女子レスラー・レディSを演じるのは本田貴子

クラウドファンディングサイトKickStarterを使った湯浅政明監督の新作「Kick-Heart」を目撃! 主役は鈴木達央に_13
▲会場に詰めかけたファンに挨拶を行う石川光久氏。

 2012年11月10日、東京都立川市のシネマ・ツーで“立川あにきゃん×Production I.G Night”が行われた。

 イベントでは、プロダクションI.Gの25周年を記念して、2012年に公開された「ももへの手紙」、「劇場版 BLOOD-C The Last Dark」、「図書館戦争 革命のつばさ」の3本がオールナイト上映されたほか、その前には、同社代表取締役社長の石川光久氏、声優の鈴木達央、そして「Kick-Heart」の監督である湯浅政明氏、副監督のEunyoung Choi氏、美術担当のAymeric Kevin氏らが登場し、トークも行われた。

 「Kick-Heart」はプロダクションI.Gが海外のクラウドファンディングサイト“KickStarter”を使って一般のアニメファンから制作費を集めた短編映画。ファミ通.comではその背景についてインタビューを掲載しているが、その後10月31日に無事、約20万ドル(1ドル80円換算で約1600万円)の出資でプロジェクト成立している。

 当日はサプライズとして、豪華スタッフにより作られたメルセデス・ベンツ日本のCMとともに「Kick-Heart」もトークイベント中に上映された。「Kick-Heart」は「スタッフが無理に間に合わせた」(石川氏)という制作途中のバージョンだったが、カラフルかつセクシーとしか言いようがない映像マジックを十分に堪能できた。また、海外を意識してかセリフが少なく、リアクションや間を使ったギャグが多かったのだが、女性ファンが多く駆けつけていた会場でもバッチリ笑いを取っていたのが印象的だった。

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▲トークの前半は石川氏と鈴木が当日上映された3本について思い出などを語った。石川氏にムチャぶりにより「金はどうなるんだよ!」、「無能な奴はいっそ喋るな」とセリフを言わされる場面も。

メルセデス・ベンツ日本CM

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▲上映されたのは、2013年年初に発表・発売する新型車種の告知キャンペーン用に作られるアニメの予告編。演出・西久保瑞穂氏、作画・黄瀬和哉氏、音楽・川井憲次氏、キャラクターデザイン・貞本義行氏というスゴいスタッフ陣。12月にはメルセデス・ベンツ日本とプロダクションI.Gがコラボした展示会も行われるとのこと。

「Kick-Heart(キックハート)」

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▲いわゆる“M”なマスクマンMは鈴木達央、いわゆる“S”なレディSは本田貴子が演じる。
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▲上映後に登場したクリエイター陣。右からChoi副監督、湯浅監督、Kevin氏。

 「Kick-Heart」に関するトークも行われ、石川社長は本作の意図をプロダクションI.Gの原点に立ち返るためだと語った。25周年を迎えるにあたり、押井守氏から「(25周年を記念するならパーティーなどをやるのではなく)作品を作るのが一番」と言われたことが発端になったそう。
 もうひとつのキーワードは“下品”。その真意は、現在の放送コードを飛び越えるような無茶苦茶なことをやっていたかつてのアニメ業界の原点としてのもの。一方の湯浅氏は「結構キワモノ的企画」と本作を表現。「キワモノにしては見やすいというのを狙っている」とのこと。

 スタッフも少人数構成で、湯浅氏、Choi氏、Kevin氏に、三原三千夫氏の4人がメイン。ちなみにKevin氏はAnkamaやUbisoftなどゲーム業界に関わっていた経歴を持っているのだが、湯浅氏の作品は高校生の時に「マインドゲーム」で初めて知ったという。この業界でもオリジナルでユニークな監督と働けてうれしいと語っていた。

 ちなみに、非常にアーティスティックな色彩が強い作品だが、石川氏は「商業作品を作っているからには、アートフィルムに行ってはいけないと思う」と主張。本作についても、あくまで楽しめるエンターテインメント作品として捉えているそうだ。

 主演となる鈴木は、本作の収録を「熱量しかないような現場」と振り返った。作品については、全部を説明してしまいがちな最近のエンターテインメント作品にはない、かつて自分がアニメを見ていた時にはたくさんあった、受け手に想像させる“余白”がある作品という印象を語っていた。
 確かに前述したようなギャグも、セリフでは説明されない文脈をきちんと押さえることで自然と理解されるものが多く、記者もこの意見に同意である。
 音楽を個性的なミュージシャンのOORUTAICHI(オオルタイチ)が務めている本作だが、収録も曲を作っているような感覚で、どう演じるかさまざまなディスカッションを行った様子。プロレスシーンで打たれた時にどう呻くかも議論をしていたというのだからおもしろい。

 KickStarterを使った点については、湯浅監督が「日本のアニメーションに投資してくれたと思っているので、プレッシャーは感じていますけど、最後まで応えたい」と詰めの作業への意気込みを語る一方、Kevin氏は世界のどこでもオリジナル作品を作りにくくなっているという状況を踏まえて、日本のアニメーターにはユニークな才能を持っている人が多く、それを発信するためにはこういったクラウドファンディングが今後役立つのではないかとの考えを示した。そして鈴木も、キックスターターを使った初めての世界的なクラウドファンディング作品(ファンド型で資金を集めた例は過去にある)に参加できたことを喜ぶコメントをしていた。

 最後に石川氏は今回の取り組みについて、現在上映中の「009 RE:CYBORG」や当日上映したような商業作品について触れ「こういう作品をひとつひとつ作ること、継続することで、今回の「Kick-Heart」ができたんじゃないかと思いますので、ぜひこれからのI.G作品も含めて、応援して頂きたいと思っています」と語り、トークを締めくくった。

(c) 2012 湯浅政明・Production I.G