物語の舞台背景
2013年2月、3月にかけて全4巻が発売される小説『武装中学生 バスケットアーミー』。その発売を記念して、対談企画を実施。同作の著者・野島一成氏と、ゲームデザイナーであり、近年は作家として精力的に活動をする芝村裕吏氏の対談を掲載。今回は後編。
※前編は→こちら
『武装中学生』の世界設定や原作ノベルを手掛けるシナリオライター・作家。有限会社ステラヴィスタ代表。『ファイナルファンタジー』シリーズのシナリオなどで知られ、『武装中学生』では、2026年の日本を舞台とした物語で新たな作風を確立した。
フリーのゲームデザイナー・作家。アルファ・システムにて『高機動幻想ガンパレード・
マーチ』を制作。著書に『マージナル・オペレーション』など。2025年の日本を想定した世界での内戦を描くPCブラウザゲーム、『ガン・ブラッド・デイズ』のシナリオや小説版も手掛けるなど、精力的に活動中。
芝村 世界背景的にもっと“どん底に落ちかけている時の話”になるのかなって思っていたんですけど、『武装中学生』では、日本がちょっと上向きかけた時の話になっているのはどうしてですか?
野島 上向きというより、なんとか形を変えながら維持しているっていう感じです。この先の15年を考えた時に、今と同じく問題は山積みだけれども、かといって急激に落ちるイメージもありませんでした。あとは、未来ってテクノロジーとかあんまりそっちの方向での急激な変化もないんじゃないかという気がしたんですね。
芝村 なるほど。オレが読んだ感じだと、閉塞感が薄れているように感じたんですね。新しい道が見えかけている、どっちかっていうと希望的に見えたんですね。
野島 なるほど。
芝村 普通、お話作りの方法としては、“追い詰められて子供が銃を手に取らなければならない”っていうのはわかるんですけど、『武装中学生』では、“希望が見えているのに子供が銃を持つ”っていうのがすごく面白かったんです。これを思いついた奴はどんな薬をキメながら作ったんだって(笑)。タイトルの組み合わせの妙といい、野島さんは何を考えて作ったんだろうって聞きたかったんです。どんな工夫をしたらこうなったんだろうって。
野島 政治、経済、国際関係など、様々な資料を集めてもらったり、自分でも集めて、勉強しながら世界を構築していきました。結果、中学生が銃を持つような世界になったからこそ、なんとなくうまくいっている、みたいな感じです。日本全体が今よりもさらに貧乏になっちゃって、外資がたくさん入っちゃって、でもそれはそれでうまくいっている。今の日本の“もうちょっと低くなっちゃった版”ですね。そこに貧困ビジネスというか、国民の不安を解消するために郷土防衛隊みたいなもの――自治防衛隊(※注1)ができて、雇用不安も解消されて、みたいなノリですね。物語の世界でも、それらの政策を支える財源の裏付けはないのですが(笑)。
芝村 知り合いの日本大好きアメリカ人が『武装中学生』を読んで、「これは今のアメリカを描いているのか?」って言われたのが面白かったですよ。
野島 なるほど(笑)。
芝村 アメリカって日本以上の格差社会になっていて、低所得者層の人たちは大学に行くぐらいなら、いつも定員割れしている軍隊に入るっていう選択肢もあるんですよね。アメリカの事情を知らないので「そうなのかあ」って感じでした。
野島 物語の背景世界として、少子高齢化社会など様々な問題を抱える今の状況を脱却するために政府がとった政策が、移民の受け入れであるとしています。目的は、労働人口の充実、内需拡大がありますが、一方で格差を意図的に作って国民の不満を政府から逸らすという背景ですね。
芝村 言い方を変えると、日本のアメリカ化が進んで、っていう感じですか。そういうところがすごく面白いですね。
野島 『ガン・ブラッド・デイズ』の背景世界である分裂した三つ巴の日本(※注2)も、たとえ銃を撃つような状況でなくとも、リアリティーが感じられました。
