複雑さが進むFPS界に異議を申し立てた伝説のFPS!

 2001年といえば、ゲームキューブが発売され、さらに初代Xboxの発売を翌年に控えていた、新ハードに色めき立った1年だっただろう。ソフトはあの『ファイナルファンタジーX』が登場した年でもある。さて、現在はすっかり市民権を得たFPSはどうだったかというと、当時は家庭用ゲーム機で遊ぶゲームジャンルとして一般的ではなかった。この年に海外で発売された初代Xbox用『Halo: Combat Evolved』(海外版は日本版とちょっと名称が違ったのだ)が、そのジャンルを切り開いていくことになる。一方PCではすっかりFPSが定着し、『Return to Castle Wolfenstein』や『MAX PAYNE』などの名作が登場していた時代だ。

 当時のFPSはちょうど過渡期で、対戦ならばよりスピーディでテクニカルに、探索ならもっと複雑に、という感じで進化していた。だが「昔みたいに、単純に撃ちまくるのも楽しかったんじゃない?」と、複雑化が進むFPS界隈に一石を投じる作品が登場した。それが『Serious Sam The First Encounter』だ。

 本作を開発したのは、クロアチアの開発スタジオCroteam。独自のゲームエンジンを搭載し、パソコンのスペックがそれなりでも快適に遊べた本作は、瞬くまに好評かを得て、海外サイトの数々の賞を受賞した。2002年には続編の『Serious Sam The Second Encounter』も登場し、同様に高評価を得た。時は流れて2009年、そんな『Serious Sam』がHDリマスターとなって復活したのだ。

撃って撃って撃ちまくる! 元祖爽快FPS『Serious Sam HD』インプレッション【海外ゲーム温故知新】_01
▲8年の時を経て復活した『Serious Sam HD: The First Encounter』。映像以外はほぼオリジナルのまま。

ブッ飛びすぎた世界観がたまらねぇ!

 現代のマシンに合わせて映像が大幅にパワーアップした『Serious Sam HD』。海外では『Serious Sam HD: The First Encounter』のPC版が2009年に、Xbox LIVEアーケード版が2010年に発売された。

 まずは本作のストーリーから。時は未来、宇宙に進出した地球人は、異次元から生まれたモンスターにコテンパンにされてしまう。これじゃーいかん、というわけで過去の地球に勇者を送り、エイリアンたちを倒して過去を変えてしまうのが目的。そしてその勇者こそ、本作の主人公サム「シリアス」ストーンその人なのだ。

 『Serious Sam』の何が魅力的って、まずはその世界観だ。なんだか壮大なストーリーのわりに、主人公のサムからしてジーンズにTシャツというふざけた格好。そして敵は胴体に顔がついた変なヤツ“Gnaar”、メカなのか生物なのかよくわからん恐竜みたいな“Bio-Mechanoid”、頭を自分の手で持った人型の“Beheaded”、頭がなくて両腕が爆弾になっている“Kamikaze”など、超個性的なヤツらばかり。古代エジプトでこんなのと戦うんだからたまらない!

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▲ステージ間のデモシーンで時折その姿を拝見できる、本作の主人公サム。彼がセーブとロードをくり返して地球を救うことになる。
▲ガシュガシュ歩きつつ両腕からビームを撃ってくる“Bio-Mechanoid, Minor”。腕からミサイルを撃ってくる赤くてでっかいやつもいます。
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▲「ァァァァァァァァアアアアアアアア!!!」と叫びながら突撃して自爆する“Kamikaze”。強烈すぎるインパクトでシリーズを象徴するキャラに。

大量の敵を身体ひとつでどうにかする白熱バトル!

 見事に変な敵ばかり出てくる『Serious Sam』だが、その攻めかたは逆にワンパターンきわまりない。ほぼすべての敵は、主人公に向かって突撃しながら攻撃してくる。残りの敵は、その場から移動せずに主人公を狙ってくる、といった感じだ。

 この一面だけ見るとワンパターンでつまらなそうだが、そんなことはない。その理由のひとつが、敵の数が大量だということ。5匹6匹はあたりまえ、場所によっては数十体の敵が一斉にサムめがけて突進して攻撃してくるのだ。

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▲イノシシの骨のような敵“Klee Skeleton”。突進して体当たりで攻撃してくる。
▲イノシシのような敵、“Sirian Werebull”。突進して体当たりで攻撃してくる。
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▲緑のカエルのような敵“Marsh-Hopper From Rigil Kentaurus”。突進して体当たりで……って、もういいわ!!

