●劇場版の経緯から『.hack』プロジェクト誕生秘話まで全部お届け!

 週刊ファミ通2011年9月8日号にて掲載した、劇場用3Dアニメーション『ドットハック』の監督・松山洋氏&脚本・伊藤和典氏のインタビュー。その完全版をお届けしよう。
 なお劇場用3Dアニメーション『ドットハック』の詳細については、コチラの記事を参照してほしい。

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■松山 洋(まつやま ひろし)
サイバーコネクトツー代表取締役社長にして、同社の全作品のディレクションを務める。代表作に、『.hack』シリーズ、『NARUTO−ナルト− ナルティメット』シリーズなど。映像作品『.hack//G.U.TRILOGY』は、DVD、BDの合計で50000本以上のヒットとなっている。

■伊藤 和典(いとう かずのり)
脚本家。『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『機動警察パトレイバー』、平成『ガメラ』シリーズなど、代表作多数。『.hack』プロジェクトの創設メンバーでもあり、シリーズでも多数の作品の脚本を手掛けている。


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●“ネットワーククライシス”をあえて九州で

――まず、なぜ劇場版『ドットハック』を制作することになったのか、企画の経緯を教えてください。

松山 洋氏(以下、松山) 2007年に、『.hack//G.U. TRILOGY』というOVAを作ったのですが、あれが終わった後に鵜之澤さん(編集部注:バンダイナムコゲームス副社長の鵜之澤 伸氏)に呼ばれて、「お前、映像チームは、つぎはどうするんだ?」って言われまして。そこで私は「オリジナルでやろうと思っている」と答えたのですが、鵜之澤さんに「つぎはちゃんと全国で公開できる映画としてやったほうがいい。『.hack』でやれよ」と言われたんです。

――全国で劇場公開という前提があって、それに値するIPとして『.hack』を、ということだったわけですね。

松山 ええ。それで、映画でやるんだったら、脚本は伊藤さんしかいないでしょ、となりました。これがゲームで、プレイして4〜50時間かかるようなRPGの脚本を、また3年くらいかけて……、となると、「イヤだ」って言われるだろうけど(笑)、映画なら100分くらいで終わりますから。これくらいの分量だったら、たぶん伊藤さんはやってくれるだろうと。それですぐに、鵜之澤さんが目の前で伊藤さんに電話をしてくれました。

伊藤 和典氏(以下、伊藤) そうだっけ? ぜんぜん覚えてない。俺の記憶では、いきなりパイロット版の映像を見せられて、「これをやるんだけど書いて」って。そんな話だったと思う。

――そのパイロット版の映像とはどんなものだったのでしょうか?

松山 最初のイメージでは、リアルパートはいわゆるセルアニメーションでアニメを作って、ゲームに入るとフルCG、という形を考えていたんですね。それを、脚本は何にも決まっていない状態で、イメージだけで映像を作って伊藤さんに見てもらったんです。

――パイロット映像を観たときの第一印象はいかがでしたか?

伊藤 第一印象で言うと、舞台が東京だったんです。渋谷の街並がわりとリアルに再現されていたけど、「お前ら九州もんが東京を舞台にして作ってどうするんだ」って(笑)。「九州で作るんだったら九州を舞台にしろよ」というような話しをして。

松山 サイバーコネクトツーの所在地は福岡ですからね。地元だったら足しげく通えるし、地元の協力……実名の使用なども含めていろいろやれると思うので、確かにその通りだなと。それに“ネットワーククライシス”という『.hack』がいつも持っているテーマについても、いまは日本でも世界でも、そういうことが起きたら、被害に遭うのはべつに東京だけではなくて、たぶん世界的にたいへんなことになるはずですから。それによるパニックは、どこが舞台でも描けるんですよ。むしろ東京でギラギラしたハイテクに触れている人たちよりも、田舎でのんびりしているような子たちすら巻き込まれる、というほうが幅が出るな、って思って。「なるほど、入り口からそこか!」っていうのは、いちばん最初に打ち合わせをしたときから思い知らされました。

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――いまのお話からすると、伊藤さんは舞台設定の段階から制作に参加されているのですね。

