板垣氏×原田氏対談第3回! 板垣氏から原田氏に独立のススメ!?

板垣伴信×原田勝弘 奇跡の対談(後編)_01

 ファミ通Xbox 360 1月号から3月号にかけて掲載された板垣氏と原田氏の対談の最終回をお届け。いまもなお格闘ゲーム界の最前線で戦い続ける原田氏に、板垣氏が贈った言葉とは? (本対談は、ファミ通Xbox 360 2012年2月号に掲載されたものです)。

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原田 板垣さんが独立してから、もう4年経ちますよね。
板垣 4年か。早いね。
原田 早いんですけど、『Devil's Third』の情報はあまりないですよね。もっとないんですか? ヴァルハラのホームページは充実しているんですけど(笑)。
板垣 端的に言えば、THQというアメリカの会社とやっているんだけど、いい意味で僕が入ったときのテクモ的な感じの会社で、儲けることは儲けるし、けっこうスイングしているんだよね。プロモーションの計画とかもけっこうスイングする。自分でやっているだけなら責任の取りようもあるんだけど、出てくるキャラクターの情報とかも、僕が言っちゃったら、そのままアメリカにも流れちゃったりするじゃない。
原田 パブリッシャーを無視して、勝手に話をするわけにはいかないですもんね。
板垣 そうは言っても、「言いたいことは何でも言っていいよ」って感じでやらせてはくれているんだけどね。でも、なかなかそういうわけにはいかないし。
原田 なるほどね。でも、最初のトレーラーを公開してから、だいぶ経っちゃいましたよね。
板垣 ああ、あれからだいぶ変わっちゃったんだよね。
原田 変わったんですか!?
板垣 だって3年ちょいぐらい作っているからね。『DEAD OR ALIVE』を作っていたときは、もちろん『バーチャ』も『鉄拳』もすごく研究したけど、今回もほかのシューティングを全部研究して、当然入れなきゃいけないところは全部入れて、シューターとしてはほぼ完成した。あとは、アクションやコンバットのほうだね。それと剣のアクション。
原田 剣、好きですよね。剣道やっていたからですか?
板垣 もちろんそれもあるし、『NINJA GAIDEN』を作ったからね。あのゲームって格闘ゲーム的な剣アクションだったでしょ? それと同じような感じで、自分の得意なところは生かそうっていう素直な気持ちで。ファンが期待しているところは応えてあげたいし、そこらへんの要素の有機的な絡み合いのところを作っているところですね。
原田 へえ。ぜんぜん関係ないですけど、スタッフはお酒を飲まずに仕事しているんですか?
板垣 飲んでるなぁ。
原田 そこはわりと自由なんだ(笑)。
板垣 ウチはかなり自由です。和を乱さなければ、ね。
原田 和を重視されているんですか?
板垣 殴り合いになることもたまにあるけどね。でも、どっちが悪いってハッキリするから。殴り合いとかない?
原田 最近はありませんね。でも昔はやっていましたよ。
板垣 だよね。
原田 仕事はいちばんカッときますよね。僕の場合、路上でツバを吐きかけられても怒らないですけど、仕事はムキになっちゃいますよ。メール見ただけでもカーッとくるときがありますね(笑)。
板垣 原田君も、そろそろ独立してもいい年なんじゃないか?
原田 そうくるか(笑)。独立……うーん。
板垣 やっぱりナムコ愛が強いんだ。
原田 いろいろ複雑です。そういう意味では、ヴァルハラはこの時期にあって、すごいことをやってるなと思いますよ。『DOA』にしろ『NINJA GAIDEN』にしろ、あの規模のゲームを作ろうとすると開発の人材的な部分もそうですし、機材資材ってところも大きくて、体力がないとできないじゃないですか。ヴァルハラはそれぐらいの規模で4年もかけている、というのがいまどきすごいなと思うんですよ。仕事ができる人間も揃えて、何年もかけて開発できるのかって考えると不安ですよね。しかも10年ぐらい前ならいざしらず、すごい時期に独立されたなと。いま、いろいろな意味できびしいですよ。
板垣 僕らが社会に出たときが、ちょうどバブルが弾けた後ぐらいでしょ?
原田 全部割り食っている部分ありますよね、僕らの世代(笑)。受験は戦争だったわ、就職は氷河期だったわってみたいな感じで。独立してソーシャルゲームを作りますってわけにはいかないですからね。体質的にも無理ですけど。
板垣 『鉄拳』から原田君がいなくなるわけにはいかないからね。
原田 格闘ゲームに関しては、僕自身がいまだにこだわっているので。板垣さんが言っていた『鉄拳』や『DOA』にとっての『バーチャ』や『ストリートファイター』という存在って、売上の数とかマーケットの広さとかデータで見れば『鉄拳』のほうが大きかったりするんですよね。でもね、つくづく数やデータだけじゃないんだと痛感していますよ……。今回、『ストリートファイター』と組んでいますけど、元祖の力ってやはりすごくて、たとえば12~13歳の子が、僕に『ストリートファイター』や『バーチャ』のことを「お前知ってるか?」と言わんばかりにとうとうと語るんですよ。こんなのって、『鉄拳』や『DOA』では聞いたことがないでしょ。追い求めてもしょうがないと思うんですけど、聞いたら火がついちゃうんですよね。こんなにがんばってきても、それ以上売ってもまだダメなのかって思いますよ。元祖に対するコンプレックスと、勝ちたいって気持ちに支えられている部分は少なからずありますね。
板垣 僕は『鉄拳』を完膚なきまでに叩きのめすには、本当に儲けてナムコの株を全部買い占めて、ソースコードを自分の島に植えて、『鉄拳』の墓にしてやると、みんなに言っていたよ(笑)。それが究極だと。ソースコードを掘り出そうとするやつが出てくると思うけど。それぐらい『鉄拳』にしろ『ストリートファイター』もね、もしかしたら『DOA』もそういう風に見てくれている人もいるかもしれないし、ずっと作り続けて磨き続けているってことはたいへんだけど、大事なことなんですよ。それでファンが育つ。だから今日、原田君から「俺はまだやることがあるんだ」という話を聞いて、「そうだぞ原田!」と言ってくれる人はいっぱいいると思うんだ。
原田 だといいなあ!(笑) この立場を理解できる人って、社内でも少ない気がしてしょうがなくてね。社内では僕は研鑽型ゲームと呼んでいますけど、研鑽していかなきゃいけないタイトルであり、もう一方では会社を支えるっていう使命もあるわけです。でも、人間って慣れてしまうと、その利益を互いに享受しているのに、「あいつ、いつまでこだわってやっているんだ」って言うやつが現れてきたりするんですよね。
板垣 やっぱり、そろそろ独立のタイミングなんじゃないか?
原田 そうきますか(笑)。まぁたぶん、板垣さんもそういうものと戦ってきたはずだし。"ユーザーの要望"と"会社の使命"と、その全部を両立させないといけないわけでしょ?
板垣 いいこと言った。それを"ハッピースリー"って言ってるんだ。わかる?
原田 わかります。
板垣 社員でしょ、ユーザーでしょ、あと売り手。これでハッピースリー。これに株主を加えると4つだね。これを全部幸せにするのは難しいよ。3つを幸せにしたことは何回かあるけど、なかなか揃わないよね。だから僕は独立したんだもん。株は自分らで全部持っているし、どこの資本も入れていない。ふつうはありえないけどね。でも、原田君はチャンスあるんじゃない? 名前も売れているし、信頼もあるし、ファンベースもあるし。
原田 いやいや、そんなことない!(笑)でもたとえばですけど、新しいゲーム会社の名前って何になるんでしょうね。ヴァルハラゲームスみたいな名前は思いつかないので……(笑)。

