いよいよ本日9月20日より幕張メッセで東京ゲームショウ 2012が開幕……という時に掲載する記事が、東京ゲームショウに出展されてないタイトルの話で申し訳ない。ベセスダ・ソフトワークスが10月11日に発売予定の『Dishonored(ディスオナード)』は、残念ながら東京ゲームショウに出展されない。
しかしながら本作は、実に多くの挑戦が含まれた、十分に語るべき要素のある佳作である。サンフランシスコのプレビューイベントに参加し、E3やQuakeConでのデモプレイの様子もお届けしてきたが、今回ベセスダ・ソフトワークスにお邪魔して再度それらのステージをプレイし、その思いを新たにした。
本作はどんなゲームであり、どんなゲームでないのか
本作を簡単に説明すると「超人的な能力を持った仮面の暗殺者となり、数々の暗殺ミッションに挑戦する、一人称視点のステルスアクションゲーム」である。勘のいい洋ゲーマニアなら、これがいかに挑戦的かピンと来るかもしれないが、普通は「なんかいろいろ要素あるんだね」ってなもんだろう。そこでまずは、本作がどんなゲームであってどんなゲームではないかを確認していこう。
1.本作はオープンワールドゲームではない
ベセスダ・ソフトワークスが『エルダースクロールズ』シリーズや『フォールアウト』シリーズといったオープンワールドRPGで有名であることや、暗殺ゲームとして有名な『アサシン クリード』から連想したりして、たまに本作をオープンワールドゲームと勘違いしている人を散見するが、本作はオープンワールドゲームではない。
ミッションが始まるとお目当ての標的がいるエリアからスタートし、目的を遂げて離脱するまでが基本の流れ。目的地に到着してから標的にたどり着くまでにプレイヤーの取れるルートは実に幅広く自由度が高いが、行動可能なエリアは限定されている。
2.本作はステルスゲームである(でも変わった部分もある)
というわけで本作をスチームパンク風のオープンワールドRPGだと思っていた人、残念!(でもそれはそれでカッコイイね) 本作はあくまで“入っちゃいけないところに潜入して、目的を達成するステルスアクションゲーム”であって、洋ゲーで言うなら『ヒットマン』とか『スプリンターセル』に近い。
だが、一般的なステルスゲームとは異なる部分がある。まずひとつは、先に述べたように、本作が完全に一人称視点のゲームであること。一人称視点は一般的にプレイヤーの没入感を高める効果があるが、三人称視点のゲームよりも視界に制限がある。往年のステルスゲーム『Thief』のように一人称視点のステルスゲームがないわけではないが、例えば『デウスエクス』のように三人称視点とミックスさせて、プレイヤーが不便を感じないよう工夫をすることも多い。
本作では、一人称視点で没入感を高めつつ、そのことでプレイヤーを不利にしないように、プレイヤーに超人的な力(超常能力)が与えている。ステルスゲームは隠れて護衛が通り過ぎるのを待ったり、行動パターンを読んで一人ずつこっそり始末したり、基本的に耐えることが多いゲームだ。
本作でもそういった場面は多々登場するが、超常能力のおかげで「耐える」という感覚は薄い。圧倒的な力で敵全員をなぎ倒していくような超攻撃的なスタイルさえ考慮して設計されており、むしろ、いざとなったら数人の護衛程度なら何とかなるだろうという万能感が、より大胆で積極的な行動へとプレイヤーを駆り立てる。
超常能力によるクリエイティブなステルス、クリエイティブなキル
本作は超常能力というスパイスを加えることによって、より没入感が高く、よりクリエイティブなステルスと暗殺が可能な、アグレッシブな攻撃的ステルスとでも言うべき、新たなゲームプレイを実現している。
これは単に戦闘だけのことではない。超常能力は、目的を実現するためにどういう攻略ルートを取るかというプレイの根幹にも影響してくる。
目的に対してどういう物理的ルートを見出し、どう解決するか? 扉や窓、梁、シャンデリアの上。通れる場所はいっぱいある。意外に飛び上がれば行ける場所もある。それだけじゃない。超常能力が可能とするルートもあるのだ。瞬間移動して通れるルート、ネズミになって通れるルート、魚になって通れるルート、人に憑依して通れるルート、時間を止めることで活路が見えてくることもある。公式プロモーション動画のタイトルにもなっているように、どの超常能力を獲得し、どのように使うか、どのガジェットと組み合わせるかといったプレイヤーの想像力によって、暗殺やステルスが変わってくるのだ。
プレイヤーを巻き込んでいくダークな感情の渦
本作では、ダークなストーリーや世界設定も注目すべきポイントだ。本作は、主人公コルヴォが舞台であるダンウォールに帰国するところからスタートする。彼は女王の側近として密命を受け、ネズミが媒介する疫病に苦しむ国を救うために、諸国に救済を嘆願する旅に出ていたのだ。しかし女王に再会したのもつかの間、国の実権を奪わんとする権力者たちの差し向けた暗殺者の襲撃により彼女を殺されてしまうばかりか、その罪をなすりつけられてしまう。裏切りによって女王を失ったコルヴォは、復讐心から仮面の暗殺者となり、プレイヤーは、コルヴォとして腐敗する貴族社会と覗き見ることになるのだ。
ステルスアクションとは本質的に、立ち入ってはいけない場所に場所に立ち入り、覗き見、盗み聴き、秘密を知る行為でもある。プレイヤーはミッションを通じて、いかに民衆から金を巻き上げるかと、今晩の相手しか考えていない退廃した貴族たちの実態を知ることになるだろう。そしてそのすぐそばで貧困と疫病に苦しむ市井の人々のことも。
