青春群像劇としてこだわった演出とは
松原達也(右)
科学アドベンチャーシリーズのプロデューサー。発売を迎えたいまも、プロモーションなどで休むことなく多忙な日々を過ごしている。
シナリオ
林 直孝(左)
MAGES.専属のシナリオライター。科学アドベンチャーシリーズの執筆を手掛けるほか、ゲームシナリオ、ドラマCD、ライトノベルなどを執筆。
『ロボティクス・ノーツ』開発者インタビュー(前編)はコチラ
『ロボティクス・ノーツ』開発者インタビュー(中編)はコチラ
――本作は海翔以外の視点になるシーンが多いですね。そこにはどんな意図が?
林 『シュタインズ・ゲート』は岡部の物語なので、プレイヤーと主人公の視点をほぼ統一しましたが、もともと『カオスヘッド』でも視点の移動はやっています。とくに今回は海翔の物語というより、ロボ部みんなの物語であり、なおかつ種子島、東京の物語でもある。どんどんお話が拡張していく、広がりのある群像劇8 なんですね。そうした世界観の広がりを表現する際、映画的な視点移動をして、いろんな人たちが同時に動いているダイナミックな展開を描きたかったんです。
――林さん個人としては、どちらの視点が好みでしょうか。
林 没入感を高めるなら、ひとりの視点で情報量をプレイヤーと主人公とでひとしくしたほうがいいと思います。けれど、視点移動があるほうが多くの情報を不意に出せるので、視聴者を惹きつけやすい。そんなふうにそれぞれのメリットはありますが、僕の中ではどちらが好きというのはないですね。
――淳和やゲジ姉のほかに、企画書から大きく変わったキャラクターはいますか。
林 企画書の段階では、みさ希は存在しませんでした。その後、ポケコンと拡張現実、ロボットをテーマにしたストーリーを考えようとなったときに、"夢"を目指すというテーマが決まりました。そこで、目標として身近だけど遠い場所にいる存在を考えた結果、ヒロインのお姉さんという立ち位置のキャラクターが生まれてきたんです。
――夢という言葉が入ると、途端に爽やかなイメージになりますね。
林 王道の少年マンガのような爽やかさは今回とくに重視しました。まあ、「一見しての爽やかさ」ではあるんですが(苦笑)。あとは種子島で感じた雰囲気も、意識的に表現しています。夢破れた大人たちと、現在進行形で夢を目指している子どもたち。その対比がパッと浮かんだんですね。空港や郷土館のような、廃墟みたいな場所も出てきます。それも実際に見たときに感じた、夢破れた後の郷愁みたいなものを描きたいと思って組み込んだものですね。
――今回はサブキャラクターも多いですね。
松原 ええ。いままでのシリーズよりも、主人公グループ以外の人物が多いんですよ。先ほど林も言いましたが、夢破れた大人たちをしっかり描きたい。そのためにはデザインして画面に出さないといけないよね、ということで増えています。
林 群像劇なので、必然的にキャラクターは増えてしまいますよね。
――あき穂の父親の瀬乃宮健一郎なんかは、夢破れた感が漂っていますね。
林 でも大人たちも心の奥底には厨二病魂が眠っているんです(笑)。その点では、今回のいちばんの厨二病は海翔の父親でしょうね。基本的にはツイぽくらいにしか出てきませんが、毎回ポエムのようなつぶやきをしています。やたらかっこつけて機内アナウンスをするシーンもあって、僕の中では本作でいちばんの厨二病として描きました。
――ではキャラクターを総括する形で、おひとりずつお気に入りのキャラクターを伺えますか。
松原 いまはフラウがいちばん気に入ってます。最初の段階では、あき穂の空回りっぷりとちょっとおバカなところがすごくかわいくて魅力的だと思ったんですが、収録に立ち会ってからは完全にフラウに持っていかれちゃいましたね(笑)。
林 あんなに変態なのに(笑)。僕はあき穂です。やっぱりお話を引っ張っていくキャラクターなので描きやすかったし、あき穂に始まってあき穂に終わるお話にもなっています。主人公のひとりという意識もあるので、思い入れも強いですね。
――あき穂が『ガンバム』のキャラクターを信奉していてマネをするのは、どなたの発想でしょう。
