アートとストーリー、ゲームプレイが高度に融合
アメリカのテキサス州ダラスで、id Softwareのファンイベント“QuakeCon 2012”が開催中。本イベントでは、id Softwareが同じゼニマックス傘下になったということもあって、近年はベセスダ・ソフトワークスも全面的に協力している。
会場やプレス用のデモルームでは、ベセスダ・ソフトワークスの『Dishonored(ディスオナード)』をプレイすることができたので、その模様をお届けしよう。
QuakeConデモでは、仮装パーティーが行われるBoyle Estateでのミッションが体験できた。目的はリージェント卿の強力な支援者である、レディー・ボイルを始末すること。ただしボイル姉妹は3人おり、誰が真の標的かはわからない……。
このミッションはさまざまな要素が入り組んだいいサンプルになっていた。ユニークなことに、主人公の仮面の暗殺者コルヴォはパーティー会場にいる限り隠れる必要がない。仮装パーティーで誰もが仮面を着けているからだ!
しかし、標的を確定させるためには姉妹の寝室がある2階(パーティー参加者は入ってはならないことを早々に忠告される)を捜索しなくてはいけないし、オプションでいろいろと頼まれごとも引き受けており、それらもクリアーしたいなら戦闘しなきゃいけないし、ある人物を殺さずにパーティー会場から連れ出さなければいけない。
やらなきゃいけないこと、遭遇する状況、どんなアクションやパワーを使って切り抜けるかは、プレイヤーによって大きく異なってくる。
本作は一人称視点のスニーキングアクション。最大の特徴はさまざまな超常能力を使って、常人には不可能な行動を取れることだ。今回のデモではスタート時点で5つの超常能力が強化されており、武器もピストルやグレネードから昏倒効果のあるクロスボウ用の矢まで用意されていて、戦闘一辺倒からステルスまで、思うがままの戦術が取れるようになっていた。
記者がまず使ったのはPossession(憑依能力)だ。屋敷の外は警備兵のTollBoyが警戒しており、そちらから行く方法もあるのだろうが、どうにもめんどくさい。それならせっかく河の上のボートからスタートしたのだから、魚に憑依して河からの侵入を目指した方が早いハズ。そこで魚になって泳いでみると、案の定、地下水路の門にちょうど魚一匹ぶんだけ通れる穴が空いている……。
本作のプレイはそんな具合に進んでいく。ある人はTollboyに憑依するのかもしれないし、もっと別の侵入ルートを見つけるかもしれない。多分Blink(瞬間移動能力)とジャンプ力の強化なんかで乗り越えられる場所もあるだろう。くり返しになってしまうが、本当にプレイヤーによって違った経験ができるようになっている。
“ボーンチャーム”の存在も、プレイヤーの経験に違いを与える要素のひとつだ。ボーンチャームは“マナを使い果たした際に稀に全回復する”といったような“ちょっと嬉しい”程度の効果が得られる追加能力で、ミッションごとにランダムに手に入る中から数個を選んで有効化する。特定のボーンチャームを確実に手に入れる方法はなく、本当のランダム要素となっている。
コレ以上ミッションの詳細は書かないが、記者はミッションを遂行するにあたり、Dark Vision(敵の位置と視界を透視できる能力)を使って護衛を避けながら探索して姉妹の秘密を知り、アクシデント的に巻き込まれた決闘をTime Bend(時間操作能力)で切り抜け、パーティー会場からの拉致をPossession(憑依能力)で標的本人を乗っ取ることで成功させた。
仮装パーティーからひっそりと姿を消した名家の美女、完璧な護衛体制を敷いていたはずなのに昏倒している護衛の山、得意としていたはずの決闘に破れて庭で死んでいる男……舞台となるダンウォール、そこでやましい思いのある者たちは、仮面の男の脅威に震え上がるに違いない……。
プレイヤーはゲーム中で、貧困と疫病にあえぐ一般市民と対照的な、狂気や不信感に満ちた爛れた上流階級の様子を目撃することになる。コルヴォ側についてくれる連中もいるのだが、どいつもこいつも清廉潔白とは言いがたいような連中だ。本作は実にダークかつアーティスティックなタイトルだ。それはヴィクトリア朝をイメージしたスチームパンクテイストのアートワークだけでなく、陰謀と復讐に満ちたストーリーもそうだし、「あいつはいつでも殺れる」と眼下の標的を見下ろしながら感じるゲーム中の妙な高揚感も含めてのこと。暗殺ゲームプレイとアートとストーリーがハイレベルに合体していると言えるだろう。
クリエイティブ・ディレクターのラファエル・コラントニオ氏とハーベイ・スミス氏へのインタビューも行ったので、そちらの模様もお届けする。
――以前ハーベイさんにお話を聞いた時は実際にプレイできなかったので、「あれができる、これができる」と言われてもわかりづらかったのですが、E3と今回プレイして、とても面白かったです。
ハーベイ・スミス(以下、ハーベイ) 確かに、本当に説明しにくいゲームだね。実際にプレイしてミッションをやれば、あれを殺す、殺さない、どのパワーを使うか、屋上へ行くのかビルの脇へ回るのか、スローで行くか早く行くかなど、多様な選択が出来る。そういうコメントをもらうとうれしい。
――超常能力がなんといっても面白いのですが、獲得・強化に必要なルーンは各ミッションにいくつくらいあるのでしょうか?
ハーベイ ミッションによって数は異なる。平均で3~4個だが、1つの場合も4つ以上の場合もある。もちろん、キミが見つけださなきゃ意味がないんだけどね。ルーンの他にボーンチャームがあるが、これは小さい能力で、例えば魚になった時の時間が長くなるとか、上から襲って誰かを殺せばマナが取れるといったものがある。
――これまで映像の中でペンドルトンが死ぬところを何度も見ているんですが。今日はペンドルトンがどうも味方のようだったのでびっくりしました。あれは殺した人とは違うのですか?
