コンシューマーゲームとの連携も当然予定している
執行役員
ネットワーク事業部
藤田一巳氏(左)
ネットワーク事業部
ネットワーク開発部
『100万人の三國志 Special』ディレクター
松本秀氏(右)
コーエーテクモゲームスが同社のポータルサイトGAMECITYを“ゲームSNS”としてリニューアル。2012年3月14日より“my GAMECITY”としてスタートした。
ここでは、“my GAMECITY記者発表会”(※記事はこちら)、当日に行われた、コーエーテクモゲームス 執行役員 ネットワーク事業部 藤田一巳氏と、同ネットワーク事業部 『100万人の三國志 Special』ディレクター 松本秀氏へのインタビューの模様をお届けする。同社がmy GAMECITYにかける本気ぶりを訊いた。
――なぜ、SNSとゲームを融合した新サービスを開始することにしたのですか?
藤田 そもそも、本作のゼネラルプロデューサーであるシブサワ・コウ(襟川 陽一氏)が、社長に復帰した2010年11月から「ネットワーク事業にさらに力を入れていく」という方針を明確にしていたんです。直前に、『100万人の信長の野望』と『100万人の三國志』が成功していたこともあり、さらなる事業の強化ということで、新規ソーシャルゲームをサービスするだけでなく、当社のWeb用のゲームポータルサイト“GAMECITY”でも、何か新しいサービスをスタートさせたいというプランが持ち上がりました。GAMECITYは会員数220万人を擁しており、当社もさらに力を入れたいと思っていたんです。そのときに、シブサワ・コウが「いっそのこと、もうポータルサイトそのものをゲームにしてしまおう、ゲームSNSだ!」というふうに宣言したのがmy GAMECITYの走りになっています。
――そのひと言ですべてが始まったわけですね?
藤田 そうです。そこから、「これをどう実現するか」と、議論を重ねました。最終的にmy GAMECITYの発想のベースになったのは、東京ゲームショウでした。ゲームショウのブースでは、あるところではゲーム大会やイベントが開かれ、別のところではゲーム内アイテムが入手できるシリアルコードがプレゼントされ……と、ゲームが好きな人たちが集まって賑やかに展開されているわけですが、「それをインターネットの世界でできたらおもしろくないか?」と考えたんです。その延長線上に生まれたのが、ポータルサイトを街作りのゲームにするというアイデアでした。
――2010年11月のひと言から始まったのだとすると、けっこう長いプロジェクトになりますね。
藤田 はい。正直、たいへんでした(笑)。実際のところ、ポータルサイトがゲームになって、その中にゲームがある……なんて、言葉で説明してもよくわからないですよね。でも、じつは我々が表現したいのはそこではなくて、“GCコイン”というGAMECITYで使える共通通貨をキーポイントに、ゲームショウ会場のワクワクする雰囲気をリアルに再現することだったんです。それが“ゲームSNS”に近いイメージだと捉えていました。それを形にしていく中で、どれだけ“気持ちよさ”だったり、ストレスなく遊べる状態を作るかで、試行錯誤をくり返しましたね。
――街作りというゲーム性は、あくまでゲーム性のひとつであって、my GAMECITYのゲーム性の本質は、プレイヤーどうしのやりとりの中にありそうですね。
藤田 そうなんです。my GAMECITYでは街作りという題材を表面としては見せていますが、それはあくまでわかりやすく提示しているだけなんです。とはいえ、私自身そうだったのですが、第一印象はどうしても単純な街作りゲームに見えてしまう。街作りのゲームだったら、「何も街作りのゲームの中に、『100万人の三國志 Special』を置かなくてもいいのでは?」ということになってしまいますからね。街作りのゲームと『100万人の三國志 Special』をいっしょに並べて楽しめばよい。そういった意味で、my GAMECITYでは、my GAMECITY自体でもっと楽しんでもらえるようなさまざまな仕掛けを考えています。
――それはたとえばどのような仕掛けなのですか?
藤田 いろいろとあるので迷うところですが、わかりやすい例で言うと、シリアル発行機能です。以前、イベントの会場でアイテムシリアルの配布を行ったことがあるんですね。基本はひとつのログインIDにつき、ひとつのアイテムを入手できるシリアルコードを発行するのですが、プレイヤーによっては複数のシリアルコードをもっていたんです。これはどういうことかというと、プレイヤーの皆さんがトレードをしているんです。ある方にとっては、たくさん欲しいゲーム内アイテムでも、別の方にとってはそうでないケースもある。そこでトレードが成立するわけです。こういうことも、my GAMECITYの街の中では起こり得るようにしたいと思っています。
――なるほど。そういう街のイベントみたいなものが楽しみのひとつとしてもあるということですね?
