今後の天野喜孝氏が展開するものの原点になる作品
『科学忍者隊ガッチャマン』や『ヤッターマン』、『ファイナルファンタジー』など、日本のアニメ・ゲーム業界で活躍してきたイラストレーター・クリエイターの天野喜孝氏。天野氏が2012年に生誕60周年を迎えたことを記念するプロジェクトの第1弾として、ビジュアルブック『DEVALOKA』が発売されることが決定している(関連記事は→こちら)。
その『DEVALOKA』の第2次予約が本日2012年6月25日より、エンターブレインのECサイト“エビテン[ebten]”でスタートした。同サイト限定の予約特典として、オリジナルポストカードが用意される。
※“エビテン[ebten]”予約ページは→こちら
■Project第1弾 生誕60周年ビジュアルBOOK『DEVALOKA』概要
特典1:オール新作
特典2:世界初ナノレプリカ
(ナノグラフ:商標登録/「超高性能技術による複製」)
特典3:シリアルナンバー入り
特典4:予約者全員に、描き下ろしポストカード(受注カード)を郵送
発売日:2012年11月10日(土) 発売予定 ※発売日が変更になりました
価格:31500円[税込]
内容:天野喜孝 オール新作画集
<3部構成>
一章 Candy Girl
二章 DEVALOK(十二神将)
三章 DEVA ZAN
ここでは、天野喜孝氏に直撃インタビュー。これまでの60年をふり返ってもらいつつ、ビジュアルブック『DEVALOKA』について、また、これらかの創作活動の抱負などをうかがった。
※画像はイメージです。
自己表現の手段を模索した結果、さまざまなジャンルに挑戦することに
――率直に60年間を振り返って、いかがですか?
天野 誰しも人間というのは、今日という日がいちばん年を取っているわけで、毎日がそのくり返しというわけですから、あまり60歳になったからといって、心境の変化はありませんでしたね(笑)。ただ、30歳、40歳、50歳と節目を迎えたとき、「あれもやってない、これもやってない」と心残り……焦りというかな? そういう感覚があったんです。ですが、60歳を迎えたいま、そういう焦りはなくなりましたね。
――達観した、といったイメージでしょうか。
天野 どうなんでしょう……。生意気なことを言わせてもらうと、いろいろとやりたいことができたから、でしょうかね。
――これまでの活動に充実感を感じてらっしゃる。
天野 いや、それはないんです。私は、アニメーションのキャラクターデザインや本の挿絵、ゲームのイメージビジュアル、演劇や映画などの美術や衣装デザインなど、さまざまなことをやってきました。それだけに、いまも自分の確固たる居場所がない、とも感じていて……。それを探して、ファインアート(コマーシャルアートの商業美術に対して、芸術的な意図のもとに制作されたものとしての美術。絵画・彫刻・建築など)に比重を置いていまも活動している、という感じなんです。
――そういったいろいろなジャンルに挑戦してこられ、作品の中でもイラストや絵画、さらには立体物などさまざまなものに挑戦されていますが、その意欲的な創作活動の源とは何なのでしょう?
天野 もともとそういったことに興味はあったので、「やってみたい」という衝動がまずひとつです。挑戦してみなければわからないこともありますからね。やってみて自分の中で違和感を感じたら、次にやりたいことに挑戦する。また、アニメーションでもテレビゲームでも自己表現のひとつであり、その自己表現の手段が「アニメーションやゲームといったものだけではない、ほかにもあるんじゃないか?」と感じ、結果的にいろいろなジャンルに挑戦することにつながった、ということなんだと思います。
依頼された世界観に“自分にしかない世界”も加えて
――いまお話に出たテレビゲームでは、歴代『ファイナルファンタジー』シリーズのイメージイラストをずっと手掛けてこられているわけですが、いま振り返って『ファイナルファンタジー』シリーズというものをどう捉えてらっしゃいますか?
天野 第1作目の制作当時、私は30代で坂口さん(坂口博信氏)たちは20代だったと思うんですが、それから25年ですよね。いまはシリーズスタート当初の制作スタッフの方は少なくなってしまって25年という時間の流れを実感しますが、それを受け継いた新しい人たちによって、さらに広がりが感じられるシリーズになったと思います。あと、海外で個展を開いたときなど、来場される方やスタッフから「あの『ファイナルファンタジー』のイメージイラストを描かれた方ですか?」と聞かれることも多くて、海外での人気や影響力を感じるシリーズでもありますね。少し前にブラジルに行く機会があったときも、アマゾンの近くに住んでいる人も知っていたり。世界中で知られている作品ですごいなと改めて思いました。
――『ファイナルファンタジー』のイメージイラストを手がける際に心掛けていることはありますか?