松山 もうゼロからですよ。パイロット映像は、うちの技術検証とかイメージ含めて、ざーっと「こんな感じの3Dのアニメを作ろうと思ってるのよ」って見てもらうためだけのものでしたから。「どういう話しにしようか?」というところからです。まあ『.hack』は『.hack』なので、当然、The Worldというゲームの最新バージョンがあって、その中で事件が起きる。ただ、いままで『.hack』は11年やってきていますから、いままでの作品を観てないからよくわからない、では映画としては困ると。何の前準備もなくても、たとえば『.hack』を知らない若いカップルが軽い気持ちで観にきても、それを100%楽しめる、そういう作品にしようね、という話はしました。そこから、まったくのゼロから脚本を作ってもらったんです。

――今回、初代4部作(※)がモチーフとのことですが?
※2002〜2003年にプレイステーション2用で発売された『.hack//感染拡大 Vol.1』から始まり、『.hack//悪性変異 Vol.2』、『.hack//侵食汚染 Vol.3』、『.hack//絶対包囲 Vol.4』と続いた4部作のこと。

伊藤 最初の段階では、時代設定が、最初の4部作の時代の話のつもりだった部分があったと思う。でもそれだと、映画ができるころには過去の話になってしまうので、時代を先に延ばして、2024年ぐらいの話にしようよ、って。そのくらい間が開くと、物語も、第一世代のThe Worldを知らない子たちが主人公でいいじゃん、っていう。それだと、ぜんぜんThe Worldのことを知らない子たちに説明する体で、お客さんにも説明できるな、っていうのがあったんですよ。

――なるほど。それで、主人公をThe World未体験の初心者にしたわけですね。

松山 そうです。主人公は、ふだんゲームを遊ばないきびしい家の子。クラスメイトに誘われて、ゼロから、ゲームソフトを遊ぶところから描こうと。制作当初の懸念としては、映画って、冒頭15分から事件が起きないといけないじゃないですか。でも丁寧にリアルな舞台、キャラクターを描こうとすると、冒頭から事件を起こせないわけですよ。自己紹介から始まるわけですからね。それで脚本の最初の段階では、The Worldにログインするのを極力早くしようと考えていたのですが……そこを駆け足でやっちゃうと、キャラに感情移入できないまま、置いてけぼりになってしまう。でもそこで、ちょっと普通と違う、変わった作品でいいじゃん、と考え直しました。それで、最初はすごく丁寧に、2024年の福岡県柳川市という舞台と、主人公と周囲の人間関係を描くものになっています。いままさに最終仕上げをやってるところで、もちろん私はチェックも含めて何百回と観ていますけど……まー何百回観ても、いいですね、この作品(笑)。作っておいて言うのはなんなんですけど。観るたびに思うけど、やっぱりね、「伊藤さんの脚本好きやわー」って思うね(笑)。わかるかなぁ、独特な……だって、普通にロボットアニメを作ったら、『パトレイバー』にはならないでしょ。後藤隊長、普通は生み出されないでしょ(笑)。やっぱりね、伊藤和典がぎゅーっとつまってる。そこはとにかく、うちの演出とも話をして、「これが粋なのよ」と。なんでもかんでもムダを省くと、シャープになるし、尺も短くできるんです。お金の問題もあるしね。けどね、この伊藤和典独特の、ゆるさと、丁寧さ。一見ムダに思えるような間の取りかたっていうのが、脚本から表れているんですよ。

伊藤 恥ずかしいなぁ。どうした?(笑)

松山 あんまり面と向かっていうことじゃないですけどね(笑)。

――松山さんから、脚本に対してリクエストされたりしたことはあったのでしょうか?

松山 それはもう、月一でミーティングをやっていますからね。

――伊藤さんとしては、今回の脚本はとくに難産ということもなく、スムーズに進んだのですか?

伊藤 難産は難産だったなぁ。何かね、何だろうな、さーっと書けなかった。ものすごい細切れにしか書けない感じ。

――アイデアは多いけどまとまらない、というようなことでしょうか?