藤田 もちろん、街作りそのもので得られるリワード(ご褒美)もあります。my GAMECITYでは、『信長の野望』や『デッド オア アライブ』などのIP(ブランド)ごとに特化した建物が用意されていて、“『信長の野望』の街”とか、“『デッド オア アライブ』の街”といったものを作ることができます。たとえば、『信長の野望』ファンのプレイヤーが一生懸命そのIP関連のアイテムを揃えて街作りをします。そして、そこにほかのプレイヤーが訪れた場合に、何かしらのメリットが得られるということもあるでしょう。
――それはつまり、そのIPのためのPRにもなるということですね?
藤田 そういう一面もありますね。それは、ゲームショウでコスプレをしたりといった、そのIPが好きだからこその表現行為と同じです。プレイヤーそれぞれが自分の街を好きなゲーム関連の施設やアバターで埋め尽くし、どんどんアピールする。そしてそれを、ほかのIPを楽しんでいるプレイヤーに伝えていく場というのは、やっぱりゲームになっていたほうがおもしろい。これがもともとの“ゲームSNS”の発想です。何よりも、自分の好きなIPに特化した街をカスタマイズして、ポータルサイトを作るのは楽しいのではないかと思います。
――で、my GAMECITYに実装されるソーシャルゲームの第1弾として『100万人の三國志 Special』があるわけですが、どのような点を心がけたのですか?
松本 『100万人の三國志 Special』のベースとなっている『100万人の三國志』はフィーチャーフォンとスマートフォンで展開してきたのですが、今回はmy GAMECITYという場所での展開に特化するべく、“PCブラウザ”というデバイスを非常に意識した作りにしています。おそらくmy GAMECITYには、コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーションゲームファンの方も多いと思いますので、本来の『三國志』の楽しみかたに近づけても、十分楽しんでいただけるのではないか……というのが最初の発想としてありました。インターフェースも一度にたくさんの情報量を表示できますので、操作も快適になります。
――お話を聞いていると、my GAMECITYの目指すところは、GREEやMobageの方向性と重なる部分も多いように思われるのですが、いかがですか?
藤田 そう思われる方も多いかもしれませんが、我々自身はそうは思っていません。当然のこと、我々にとってGREEさん、Mobageさんというのは重要なプラットフォームで、それは家庭用ゲーム機に任天堂さん、ソニー・コンピュータエンタテインメントさん、マイクロソフトさんが作られたプラットフォームがあるのと同じことです。将来的にはまだまだソーシャルゲームの広がりが期待できる中で、我々としては、むしろネットワークゲームの世界を広げるためにも、“ゲームSNS”というジャンルを提供したいと思っています。たとえば、GREEさんやMobageさんとも、今後いろいろな連携もできるかもしれないし、相乗効果を出していくことも不可能ではないと期待しています。
――ライバル関係というわけではない?
藤田 それは違います。当然、我々もプラットフォームとしてゲームをやっていくのは戦略的に必要なことだと思います。ただ、GREEやMobageといった、先行しているプラットフォーム2社と、我々が同じことをしても勝てる土俵ではないと、これは謙遜でも何でもなく、正直に思っています。ただ、ゲームメーカーということに関して言えば、培ったノウハウを、ソーシャルゲームの中でまだまだ活かしきれていないところがある。ソーシャルゲームの進化の課程の中で、“ゲームSNS”という触媒があってもいいのではないかと。そういう意味では、プラットフォームとして“ゲームSNS”というジャンルを戦略的に育てていきたいとは思っています。
――その戦略は、けっしてGREEやMobageと相反するものではない?
藤田 そうですね。これからもキラータイトルを、my GAMECITYではなくてGREEやMobageで出すという選択肢も当然あるでしょうし……。逆に言うと私の役目としては、よいタイトルをたくさんmy GAMECITYにもってきてもらえるように社内営業をしなければいけないとも思っています。そこは社内と言えども、シビアであっていいハズです。いいタイトルがいいプラットフォームに供給されるのは当然のことですし。
――今後my GAMECITYを展開するにあたって、タイトル面でGREEやMobage向けとの明確な区分けなどは考えていたりするのですか?
藤田 IPによってやりやすい、やりにくいといったことはいまのところ想定していないです。ただ、今回の『100万人の三國志 Special』のように、よりPC向けのタイトルはmy GAMECITYに持ってくるという判断はあるかもしれないです。
松本 ソーシャルゲームは、いまだいぶ市場が飽和状態になっていると考えています。その中で、これからどんどん個性化を図っていかないと、プラットフォームを問わず生き残っていけないかと思っています。その中のひとつの選択肢として、my GAMECITYのようなゲームのファンが集まる場所で、ゲーム性を強めていくのは、選択肢のひとつとして“あり”だと思っています。私たちも長いことゲームを作っていますので、ゲーム性を強めていく部分に関して、しっかりした開発ができる自負を持っています。そこは勝負していけるハズなので、my GAMECITYはmy GAMECITYなりのおもしろさを提供していくことで棲み分けていって、両者が成功を収めていくのがいちばんの理想ですね。
――なるほど“ゲームSNS”というものは、ゲームファンに集まってもらうことを何よりも前提にしているということですね?
