描きたかったのは、中学生よりも『武装中学生』という事件・事象

 2013年2月、3月にかけて全4巻が発売される小説『武装中学生 バスケットアーミー』。その発売を記念して、対談企画をお届け。同作の著者・野島一成氏と、ゲームデザイナーであり、近年は作家として精力的に活動をする芝村裕吏氏の対談を掲載する。

『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_02
『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_03
PROFILE:野島 一成(のじま かずしげ) ※文中は野島
『武装中学生』の世界設定や原作ノベルを手掛けるシナリオライター・作家。有限会社ステラヴィスタ代表。『ファイナルファンタジー』シリーズのシナリオなどで知られ、『武装中学生』では、2026年の日本を舞台とした物語で新たな作風を確立した。
PROFILE:芝村 裕吏(しばむら ゆうり) ※文中は芝村
フリーのゲームデザイナー・作家。アルファ・システムにて『高機動幻想ガンパレード・マーチ』を制作。著書に『マージナル・オペレーション』など。2025年の日本を想定した世界での内戦を描くPCブラウザゲーム、『ガン・ブラッド・デイズ』のシナリオや小説版も手掛けるなど、精力的に活動中。

芝村 ご無沙汰しております。最後にお会いしたのは、『デルトラクエスト』(※注1)以来ですね。

野島 ご無沙汰しております。対談はいつも不安なんですが、今日は芝村さんが相手でよかったです。

芝村 最初に『武装中学生』を知ったきっかけは、仲の良い編集長に勧められたからなんです。でもその時は、書いているのが野島さんだって知らずに読んでいたんですね。ただ、文章を読んでいて「あれ、オレこのテキストを知っているぞ」とは感じてはいたんですけど……。結局、野島さんだと気づいたのはだいぶ後になってからでした。

野島 僕、そんなに分かりやすいテキストを書いていましたか?

芝村 野島さんは、作風がはっきりしている派閥だと思っています。

野島 『武装中学生』はいろいろ工夫したつもりなんですけど(笑)。

芝村 もちろん、児童文学であったりハードボイルドであったりと、スクウェア在籍時からいろんな芸を持っていらっしゃいますよね。それで、『武装中学生』が野島さんだと知って、もう一回読み直しました。

野島 ありがとうございます。知り合いモードで読んでいただけるといいですね(笑)。

芝村 オレの周りだと、『武装中学生』を読んでいる層って、若い人が多いんですよ。リアル中学生から高校生が多くて、おじさんはあまり読んでいなかった。中学生というのが罪深い響きらしくて、おじさんたちは手を出さないっぽいですよ。少女はアリらしいんです。謎です(笑)。

野島 『武装中学生』というタイトルが決まってからは、そこからは離れたくないっていう感じでしたね。これまで、主人公が中学生だということを意識して書いたことがほとんどなかったので。

芝村 対談と言いながら、今日は本当にいろいろ話を訊いてみたいんです。今、オレの中で『武装中学生』が流行りなので(笑)。まず、タイトルですが、これは野島さんが考えたのですか?

野島 武器を持った中学生たちが主人公ということで、シンプルに『武装中学生』というタイトルが思い浮かびました。これは、主人公たちを指す言葉というより、事件・事象を表す言葉としてです。編集担当の方は、この言葉に難色を示していましたが。

芝村 他の編集部で話をしていたときに、「このタイトルは怒られなかったのかな」って話していたんですよ(笑)。言われてみたら怒られるワードの組み合わせだろうって気はします。

野島 考えたこともなかったですね。

芝村 けれども、その言葉の響きとかが読んでいる人たちに心地いいのかなって。

野島 そうなんですね。

芝村 でも、『武装中学生』の物語を楽しめるのって中年なんじゃないのってずっと思っているんです。オレが面白かったからなんですけど。むしろ中学生がこれを読んで面白いのかなって思っちゃいます。

野島 『武装中学生』といいつつ、内容はおっさんたちの話ですからね(笑)。

芝村 無駄に厚いおっさんバリエーション!

