『ドットハック セカイの向こうに』は「おまえらのために作った映画や!!」

 2011年12月3日、東京・サイバーコネクトツー東京スタジオにて、松山洋氏トークイベント“.hack//T.E.”が開催された。イベントの正式名称は、“拡散希望 .hack//T.E.トークイベント ぴろし社長が「.hack//3rd SEASON PROJECT」について大いに語る”。2012年1月21日に公開される劇場用映画『ドットハック セカイの向こうに』(以下、『セカイの向こうに』)を中心に、『.hack』プロジェクト3rdシーズンの今後の展開までが語られた、『.hack』ファン注目のイベント内容をリポートしよう。

 今回のイベントは、サイバーコネクトツーの東京スタジオと福岡スタジオをHD映像でリアルタイム中継するシステムを利用しての開催となった。松山氏の質問に答えたとある来場者の話では、東京スタジオの募集枠が満員だったため、福岡スタジオの募集に赴いたという人もいたようだ(ちなみにその人は、なんと京都からやってきたのだとか!)。

松山洋氏トークイベント“.hack//T.E.”開催 衝撃の新発表――映画の後には……?_01
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▲イベント参加者とコミュニケーションを取りながらトークをくり広げた松山氏。参加者の中には、『セカイの向こうに』前売り券を、友人の分も含めて12枚も購入してきた強者も。

 そして松山氏は、2011年8月の発表会で『セカイの向こうに』を発表して以降のことについて、「私はA型で神経質、粘着質なんです。あまり言わないようにしていますが……Twitterやfacebook、……あとはなんとかチャンネルとかね(笑)。いい指摘、悪い指摘、どちらも意見として受け止めていますよ」と、ユーザーからの反応をしっかりチェックしていることを明かした。松山氏の見たところ、それら意見の中でもとくに多かったのが、「映画は俺らに関係ないんじゃねーの? という声ですね。まー、いろいろとストレートなお言葉をいただいているようです(笑)」(松山氏)だそうだ。
 それに対して松山氏がくり返した言葉は、「この映画はおまえらのために作ったんやからな!(笑)」。劇場用映画だけに、ゲームファンに限らずより多くの人に観てもらえるよう、前情報がなくても楽しめるようには作ってあるが、『.hack』の年表にはまるとある仕掛け、シリーズを語るうえで欠かせない要素が隠されています」(松山氏)とのことだった。以前にお届けしたインタビュー記事【コチラ】では、『.hack//Link』で破壊され、『Quantum』では姿をくらませていた“アウラ”の“その後”が描いた物語が『セカイの向こうに』であることが明かされている。しかしそれだけではなく、『.hack』の歴史の中で非常に重要な何かが描かれているような……? とりわけ、劇中で登場するNAB(ネットワーク調査局)の調査員デビッドは、「非常に重要な人物なので、映画を見終わった後も覚えておいてください」とのことだった。“映画を見終わった後”とは……気になる発言だ。

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 続いて松山氏から、『セカイの向こうに』の世界について説明された。本作に登場する“THE WORLD”(全部大文字が正しいそうだ)は、“黄昏の碑文”を元にリニューアルされ、2024年3月に運営開始された“THE WORLD FORCE:ERA”。この劇中ゲームについては、サイバーコネクトツーが通常のゲーム開発をするときと同じレベルの設定資料が作られたそうだ。松山氏いわく、「制作スタッフが、実際に劇中で“THE WORLD”を作っている“サイバーコネクト社”の社員になったつもりで作りました」とのこと。実際に劇中で描かれることのない部分まで、綿密に練り込まれた設定がバックボーンにあるからこそ、説得力のある世界が描ける、ということなのだろう。

 また『セカイの向こうに』のリアル世界については、「いまより少しだけ未来の風景を描いています。2024年、いまから13年後をリアルに描いてしまうと、とんでもなく未来になってしまいますが、それでは『.hack』らしくなくなってしまう。いまの生活の延長線上で、これくらいになるかも? という寸止め感。そこに注意して描きました」(松山氏)と語った。松山氏がその一例としてあげたのが、「劇中にケーブル、コンセントは一切登場しません」(松山氏)ということ。すでに現実の世界でも、コンセントを使わない非接触式の電力送電システムは実用化されつつあるが、それが完全に一般化している世界が描かれているわけだ。