『鉄拳7』で世界を震撼させて格闘ゲーム界を盛り上げてほしい

原田 このあいだ開発をチラっと見せてもらったんですけど、よくあれだけの人材を最初から揃えているなと思いましたね。人数もけっこういるし、顔見たことある人もいるし。だから余計に、『Devil's Third』がどんなゲームになっているのか、みんな気にしていると思いますよ。
板垣 そうだね。4年間何も売らないで。……まあ、すごいことだね(笑)。
原田 体験版は出さないでほしいですよね。いきなりドーンと出してほしいです。
板垣 ちょろっとしたモノは出すかもしれないよ。いずれにせよ、次世代機の噂も近いからね。その前に400万本くらい売りたいなと。シューターは2000万本近く売れちゃうジャンルですから、それぐらいは売らないとね。
原田 僕らもそれぐらい売ってますから。

――2013年に発売という話を、以前板垣さんがおっしゃっていましたね。
原田 2013年か……。遠いですね。でもとんでもないことになりそうです。
板垣 新ジャンルだもん。3つ目だもん。そうそう、人生でお世話になった人というのはたくさんいるんだけど、お世話になったのか焚きつけられたのかがよくわからない人がひとりいまして。
原田 ほう。
板垣 セガ時代の鈴木裕さんの上司で、開発の統括だった鈴木久司さんという方がいるんですけど、『DOA2』が完成したときに、彼が部下といっしょにテクモブースにきて、「誰だってやればできるんだよ。お前らもやれ」って部下に言っていたんですよ。で、そのあと僕のところにきて、「板垣、がんばったな。MODEL2をお前に貸したときは、じつはできるとは思っていなかった。でもお前もできるようになったじゃないか。お前は一生格闘ゲームを作り続けろ。人間には2種類いて、1個しか作れない奴とたくさん作れる奴だ。お前は格闘ゲームを作れ」と言うわけですよ。僕としては、「なんだこの野郎」って感じですよね(笑)。
原田 確かに、褒められているんだかディスられてるんだか若干わかりませんね(笑)。それ悪意はないと思いますけど、言いかたに問題あると思いますよ(笑)。

