ウメハラ氏の『勝ち続ける意志力』発売記念インタビュー

 世界一長く賞金を稼いでいるプロゲーマー梅原大吾氏の初めての書籍『勝ち続ける意志力』。現在28000部発行を突破した本書の発売を記念して、梅原氏のインタビューを敢行! 『勝ち続ける意志力』には掲載されなかったエピソードも交えて、ウメハラ氏がアツい想いを語る。その内容を全2回に分けてお届けするぞ。

ウメハラ初の書籍『勝ち続ける意志力』発売記念インタビュー!(前編) 本書にはないエピソードも披露_01
梅原大吾氏(ウメハラ)
数々の大規模な格闘ゲーム大会を制してきた世界的に有名なプロゲーマー。その活躍はギネスにも認定されている。

本を出版してのまわりの反響は?

――自身の本を出版するということについて、どのような考えをお持ちでしたか?

ウメハラ 自分としては、偏見の目を持たれなければ読み物として成立するという思いがありました。本を出版すれば、格闘ゲームの世界のことを一般の人に知ってもらうことができるので、出版できたらいいなと。

――本を出版したいという思いは以前からあったんですね。

ウメハラ はい。でも無理だろうなと(笑)。ただ、いまになって振り返ると、本の話が来たタイミングもよかったですね。プロ1年目では早かったと思いますし、ましてや20歳代前半のころだったらひとつのジャンルの成功談で終わったと思いますから。

――タイミング的にもよかったわけですね。新書が売れないこの時期に28000部というヒットを記録していますが、これについてはいかがですか?

ウメハラ 本については専門外のことですが、話題性だけではなく内容がおもしろいということで売れているのであれば、うれしいですね。ゲームの世界では早い段階から認めてもらえていましたが、一般社会からは認められないという期間が長くて、そうした中で溜まっていた欲求が一気に開放された結果なのかなと。

――まわりの方からの反響はどうでした?

ウメハラ 付き合いの長い人にも「あんなこと考えていたんだ」と言われることが多かったですね。

――親しい人にも話していなかった内容なんですね。

ウメハラ すべては話していないですね。あとは、「幼少期のことを、よくこれだけなんでも書いたね」ということは言われました。

――つらい幼少期のエピソードを書くことに抵抗はなかったのですか?

ウメハラ じつは最初は幼少期の話が入っていなかったんですよ。でも、その話がないと「ウメハラはなんでこんなにゲームをやっているんだ?」と違和感を覚えてしまうはずなんです。だから俺が無理やり入れましょうといいました。自分の伝えたいことを書くときに、自分をよく見せようとか、カッコつけようということがあると、そういう部分は読者にバレてしまうと思うんですよ。実際にタレントの方が出版している本を読むと、どこかに自分をスマートに見せたいという部分が見えるものも多いと感じるんです。そうなると、本来の目的である「自分の想いをしっかり読者に伝える」ということが達成できないと思いますし、だからこそ正直に書くようにしました。その結果、重い内容になってしまったので、みんなビックリしたようですね。

――僕も小さいころからゲームばかりしていて、同じような体験をしていたので、幼少期の話を読んだときにぐっと引き込まれました。勉強になったというより共感する部分が多かったです。それが正直な感想でした。

ウメハラ ゲームばかりやって育ってきた人たちは、世間からの風当たりが強いと思うんですよ。でも、本を出すことによって一般の人の目にも触れるのであれば、風当たりの強かった人間の代表として、「ゲームの世界は、本当はこういう世界なんだ」ということをしっかり伝えたかったんです。だから、ゲームをやってきた人に読んでもらって「共感した」と言ってもらえるのはすごくうれしいですね。ゲームに限らず、弱い立場の人は思ってることを口に出せないんですよ。そういう内に秘めた感情を持っているのは「俺だけじゃないだろ」と思っていたので、そこが受けてるのかもしれないですね。

――本を出版して、ご家族の反応はどうでした?