天野 ゲームは、と言いますか映画もそうだと思うんですが、制作スタッフの経験や体験をベースに生み出されたアイデアをもとに創造する総合芸術ですよね。私もそこから何かを得るというよりは、ほかから得たインスピレーションをゲームのイラストにぶつけるようにしてきました。
――それはつまり、ゲームの世界観を天野さんの世界観で表現してきた、とも言えますよね。
天野 それが求められていることとも感じますし。とくに技術が進歩して、リアルと区別がつかないグラフィックが表現できる現在こそ、アーティストにはコツコツと築いてきた“自分にしかない世界”の表現が求められていると思います。テレビゲームでも、作り手のイマジネーションをどう表現するかが大切になってくると思います。
『DEVALOKA』は自分のルーツや世界観がすべて詰まった作品
――いまおっしゃった、天野さんの“自分にしかない世界”の形のひとつが、2012年11月10日発売予定の生誕60周年記念ビジュアルブック『DEVALOKA』ということですね?
天野 そうですね。
――天野さんが創造する神話というファンタジーの世界、いわゆる“天野ワールド”がテーマになっているということですが。
天野 世界観を含め、私がゼロから作る作品ですが、私がこれまでやってきたことが詰まった作品でもあります。一章の“Candy Girl”は、何の制約もなく描いたキャラクターで、キャラクターデザインを手掛けた『ヤッターマン』など70年代や、影響を受けたポップアートなど、つまり私のルーツが反映されたものになっています。
――二章の“DEVALOKA(十二神将)”は天野さんが創造した神話の世界がモチーフです。
天野 自分自身が描きたい世界、誰も見たことがないような想像もつかない世界を描きたいと思って、作り上げた世界観が“DEVALOKA”です。DEVALOKAとは、神の世界というような意味で、これはファンタジーの世界がベースにあるので『ファイナルファンタジー』シリーズで描いてきたイラストに近いイメージですね。ただ、西洋的なファンタジーだけではなく、現在やロボットなど未来……SF的な要素も入っています。いろいろなものを踏まえた、ある意味ゴチャゴチャな世界です。
――そういった世界観は、いつごろから構想されていたんですか?
天野 30年くらい前にイラストレーターになったときから、そういったことは考えていました。このパンサー(※いちばん上の写真)の立体物も、かなり初期にラフスケッチで描いたもので、それをもとにした3Dデータから作ったものです。つまり、いまの技術でこうして形にすることができたんです。そういう意味では、技術が発達することで、できることも広がってきて、作品作りにも活かせていますね。
――天野さんの神話ですが、オリエンタルな雰囲気も感じさせるものになっていますよね?
天野 ええ。ヨーロッパには何度も行くんですけど、そこで美術館を訪れると作品のモチーフの多くは、ギリシャ神話だったりキリスト教にもとづいた“西洋の神話”です。そういった西洋の神話の作品には、すでにすばらしいものがたくさんあるわけです。そこをあえて東洋人の私がやらなくてもいいのかなと思いますし、日本にもすばらしい文化がたくさんありますから。そういった日本の文化はいままで無意識のうちに感じていたんですが、少し意識して作品に盛り込んでいます。ただ、ナショナリズムではなく、インターナショナルを感じさせる表現をしているつもりです。
――ヨーロッパを含め、創作のためにいろいろと足を運んでらっしゃるのですか?
天野 そうですね。7月にもパリのアトリエに2週間ほど行くんですけど、同じ2週間でも日本で創作するのとは、また違いますよね。人の顔の作りも違うし、建物も違うし、木も違う。そこにいるだけでもいろいろと刺激を受けます。美術館では、何百年も前の天才が描いた作品が並んでいて、自分も何百年経ってもスゴイと思われる作品を作りたいという意欲が湧いたり。ただ、そこで気付かされるのは、その場で影響されたものではなく、“自分が持ってるもの”……言い換えれば、それまでの経験や蓄積。それがアニメーションやイラストのテイストが入っている自分のファインアートというものにもつながっているんです。
――ビジュアルブック『DEVALOKA』は、天野さんの“自分が持ってるもの”が存分に反映された新たなプロジェクトということですね。このビジュアルブック用に描かれた作品は何点くらいあるのですか?