芝村 アメリカみたいに外に敵を作るのもどうなんだとは思うんですけど(笑)、内側に敵を作るのに「一部の勢力が悪い」っていう話の持って行き方もどうなんだろうって思うんですよ。最後に待っているのが分裂ですから。日本には分裂が似合うのか、それとも移民を受け入れみたいな膨張が似合うのか。移民の有り無しでオレはいつも悩むんですよ。『武装中学生』は、日本の政府が成長するための覚悟として、移民政策を積極的に推し進めるという方向に転がっていきましたよね。
野島 始めの頃はこんなに外国人が出てくる予定じゃなかったんですけどね(笑)。
芝村 日本だけど多国籍感があって、「これが未来だよ」と言われたら納得できますけどね。
野島 事情はどうあれ、わざわざよその国に来て住んでいる人たちって不思議じゃないですか。多分、発想が自由なんだろうなって気はします。たとえ、大変な思いをしていても、自由なんだろうなって。それをちょっと書きたいっていうのがありました。
芝村 あー、確かに“日本で咲く異郷の花”っていうのは見てみたい気もしますよね。思想や人種の違いをどう乗り越えていくのか、あるいは日本という国、および日本人が変わっていくのかなとか、お話の中で先取りして見てみたいですね。
政治と経済とおっさん
野島 正直、『武装中学生』を始めるまで、世の中のことを漠然としか考えていなかったんですよ。
芝村 でも経済のこととか、よく書いてますよね。
野島 銃の説明に比べたら、すごく多いですよね。
芝村 そこらへんを頑張っているから、未来の日本で中学生に武器を持たせている学校があるっていうリアリティーが出ているのかなっていう気はします。
野島 そこを自然に受け入れてほしいんです。だから、めんどくさい説明のところを頑張って読んでほしいんです(笑)。読んでいただくと、その後に出てくるいろんな事象がすっと入って来るんじゃないかなって思うんですね。
芝村 後の伏線になっていたりしますからね。
野島 政治とか経済の背景をなるべくリアリティのあるものにしたいと思って、それなりに15年後とかを予想しているんですけど、最近は早いペースでドンドンいろんなことが現実に起こっちゃって(笑)。
芝村 そうですねえ、10年前よりも未来が読みづらいですよね。例えば2002年に想像した2012年って、もちろん震災とかは想像していませんでしたが、大体予想の範囲内に収まっている気はするんですけど、2022年とか2025年とかはわからないです(笑)。そういう意味では面白い時代ですよね。
野島 確実に言えるのは、僕の住宅ローンはまだ残っているんだなってことです。
芝村 ちゃんと落としてきましたね(笑)。
野島 そのローンを自分がちゃんと払えているのかどうかは、全く想像がつかないんです(笑)。今、政策的に何かをやったとしても、効果が出るのは何年か先じゃないですか。ローンを払う身としては、その何年か先に金利だけ上がって、収入が変わらないとか減るとかいう状況になると……って、何を生々しい話をしてるんだろう(笑)。『武装中学生』を始めるまで、こんなことを全く考えていなかったんですよ。
芝村 自分の作品に影響を受けたわけですね。
野島 そうです。『武装中学生』には僕が「これ何なんだろう、わかんないな、どうなんだろう」っていうのを、わからないまま入れているんです。どっちが良いとか悪いとか、きっと答えなんかないんでしょうけど。
芝村 そうですね、答えがあったらあんなテイストにはならないし、スッキリしすぎているのも読んでいて物足りない感じになるでしょうね。適切な言い方かわからないですけど、シェアワールドってある程度ゴチャゴチャしていた方が住み良い世界になるなんじゃないかなって思います。『武装中学生』の世界で、おっさんがただ経済状況を説明しているだけの話があってもいいんじゃないかなって思いますよ(笑)。『武装中学生外伝』なんてやりたい放題ですね。
野島 確かに面白いかどうかは別として、いじりようは本当にたくさんあると思うんですよね。
