はありますか?
ドリュー 本作への影響ということで言えば、非常にたくさんの本や映画を参考にしています。
 私自身が脚本を書いている時に一番影響を受けたのは、TVドラマの「LOST」ですね。世界の設定の方法やミステリアスな感じ、どうやって冒険が進行していくのかといった辺りが参考になりました。
 映画で言えば「インセプション」とか。話の根底がシンプルなところから始まって、その上にいくつも層を重ねて複雑化させていくという話の作りが参考になりました。そのほかにも、「オー・ブラザー!」も影響された映画のひとつです。
 本では、エリック・ラーソンの「悪魔と博覧会」ですね。先ほどのコロンビアにおける政治的摩擦などは、この本で描かれている当時のアメリカ社会における階級問題などを参考にしています。
 こういったさまざまな作品を参考にして、『バイオショック インフィニット』の物語を作ってきたという感じですね。

――ストーリーライターの人にインタビューすると、何を聞いてもネタバレになりそうで怖いのですが、逆に“なくしたもの”、“変えたもの”について、何か話してもらっていいですか?
ドリュー それなら、先ほど少し話したエリザベスの話をしましょう。
 彼女は当初、現在よりも若い設定だったんですね。初期の設定では、タワーから救い出した時には外の世界のことを何ひとつ知らないような状態だったんです。
 でも、エリザベスは物語のコアにならなければいけないので、プレイヤーがちょっとでもエリザベスとの距離を感じたり、めんどくさいなと思ってしまうようではいけないわけです。
 ですからそれはやめて、もうちょっと成熟したキャラクターにしました。さまざまな知識を与えて自分の考えがちゃんとある賢い女性に仕立て上げつつ、一方で外の世界での経験は乏しくて、プレイヤーと一緒にコロンビアの街を経験していくという設定にしてあります。この変更によって、エリザベスがとてもはっきりしたキャラクターになったと思います。

エリザベスに現実感を与えるためにAIプログラマーやゲームデザイナーとも協力

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――リードアニメーターとして、本作ならではの苦労をした部分はどこですか?
ショーン・ロバートソン(以下、ショーン) エリザベスが好かれるようにすること、そして現実味のあるキャラクターにすることに注力しました。彼女の表情はもちろんのこと、このシーンでは何秒どこを見るべきか、まばたきは何回すべきかといったことにも注意しましたし、どんな時に悲しくて、楽しくて、怒っているのかといったことも考慮しました。

 でも、いくらアニメーションを作りこんだとしても、彼女の言動が不適切な場面で出てしまうと台無しなわけです。ですので、ゲームデザイナーやAIプログラマーとの共同作業が重要でした。戦闘後どれぐらい経過したら、花を摘んで匂いを嗅いだり、ベンチに座ったりしてもいいのか? そういったことも気をつけています。

――エリザベスはいろんな所を歩くわけですが、アニメーターの負担は大変だったのでは?
ショーン 例えばベンチなどにはいくつものデータが埋め込まれています。座れるものとしても、寄っかかれるものとしても定義されています。それで、エリザベスがハッピーな時には座ったりするわけです。この部分はゲームデザイナーと協力しました。これは一度システムを構築すれば何度も使えるいい方法です。
 そんなわけで、ゲームデザイナーやAIプログラマーと密に連携を取る必要がありましたが、いちいちEメールを送らなくてもいいように、ひとつの部屋で机の間を行き来しながら仕事を進めました。
 エリザベスの行動原理、感情の動きなどを現実化して、自然な行動を取らせるのはとても大変でしたね。

――声の収録は25日から30日かかったそうですが、モーションキャプチャーはどうでしたか?
ショーン モーションキャプチャーは継続して行なっていたので、何日間というのははっきりしないのですが、15回から20回は行ったと思います。あるシーンの脚本が出来上がるたびに行う感じですね。

――どれぐらいの年齢の女性をイメージしてアニメーションをつけたんですか?
ショーン エリザベスの年齢は10代後半です。子供っぽくもなく、タフな姉御というわけでもなく、現実的なキャラクターで、それをゲームの進行に合わせて成長させていくという感じでしたね。一緒に行動したいと思うようなキャラクター、かといって重荷にならないようなキャラクターを目指しています。
 ですので、スキップするようなシーンはアニメーターとして削りました。12歳とか13歳ぐらいに見えてしまうので。3年ぐらいまえからエリザベスもかなり変わりました。

――大きな鳥型の敵“ソングバード”のアニメーションで大変だった部分は?
ショーン ソングバードのキャラクターで苦労したのは、エリザベスを捕らえている大きな鳥であると同時に、彼女にとっては唯一の外部との接点でもあるということ。監視員であり、世話役でもあるという複雑な関係をなんですね。
 キングコングにちょっと近いかもしれません。怖くて大きいキャラクターなのですが、その中に優しさを表現するのが大変でした。

リードライターとリードアニメーターに聞く『バイオショック インフィニット』インタビュー【バイオショック特集】_02

――敵の“ハンディマン”はデカくて怖いキャラクターですが、冒頭ではコロンビアの街で製品として紹介されているシーンもありました。あそこでは、カメラのフラッシュに驚いて手で遮ったりする動作がかわいかったりもします。敵じゃない形でも出てくるキャラクターのアニメーションは大変だったのでは?

ショーン あのシーンに気付いてもらえたのはうれしいですね。そう、彼は大きくて力持ちなんですが、強い光に弱いという性質があるんですよ。それをそれとなく示すシーンなわけです……。
 さて、ハンディマンも同様に、ただ怖いのと同時にどこか人間味もあるというコンビネーションこそが、魅力あるキャラクターにしていると思います。
 彼の場合はフランケンシュタインをイメージしてください。怖いのは怖いんだけど、彼にも人生があったんじゃないか、家族がいたんじゃないかと思わせるようなキャラクターです。動きの中に人間味のあるところを入れると、慈悲の心も湧いてきます。その複雑な感じがキャラクターへの印象を強めるのだと考えています。

――本作は日本では4月25日に発売されます。最後にファンにメッセージを。
ショーン 我々Irrational Gamesでは、魅力ある物語を届けるということ、さまざまな可能性を秘めた冒険の場を作り出すことを目指して開発してきました。非常に豊かな空間を作りましたので、その中でどう冒険をするのか、ぜひ楽しんで貰いたいと思います。
 『バイオショック』と『バイオショック インフィニット』は、異なった時代を描いたゲームですが、同じ哲学に基いて構築されているゲームです。『バイオショック』を楽しめた人なら絶対に楽しめますし、もし遊んでいなくてもちゃんと楽しめるゲームになっていますよ。