藤田 はい。ここは私もシブサワ・コウとその辺りの話はよくしたのですが、シブサワいわく、「ゲームだよ、ゲームやろうよ!」という思いはすごく強いです。たとえとして適切かどうかわかりませんが、my GAMECITYは一般の本屋さんではなくて、コミックマーケットなんですよ。本当にゲームが好きな人が、SNSゲームをいっぱい遊べて、あるSNSゲームを有利に進めるために、ほかのプレイヤーと積極的に交流することを楽しんだり……ということもあっていい。そういった要素はもちろんいままでのSNSサイトでも当然あるのですが、もっと真剣にゲームユーザーに遊んでもらえるゾーンを作れるのではないかと思っています。
――現状のソーシャルゲームに少し距離を取っているゲームファンにこそ、触れるきっかけになってほしいといったところでしょうか?
藤田 どうでしょうね。ただ、少なくとも、my GAMECITYの220万人の会員は熱心なゲームファンの方が多いので、そのユーザー層にまずは問いかけようということですね。
――となると、コンシューマーとの連携なども当然有効な施策になりそうですね。
藤田 もちろんあります! まだ具体的なことは言えないのですが、アイテムの連携などから始めますよ。
――my GAMECITYの220万人の会員というのは、それこそ熱心なコーエーテクモゲームスのファンだと思うので、自分の好きなタイトルとの連携があれば、大きな引きになりそうですね。
藤田 おっしゃるとおりだと思います。コンシューマーゲームもオンライン機能が実装されていますし、たとえばプレイステーション3では、PlayStation Networkを使ってダウンロードコンテンツを入手できたりもします。手段としてはオンラインを使っている……と、現時点で言及できるのはこのへんがギリギリなのですが(笑)、もちろん検討はしています! 具体化できた時点で発表していきますのえ、お待ちいただきたいと思います。
――それは、楽しみですね。
藤田 昨年夏にmy GAMECITYの構想を発表させていただいて、今回やっと正式にサービスインするわけですが、「なんで、ここまで期間が開いてしまったのか?」という質問をよく受けるんですね。その点に関しては、単純に言うと、できたものから順番に出していくというレベルだと弾数も続かないし、インパクトもない。プレイヤーの皆さんにとって、「1度行ってみよう」という気持ちにならないでしょうから、あえて正式展開の時期を待っていたんです。ある程度今後の戦略がきちんと見える状態になって、矢継ぎ早にいろいろなことが発表していける状態にならないと「ここ(my GAMECITY)っておもしろいね」という印象を持っていただけない。ですので、「あります!」と言っておきます(笑)。
――(笑)。正式発表したからには、今後の手は用意してあるということですね?
藤田 コンシューマーとの連携の部分でいうと……ちょっとまだ言えないです。さわりとして、「こういうことをやっていくんだろうな」というのは、夏までにいろいろとお見せしていきます。具体的に「こういうタイトルのこういう内容で……」というお話しができるのは、もう少し後になります。トライアルは、いろいろと行っていきますのでご期待ください。
――記者会見では、「サードパーティーさんの参入も期待している」とおっしゃっていましたが、具体的な話は進んでいるのですか?
藤田 まだしていません。my GAMECITYは新しい取り組みですので、まずは“ゲームSNS”という捉えかたが、いかに新しい取り組みかということを、自社のIPでもってちゃんと示さないと、本当の意味での強力なパートナーというのは出てこないと思うんです。ですので、4月から夏までのあいだに我々のIPを使って、my GAMECITYの可能性を提示していきたいですね。
――ソーシャルゲームに関しては、まずは『100万人の三國志 Special』をリリースして、夏までに2タイトルとのことでしたが、1年後には何タイトルくらいまで?
藤田 1年で、2ケタいきたいと思っています。実際のところ、夏に予定している2タイトルのほかに数タイトルまでは決まっているのですが、そのペースで行けば、2ケタも夢ではないとにらんでいます。
――コーエーテクモゲームスのIPは全部投入されかねない勢いですね。
藤田 いやー、どうでしょう(笑)。いずれにせよ、やっぱりいいコンテンツを入れて、my GAMECITYのプレイヤー自身が好きなゲームのIPをほかのプレイヤーにアピールする、いっしょに遊ぼう、と売り込むという環境を“ゲームSNS”として作っていけるようにしないと、バイラルループが起こらない。バイラルループが起こらないと、my GAMECITY の会員がいまの5倍にはならないですから。これからどんどん展開していきますので、ご期待ください。