ウメハラ 心の中で考えてたことが改めて文章になると、「これが大吾の考えていたことなんだ」と実感がわいたみたいですね。家族仲はいいほうなのでよく会話はするんですけど、姉に対しての気持ちだとか、父親の振る舞いが焦りになっていたりだとか、そういうことにはぜんぜん気付いてなかったみたいです。

――ウメハラさんは家族と仲がいいみたいですよね。本の中でウメハラさんのお姉さんはすごく要領のいい人と書かれていましたが、そんなにすごい人なんですか?

ウメハラ 姉は争いごとが苦手なやさしい性格なんですけど、本当に要領がいいですね。中学生のころにおもしろいエピソードがあって、俺がテスト勉強のやり方を姉に聞いたことがあるんです。「どういうふうに勉強するの?」と。そうしたら姉に首を傾げられて、「どうってテスト範囲が決まっているんでしょ? じゃあそこを読めばいいだけなんじゃない?」と当たり前のように言われたので、俺は「そっか、もういいや」って(笑)。

――そこを読んでもわからないから聞いてるのに(笑)。

ウメハラ 姉はなんでも器用にこなせちゃうんですよ。勉強だけでなく、歌もうまいし、絵も描けるし、「なんでもできるなぁ」と子どものころは憎たらしく思っていました(笑)

――僕らからするとウメハラさんがそういうタイプなのかと思っていました。

ウメハラ もしかしたら自分がそういうイメージを持たれているかもしれないとは感じていました。でも実際はまったくそんなことはないですよ。身近になんでもできる人がいたから、少しでも手を抜いたら要領のいい連中には勝てないということを早い段階で学びました。逆に「この場は絶対に譲らない」という気持ちで一点に絞って打ち込めば、そういう要領のいい人が相手でも勝てることを学びました。

――そういった経験があったからこそゲームをやり込めたのでしょうか?

ウメハラ そうですね。ゲームをやり込むのは、楽しい半分、それしかないから後がないという気持ちでやっていました。後ろの道がどんどんなくなっていって、立ち止まると橋から落下するというゲームみたいな感覚ですね(笑)。

――小さいころからものすごい覚悟というか意思を持ってゲームをやり込んでいたんですね。

ウメハラ 昔、雑誌のインタビューで答えたことがあるのですが、正月の2日間以外363日ゲーセンに通っていましたからね。

――それだけゲーセンに通っていたのは小学生くらいからですか?

ウメハラ いや、それだけの頻度になったのは中学くらいからですね。ゲームで言うと『ヴァンパイアハンター』くらいかな。

ウメハラ初の書籍『勝ち続ける意志力』発売記念インタビュー!(前編) 本書にはないエピソードも披露_02

ウメハラの小さいころはガキ代将だった!?

――ゲームの話から少し離れますが、小さいころはガキ大将だったと本に書いてありましたが、本当ですか?

ウメハラ ガキ大将でした(笑)。これは剣道や空手に打ち込んでいた経験のある父親譲りだと思いますよ。小さいころは体の大きいほうだったので、ケンカになっても相手が泣いてることが多かったです。

――ケンカが強かったんですね。青森から転校してきたウメハラさんが、クラスになじめなかったというエピソードも本にありましたね。

ウメハラ 言葉がなまっていたからそういうこともありましたね。いまだに覚えているのは、小学2年生のときにサッカーのルールでクラスのリーダーと揉めたことです。転校生でクラスになじめなかった俺を気遣って「みんなウメハラくんと遊びなさい」と先生が言ってくれて、休み時間にクラスメイトとサッカーをやることになったんですよ。校庭にあるうんていをゴール代わりにして遊んだんですけど、そのときにボールがゴールラインをわずかに超えたんです。サッカーのルールならゴールですよね。でも当時の俺のなかではサッカーといえばマンガの『キャプテン翼』だったから、「こんなのゴールじゃない」と言って、クラスのリーダーと揉めたんですよ。

――ゴールネットに思いっきり突き刺さらないとゴールじゃないと?

