ついに最終回!
角川ゲームスより発売中のPS Vita向け完全新作ダンジョンRPG『デモンゲイズ』。ダンジョンRPGの制作に定評のあるエクスペリエンスが開発しており、ファンタジーの世界を舞台に、異質の半機械生命体 “デモン” を操る力を持つ“デモンゲイザー”となって迷宮を攻略していく作品だ。そんな『デモンゲイズ』を題材にしたショートノベルを、ダンジョンRPGに縁の深い作家のベニー松山氏がファミ通.comにて連載。今回は、最終回(第四回)「帰還」をお届けする。
デモンゲイズショートノベル最終回「帰還」
「それがフラン(◆)の選択か……」
エルフのウィザード・ガニュメデスは、竜姫亭の別館として利用されているグリモダール郊外の屋敷の一室で寂しそうに呟いた。そしてベッドの上に置かれたトランク大の箱とコイル状の線で繋がった筒を取り上げる。それは竜姫亭の広間に設置されているものとは異なる形式の念話機(◆)だった。
「俺だ。竜のお姫様はどうやらやる気らしい」
エルフ族の凄腕エージェントであり、これまでも世界の均衡を保つために数々のミッションを遂行してきたガニュメデスは念話機の向こうの同志にそう言った。「あぁ、解ってる。最悪の事態に備えてアサシン隊を向かわせてくれ。ラ・ヨダソウ・スティ――
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「ナニコレ? ますますヒドい、どんどん厨二病に!」
K野はメールで送られてきた原稿を反射的に削除しそうになった。こめかみで血管が激しく脈打っている。もう少し血圧が上がったら管が弾けて、綺麗な鮮血のアーチが描かれるだろう。
携帯を海に投げ込んだあの日以降、K野は一切会社に行っていない。最初の数日は出社を促すメールが日に何件も届いていたが、ここ一週間ほどは音沙汰がない。もはや社に籍があるのかどうかすら定かでない状況で、久しぶりに受け取った新着メールを開いたところが作家Bからのデモンゲイズ・ショートノベルの最新話原稿だったのだ。
どうしてまだ俺に送りつけてくるのか。もう勘弁して欲しいと思った。そもそもこいつが締め切り寸前に送りつけてくるデタラメな原稿のせいで、俺は、俺は……。
そこにもう一通メールが届く。会社から、ではない。またしてもBから、さらに次の原稿が……。
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ドワーフのファイター・アイガイオンは、眼帯の下に隠された右眼に疼きを覚える。
彼は生来、右と左の瞳の色が違う。一族からは不吉と忌み嫌われ、流浪の旅先でも不審の目で見られ、いつしかアイガイオンはドワーフには特異な色を宿した右眼を覆い隠すようになった。隻眼を装い、漂泊の賞金稼ぎとして生きてきた。奇妙な瞳は、自分にはもはや無いものと考えて生きてきた。竜姫亭に流れ着き、デモンゲイザーのパーティメンバーとなるあの日までは――。
魔眼の近くにいる影響か、あるいは邪眼の使い手ランスローナ・ベオウルフ(◆)を襲ったあの悲劇がきっかけとなったのか、アイガイオンは自分の右眼に異様な力の高まりを感じるようになった。邪眼能力の発現――今ならばデモンを、己の瞳力(どうりょく)で押さえつけることさえ――
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「オッドアイはもう要らないだろ! キャラ被るだろ! それどころか主人公まで厨二病っぽく見えるだろうがあアアッ!!」
K野の視界の端で鮮血のアーチが噴き上がる。同時に、彼の中でぶっつりと何かが切れた。さらに視界のもう一方の端で、パソコンのモニター上にフォローしているBのさえずりが表示される。