――「作り続けてほしいと」いう意味で言ったんだと思いますけどね(笑)。
板垣 だと思いますけど。で、久司さんが『NINJA GAIDEN』のときに、「お前、アクションゲームも作ったか。こうなるとお前は会社の顔だから辞められないよな。しがらみもあるだろうが、テクモに骨を埋めるつもりでがんばれ」って言われて、また「なんだこの野郎」って(笑)。
原田 その人が何か言うたびに事が起きているってことじゃないですか(笑)。なんですかそれは。いやー、やっぱ板垣さんはおもしろいわ。
板垣 僕のまわりがおもしろいんだよ。
原田 板垣さん自身、筋が一本通っていて、いろいろなキャラを持っているんですよね。強面かと思ったら、ヴァルハラのホームページで松本零士さんとの対談を拝見しましたけど、子どもみたいな顔した写真が載っていて、「なんじゃこりゃ!?」って思いましたよ(笑)。この人松本零士さんのことが本当に好きなんだなっていうのがわかる、人間味溢れるインタビューでしたけど、いままでの"板垣キャラ"的にこんなの載せて大丈夫なのかって思いました(笑)。板垣さんはいろいろな側面を持っているから、そういう意味でおもしろいなって思いますよ。
板垣 ありがとう。原田君とはいつかいっしょに仕事できたらいいね。
原田 まあ、それができたらおもしろいでしょうね。
板垣 センスが同心円になっていなくて、でも重なっているところがあるからね。
原田 今後は格闘ゲームを作らないんですか? 降りちゃうんですか?
板垣 降りるときたか(笑)。
原田 格闘ゲームから、ですよ。
板垣 僕の中では、勝負を降りたのかって意味に聞こえたよ(笑)。これは前のラジオ事件に次ぐ、受け止めかたの問題だけどね。読者の皆さんもわかってもらえると思うけど、僕は1回も『鉄拳』のスタッフが悪いなんて言ったことはない。『鉄拳』が気に入らないと言ってきただけであって、原田君もファイティングゲームをずっと作ってきたけど、原田君にとってはまだ戦争が続いているわけだ。今日は戦争相手の国に行って、「お互いあのときは空中戦やったよね」という気持ちで話しているんだよね。
原田 まさに空中戦でしたよね。
板垣 だから今日は、本当に楽しかった。また、僕のファンに格闘ゲームを作ってほしいという人もいるから、いつかは作ろうと思う。でも、いま僕が相手にしているのはシューターなので、二足のわらじを履いて勝てる相手じゃないんだよね。
原田 それは言いかたを変えると、アメリカンデベロッパーが3D格闘ゲームに殴りこんでくるみたいなことですもんね。そりゃ、相当な覚悟がいりますよ。
板垣 『DOA』のころも、『鉄拳』と『バーチャ』に殴りこむような覚悟でやっていたよ。二足のわらじを履いてできるような仕事じゃないので、それが一定の戦果を得た後だろうな。あと、今日原田君を呼んだのはもうひとつ理由があるんだよ。原田君には、とにかく格闘ゲーム界を盛り上げてもらいたい。冗談みたいに独立しないのかって聞いているけど、僕の気持ちとは逆だから。なぜならば、僕は『DOA1』から『4』まで、原田君はもうシリーズ17年目でしょ? 歴史の全部を見ているわけだから、そういう人って地球上にふたりしかいないんだよね。
原田 17年も3D格闘ゲーム界でやってきてる人って、なかなかいませんもんね。
板垣 いないね。しかもケンカばっかりしてな(笑)。楽しかったけどね。そんなこと言われるのはつまらないだろうけど。
原田 正直つまらないですね。
板垣 きれいごとを言おうと思っているわけじゃなくて、『鉄拳』で世界を震わせてほしいね。惰性で『7』を作らずに、すごいブレイクスルーを持ってきてほしい。