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 そうして設定にこだわるあまり、「劇中に登場する小物の数々を、実際に制作してしまいました」(松山氏)ということで、今度は実際に制作した小物の数々が披露された。その一例として紹介された“まことさん”は、小型のサーバーロボットで、劇中では主人公のそらと音声会話でやり取りをするシーンが頻繁に登場する。これを実際に制作した理由として、まずそらの家についても、柳川のとある住所を想定して、一戸建ての図面をきっちり作り、それをもとにモーションキャプチャーの撮影を行ったそうだ。そのときに、実際に作ったいろいろなガジェットにマーカーを付けて撮影することで、細かいガジェットについてもサイズを間違えることなくCG映像にすることができた、というわけだ。
 ただ、劇中に登場するコントローラーやフェイスマウントディスプレイの製品パッケージなどは、松山氏が指示して作らせたわけではなく、「ある日デザイン室を通りかかったら、いきなりそれがあって。聞いてみたら、三好(編集部注:デザイン室チーフ・三好誠氏)が勝手に作っちゃってたんです(笑)」(松山氏)ということもあったのだとか。いかにもサイバーコネクトツーらしいエピソードだ。
 なお、これら実際に制作された小物の数々は、別室に展示されており、イベント来場者が自由に閲覧・撮影することができた(一部設定資料を除く)。

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 その後、余談として、2011年12月1日に発売された『鉄拳 ハイブリッド』のPRが行われた。同じバンダイナムコゲームスのタイトルとはいえ、なぜ? と疑問が湧くところだが、これには明白な理由があった。松山氏曰く、バンダイナムコゲームスの手掛ける映画プロジェクトということで、『セカイの向こうに』と『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』は、ほぼ同時期に制作が進んでいたそうだ。お互いに3D立体視の映画を作るということで、「鉄拳チームとは、“映画部”と称して、定期的に勉強会と報告会をやっていました。だから、他人事じゃないんです」(松山氏)。

 ちなみに松山氏のもとには、『鉄拳』プロジェクトリーダーの原田勝弘氏から『鉄拳 ハイブリッド』の商品サンプルが送られてきたそうだが、その送付状は「ところで私はこのゴールデンウイークに社員とハワイに行ったつもりです」(原文ママ)で始まる何ともカオスな内容だったそうだ。トップクリエイターどうしともなると、常人にはうかがい知れないような特殊なコミュニケーションが成立するのだろうか……?

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 最後に松山氏は、イベント来場者に対して、「いよいよ映画公開です。今日わざわざここに来てくれた皆さんは、我々とともに『.hack』プロジェクトを支えてきてくれた人たちです。今日私が言ったことや、展示物など、どんどんばらまいてほしい。……ということで、今日のイベントは“拡散希望”なんです」と、改めてイベントの趣旨を説明。そして、「全国公開の映画ということで、たくさんの人に観てもらわないといけないので、どうしても一般メディアには、“前準備なしでも楽しめる映画ですよ”という部分を強調して言っています。でもやっぱりこの映画は、ここに来てくれているような“みんなのため”に作った映画なんです。これから先の話も含めて、このお話を観ておかないと、楽しめなくなりますから。ぜひ観てください」(松山氏)と、『セカイの向こうに』が紛れもなく『.hack』ファンのために作られた映画であり、『.hack』3rdシーズンを描くうえで欠かせないピースであることを強調した。

 そして最後に、いま公開できるギリギリのところ……ということで披露されたのが下の写真。

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 これについては、サービス精神旺盛な松山氏が、完全にノーコメントを貫いていた。ということは、相当衝撃的なスクープ情報が……? 2011年12月22日発売の週刊ファミ通を楽しみにしていてほしい。

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▲両手にバナナを持った松山氏との記念撮影会も行われた。「なぜバナナ!?」と思ったアナタは『セカイの向こうに』を観るべし。
▲会場で劇場鑑賞前売り券を購入した人には、松山氏と、『セカイの向こうに』を制作したチームサイのプロジェクトリーダー、二塚万佳氏のサインが贈られた。
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▲展示物を思い思いに撮影する参加者たち。
▲実際に使用されたアフレコ台本。
▲こちらも実際に使用された絵コンテだ。
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▲コントローラーのパッケージ。白と黒の2タイプ。
▲ウィルス駆除ソフト“ソフィア”の電子公告。
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▲ヘッドマウントディスプレイのパッケージ。全6色。
▲ベスト電器の紙袋。……これは2024年にも、現と同じデザインのものが使われているという設定のようだ。
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▲“THE WORLD”のログイン画面。
▲NABデビッドの名刺。
▲まことさん。基本的に、福岡会場にも同じ内容の展示がされていたが、まことさんは「いま世界にひとつしかありません」(松山氏)とのことで、東京会場のみの展示となっていた。