野島 (笑)。

芝村 これは特に世の女性たちに説いてみたい(笑)。中学生の機微とか、殺す、殺さないというシリアスな判断も面白いんですけど、敵役や中学生から遠くかけ離れたところの大人たちの会話がオモシロイ。

野島 そこ、力が入るんですよね。

芝村 あ、力を入れていたんですね。右から左へ流すように面白いのを書いているのかと思ってました。

野島 いやいや。ただ、中学生って僕にとっては想像上の生き物なんです。

芝村 想像上の生き物って、ユニコーンみたいなやつですか(笑)。

野島 近いかも(笑)。リアリティとか関係なく書けるんです。だけど、おっさんだと「こんなことしないだろうな」って考えちゃう。

芝村 そっちの方がリアリティがあるわけですね。

野島 中学生なら「こういうことするかも」、「こういうこと言うかも」って、想像で書けてしまう。実際の中学生がそれをどう思うかはわからないんですけど。あとは、なるべく大人からの目線――上から目線にならないように、気をつけて書いています。

芝村 たしかに、まったく説教臭くはないですね。おっさん側の話が個人的に面白くて。オレがおっさんだからってのもあるんですけど。

「噛み合わない」登場人物たち

野島 『武装中学生』は登場人物たち、特に中学生の会話があんまり噛み合ってないなぁ、と自認しています(笑)。

芝村 でもあれってリアルな会話だと思うんですよ。話している当人同士も、会話がつながっていかなくても気にしない。その場の空気で話題がころころ変わっていく。しかも、会話が転がっていく速度も速いから、こんな感じなんだろうなって思いながら読んでいます。

野島 僕の子供が小学4年生なんですけど、友達と4人で集まると、全員で会話できないんですよ。ふたりずつに別れたりとか、誰かひとり外れたりとか、4人でひとつの話題を長く続けられないんです。

芝村 大人でもできない人はいっぱいいますからね(笑)。

野島 『武装中学生』は8人いますからね……。実際、作中でも口を挟んでこない子はたまたまそのシーンに入っていないだけであって、何か別なことを考えついて行動を起こしているかもしれないし、8人全員が仲が良いわけじゃない。どこを書いて、どこを書かないのかをしっかり見定めないと、延々と会話が続くんです(笑)。

芝村 短編小説コンテストをされていたので、「『武装中学生』のこのシーンでは、この人はこういうことを考えました」というのをそのうち誰かが書いてくれるのを楽しみにしておきます(笑)。

野島 他の人が書いてくれるのは僕も楽しみです。

芝村 ちなみに、コンテストへの応募作はどうなんですか? 二次創作者にとって『武装中学生』を題材にした作品って鬼門だと思うんですけど(笑)。難易度が超高いと思いますよ。

野島 最初は不安だったのですが、応募作を読んだら「たゆたう」感じの会話とかたくさんあって、「そう、これ! この締まりのない会話がいいよね!」という共感を覚えました。

芝村 「たゆたう」っていうのはいい表現ですね(笑)。好きだからうまく真似て書いてはくると思うんですけど、プロが意図して書こうとしているこの感じを出せるのかなって。あえて世の中のジャンルから外して狭い着地点にある『武装中学生』を、果たして目指していいのかと。

野島 トレンドから外れすぎましたかね(笑)。

芝村 ストライクゾーンには入っていると思いますよ。ただ、とにかくキレのありすぎるカーブで(笑)。

野島 僕は多分、ゲーム業界に入ってから、「武装中学生」のサブタイトルになっている「バスケットアーミー」的なものを作ってきたと思うんですよ。だけど、今回は「武装中学生」をやりたかったんです。(※注2)

芝村 なるほど、そこに信念が(笑)。

野島 登場人物のイラストや設定も、例えばヒロイックなキャラクターが活躍する作品みたいに「コイツはこういう奴です」という感じにはしていない。

芝村 強いて言うなら頼りない(笑)。

野島 そう、みんな頼りない……「この子たち、大丈夫なのかな?」っていう印象を持たれるような(笑)。キャラクタービジネス的なところじゃないもので何かしたかったんです。例えば、名取トウコという主人公級の女子中学生がいて、彼女は白い手袋とタイツを身に着けています。これまでなら、純真さと高潔さを表現するために、それらのアイテム――白タイツなどをキャラクターに身に着けさせていた。でも、作中では、流行りやファッションに疎いというトウコの「ダサさ」の象徴として描いている。同級生にも、「白いタイツってなんだよ。ダサいよな」などと言われる始末。それらの会話こそ、中学生たちのリアルな人間関係があると思っていますが……一方でイラストを描いてくださっている方には申し訳なくて。

芝村 そこは気にしなくてもいいんじゃないでしょうか。イラストレーターさんもそこを読んで傷ついたりしませんよ。是非この場を借りて「大丈夫ですよ、違いますよ」って言っておいては(笑)。

野島 気にしちゃうんですよね。あと、この場を借りて言わなくちゃならないのが、「キャラクターが考えていることは僕の個人的な思想とは関係ない」っていうことですね(笑)。