松山 実際最初は、ネタが多すぎでしたよ。私たちのほうで、これも表現したい、あれも表現したい……というのがあったので、こういうのを入れてください、ああいうのを入れてください、とお願いしていたっていうのはありました。それを全部詰め込もうとすると、映画としてごっちゃごちゃになっちゃう。ただでさえ『.hack』って、二重構造でややこしいところがあるじゃないですか。それで削ぎ落としはやりましたよね。今回はリアル寄りにする、“リアル視点で始まってリアル視点で終わる”というのは決めていたので。 そういえば当初、鵜之澤さんが「伊藤さんはいま比較的手が空いている」と言っていたので、脚本のやり取りも早いだろうな、と考えていたんですよ。だから、その後鵜之澤さんから「調子はどう?」と連絡をもらったときにも、「かかっても半年、恐らく4ヵ月くらいで脚本はあがると思いますよ」って答えたら、「ばっか、お前わかってないな」と(笑)。「彼はいつもそう言うんだよ。断言する、1年コースだ」って(笑)。そのときは、私は「いやいや、制作期間4年のうちの1年を脚本に使うわけないじゃん」と言ったのですが。弊社が長年やってきた技術検証、立体の研究をCGに落とし込みつつ、伊藤さんと打ち合わせをして、ああでもない、こうでもない、っていろいろ話をしながら進めていたら……本当に鵜之澤さんってすごいなって思いました。ぴったし1年でした(笑)。

伊藤 でもね、スタートが遅かったんだよ。実質は半年だよ。

松山 手を動かしていた期間は、そうかもしれないですね。

伊藤 話があってから、舞台を柳川にしよう、って決めたのがもう夏でしょ。そこからだからさ。

松山 まあ、実際そうですね。

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――初代『.hack』のリリースから10年が経ちますが、当時といまとで、描くものは変わっているのでしょうか?

伊藤 基本的には、そんなには変わっていないです。

松山 起きる被害、損害っていうのは、たぶん10年前とイメージはかわっていませんね。ネットワーククライシスが起きるとどうなるかっていう部分は変わらないんですよ。でもその危機的状況の中で、その時代に生きる主人公たちそれぞれのアプローチの仕方は、ちょっと変わってきていますね。それは10年前よりも便利になっているので。

伊藤 ネット自体が、10年前よりも身近なものになってきているので、ネットワーククライシスっていうものが、イメージしやすくなっている部分はあるかな。

松山 今回の劇場版でも、危機的状況が広がっていきますが、劇中で「Twitter見てみろよ!」などの台詞が出てくるんですよ。これは10年前になかったことですよね。この10年で、間接的に知りうる情報がすごく増えていて。だからこそ、本当の情報もあれば嘘の情報もあると思うんですけど。

――でも最初の『.hack』は10年前ですが、いまの状況を予見して描いていたようなところがありましたよね。

伊藤 基本的なインフラはあのころにはできていましたから。あれが1992年に出ていたら、SFだったけども。2002年だと、もはやSFではないっていう。

――なるほど。リアルを少し進めて描いた、というくらいの感じでしょうか。

伊藤 うん。そもそも最初の『.hack』のコンセプトが、まだネットワークゲームが敷居が高い時代で、「そんなあなたに『.hack』。仮想体験できます」的なものだったから。

―ーその描きかたの部分が変化しているというわけですね。

松山 この時代だと、クラウド化が進んでいるだろうっていうのがあって。要するに端末は何だっていい、いまのソーシャルやブラウザゲームに近い考えかたですね。劇中でも、主人公は最初、お試し版的なものを始めるのですが、全部無料なんですね。The Worldっていうのは。始めるときには携帯を端末にして、メガネをつけて、始めるんですよ。ちょっと慣れてくると、それが、コントローラーで。コントローラーを買ってきて遊ぶ。

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――ところで、伊藤さんの手掛けた『.hack』作品では、初代の4部作と、同時期のアニメ『.hack//SIGN』、『.hack//G.U.』のようにほぼゲーム内の出来事のみを描いたものと、OVA『.hack//Limilality』のようにほぼリアルの出来事のみを描いたものとがありますね。今回は、ゲームとリアルの両方を描く内容のようですが、いままでの作品と比べていかがでしたか?