林 あのへんはほぼ僕です。『ガンダム』は好きですし、『パトレイバー』なんかも好きですね。そんな僕の趣味が前面に出ているので、たぶんあき穂の中身は30代のおっさんです。ロボットアニメがあんなに好きな女子高生ってなかなかいないですよね。ですが、1960?70年代から続いてきたロボットアニメという文化は、いまや当たり前のように存在しています。それは、2019年になっても変わらないだろうと。いまの僕らと地続きの未来にいるという一体感を出すために、意図的にロボットアニメのセリフを引用していますね。
――『ガンヴァレル』も後発で作る人がいないという、すごい作品ですね。
林 そこはデフォルメを加えて、極端な描きかたにしています。僕の中では大人が見るようなロボットアニメではなくて、中学生くらいまでの子どもが見るものをイメージしています。逆にそれぐらいの対象年齢じゃないと、全世界レベルでの大ヒットということにはならないと思いますから。『ガンヴァレル』以降はロボットアニメが作られていないというのは不自然だと思うんですよ。その不自然さに注目してもらえれば、逆にしめしめという形になってます。
つぶやきへの返信で分岐していく物語
――今回のルート分岐の仕組みは、これまでとはだいぶ変わった印象です。
林 分岐をどうするかは、僕の中でも苦労した部分です。群像ものを描くのであれば、ふつうの美少女ゲームのように、キャラクターひとりに対するお話が平行していく形は難しい。そう思ったので、結果的に直列な分岐のしかたになっています。
――最初のうちはPHASE05で終わってしまうと思うので、いまのアドベンチャーゲームとしては難しいと感じました。
松原 そこはあえて意図的に難しくしているところがあります。理由のひとつは海翔が君島レポート探しで苦労して、いろいろなことを解明していく流れです。そこで海翔とプレイヤーの気持ちを合わせれば、昔のアドベンチャーゲームのような、試行錯誤の末にやっと進めた喜びを再現できると思って盛り込みました。『シュタインズ・ゲート』もトゥルーエンドに関しては相当難易度が高かったと思いますが、発売日にもうクリアーした方がいました。ネットでの情報の広まりもあるし、今回はツイぽがあるので雰囲気も似ている。目的のキャラに変な答えを返さないようにすればいいので、ツイぽで分岐することに気付けば、そこからは早いかなと思っています。
林 受動的じゃなくて、能動的に探さないと見つからないという部分は戸惑う人がいるかもしれませんね。ふつうは選択肢を選ぶだけですが、このゲームはポケコンを出して、ツイぽを開いて、さらに返信しないといけません。そこはおもしろい部分でもあるので、いろいろ試してほしいですね。
松原 基本的に、日付が変わったタイミングとローディングが入ったタイミングでつぶやきは更新されます。そのタイミングで開いてもらえるとスムーズだと思います。後はデイリーレコードですね。PHASEごとのセーブデータを使うよりも攻略しやすくなるので、活用してみてください。
科学アドベンチャーはさらなる高みへ
――いろいろなお話を伺いましたが、開発全体を振り返ってみてどうでした?
林 思っていたよりも苦労しましたね。
松原 群像劇を描くということが主眼にあったので、ゲームの素材もものすごく多いんですよ。キャラ数もそうなんですけど、イベントCGとか、細かい演出用の素材も含めたら、『シュタインズ・ゲート』の2 ?3倍の素材があります。ですから、単純に物量が多くて進行は苦労が多かったです。
林 ロボット造りに関してはハッタリが効かないというか、基本的に既存の技術を使っていますからほとんどウソがつけない。そうした設定面での苦労がありましたね。きっちり勉強して用語も調べて、なおかつそれをわかりやすい言葉に変換するのは大変でした。ホビーロボットを買ってきて作ったりもしましたが、自分の不器用さにがく然としましたね(笑)。
松原 ビックリしましたね。ネジひとつ締められないんですよ! ネジですよ、ネジ(笑)。
――シナリオや設定面で、原作の志倉さんと衝突した部分はありましたか?