ウメハラ そうそう(笑)。それが原因でケンカになったんですけど俺が勝ったんですよ。ケンカが強いことがまわりに知れて、それからはいっしょに遊ぶようになりましたね。

――友だちを家に呼んでゲームをやっていたと本にありましたね。友だちたちは外で遊びたくても、ウメハラさんが怖くてゲームで遊んだという(笑)。

ウメハラ そうでしたねぇ。人とやるのがやっぱり楽しかったので。家でファミコンのゲームをやっていましたね。

――小さいころからなにかひとつのことに打ち込む集中力が備わっていたのですか?

ウメハラ ゲームをプレイするときはすごく集中していましたね。本当に時間を忘れて遊んでいました。

――負けず嫌いなところも小さいころから?

ウメハラ 集中力よりも負けず嫌いのほうが生まれつきだと思います。

――それはなぜですか?

ウメハラ 小さいころから人前で泣いたことがないんですよ。まだ覚えているんですけど、5歳のときに水ぼうそうができて病院にいったんです。それでピンセットでひとつずつ水ぼうそうを潰していって……。

――それは痛そう……。

ウメハラ メチャクチャ痛いですよ。小さい子は泣きわめいて押さえつけるのがたいへんらしいのですが、俺は耐えて、ひと言も声を発せずに潰す作業を終えて、「我慢強い子だねぇ」って病院の先生がびっくりしていたというエピソードもありましたね。

――生まれつき我慢強かったんですね。ゲームでも我慢強かったんですか? 

ウメハラ ゲームでも同じように我慢強かったですよ。小学校5年くらいのころに最寄駅のゲーセンで大人と対戦してたんですけど、ぜんぜん勝てないのが悔しくてずっと乱入し続けていましたから。それでおっさんのブランカに30連敗して帰りのバス代まで使ったこともありました。それで「バスで帰れないからお前らも歩けよ」と友だちに歩いて帰るのを付き合わせました(笑)。

――ははは(笑)。

ウメハラ さすがにいまはもう少し計画的に練習していますけど、子どものころはそんな感じでしたね。

――基本的に持っているお金は全部使っていたんですね。

ウメハラ はい。最後にバス代を残すかどうかなんて、5秒くらいしか迷わなかったですね。「これを使うと帰りのバスが……いいや」って(笑)。

――そのころはぜんぜん勝てなかったんですか?

ウメハラ まったく勝てなかったですね。「しつけーから入ってくんな」とヤンキーに怒鳴られることもありました(笑)。

――ウメハラさんにもそういう時期があったんですね。僕は何回もウメハラさんに乱入する側だったからへんな感じがします(笑)。それにしてもヤンキー相手に乱入しまくるとは度胸がありますね。

ウメハラ そうですね。小学5年くらいのとき、近所のプラモ屋においてある『ストII』が流行ってて、そこでいちばんうまかったのが中学生のヤンキーだったんですよ。その人に「すみません、乱入してもいいですか?」と声をかけて何回も乱入していたら、そのヤンキーの取り巻きみたいな人たちから「この人が誰だかわかってんのかよ、いい加減やめとけよ」と。

――誰が相手とか関係ないんですね(笑)。

ウメハラ ゲームがうまければ相手が誰であろうとかまわず対戦しましたね。いま振り返ってみると、「これはダメだ」とわからされたかったんだと思いますよ。ゲームを始めた当初から、「絶対に自分からは諦めない俺が、いちばんになれないことってあるのかな?」という単純な疑問があったんです。もし、それだけやってもダメって思い知らされたら、それはそれで人生にとって大きな勉強になるなと。だからガムシャラにゲームをやり込んで、そしたらいつの間にか負けなくなっていた感じですね。

格闘ゲームはガムシャラにプレイするだけでは上達しない

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――小さいころは相当ゲームをプレイしていたんですね。でも本には、ガムシャラにやり過ぎるのはよくないとも書いてありましたが、それについてはいかがですか?