芝村 是非、『武装中学生』というタイトルだけど、武装中学生以外が出てくる作品を作ってほしいですね。逆にいうと、そこらへんが少しもったいないのかなとも思います。女性ファンがもっとついてもよさそうなものですよね、おっさんブームだし、カッコイイおっさんがいっぱい出てくるんだから(笑)。
野島 でも、おっさんだから最後に妥協しちゃうんですよ(笑)。守るべきものが多すぎるから、折り合いをつけようとして貫けない。とくに作品に登場するおっさんは、妥協しながら、一方で思慮が浅いというか、社会常識から外れている。僕自身も、最初に働いた時からずっとゲーム業界なんですよ。当時は礼儀作法に厳しくない業界だったじゃないですか。そんな感じで育ってきたから、世の中のきちんとしたことにあんまり触れずにきたんです。例えば、会社員や公務員の人たちが長く働いたり、出世したりするためにしなくちゃならないようなことを、知識としては知っているけど体験としては知らないままできちゃっている。そういう負い目があるんです。そしていつの間にか、一国の大臣とか外国の首相が年下になっちゃっている。
芝村 そうですね! 確かに。
野島 例えば、テレビで謝罪会見をしている社長。もちろん年下です。そんな年下社長が、社会的に大人的な正しい言葉で謝罪しているのをすごいなって思いながら見ているんです。いや、結局謝っているんですけどね(笑)。でも、もしかしたら、僕みたいにちゃんとしないまま大人になっちゃった人って多いのかなと。
芝村 我々を含めてね(笑)。いろんな人が読みながら耳が痛いと思っているかもしれません。
野島 世の中全体の“中学生的な幼さ”みたいなものもテーマとして書きたいというか、正しい大人を書けって言われても、書けないんですよね。本当に頭がいい人と正しい人は何もしないと思ってますから(笑)。
芝村 中国では、二千年お前から「最も正しい人はどこにいるんだ?」、「竹林の中にいる」って言われていましたから。この世の真理ですよね。
野島 孔子や孟子の言葉が今でも有効であるというのがすごいですよね。
芝村 そうですね、我々の進歩のなさたるやもうちょっと嘆いてもいいですよね(笑)。
物語の展開とその結末
芝村 『武装中学生』にしても『ガン・ブラッド・デイズ』にしても、世界背景の構築方法に技術的な発明がひとつあるんですよね。技術革新がひとつあって、今の枠組みみたいなものがあって、子供たちがいるっていう作りになっているんですよね。それで『武装中学生』はみんなの想定しているラインを遥かに超えて、よくぞ打ち上がったなと感動的ですらあるんですけど。
野島 実感がない(笑)。何をやってしまったんだろうって。
芝村 これは素直に褒め言葉として受け取ってもらいたいんですけど(笑)。このテイストって今までなかったんですよ。ここ最近、オレは近未来モノばかり書いているので、似たような作風の作家さんとかの作品に触れる機会が多いんですけど、その中で『武装中学生』は飛び抜けて違う感じがして面白い。マイブームですね。これからどう展開してどうオチをつけるのか、すごく楽しみにしているんです。構想はあったりするんですか?
野島 普通の終わり方だと思いますよ。伝えたいテーマっていうことでいうと、説明がちょっと難しいですが。
芝村 登場人物たちが成長とかしちゃうんですか?
野島 んー、3日分ぐらいですよね(笑)。
芝村 ですよね(笑)。
野島 何か人生が変わっちゃうとか、そういうことではないと思うんですよね。「テーマは何か?」となると困ったなあ。
芝村 中学生たらんとするところの信念のなさとか、『武装中学生』である限りはこの感じは続いて、活かしたいテイストなのかなという気がします。じゃあこのお話の最後は、図式として中学生が中学生じゃなくなるのかなと思いながら見ているんですけどね。ここまで近未来のバトルものが大好きな人たちの予想をいい意味でことごとく裏切り続けていますけど、これは狙って外しているんですか? それとも考えていなくてやっちゃったんですか?