ハーベイ 彼らは3人兄弟。上の2人は双子で、一番下はこの2人に苛められたためプレイヤーの味方なんだ。双子は腐敗した議員で標的というわけだ。
――色々な複雑な人間関係や陰謀が出てきそうですね?
ハーベイ イエス。とてもダークだ。
――ストーリーがアーティスティックで映画のように善悪がはっきりしていない?
ハーベイ そうだ。様々なグレーカラーがある。
――開発状況はいかがですか?
ハーベイ 10月9日に北米、10月12日にヨーロッパ{アジア}で発売するが(日本は10月11日)、今は最終段階に入っていて、ワクワクしながらプレイしている。18年ゲーム開発をやってきたが、このゲームと同じくらいに好きなのは『Deux Ex』(2000年に出たオリジナル版)だけだ。プレイする度に何か違うことがプレイヤーに起きる。
――好きなアクションは?
ハーベイ 瞬間移動能力の“Blink”が好きだ。これは当初は必須のパワーではなかったが、ある時点でプレイヤーが必ず手に入れることにして、プレイの基本に据えた。この決定により、ゲームが大きく変わったよ。
――好きな戦略は?
ハーベイ 難易度にはEasy, Medium, Difficult, Very Difficultとあるが、これを最高のVery Difficultにして遊ぶんだ。敵が自分を見つけるまでの時間が短くなり、被ダメージも増える。その状態で誰も殺さずにプレイするのが好きだね。暗殺者になるのは心理的なファンタジーでもある。いるべきでないところにいるという快感、覗き込んでいる快感、これは強力な印象を残す。
――難易度を上げるとAIも変わる?
ハーベイ AIの基本は変わらない。変化するのは、視野が大きくなってプレイヤーを早く見つけるようになること、プレイヤーの受けるダメージが大きくなること、プレイヤーのポーションの効果が薄くなることの3つだね。
――では日本のゲーマーへメッセージを。
ハーベイ 日本のゲーマーはステルスゲームやストーリーゲーム、またホラーが好きだと思うし、このゲームの物語は不当に扱われる主人公の復讐譚となっているので、魅力を感じてもらえると願っている。皆さんがどのように感じてくれるかとても楽しみだ。
――個人的にホリデーシーズンに1本勧めるとしたら本作なんですよ。これからまた映像などは出ますか?
ハーベイ シネマチック・トレーラーとゲームプレイ・トレーラー、そして3つの解決法を選べるYouTubeトレーラーを出してきたが、今後また解決法を選べるものを2つ出す予定だ。
――仮装パーティーで上流階級の腐敗した人間たちを見て、見てはいけないものを見ている高揚感を感じました。そしてこれから殺そうとする人を上から見ていると、またちょっと別の高揚感を感じるんです。こういった心理的な感覚の一致は意図的なことですか?
ラファエル・コラントニオ(以下、ラフ) ああ。子供が禁止されたことをやってワクワクしている時や誰にも知られずに入ってはいけない家へ足を踏み入れた時の気分に似ているな。行きたいけれど捕まりたくない、傷つきやすい気持ちを感じてもらえるだろう。
――色々な感情があって、最初は復讐心、その後はミッションを出されても不信感をぬぐえないところがある。本当のことを言っているのかどうかわからない。ペンドルトンからの手紙を届けたら決闘をする羽目になりました。このようないろいろな感情が入ってくるというのも特徴的ですね。
ラフ そうだ。ゲーム全体の背景に入っている。決闘のケースは、プレイヤーを驚かせたかった。手紙を届けたら何が起きるかわからない。ペンドルトンは怪しい人物だ。
――護衛にアラートを鳴らされてしまい、警戒されてどうにも進めなくなっちゃったことがあるんですが、どうしたらよかったんでしょう?
ラフ どのツールを持っているかによるが、Time Bendで彼らの動きを止めたり、ガードの1人にのり移れば逃げられる。(警戒状態になってずっとガードされていて動けない場合は?)しばらく待っていれば追ってこなくなるので逃げられるよ。
――ボーンチャームはランダムで面白い要素ですが、これを加えた理由は?
ラフ カスタマイズにもう1つの層を加えるためだ。ボーンチャームのよいところはランダムなところ。全部で40個ある。(どのようにランダムになっているのか?)リストには40個あり、強さが強、中、弱とあり、レベルデザイナーが各ミッションに強さを織り交ぜて色々配置した。プレイを通じて合計12個取ることが出来る。
――解決策にもいろいろありますね。これも多様性を出したかった?
ラフ ああ、いくつか選択出来る。レディー・ボイルを生かすと、最後に彼女からギフトがもらえるほか、その時点までに殺した人の数が減るのでハッピーエンドになりやすい。
――プレイすると楽しいゲームですが体験版は?
ラフ リリース前には出さない。その後には出すかもしれないが、決まっていない。
――好きな戦略は?
ラフ ここでは見せていないパワーの“Shadow Kill”を使うのが好きだ。これは、気付かれずに誰かを殺すと消えてしまうというもの。出来るだけ隠れながら殺していけば、消えてしまうので死体を隠す必要もない。見つからない限りはこれで進む。
――では、好きなアクションは?
ラフ ファイト中にガラスの壁などに叩きつけると、とても満足感があって好きだね。
――このゲームで味わえる感情を3つ挙げて欲しい。
ラフ 何かに捕らわれたような傷つきやすい気持ち、困難に立ち向かってサバイバルしたことによってパワーを得た時と逃げられた時の満足感、良さそうな人たちを殺してしまったかもしれないという後悔と良心の呵責。