ウメハラ それは時期によりますね。たとえば、ゲームが発売されて1ヵ月くらいだったらいちばん数をこなしてる人が強いと思います。ただ、2年3年となると、そういうわけにはいかないんですよ。豊泉さんは格闘ゲームをやってきたからわかると思いますけど、格闘ゲームは攻略がある程度出そろったら、ただプレイしているだけじゃ成長できないんですよ。

――本の中でも格闘ゲームはRPGのレベル上げとは違うとおっしゃっていましたね。工夫が必要だと。

ウメハラ はい。時間をかけたからといって結果が出るものではありませんからね。壁に当たったら「考えて、それを試す」しかありません。ただ、単純に作業をこなさなきゃいけない時期は、どんどんプレイするべきですけど。

――テクニックの精度を上げる時期はどんどん時間をかけて、対戦で伸び悩んできたら時間をかけるだけではなく、頭を使って工夫しろということですね。

ウメハラ はい。一定の距離を歩くというものだったら時間をかけて歩いた人の勝ちです。でも格闘ゲームはそうじゃないんですよ。歩いている途中に壁があったら、壁を壊そうだとか、回り込んだりとか、工夫しなくちゃいけない。でも工夫するためには頭の中を整理する時間が必要なんです。

――整理する時間が必要というと?

ウメハラ 俺はプロ1年目のときに毎日10時間以上ゲームをプレイしていたんですけど、画面を見過ぎて目がものすごく疲れたし、肩こりもすごかったんです。実質半年続けただけでそれですから、それを2年、3年続けることは絶対無理。ただプレイするだけならできるかも知れませんが、それでは絶対に内容が頭に入らないと思います。ゲームをプレイしない時間を作り、頭を整理しないと工夫できないんです。それを考えると、1日6時間くらいがちょうどいいんじゃないかと。それくらいなら継続することもできますし。

――それでは1日に費やす時間は6時間がベスト?

ウメハラ もちろん6時間っていうのは僕の場合なので、誰にとっても6時間が適正ということではないです。要は、自分なりに効率よく、かつ継続することのできる限界をしっかり見極めるということが大事なんだと考えています。

――ちなみに、攻略の参考に本を呼んでいると書いてありましたが、ウメハラさんはふだんから本を読まれるんですか?

ウメハラ ふだんはそんなに読んでいないですね。ただ、15、6歳のときに、「勝ってはいるけど自分の成長を感じられていない時期があったんです」。まわりの人間に対して自分のほうが強いというだけで、成長はしていないんじゃないかと思っていた時期ですね。本にも書いたとおり「やった! このゲームでいちばんになった!」というのを目的にしていたわけじゃないので、成長していない自分に不安を覚えたんです。それで成長するためのヒントが欲しくて、メンタル系の本や麻雀,将棋など、ほかのジャンルで成功した人の本を読みました。

――本を読んで参考になったことはありましたか?

ウメハラ ないですね。読んでみて「変わらないな」という印象を受けました。

――変わらないというのは、成功者の考えが自分と同じという意味ですか?

ウメハラ そういうことです。ものすごくためになったことはありませんでしたが、本を読むことで自分の考えが間違っていないことを確認できたのでよかったと思っています。

――本にはメモも取ると書いてありましたが、これは毎日やっていらっしゃるんですか?

ウメハラ はい。何か気になったことをメモするほかに、俺の場合はもうひとつ大事な意味があるんです。それは「発見したことをメモする」こと。今日はこういう成長があったとはっきり書いておくのと、書いていないのでは、継続してプレイすることに対するモチベーションがぜんぜん違うんですよ。日々の発見もなくただ毎日プレイしているだけでは、つらいんです。だからメモを取るようにしました。

――相当量プレイされているウメハラさんでも毎日新しい発見はあるものなんでしょうか?

ウメハラ ありますね。本当に小さいことでいいんですよ。たとえば、この場面ではこの戦法が有効だとか、キャラクターではなくてプレイヤーの癖でもいいし。発見したらしっかりメモを取って、ゲーセンに行って意味があったんだなと確認するんです。

――メモはいつごろから続けているんですか? 昔はやっていませんでしたよね?