芝村 それは大丈夫ですよ、トウコちゃんの仲の良い人が野島さんだとは、オレも思いながら読んでませんから(笑)。

野島 それは昔から誤解されやすいんですよ。例えばかっこいいキャラが、ファンの思っているイメージと違うことを言ったりすると、それは僕が考えていることになっちゃうんですよ。主人公が「女は家で働いてろ」って言ったとすると、それは主人公の言葉ではなく、僕の言葉になっちゃうんです。「野島がそう思っているんだろ」って。『武装中学生』はそういうのに満ち溢れているんですよ(笑)。

芝村 それがあるから群像劇って成立するんですけどね(笑)。8人いて、8人がバラバラなことを言ういるから、一緒に動いている時のドキドキ感があったり、面白さがあったりするんですよね。

野島 バラバラすぎて、結論が出ないまんま動き続けるという(笑)。

芝村 あとは、いつも仲の良い人たちの間で話が進むんですけど、たまに変な組み合わせで会話があったりして、それが面白さですよね。キャラクターの組み合わせの妙が楽しめます。

野島 そういう楽しみ方をしてくださるとうれしいです。ちなみに、芝村さんが執筆されている『ガン・ブラッド・デイズ』(※注3)だと桜子(※注4)ってキャラ、すごいですよね。すごいところに手を出したなって思いました(笑)。

芝村 あれも怒られるかどうかのギリギリの線で、「何かの時には戦いましょう」っていう覚悟で出したキャラです(笑)。

野島 読み物でああいう感じで出てきたキャラクターを初めて見ました。桜子の対応とか物言いを作品中で評価しているじゃないですか。

芝村 上流階級なら上流階級なりの美学や考えがあって、リーダーに立たねばならない人とか、生まれつき帝王学を教育されたらこんな感じなのかなーというキャラですね。

野島 イーヴァ(※注5)視点での描写も興味深かったです。

芝村 あれはアメリカ人だからあんなずけずけと書けるんです(笑)。

野島 あの表現と描写には脱帽しました。

芝村 ありがとうございます(笑)。

野島 「こういう視点から見せる手もあるのか、なるほど」と思いました。

芝村 アメリカへ旅した時に“アメリカ人が書いた日本の本”っていうのをいろいろ読んだんですが、とんでもないものばっかりなんですよ(笑)。いつかちゃんと英語を勉強して、本当の日本はこうだよというのを書いてみたいですね。

野島 イーヴァのキャラに慣れるまで、読んでいる感じが「東方見聞録」みたいですよね。ちょっと勘違いを含んでいたりして。

芝村 まさにそんな感じです。アメリカ人の常識で書かれているので。ヤード・ポンド法で書かれてますし(笑)。

野島 あと面白かったのが、入院している時にしつこく医療費にこだわり続けるところです(笑)。

芝村 『ER 緊急救命室』を見ていても、アメリカ人は必ずそんなことを言うんですよね。そこらへんの差はちゃんと書きたかったんです。“日本の変なところ”だけでなく、“アメリカの変なところ”も書きたかったんですよ。

野島 アメリカ人の変な感じがデフォルメされて出ていて面白かったなあ。彼女(エヴァ)が出会う日本人も明らかに今の人たちとは違うんだけど、僕はそっちに感情移入しちゃったから。あとは、井坂ナミ(※注6)の描写も興味深かったです。トウコとは年も変わらないけれども、まるで正反対。戦うことも撃つことも殺すことも生活の一部になっている──まさに、芝村さんが創造した世界と社会、そして状況にあるからこその人物でした。

芝村 そうですね、そこらへんは一体化しちゃって、分けることが難しい社会です。

『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_04

子どもが銃を持つということ

芝村 『武装中学生』では、銃の持ち方のイメージがそんなに暗くなりすぎていないですよね。もっと絶望的な状況で子供が銃を取らなければならない、みたいなやつとは違うので。オレも次に何かやるときにもっと明るく書こうって、すごく勉強になりました(笑)。

野島 芝村さんの書かれている『ガン・ブラッド・デイズ』でも、子供たちは銃を持ちながらも、決して暗く描かれているわけではないですよね。

芝村 オレはソマリアとかにしばらくいたことがあるんですけど、そこの少年兵たちが底抜けに明るいんですよね。「あ、なるほど、幸せの定義が違うんだな」と。「幸せってセンスなんだな」と。幸せに感じるかどうかが幸せの条件であって、物があるからとか、学校へ行っているからとか、銃を持たなくていいから幸せではないなと感じたんです。それでオレ的なリアルを書こうと思ったら、アフリカで会った人たちとか、アフガニスタンで会った少年兵たちとかがオレにとってのリアルだったんですね。らしく書こうと思ったらあんな感じになっただけなんです(笑)。彼らは本当に深く考えているわけではなくて、銃を生活のツールとして割り切って使っているし、そこに何の感傷もないんですよね。

野島 芝村さんが思い描いている2025年は、今と大きく変わっていますよね。これはどのようなビジョンで描かれたのでしょうか?