こうしてプレイヤーはコルヴォの怒りを実感することができるようになる。復讐心、怒り、不信感……基本的に本作は暗い感情のエネルギーの渦によって進んでいく。それだけに、衛兵をあざ笑うかのように倒し、目的を果たした時に特別な達成感が生まれるのだ。
超暗黒都市ダンウォールという世界と、そこに住む不機嫌な人々
そういった感情コントロールに、鬼才ヴィクトル・アントノフが主導したアートチームのコンセプトワークも大きく貢献している。少々長ったらしく、ゲームプレイそのものには関係ないのだが、この世界がいかにアーティスティックに緻密に作られているかを確認するためにご容赦頂きたい。
本作の世界ダンウォールは、スチームパンクとヴィクトリア朝イギリスのイメージに、アントノフ流のエッセンスが散りばめられている。
たとえばこの世界の工業。ヴィクトリア朝イギリスは石炭と蒸気機関が主流の動力だったが、スチームパンク風都市ダンウォールでは、“鯨油”が動力源となっている。もちろんこの世界のクジラではなく、別の巨大生物なのだが、生物から摂れる油がすべてを動かす世界というだけでも十分に不穏だし、その工業製品の数々は、フォルムもどこか不安感を駆り立てるデザインだ。まぁとにかく、ストーリー面だけでなくグラフィック面からも、不安で不穏な、すごい抑圧された世界なのである。
それはこの世界に暮らす人々も同様だ。 庶民にしても、貴族にしても、 誰も彼もがみな神経質そうな顔をしている。そしてコルヴォの標的たちが、あまり健康的な考えの連中ではないのはすでに書いた通り。これで正義の義賊ならばいいのだが、コルヴォを助けてくれた連中も時折妙な依頼をしてくるので「もしかして都合よく利用されているのではないか?」とこっちも不信感にさいなまれてくる。おまけに、そもそもコルヴォに能力を与えた“アウトサイダー”の真意もよくわからない。男コルヴォ、もう信じられるものは王女のエミリーちゃん(E3トレイラーとかに出てくる少女)ぐらいしかいない感じなのだ。
答えはプレイヤーの数だけある
超常能力による攻撃的ステルス、非常に自由で豊かに構築された世界、ダークな感情といった要素が歯車のように相互に作用している本作。仮装パーティーで行われるボイル邸でのミッションは、そのいいサンプルのひとつだ。
コルヴォはこのミッションで、ボイル三姉妹のひとりの殺害を命じられることになる。しかし問題は、それぞれ白・黒・赤の仮面をつけた姉妹のうち、誰が権力者たちを支援しているターゲットなのかわからないのだ。つまりコルヴォは、真のターゲットを特定するために現地で調査も行わなくてはならない……。
QuakeConでこのミッションをプレイした際は魚に憑依して排水溝から侵入したのだが、今回は別の方法を取った。周囲の護衛を警戒しつつ奥に向かい、誰も見ていない隙に塀を乗り越えて、あっさり敷地内に潜入。邸内には入っていないものの、パーティー客がやってくる来賓用の入り口の前に出た。
客は全員仮面をかぶっており、ここまで来てしまえばもうコルヴォのマスクを咎めるものはいない。客とすれ違っても「あら殺人犯のコスプレだなんて怖いわねぇ」なんて感じ。そしてくっだらねぇ夫婦喧嘩をしている貴族の招待状を首尾よく手に入れることに成功し、「お待ちしておりました」と正面から堂々と入場できた。チップの一枚でもくれてやりたい気分だ!
邸内は屋敷の外側とは打って変わって、華やかで豪勢にパーティーが行われている。客たちと会話し、潜入スキルをフル活用してボイル姉妹らの寝室(邸内の2階、進入禁止区域にある)を漁れば、標的が判明するとともに、彼女たちがどういった人物なのかも見えてくる。VIPばかりが揃った豪華なパーティーでプレイヤーは「どうしようもねぇな、コイツら」と思うハズだ。
さて、標的を特定したら、あとは隙を見て「天誅!」と殺害し、ざわめくパーティー会場で大殺戮を行いながら脱走するのもよし、超常能力を駆使してすべてを隠蔽しながら鮮やかに殺害するのもよし。以前お伝えしたように、レディ・ボイルを殺さない方法でもクリアーできる。記者が好むのはこの方法だ。こんな連中、コルヴォの手を汚すまでもない。彼女がどんな扱い・どんな仕打ちを受けようとも知ったことか……。
脱出方法もさまざまだ。コレはすでに公開されている“多彩な脱出方法”で3パターンの方法が紹介されているので、チェックしてみてほしい(ついでに言っておくと、記者の脱出方法は動画にも出ていない方法。誰にも見つからずに最短距離で脱出用ボートへと辿り着ける)。
もしあなたが清廉潔白な正義のヒーローが堂々と活躍するような話が好きなら、本作を積極的におすすめすることはない。非常にアーティスティックな思想で出来ているゲームなので、合わない人は合わないと思う。だが、本記事で紹介した要素や動画などにどこか引っかかるものがあれば、もしかしたら本作が長く記憶に残る一本となるかもしれない。
■筆者紹介 ミル☆吉村
ファミ通.comの洋ゲー脳編集者。たまーに紙の仕事もしたりしなかったり。基本的には、アメリカ各地、カナダ、アイスランド、シンガポール、中国、韓国と、世界中を飛ばされまくる人。本作が一番おもしれぇのは、製品担当の人と話してても「あそこからこう行って……」、「え、そんなルートが?」と、「俺のコルヴォはこう殺った」トークに華が咲くことDeath。今年は帰ってきたデスレースゲー『Carmageddon Reincarnation』にもこっそり注目してます。来年の2月は『デッドスペース3』もあってデスくて最高だぜー。
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