ウメハラ メモはプロになってから取り始めました。

――それは、プロになって意識の変化があったから?

ウメハラ ゲームを仕事にしているということは、ゲームをプレイすることが義務になるんですよ。子どものころに自然とやっていたことが義務に。そういう毎日やらなくちゃいけないことで成長を感じられなかったら、精神的にキツいですよね。いままで歩いてきた距離が100キロだとすると、1日10センチしか進まない。でも進んだということを実感できれば、毎日練習することの強いモチベーションになるんです。

――大発見をするためではなくて、わずかでも成長を感じるためのメモなんですね。

目的の差が強さの差につながる

――本の中で、目標と目的は違うと強調していますが、これについて詳しく教えていただけないでしょうか?

ウメハラ これは、よく言われることだと思うんですよ。ここで言ってる目標というのは「大会で勝つだとか、あのプレイヤーに勝つ」ということ。一方の目的は、「なんのためにゲームをプレイするのか?」ということです。目的を持つかどうかによって、モチベーションを保てるかどうかの差が生まれるんです。たとえば、ゲームは、発売されて1年くらいの間はセンスのあるプレイヤーや、長時間やリ込んでいるプレイヤーが勝つんです。でも3年、4年経つと「ゲームをプレイすることによって何を得たいのか」という目的の違いが強さの差につながるんです。

――目標を持っている人は勝ち続けられないのですか?

ウメハラ 目標を持つことの何がいけないかというと、たとえば「大会まではとりあえずがんばろう」とか「あいつに勝とう」といった目標を持ったとします。そうすると、「大会が終わったからもうあまりやらなくてもいいや」とか「あいつが最近プレイしていないみたいだから俺も辞めよう」だとか、自分のモチベーションがまわりの環境に左右されてしまうんです。モチベーションが下がれば、以前は強かったけどいまはたいした取り組みをしていないから弱くなったということが起こりえるんです。

――大会に勝って目標を達成したからプレイ頻度が減ることも考えられますね。

ウメハラ そうなんです。大会で勝つことを目標にしていると、「勝ったからもういいか」と。それに「大会で当たるかもしれないから、あいつと対戦するのは止めておこう」ということをする人もいるんですよ。大会で勝つことが目標だから。それは自由に対戦できないから絶対楽しくないと思うんです。「そうは言っても勝ちたいんだ」という人もいるかもしれませんが、俺から言わせれば「仮に勝ったところで、たいしてあなたの人生は変わりませんよ」ということなんです。たしかに1回優勝したことによって注目されるかもしれない。でもパッと一瞬だけ注目されたあとにモチベーションが下がって、ゲームをプレイする頻度も減り、やがて弱くなる。そうすると、「あいつあのとき勝ったけど、たいしたことねぇじゃん」と言われることになるんですよ。優勝して注目された喜びと同じくらい嫌な気持ちになるはずなんです。そういった、注目されたり、結果が出たあとに必ず反動が来ることを理解していれば、目標に縛られることはなくなると思うんですけどね。

――ウメハラさんも目標を設定してプレイしていた時期があるんですか?

ウメハラ あります。俺も若いころは目標を設定して取り組んでいました。その目標を達成してきたからこういうことが言えるのかもしれません。なかなか言葉では伝えづらいですけど、「大会で勝つ」ではなく、「強くなりたいだとか、このゲームが好きだから」といった理由でゲームを継続してプレイしている人のほうが楽しめると思うし、強くなると思いますよ。

――いろいろなゲームで勝ってきたウメハラさんならではの考えかもしれないですね。

ウメハラ 1度も大会で勝ったことがなかったら、口だけになっちゃいますからね。

――昔からどのゲームもラスボスはウメハラさんでしたもんね(笑)。

ウメハラ ははは(笑)。

――若いころは目標を持ってやっていたとおっしゃっていましたが、誰かに勝ちたいという想いはあったんですか?