“原稿送ったので綺麗どころと宴会なう”
声にならない叫びを上げながら、Bの位置情報を確認してK野は家を飛び出した。
どこをどう走って、電車に乗ったのかもタクシーを使ったのかも、頭に赤い靄(もや)がかかって記憶にない。気づけばK野は、Bが乱痴気騒ぎを繰り広げているはずの料亭の入り口に立っていた。手には、途中どこかの工事現場から引っ掴んできたらしき大ハンマーが握られている。
――どうして、こんなことになったんだ。
K野は土足で店に乗り込み、目の前を塞ぐふすまを次々と開けて座敷を突き進む。舞い踊る芸妓たちが、K野の剣幕に吹き散らされるように左右に分かれて逃げていく。奥の間には上へと続く階段があった。数段とばしで駆け上りながら、K野は後悔とともに思い返す。
――一体誰が、あんな奴に大事な宣伝プロジェクトを任せようなんて言ったんだ。そのおかげで俺は、ずっとこの身を捧げてきた仕事を失う羽目になって……。
二階のふすまは開け放たれていた。奥行きのある大きな座敷があり、その一番奥の上座にBが座っている。傍らに侍(はべ)る芸者に酒を注がれた盃を口に運び、笑みを浮かべてK野を眺めている。
驚いた様子も、怯えた様子もない態度に、K野の感情は沸騰した。誰のせいでこんな目に遭ったと思っているのか。ハンマーを振り上げた姿勢で、K野は大座敷に躍り込む。俺の、俺の、俺の人生が滅茶苦茶に、貴様が、貴様がふざけたノベルを書いたせいで、俺は俺は俺は――。
「B――ッ!!!!!」
座敷を駆け抜けた勢いのまま、嘲り笑うBの脳天に大ハンマーが振り下ろされる――その瞬間、K野の脳裏は連続して湧き出す疑問符に埋め尽くされた。
――俺はいつからこの仕事をしてたんだ? 俺に家庭はあったか? 俺はどんなふうに青春を過ごした? 俺はどこで生まれたっけ? 俺は、俺は俺は俺は……。
「俺は……誰だ?」
ハンマーはBの頭上すれすれで止まっている。停止した時間の中で、そのつぶやきが波紋となって広がった。
「ようやくそこに思い至ってくれたか。まったく難儀をしたわ」
Bに酌をしていた芸者が顔を上げる。よく見ると純白のその装束は、着物ではなく神子(みこ)のそれだった。
「Kはわらわを示すもの、11番目を表す記号じゃ。そしてわらわの司る“奇跡”の頭文字」
見覚えのある神子はK野を指さした。「Kを取り去ればそなたの名はなんとなる? 野、NOとなろう。ならば目覚めよ。左へと回れ」
神子の指先が導くように左へと倒れる。さっきまでK野だったものが、それに倣(なら)う。
NOが、左回転する。
O
Z
OZに。
「ここは砂時計が倒された世界。本来のわらわはまだ正気に戻っておらぬが、一度そなたの瞳に捕らえられた記憶を、精霊神様の力の一部が時空を超えて呼び覚ました。このままそなたが狂気に取り込まれぬよう、Kの一文字を貸し与えてこの世界に合わせた別の人格を形成したのじゃ」
記憶が蘇る。ならば、自分をここまで導いたBは、Bとは――。
「そう、ベオウルフさ」
ハンマーの向こうで、その女性は愉快そうに言った。「本当に世話の焼ける奴だよ。おちおちあの世でくつろいでもいられない。こんな助け船は、今度こそ最後だぞ?」
遠くで鐘の音が幽かに響く。それは名を呼ばわる声のようにも聞こえた。
「さあ、おまえが終末の鐘を打ち鳴らすんだ。皆が、待っているぞ――」
時が動き出す。途端にハンマーは打ちつけられ、そこから空間に蜘蛛の巣状の罅(ひび)が疾る。偽りの世界の終焉を告げる鐘声が鳴り渡り、それまで見えていた風景は砕けたステンドグラスとなって降り注ぐ。
光の乱舞の中、蒼い魔眼は確かに捉えた。微笑んで消えていくあの女性(ひと)の面影を。
ランスローナを――。