芝村 『武装中学生』とは全然違って、少年少女が銃を持たなければならないというのはよほど悲惨な状況だろうという前提です。そんな悲惨な状況を短期間で作るにはどうしたらいいのかと考えたら、悪い政権があったからじゃないかと。政権があと何回失敗したらあそこまでいくだろうっていう考えです。「行政が悪いんです」と言って人気取りに走った政党が、いざ選ばれたら実は嘘八百でした、という政権になった。その次に過激な政党は選ばれたけど、国内を分断するようなことしかできなくて、そのうちリーダーが暗殺された。暗殺された先に企業とかの息のかかった人たちが出始めた、という世界設定でいっていたので、あれよあれよという間に流された結果、日本が乗っ取られた、みたいな感じで書こうと思っていました。これぐらい悲惨になれば、自由のために銃を持つのにリアリティがあるぐらいのレベルまで落ちるのかなあと思っていました。

野島 そうですね、ただ銃を取るだけじゃなくて、銃を生活の道具のひとつとして持つまでになるには、それぐらいになっていないと。

芝村 でないと、「別に銃を撃たなくていいじゃん」って言われたら終わりですから(笑)。

野島 『武装中学生』の子たちは、「別に銃を持たなくてもいいじゃん」って言われたら、持たなくてもいい環境の子たちですからね。わざわざその学校に入ったから持つことになっているだけで。

芝村 そこがリリカルな部分だと思うんですね。「どうしようかな」っていう気の迷いが出ています。「そうか、子供らしさっていうのが、揺れ動くところが表現の肝なのね」って見ながら勉強するオレです(笑)。

野島 『武装中学生』を書いていて思ったんですけど、子供らしさの特徴って“信念のなさ”ですね。

芝村 おお! いい表現だけど……子供が聞いたら怒るかもしれない(笑)。

野島 でもそれは、ちょっと羨ましかったりもしますよ。今朝言ったことと昼に言ったことが違っていても、そんなに気にならない。

芝村 まあそうですよね、子供は刻一刻と成長していきますから。

野島 周りに影響されるし、空気に影響されるし、雰囲気とかに影響されるし。

芝村 そのせいで『武装中学生』のキャラクターたちが、すごく瑞々しく感じたんですね。

野島 場当たり的な会話で物事が進んでいく感じっていうのをなんとか書けたらいいなって思っているんですけどね。

芝村 「中学生日記」の圧倒的な構築が最初にあるのと全然違って、オレには『武装中学生』の方がリアルに見えたんですよね。

野島 でも、その欠点はですね……長くなるっていうことです(笑)。

芝村 でもぶっちゃけた話、長くなるのは想定して書かれていたんじゃないですか?

野島 途中からあまり怒られなかったので、そのまま書いているんですけど。

芝村 (爆笑)。

野島 会話のシーンがあると、「ここで会話終わり」的な決め台詞で締めたくなるというか、それが王道、常道だと思うんですけど、『武装中学生』にはそれがあんまりないんですね。なだらかに次の場面に移る(笑)。

芝村 そうですね、場面転換的な「レッツゴー」はないですよね。

野島 そもそも登場人物たちが「さあ行こう」、「さあやろう」っていう人たちではないんです。

芝村 テンションが低いですよね(笑)。この“テンションが低いけど高まっている感”は他にない作品の味なので、これを紹介する人は大変ですよ。「気怠くはないんだけど、テンションはそんなに高くない」みたいな(笑)。日本語で表現できない、新しい言葉が必要になりそうです。この感じの説明が超難しい。

野島 ロールプレイングゲームでいうと、村人の会話を集めてきたような感じっていうんですかね。

芝村 あっ、そうですね、主人公が勇者じゃない。この世界には勇者はいないんだっていう。「勇者はいないから頑張ろう」だったらまだオレにも話の筋が見えたんですけど、「勇者がいない、どうしよう」っていう感じが面白かったんですよ。

野島 「よし、行こう」っていう人たちではないから、外からの圧力で「もうここにはいられない」ってなるんですよ。「じゃあ何とかしよう」っていうのがやっぱり逃げることだったりするんですけど(笑)。銃を持っているにもかかわらず、決して立ち向かおうっていうことにはならないかな。