ウメハラ いちばん最初は、プラモ屋のヤンキーですよ。そのあとは、最寄のゲーセンのいちばんうまいヤツ。目の前にいる強い人に勝ちたいという程度の小さい目標はつねにあありました。

――そういった目標はいまでもあるんですか?

ウメハラ ありますよ。「最近あいつに対して勝率が悪いからどうしようかな」とかね。まぁでもその程度です。基本的には好きなゲームだからやり込む。だから全国大会が終わっても継続的にプレイしています。

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4連覇のプレッシャー

――全国大会といえば、4連覇のかかった『カプコン VS. SNK2』の公式全国大会では、勝つことを目標にしてやり込んでいたと本に書いてありました。でも、使用キャラクターは最強ではないリュウ、ケン、ゴウキを使っていましたが、勝ちにこだわっていたはずなのになぜですか?

ウメハラ う~ん、あれね。

――あのころは僕もウメハラさんと毎日対戦していたからわかるんですけど、最初は最強キャラクターと言われていたサガットを使っていましたよね? 

ウメハラ うんうん。あれは若かったのかなと。当時は、みんながみんなサガットを使っていたのがどうしても嫌だった。

――使用キャラクターがほかのプレイヤーとかぶるのが嫌だったんですか?

ウメハラ いまならべつに「サガット使いが増えてもその中でいちばんになればいいや」となるんですが、当時は「みんなしてサガット使って気持ちわりーな」と思っていました。それは結局4連覇のプレッシャーから極度の神経質になっていたのが原因だと思うんですよ。いま思うと、あのときは本当に精神的におかしかったなと。

――なるほど。それで選んだのがリュウ、ケン、ゴウキというわけですが、その理由は?

ウメハラ リュウ、ケン、ゴウキというのは「俺はほかのやつらと違うんだ」という意地だったんだと思います。当時はメチャクチャ勝ちたかったんですが「サガットを使ったら気持ち悪りぃ」という思いがあって……でも勝ちたい。「どうしたらいいんだろう」と、かなり悩みましたね。おそらくこの意地の張り方は「子どものころに痛い思いをしても泣かなかったという意地の張り方と似てる気がします」。負けるかもしれない。でも嫌だと。当時はサガットを使って当たり前だったので、使ったところで責められることもなかったと思うんですけど。

――そうですね。「逆にサガットを入れなくて大丈夫?」と思ってましたよ。

ウメハラ いやぁでもあのときは本当にヤバかったですね。当時痩せていた俺が、さらに5キロくらい痩せちゃいましたから。

――本にはうどんしか食べられなかったと書いてありましたよね。

ウメハラ 本当にうどんしか食えなかったんですよ。物を食べると胃に違和感を覚えて……。でも何かしていないと落ち着かなくて……。散々でしたね。それでも「これを乗り越えたらひとつ壁を越えた強さが手に入るんじゃないか」と思いながらがんばったんですが、負けてしまい……。結局半年くらいゲームをやらなくなるほどの精神的ダメージになりましたが(笑)。

――全国大会後、あれだけ毎日通っていたモア(かつて新宿にあったゲームセンター)に来なくなりましたもんね。

ウメハラ 本当に半年くらい行かなかったですね。でもそのときあることに気づいたんですよ。

――ガムシャラになるだけではダメだということですか?

ウメハラ そう。当たり前のことなんだけど「がんばってもダメなことってあるんだな」ということに気づいたんです。逆に言えば「いままで俺は運よく結果を残せたけど、同じくらいがんばっていた人もいたのかもしれないなぁ」と思いました。だからあの大会はいろいろ学ぶことが多かったですね。だからあのがんばりは無駄じゃなかったのかなと。

――4連覇のかかった大会では相当なプレッシャーを感じていたと思いますが、そのほかの大会で緊張やプレッシャーを感じることはあるんですか?