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デモンゲイザーが、闇の大天使の凝視が引き起こす重度の混乱――エリクサーも治療魔法ヘルスキュア(◆)も通用しない狂気(インセイン)から回復した時、そこはグリモダール城の屋上・ソルの玉座(◆)であった。
大天使ソルを前に魔眼の使い手を欠き、崩壊しかけた戦況を、仲間たちがぎりぎりのところで持ちこたえている。
パラディンのネメシスは、その全身を真のレジェンドシリーズ・シュバリエの具足一式で固め、前列にただひとり立ってソルの猛攻をすべて受け止め、捌いていた。
ヒーラーのテュケーは、その内側に本当に宿していた、失われた精霊神の力を使って第十一のデモン・エリス(◆)をソルゲイズ(◆)が構築する偽りの精神世界に送り込んだ。
ウィザードのガニュメデスが呼び寄せていたエルフ族のアサシン部隊が、クロスフィックス(◆)を乱発してソルが次々召喚するデモンの影たちの行動を封じ込めていた。
そして、ファイターのアイガイオンは、眼帯を捨てて初めて露わにした邪眼の能力で、果てしのない狂気に陥っていたデモンゲイザーの暴走を抑えていたのだった。
その奇跡的な膠着が、もうものの数秒で崩れる――闇の大天使がもたらす絶望が世界を覆い始めるその寸前に、魔眼の使い手は精神世界の奥底から帰還を果たした。
すでにデモンゲイザーには補助魔法――攻撃力と防御力を格段に高めるエンチャント(◆)が施されている。その能力上昇を反映させ、デモンは満を持して主の召喚に応える。チェインソーを振り回し、荒ぶる竜人(◆)が待ちくたびれたといった風情で実体化する。
ほどなく、暗黒の太陽は沈むだろう。それぞれが特異なドラマを抱えた、畏るべきデモンゲイザー一行の手によって。
ソルへの弔鐘が、ミスリッドの呪いを浄化する波となって広がっていく。
今度こそ、永遠に――。
宿酒場「竜姫亭」のうら若き女主人。荒くれ者集う竜姫亭を切り盛りしながら、人知れぬ使命を全うしようとしている。しっかり者で怒ると恐い。育ちの良いお嬢様らしく、どこか世間とズレしている。特殊な能力を持つ主人公の事を高く買っている。
遠く離れた場所と話せる魔法の電話。
引退した元ナンバー1賞金稼ぎ。主人公に似た「邪眼」の持ち主でもある。何かと主人公を気に掛け面倒を見てくれる。粗野な物言いだが、竜姫亭の皆に頼りにされている良き先輩。ただし料理は苦手らしい。
闇の大天使の瞳が引き起こす特殊な力。
味方一人の戦闘不能以外の状態を治癒する回復魔法(ヒーラー専用魔法)。
発動ターンと次ターンの間、敵の動きを封じる。
この地方都市の領主(城主)と、その近親の貴族が住んだグリモダールの最上階にあったと伝えられる王宮。賞金稼ぎたちが、三至宝と称して追い求める最強の宝は、この宮殿の深部に眠っていると噂される。
運命の力を司るデモン。その所在は不明。
炎に包まれる城下を徘徊する、竜人の姿をしたデモン。街を火の海にした張本人で、非常に好戦的な性格。賞金稼ぎたちを相手に日夜戦いを楽しんでいる。仲間になると、主に攻撃に特化した能力を発揮する。
太陽の力を司る全能のデモン。ある時を境に闇へと堕ち魔王への道を突き進む悲しき宿命の申し子である。
デモンゲイズ
メーカー | 角川ゲームス |
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対応機種 | PSVPlayStation Vita |
発売日 | 2013年1月24日発売予定 |
価格 | 6090円[税込] |
ジャンル | RPG / ダンジョン |
備考 | PS Store ダウンロード版は5040円[税込]、開発:エクスペリエンス |