より洗練された開発体制が必要とされる大規模HDタイトル

 台湾の台北の台北国際会議センターにて、2012年6月26日と27日の両日開催された“ゲームディベロッパーズ カンファレンス(GDC) in 台北”。その二日目となる27日、スクウェア・エニックスの人気RPG『ファイナルファンタジーXIII』および『ファイナルファンタジーXIII-2』のディレクターを務めた鳥山求氏によるセッションが行われた。なお、鳥山氏がGDCで講演するのは、2010年のアメリカ・サンフランシスコ以来となる。

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 セッション内容は、『FFXIII』から『FFXIII-2』へと進化したゲーム制作手法とアジア言語ローカライズについて。『FF』シリーズは、台湾でも人気のシリーズだけに、本セッションが行われたホールは満員の大盛況となった。

『FFXIII』から『FFXIII-2』へと進化したゲーム制作手法とアジア地域での『FF』シリーズの展開【GDC台北】_02
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▲2010年のGDC同様、自己紹介からスタートした鳥山氏。今回は、自身が大の『男はつらいよ』シリーズのファンであることを述べ、同シリーズに出会ったことが、それがゲーム業界に入るキッカケになったという。

開発体制がなかなか揃わなかった『FFXIII』

 まず鳥山氏は、今年25周年を迎える『FF』シリーズを振り返り、グラフィックの進化に伴い、いかに制作に時間が必要になったかを説明し、実際に『FFXIII』での開発規模を公開。それが下の写真だ。開発のピーク時は最大で200人以上。ビジュアルの要素を大量に必要とする『FF』らしく、最大時でアーティストが180名というのが特徴的だ。また、『FF』シリーズは、ハードの性能を最大まで引き出すため、毎作ごとに社内で開発環境を一から作り直してきたという。そのおかげで、一歩抜きん出た作品作りができる反面、開発環境が整わないと制作がスタートできないジレンマもあったようだ。 

 『FFXIII』に関しては、開発環境が整わない段階から制作を始め、量産体制に入ったパートもあったため、あとからの変更が難しい部分も多々あったという。鳥山氏は『FFXIII』はセールス的にはある程度成功したが、ゲームのデザインや開発の運営という側面ではあまりうまくいかなかったという反省点が残ったと述べた。  

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▲開発当初はプレイステーション2に向けて制作が進んでいた『FFXIII』。途中でプレイステーション3への移行を決め、準備期間を要したため、一度、開発人数を減らしたという(それを表しているのがグラフの中ごろ)。
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▲『FFXIII』の制作に使われた“Crystal Tools”の開発環境画面。
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▲『FFXIII』開発後に挙げられた問題点。『FF』シリーズは大作であるがゆえに、スクウェア・エニックス社内でも機密事項として、オープンにすることが憚れる傾向にあったが、それだと開発中にユーザーテストを行なうことも難しいため、そこも『FFXIII-2』では取り払った。

初公開の資料を交え、開発体制の変化を説明

 『FFXIII』の反省を踏まえ、『FFXIII-2』の開発手法はどう変えたのか。その開発手法の参考にしたのが欧米のAAAタイトルを作っているスタジオのもの。スクウェア・エニックスのグループ会社であるEidosの開発陣とも情報交換をして、『FF』の制作に合う手法でノウハウを取り入れていったという。その手法で効果的だったのは、開発全体のスケジュールを決め、さらに月ごとのマイルストーンを決めて、月単位でスケジュールを管理すること。鳥山氏はこれらの開発手法を“マイルストーン型開発”と呼んでいると語った。
 制作体制に関しても、内部だけの開発にこだわらず、内部スタッフが手掛けるべき内容と、外部に任せてもいい内容を明確に分け、チームの規模自体を小さくして、より強固な開発体制を整えたという。また、ゲームのコンセプトが開発の最後までスタッフに浸透するように、コンセプト映像を作ったり、開発途中のゲームを実際に遊んで参加意識を高めるなどの手法も取り入れた。これらの取り組みと『FFXIII』で整った開発環境があったおかげで、『FFXIII-2』は『FFXIII』の約2年後という短期間で発売に漕ぎ着けることができたというわけだ。
 『FFXIII-2』はダウンロードコンテンツ(DLC)配信に力を入れた初のナンバリングだが、このDLCを盛り込むことは初期段階から決められていたという。本編の制作大詰めはDLC制作は並行して行われた。今後のゲームの未来像には「DLCは外せない要素」(鳥山)なだけに、その制作体制の整備も課題のひとつだろう。 

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▲月単位という区切りで成果を報告させる手法を取ることで、個々の目標や責任が明確になり、締切があることでメリハリのついた開発体制が見込める。 
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▲『FFXIII-2』企画当初のコンセプト映像。映像だと目指す内容が一目瞭然でわかりやすい。ロゴには仮で海外ドラマのように“season2”の文字が。
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▲『FFXIII-2』の企画書の表紙。世界観を象徴する一枚のイメージボードが描かれている。この表紙だけでも1ヵ月はかかっているという。「開発は長期にわたるので、最初のイメージボードがいいものでないと、みんなノッてこないんですよね(笑)。ですので、最初の1枚は時間をかけてでもいいものをリクエストしました」(鳥山)
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▲『FF』はほかのRPGにない要素を絶対にひとつは入れなければならないのだとか。『FFXIII-2』では、世界自体もタイムトラベルをするというパラドクスという概念を盛り込んでいる。
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▲キャラクターの年齢を変える、というのもコンセプトのひとつ。
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▲マクロゲームデザイン、という書類。ゲーム全体設計図のようなもの。各章ごとの内容が細かく記されている。その中には、プレイヤーにどう思わせたいか、というコンセプトを明記する欄があり、似たようなコンセプトの箇所がないかチェックすることもできる。このマクロゲームデザインをしっかり作ることで、ムダのない開発が実現! 

 『FFXIII-2』開発の反省点として鳥山氏は、初期設計の時点での拡張性を持った開発環境の構築や、実施したユーザーテストのフィードバックを効果的に活かす手法、本編と同時にDLCの制作する手法に課題が残ったことなどを報告した。

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▲ユーザーテストも開発の工程に盛り込んだ『FFXIII-2』。上写真左は、それにより処理負荷が把握できるツールで、プレイヤーがどこを歩いて、どこに負荷がかかったが一目瞭然で、背景を作り込む際の参考になるという。
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▲「そろそろ飽きてきたと思うので」と、水着のセラをパワーポイントの背景に使うなど、ユーモアを交えたセッションとなった。

 最後に鳥山氏は、「世界で戦えるタイトルをアジアの開発者といっしょに作っていければいいなという想いを持っています。がんばっていきましょう!」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

周期的にくり返されるあの質問にひとつの答えが!?

 質疑応答では『FFVII』のリメイクがいつ出るのか、という質問も飛び出し会場も湧いた。台湾でも『FFVII』は、やはり特別なソフトのようだ。これに対し鳥山氏は、スクウェア・エニックス 和田洋一社長の株主総会での、“『FFVII』を超える作品が出ない限りは『FFVII』のリメイクは作らない”という趣旨の発言を紹介し、「開発者からすると、(それ以降も名作と言われる作品があるだけに)少し納得いかないところはありますが(笑)」(鳥山)と述べ、聴講者の笑いを誘った。