原田 おっと! ある意味、いままでの板垣さんからの攻撃のほうがマシでしたね(笑)。板垣さんがそういうこと言ったらハードルが上がるわけですよ。もちろん自分で上げなきゃいけないハードルなんですけど、この人が勝手に上げるので、いま超えなきゃいけないハードルが勝手に上がっちゃった状態ですよ。でも、本当にそうですね。惰性はいけないっていうのはすごくわかります。
板垣 もう一度言うけど、こんなに長くやっているやつはもういないんだよ。だから、原田君が言っている惰性というのは、ほかの人が言っている惰性のレベルよりもぜんぜん違う。「うわ、こうなったか!」と言われるものじゃないと。
原田 『DOA5』はそれを目指しているらしいですけどね。
板垣 いいじゃない。まあ、あれは嫁に出したようなものだから、僕は気にしていないんだけどね。でも、いま気持ちとしては、星一徹みたいなんだよね。格闘ゲームを支えていくために、俺はいまあえて中日ドラゴンズに移籍して飛雄馬の前に立ちはだかる、みたいな(笑)。といっても、酒を飲むだけなんだけどさ(笑)。
原田 3D格闘ゲームは、いまは作っているところも多くないけど、もっと盛り上げたいなと思っていますよ。
板垣 それがいちばん伝えたかったことなんだよ。あと1個だけ、僕がとってきたリングの上での戦略を話そうと思う。聞きたい?
原田 ぜひ聞きたいですね。
板垣 これはメディアに掲載されるから、原田君だけじゃなくて、格闘ゲームに携わる人全員に伝わる話になるわけだけど。僕は、シリーズを作るときに、研鑽するようにしたんだけど、もう1個別の視点を持つようにしたんだ。XY座標を思い浮かべてほしいんだけど、最初は0.0だよね。つぎに落とすときに、センターは0.0に置かない。最初に0.0に置いた爆発の半径が4だったとしよう。で、つぎはあえて2.0くらいに置くんだよ。起爆力が6ぐらい出れば、全部取り込めるよ、と。でも、起爆力は5ぐらいに落ちてしまうわけだ。そうすると、半径が1足りないから、はみ出すところが出てくるじゃない。「俺たちはいままで支持してきたのに、見捨てられたのかよ」っていう思いが生じるリスクがある。それでもそういう風に置いたほうが新しさっていうものを出せるし、全体的に抑える面積が広くなる。さらにつぎは、4.0ぐらいに置いてみる。そうするといろいろなところから怒られる。怒られるんだけど、新しい可能性を模索するためにこそあえて爆心地をずらす。僕はそういう風にやってきたの。そうすると『DOA3』のラスボスみたいにやりすぎてしまうときもあって、「これはアクションゲームの範疇じゃない」ってことで、『NINJA GAIDEN』ができる。『鉄拳』も、8作品も作っているわけでしょ? だからファンの気持ちと、新しいものを作ったときにどういう風に受け止められるかをいつも考えると思うけど、あえてシフトして置いてみる。もしかして、『タッグトーナメント』がその役割を果たしているのかもしれないけど。
原田 じつはそうなんですよ。『タッグトーナメント』は、毎回爆心地をずらしているシリーズなんですよね。
板垣 そこを伝えたかったんだ。シリーズっていうと前作を踏襲したり、前作とはぜんぜん違う方向にいっちゃったりするけど、うまく爆心地をずらしながらやっていってほしいなと思ったわけ。
原田 そこは逆に聞けて安心しました。僕もそう思ったんですけど、なかなかずらすのって勇気がいるんですよね。意図的にずらせたのって、唯一『タッグトーナメント』だけだったんですよ。
板垣 今日、原田君が来る前に、『タッグトーナメント2』を遊んでおこうと思ったんだよ。でも、ずっといい夢を見ていたので……。
原田 それって、寝てたんですよね(笑)。
板垣 睡眠って大事だよ(笑)。
原田 睡眠とかいい夢とかフレキシブルとか、全部いい言いかたをしていますけど、ようは前の晩に酒を飲みすぎたっていう、そういうことですよね?(笑)
板垣 飲みすぎてはいないよ。でも悪い。寝てた(笑)。
原田 ははははは(笑)。