林 たくさんありました。その中でも印象深いのはホビーロボットの扱いで、僕と志倉で考えかたが違いました。僕は2019年は等身大のロボットがふつうにある世界だと思っていて、ホビーロボットにはあまりこだわらなくてもいいかと思ったんです。でも、志倉の構想はホビーロボットの作りかたを巨大ロボットに転用するものだったので、絶対に外せないわけです。僕が最初に書いた第一稿はホビーロボットの大会ではなくて、エグゾスケルトン社のHUGをつけた人が戦う格闘大会でした。HUGが世界規模で普及している設定があったので使ったんですが、やっぱりホビーロボットは外せないということでROBO-ONEになりました。
松原 ホビーロボット大会に決まった後も紆余曲折がありました。初期はお台場から物語が始まってたんですよ。
林 ROBO-ONEからいきなり始まると、舞台がお台場からになってしまうんです。でもまずは種子島の空気をたっぷり見せておくべきだということになって、かなりテキストを追加しました。
――お台場から始まっていたころは、いきなりROBO-ONEで戦ったわけですか?
林 そうです。展開はいまといっしょですが、その前のホビーロボット造りの部分は完全にすっとばしていました。でも完成してみると、種子島の空気感はなかなか味わえるものではないし、島の人たちが主人公であることを強調できている。『ロボティクス・ノーツ』という作品がわかりやすくなったので、よかったと思っています。
――志倉さんは取締役社長でもありますが、おふたりにとってどういう存在ですか?
林 僕の中では濃いオタクの人です(笑)。
松原 僕はあまり上下関係を感じたことがなくて、会社組織ではありますがアットホームなサークルの仲間みたいな感じに思ってます。雑談もよくしますし、呼ばれて行ってみると仕事とまったく関係ないおもしろ動画を見せられたり、新しいガジェットを自慢されたりします(笑)。
――そうした和気藹々とした、いい関係も作品の空気に出ている気がします。では最後に、おひとりずつメッセージを!
林 見た目は爽やかぶっている『ロボティクス・ノーツ』ですが、科学アドベンチャーらしいサスペンスもちゃんとあります。『カオスヘッド』や『シュタインズ・ゲート』をプレイしてくれた方と、今回が初めてという方。どちらにも手にとっていただいて、ぜひ楽しんでもらいたいです。
松原 『ロボティクス・ノーツ』には、これまで以上にシナリオに関係ないお遊び要素をいっぱいちりばめています。ツイぽのタイムラインであったり、居ル夫。のタグ探しであったり、そういうところも拾いながら遊んでもらえるとうれしいですね。ぜひ手にとってプレイしてください!
Xbox 360 8月号
●表紙&特集:『重鉄騎』
Kinect専用タイトルとして発売された『重鉄騎』が表紙&特集!
中盤までの攻略情報はもちろん、本作のコラボレーショントレーラーを制作した、
押井守監督インタビューも掲載。
●特別企画:E3 2012 リポート
6月5~7日にアメリカはロサンゼルスで開催されたゲームショウ"E3"を
ファミ通Xbox 360視点でリポート。
今年もXbox 360タイトルが多数出展されており、それらをひとつでも多く掲載した!
気になるゲームはあるかな?
●総力特集:『ロボティクス・ノーツ』
ついに発売となる科学ADV第3弾、
今回はプロデューサーの松原さん、シナリオの林さんにインタビューを敢行。
ここだけの話をたっぷり聞いてきた。今号を読めば、本作をより深く楽しめるはず!?
●特別付録:Xbox 360版&『モンスターハンター フロンディア オンライン』ファミ通チケット 入手イベントコード
<ガンランス>FMXや<大剣>ディグスソードなど、17種類のオリジナル武具いずれかが生産可能となる、ファミ通チケットの入手イベントコード!
※本イベントコードの入力期間は、2012年6月29日(金)18:00から2012年10月24日(水)定期メンテナンス開始までとなります。
●新作&攻略ゲーム
バイオハザード 6
ロスト プラネット 3
アサシン クリード III
DmC Devil May Cry
ウィッチャー2
DEAD OR ALIVE 5
ゴーストリコン フューチャー ソルジャー
マックスアナーキー
ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ
ラブ☆トレ
マックス・ペイン3
ロリポップチェーンソー
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●連載
Valhalla FREAKS [板垣伴信]
Highスペックマシン;Lowスペックマン [志倉千代丸]
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