ウメハラ 大会に出場する以上は緊張しますよ。ただ、メチャクチャ緊張するということはなくて、心地いいくらいの緊張ですね。

――極度の緊張はないんですね。

ウメハラ 「いまは」かな。

――若いころはあったんですか?

ウメハラ 負けなくなった14歳くらいから現在までで緊張してやばかったのは、4連覇のかかった大会。あとは、たいしてゲームをやっていなかった時期に出場した2006年のEVO。それから第2回闘劇の『ギルティギア』団体戦。いままでにその3つですね。

――ちなみに、インタビューなどの取材で緊張することってあります? 僕は聞く側なのに最初は緊張することがありますけど(笑)。

ウメハラ そうなんですか? 緊張しているようにはまったく見えませんでしたよ。俺がインタビューで唯一リラックスして答えられるのは、アルカディアさんとファミ通さんなんですよ。

――あ、そうなんですか?

ウメハラ 一般メディアのインタビューは緊張しますね。とくに生放送がいちばん緊張しますよ。誰が見てるかわからないから表現が難しい。もしかしたらゲームを知らない人も見てるかもしれないので、そういう人にも伝わるように話さなくちゃいけないとか、いろいろ考えますから。

――ウメハラさんはポーカーフェイスだから、緊張しているかどうかわからないですよ。

ウメハラ まぁでも緊張するのは最初の数分だけですよ。思っていることを話していると、気にならなくなってきますね。「思っていることを話して、それで文句を言われたらしょーがねーや」と開き直りますから(笑)。

――なるほど(笑)。

ウメハラ でも言いたくもないことをしゃべらされていたらひどいもんですよ。「これで大丈夫かな?」ときょろきょろしちゃいます(笑)。

麻雀を通じて物事の取り組みかたに自信を持った

――麻雀もプロ並みというかトップクラスの実力があると本に書いてありましたが、麻雀業界に戻るという選択肢はあるんですか?

ウメハラ いやぁないですね。

――それはなぜですか?

ウメハラ なぜかと言うと、麻雀は実力が反映されにくい世界なんです。だから話題性の方が重要なんですよ。たとえば、「ゲームの世界チャンピオンウメハラがプロ雀士になった」という話題性だけで麻雀界でもある程度やっていけるんです。内容が評価されて話題になるのならいいですけど、そうではないのでちょっと嫌ですね。ゲームで有名になってしまった以上、麻雀界に行こうとは思いません。

――ウメハラさんが麻雀も強いという噂は耳にしていたんですけど、それはゲームの勝負勘が活かされているからだと思う人も多いと思いますが、そうでもないそうですね。

ウメハラ 最初は活かせなかったですね。ただ、セオリーをひと通り学んだあとはゲームの勝負勘も活きてきましたね。

――10時間うまい人のプレイを後ろに立って見ていたこともあると書いてあったエピソードには驚かされました。

ウメハラ あの頃は自分でもかなりがんばったと思いますよ。

――覚悟を決めて継続するということは、ゲームに限らずどのジャンルでも重要なんですね。

ウメハラ そうですね。本にも書きましたけど、その取り組みかたで麻雀で勝てるようになったとき、「自分の取り組みかたが間違えてなかったんだな」と、ものすごく自信になりました。自分では気づいていないだけで、「もしかしたらゲームはすごく自分に向いていただけなのかな」と悩んだ時期もあったんですよ。でも麻雀はぜんぜん勝てなくて「なんだこれ、ゲームとぜんぜん違うじゃん」と思い知らされて……その後2年くらいしてようやく勝てるようになったとき「ゲームに向いていたのではなくて、自分の取り組みかたそのものが正しかったんだな」と確信しました。

――ゲームだけやっていたらわからなかったことですね。

ウメハラ 本当にそう思います。

ウメハラ初の書籍『勝ち続ける意志力』発売記念インタビュー!(前編) 本書にはないエピソードも披露_05
勝ち続ける意志力(小学館)

※インタビュー後編はこちら

(記事担当:豊泉三兄弟(次男))