天野 ほぼ描き下ろしになると思います。あとは、海外の個展などでは出展していた“DEVALOKA”の世界観をもとにした作品なども入る予定です。ですので、いままでの私の作品とは少し違う感覚を持たれる方もいるかもしれませんね。ポップで可愛らしい感じと、怖い感じ、カッコいい感じ……。そういったバラエティー感も楽しんでもらえると思います。
――豪華な仕上がりになるようですが、今回の画集について何かリクエストしたことはあるのですか?
天野 価格は高くなってしまったんですが、中途半端なものではなくて、それだけの価値があるものを作りたいと思っていました。結果的に、それだけの価値がある内容になったかどうかは、ご覧になった方に判断していただきたいのですが、自分としては、いまの自分を出し惜しみなくすべて出し尽くしました。
■すでに原案、キャラクターデザインもある『DEVA ZAN』はゲーム化も可能!?
――渾身の画集だということですね。ちなみに、3章の“DEVA ZAN”ですが、その世界観を映画化する『DEVA ZAN』(→こちら)のほうの進捗状況はいかがです?
天野 諸事情があって、発表会のときとは状況が変わり、現在はハリウッド作品として進行することになっています。ですので、私も総監督ではなくて監修という立場で、私の表現するものをどう料理してくれるか楽しみにしているところです。私の原案を向こうのスタッフがシナリオにどう詰めていくか。それ次第で時間が見えてくると思います。
――なるほど。残念ですが、ハリウッドで進行中ということで、別の期待感も出てきますね。
天野 ただ、(完成まで)最短で5年と言われていますが(笑)。
――うはあ。気長に待ちます(笑)。もし『DEVA ZAN』のゲーム化のお話がきたら、どうなさいますか?
天野 そういうお話があれば、ぜひ。物語の原案はありますし、キャラクターデザインもありますので、あとはバトルなどゲーム的な要素に落とし込んでいただければ(笑)。
――お膳立てはバッチリだと(笑)
天野 映画は時間が決まっているので、私が考えた『DEVA ZAN』の物語の一部しか語れませんが、ゲームではすべて盛り込めるんじゃないかな。「美形を入れよう」とか、楽しんで考えたキャラクターもいますし、スピンオフ作品も作れるくらいです(笑)。
――すでに壮大な物語が構築されているわけですね。ゲームメーカーさんにぜひ手を上げてもらいたい(笑)。では、今後について抱負をうかがえますか?
天野 しばらくは作品を発表したくないですね(笑)。
――えっ!?(笑)
天野 じっくりと篭って作品作りに没頭したい、という意味でね(笑)。いまもそうしつつあるんですが。依頼もいろいろいただくのですが、自分がやりたい作品を作り込む時間も大切かなと。
――なるほど。最後に、今回のビジュアルブックを楽しみにしているファンへ向けてひと言お願いします。
天野 画集というのは、それまで描いてきたものをまとめた形が多いですが、今回のビジュアルブックは新しい作品ばかりを集めた画集で、これから私が展開するものを形にしたつもりです。
――天野さんの今後の作品の原点といえるものになる、と。
天野 はい。そうじゃないと意味がないなとも感じたので。いままでにない天野作品を楽しんでいただければと思います。
――おまけに、ひとつうかがいたいですが、天野先生はニコニコ生放送などで、ライブペインティング(ニコニコ超会議では「超会金をラスボス風に描いてみた」がテーマだった)を披露されることもありますが、もはや巨匠とも言える天野先生が「なぜ出演を!?」と思うのですが(笑)。
天野 私のマネージメントをしてくれている社長が「出ろ」と(笑)。それは、いまおっしゃってくださった“巨匠”と言われたらダメだと。つまり、天狗になったらダメだということなんですね。また、ファインアートの世界では新人というつもりで、「これからもよろしくお願いします」という意味も込めて(笑)、出させていただいています。
――なるほど(笑)。そういったお茶目な側面もあって身近に感じられるからこそ、若いファンも多いのだと思います。これからの創作活動にも期待しています。ありがとうございました。