芝村 見ていてつくづく思ったんですけど、ゲーム化することを考えていないのかなって、ついゲーム屋さんの脳でつい見ちゃうんですよ。ゲームライターが到底書けるとは思えない展開(笑)。

野島 それは反動ですよ。ゲームのシナリオって推進力ばっかりじゃないですか。

芝村 そうですね、スクリューがないと動かないですし、ユーザーがどうすればいいのかわからなくなっちゃいますから。

野島 極端な言い方をすると、ゲームのシナリオは全体のストーリーをどうこうっていうより、その瞬間をどうやって先に進んでもらうか、ですからね。

芝村 何十時間も遊んでいるわけだし、いつ電源を入れたかによってその人のテンションが当然違いますからね。にもかかわらず続きを遊んでもらわなければならないわけで、話の展開が押せ押せになっちゃうんですね。

野島 で、そういうものから解放された喜びっていうんですかね(笑)。喜んじゃいけないんですけど。

芝村 でも読み物だからこそできる表現として、それを出したのはすごいですよ。野島さんの新境地というか。すみません、野島さんのゲームのお仕事ばかり見てきたのもあって、これはスゲーっていう(笑)。逆にゲームをすごく遊んでいる人に読んでほしいと思います。

野島 僕はドキドキしているんですけどね(笑)。

芝村 このテンションの低さといい、ずっとケータイでソーシャルゲームをやっているような人たちに読んでもらいたいんですよ。気持ちが動くというか、共感できるんじゃないかなと。ストーリー展開で、ゲームっていろんな可能性があると思うんですけど、表現の仕方がひとつの枷になっている部分もあるじゃないですか。その枷から外れた野島さんが描く物語ってのも見てもらいたいなって思いますね。

野島 そんなに読んでいただいているんですね。

芝村 『武装中学生』は、まだジャンルの言葉ができていないところを攻めている感があって、「スゲー」って思います。ただ、どう紹介したものやら(笑)。『武装中学生』をひとことで言うと、「ひとことで言えません」で終わっちゃうんですよ。

野島 僕は、ひとことで言うと、タイトルから受ける印象とは違います、というところでしょうか。『武装中学生』のタイトルが気になった人には是非手に取っていただきたいんですけど、タイトルとはちょっと違うよくわからない世界が広がっているので、そういうのに触れていただきたいです。えー……確かに一言で説明できないですね。

芝村 そうですね、「よくわからない」というと聞こえが悪いんですけど、混迷の世界を見てほしいですね。

野島 ご推薦ありがとうございます(笑)。

※後編につづく(2013年2月13日公開予定)

(※注1)『デルトラクエスト』
2007年にバンダイナムコゲームスから発売されたニンテンドーDS用ソフト。

(※注2)「武装中学生」と「バスケットアーミー」
作中では、「武装中学生」という言葉は、事件・事象を指す言葉であると同時に、世間が8人の中学生たちを指す際の呼び名でもある。「バスケットアーミー」は、8人の中学生たちが、自らの存在と意志を表明する際に名乗る名前。

(※注3)『ガン・ブラッド・デイズ』
ケイブのPCブラウザゲーム。芝村裕吏氏は、同作のシナリオを手掛けるほか、小説『ガン・ブラッド・デイズ』も執筆する。

(※注4)桜子
『ガン・ブラッド・デイズ』の登場人物。一勢力「日本解放戦線」が擁する「お姫様」。

(※注5)イーヴァ
小説『ガン・ブラッド・デイズ』の主人公。イーヴァ・クロダ。アメリカ人。

(※注6)井坂ナミ
「日本解放戦線」に所属する、15歳の女性兵士。

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『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_05
『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_06

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武装中学生 バスケットアーミー ストーリーイントロダクション

『武装中学生 バスケットアーミー』小説発売記念 特別対談企画 芝村裕吏氏×野島一成氏【前編】_01

2026年8月、富士演習場――
名取トウコが所属する
私立東都防衛学院中等部三年二組は、
担当教官である神谷指導のもと、
夏季総合演習の最中にあった。

その過酷な訓練も、いよいよ最終日。
トウコたちを労う神谷は、
「最新兵器研究」と題した“課外授業”を提案する。

そして……事件は起こる。

何者かによる突然の襲撃。
響き渡る銃声、怒号、断末魔、
血の海に崩れ落ちる――。

前代未聞の事件をきっかけに
世間から「武装中学生」と揶揄される
15歳の少年少女たち。

そんな少年少女たちの未来を奪い去ろうと、
襲撃者たちの影が忍び寄る……。