野島 いやいやいや、そこはさすがに狙ってますよ(笑)。テーマっていうのとはちょっと違うんだけど、僕が書きたかったのは『武装中学生』という現象、事象、事件なんです。それを見ている社会全体がまずあって、その真ん中にいる主人公たち、みたいのがあったんです。主人公たちの周りで社会がどう動くか、そして社会がどう成長するのかっていうのがありました。ただ、その視点を高いところから掲げちゃったから大変なんです(笑)。
芝村 読者はすごくドキドキしていると思いますよ。このテイストというか、リリカルな感じは壊れてほしくないなって思います。
野島 武装中学生ではあるんだけど、発生する戦いって仲間内の口喧嘩だったりするので(笑)。そのテイストで最後まではいけないかなって思っているんですよね。銃は使わなきゃならないから使うだけであって、本当に戦っているものは違う。
芝村 おー、それは『武装中学生』の基本テーマですよね。
野島 武装中学生といいつつ、どうやって銃を撃たないで切り抜けるかばかり考えているんですね(笑)。
芝村 オレは逆にそこが面白いと思うんですよ。銃を撃つだけだったらトリガーハッピーじゃないですか。銃というのが選択のひとつにあって、それもベストの選択ではないっていうのが『武装中学生』の面白いところですよね。それって「武器のプロっぽい」って感じます。
野島 「武器の扱いに慣れているとはいえ中学生だろう」っていうのがあるわけですよ、戦争状態じゃないので。本人たちも銃をあまり使わない前提で動くんです。なぜかというと、銃を撃ったら犯罪だから。中学生だから将来のことも考えちゃうし、親のことも考えちゃう。そういうのもあって、「撃たない」、「撃たない」、「撃たない」って選択で進んでいくんだけど、最後だけ戦争なんです。その戦争状態の中で銃をどうするんだっていう話ですね。それを『武装中学生』らしく、ちょっとだけ積極的に(笑)。
芝村 おお(笑)。
野島 でも、基本はこれまでのトーンと同じく。
芝村 ある意味『武装中学生』らしく終わらせるのが最大の難関事業だと思うんですけど(笑)。
野島 絶対にブワーッと銃をぶっ放す終わり方にはならない。
芝村 そうですね、『セーラー服と機関銃』じゃないですけど、そういうカタルシスにならない着地点でいくんだろうなーって。
野島 それでいて、最後に「ああ良かったな」って思わせたいっていうのがあるんですよ(笑)。でも……難しいです。特に、僕はずっとゲームのシナリオだったので、アクションシーンは他に書く人とかムービーを作る人がいたんですね。そういうのをたくさん書いている人に比べたらうまく書けないだろうなっていうのがあって、そういうのじゃない方向へシフトさせた結果、すごく難しいものに手を出してしまったなっていうのは常に抱えていますね(笑)。
芝村 宮本武蔵にしてもいろんな剣豪にしても、刀を使う前に、使うべきかどうかを考えろっていう、ある意味“戦いの極意”みたいのがあるんですよ。そういう知識があった上で『武装中学生』を読むと、「武器を使うのが良いのか悪いのか」からスタートしているので、「ああ、カッコイイ」って感じるんです。この子たちは生まれながらにして極意を体得しているなって。銃を使うのが前提にあるのとは違う面白さ、武器を持つことの重さがあるので、このテイストは是非最後まで活かしつつ頑張ってほしいです。超難しそうですけど(笑)。
野島 笑いながらプレッシャーをかけないでください(笑)。
芝村 いや! 違いますよ(笑)。お話を最後まで読んだら、おっさんたちが成長していたっていうオレの魂にくる展開になってたりするんですかね(笑)。「子供たちが悲惨な境遇にならないようにするために、大人が頑張らないといけないな」、「え、マジで!?」みたいな(笑)。まだまだ先は長いでしょうから、すごく楽しみにしていますけど。
野島 「子供たちをこんな目に遭わせちゃいけないな」って思うんだけど、おっさんは結局、元の場所に帰っていくんですよ。
芝村 そうですよね、おっさんはループしてこそおっさんですから(笑)。
野島 おっさんは成長しないけど、満足しますね、多分(笑)。
芝村 いやあ、そういう意味ではどんな変化があるのか楽しみです。
(2012年12月13日収録)
(※注1)自治防衛隊
(※注2)三つ巴の日本
『ガン・ブラッド・デイズ』の背景世界では、3つの勢力――オルトロス、日本解放戦線、セイバーが存在する。
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武装中学生 バスケットアーミー ストーリーイントロダクション
2026年8月、富士演習場――
名取トウコが所属する
私立東都防衛学院中等部三年二組は、
担当教官である神谷指導のもと、
夏季総合演習の最中にあった。
その過酷な訓練も、いよいよ最終日。
トウコたちを労う神谷は、
「最新兵器研究」と題した“課外授業”を提案する。
そして……事件は起こる。
何者かによる突然の襲撃。
響き渡る銃声、怒号、断末魔、
血の海に崩れ落ちる――。
前代未聞の事件をきっかけに
世間から「武装中学生」と揶揄される
15歳の少年少女たち。
そんな少年少女たちの未来を奪い去ろうと、
襲撃者たちの影が忍び寄る……。