 昨今のゲームならカバーアクションやら空中支援攻撃やら、窮地を覆せる小洒落たシステムがあるが、『Serious Sam』にはそんなものは一切ない。この大量の敵を、プレイヤーのアクションだけで倒していく楽しさこそ、本作の戦闘の魅力なのだ。敵の突撃を左右に移動して紙一重でかわし、すれ違いざまにショットガンで一撃をあびせる。あるいは、後退しながら弾薬がつきるまでマシンガンを乱射する。やっと倒したと思ったら、左右と背後から新たな敵の足音が……。そんな緊張感あふれる戦いが、わりと最初から最後まで続くのだ。

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▲一応突進してこない敵もいるので、そこまで戦闘がマンネリってわけではありません。念のため。

多彩な武器で思う存分に撃ちまくれ!

 多彩な武器が登場するのも本作の大きな魅力。定番のハンドガンやショットガンに加え、リアル系FPSではありえないロケットランチャーやレーザー兵器、なぜか古風のマシンガン、超巨大な大砲など、そのバリエーションも非常に豊かだ。

 昨今のFPSだと、同時に持てる武器は2種類とかに決まっていて、「ここで見つけたスナイパーライフルを大事に持って、その後の難関で活用しよう」なんて戦略を実行した人も多いと思う。でも『Serious Sam』なら入手した武器は全部所持できるため、そんなささいな悩みごとは一切不要だ。弾薬もモリモリ登場するため、とにかく撃ちまくって弾がなくなったらほかの武器に変えて撃ちまくるという、爽快感あふれるバトルを最初から最後まで楽しめるのだ。

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▲緑色のレーザーを発射する“XL2 Lasergun”。若干追尾性能あり。連射力が高いため高威力だが、すぐに弾薬切れを起こすのがネック。
▲サムの最終兵器“SBC Cannon”。超巨大な鉄球を撃ち出す大砲で、ほとんどの敵を一撃で倒せる。貫通性能もあるため大量の敵を一網打尽にできる。

アレコレ考える前に撃って撃って撃ちまくるのだ!

 本作は謎解き要素は少なく、敵を全滅させるか、大事そうに置かれているアイテムをゲットするか、微妙に隠されたボタンを押せばたいていの場合は先へ進める。とにかく戦闘の爽快感に特化したゲームデザインになっているのだ。

 ただし、探索要素が皆無というわけではない。ゲーム進行とは関係ない隠されたエリアが多数存在しており、うまく発見できれば武器や回復アイテムなどが入手できる仕組み。ただし、隠しエリアを発見すると新たに敵が登場することもあるため、場合によっては発見前より状況が悪化してしまうこともある。

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▲ステージによっては、こんなアイテムを集めると先への道が開くことも。
▲突如大岩が転がってくるトラップも。このときインディージョーンズのテーマを口笛で吹くというイカした演出が!

 昨今の大作FPSは、映画に追いつけ追い越せと進化してきた。ドラマチックな演出やリアルな兵器、二転三転するシナリオ。対して操作や謎解きはシンプルになり、上級者のみならずカジュアルユーザーにも楽しめる作品が最低条件になりつつある。

 だが、ムービーシーンが多すぎて撃つ楽しさ、避ける楽しさは減っていないか? リアルさを追求しすぎて、ユーモアを忘れていないか? 大作FPSばっかり遊んでちょっと食傷気味というFPSファンは、ぜひとも『Serious Sam』にチャレンジしてもらいたい。まだFPSがカジュアルゲームになるまえの、撃って避けるという基本にしてシンプルな魅力は、逆に新鮮に感じられることだろう。

 あ、ちなみに難度はけっこう高いので、プレイする場合は心構えを。とくにHARDより上の難度は本気でキツイので、腕に自信があっても注意。ちなみに2011年末には、シリーズ最新作の『Serious Sam 3: BFE』がPCで発売されたので、本シリーズに興味を持ったなら、こちらも遊んでみるといいだろう。リアルに進化したKamikazeに会えますヨ!

著者紹介 喫茶板東
ファミ通Xbox 360で海外ゲームマニアックス、実績解除愛好会などを担当するフリーライター。思い返せば、初代『Serious Sam』が初めてハマったFPSだったかも。『Serious Sam 3: BFE』はSteamの年末セールでお安くゲットしたが、コッソリとローカライズされていて嬉しいサプライズが!