伊藤 まずね、主人公たちが中学生なんですよ。いままでは高校生以上が多かったので、中学生のリアルってどうなの? っていうところがよくわからない。手探りでキャラを作っていく感じがあって。いままでのアニメっていうのは、『.hack//Liminality』を別にすれば、基本的にゲームのキャラがキャラクターとして出ている。でも今回は、あくまでもリアルのキャラがゲームの中にいる形。だから、リアルを背負ったキャラでないとだめだな、っていうのがあって。後は、自分がちょこっとやったネットゲームの記憶を総動員して。「あ、こんな恥ずかしいことしてたな」、とか。

――伊藤さんご自身のネットゲームでの体験が活かされているのですね。

伊藤 いちおうね、最初の『.hack』をやるときに、ちょっとかじったんですよ。その後、息子がやっていた無料のオンラインゲームもちょっとやって。あれをやってて、たまたま息子とフィールドでばったりあったりして。恥ずかしいもんだな、ってそのときわかったよ(笑)

――ああ、そういう感覚は、『.hack』では随所に活かされていますよね。

伊藤 うん、あると思う。

――ただ、今回ははっきりリアルが描かれる分、ゲームの『.hack』に特有の、The Worldの向こう側にいるリアルの人物を透かして見るような、構造のおもしろさは……。

伊藤 これがね、ちゃんとあるんですよ。

――おお。具体的に……はネタバレになっちゃいますね(笑)。

松山 そうですね(笑)。でも今回、ここまでリアルを含めて人間を丁寧に描いた『.hack』は初めてだと思います。もともと『.hack』って、匿名性、“こうだと思っていた人がじつはこうで”というおもしろさがあって、今回もそれがネタの中心にはあるのですが、そこからもう一歩掘り下げようと。ゲームに慣れていない女の子が初めてゲームをやって、まわりはベテランばかり。そんな中で、最初に自分がオンラインゲームを遊んだときの感覚。「え、どうすればいいの?」とか、「ちょ、お前何やってんの?」みたいな感覚。わけがわからなすぎて、後になったら恥ずかしいような。その気持ちって絶対あるじゃないですか。誰もが通る道、そういうのを入れていこうよって。それはできたと思います。

――初心者の戸惑いという部分では、『.hack//G.U.』でも同じような始まりかたでしたよね?

松山 うん、でも、いままでの『.hack』では、ちょっととんがってるというか、キャラクターも完成されていたんですよね。カイトにしてもハセヲにしても。やっぱりゲームで、ユーザーが触って動かすものなので、キャラクターでぐいぐい引っ張っていってあげないと、感情移入もしてもらえないので。でも映画は、自分で触るワケじゃなくて、赤の他人が登場するようなものです。その子を好きになれるかどうかで、映画の没入感って変わってしまうわけです。そこで、いままでの『.hack』とは違う、初めての演出、初めての表現というのを心がけましたね。

伊藤 いままでの『.hack』では、カイトなりブラックローズなり、キャラクターができあがっちゃってたんですよ。今回も、ゲーム中にゲーム内キャラとして出てくるのはカイトなんですけど、映画の中でカイトというキャラができあがっていく感じです。

――それは成長していくという意味ですか?

松山 それもありますし、本当にキャラメイクをするところからストーリーがスタートしますから。じつはこれも、脚本を作っている最中も、作ったあとも、絵コンテの段階でも、何十回と作り直しているんですよ。絵コンテも演出も。実際、コンテになった後も、台詞を切ったり足したりやり続けましたので。幸いにも、結果的に時間はあったというか……かかっちゃったんですけど(笑)、時間を使って、脚本レベルは、1本の映画としてかなり高いものになっています。ぼーっと普通に見られる冒頭の日常にも、後半に向けての伏線がちゃんと張られています。
 それと今回、見ている人が、ぐーっと興味を持てるような必然を、じつは真ん中に一個作ってるんです。それは、思春期を迎えている中学2年生って、微妙な距離感だったじゃないですか。進んでいる人は進んでいるし、そうでないヤツはそうではない。そちら側に行かないヤツはいかないし。どちらにも転がれる絶妙な時期。そのときに生まれる、ほのかな恋心というか、ラブロマンスとまでは言わないですけど、そういうものが真ん中にあるんですね。たぶん『.hack』で恋愛を中心に据えて作ったのは初めてなのではないかと。まあ別に恋愛映画というわけではないですけど。

伊藤 パイロット版では、好きな男の子がいて、でもなかなか話し掛けられない。ゲームの中でだったら、話せるんじゃないか……っていう動機でゲームを始める女の子の話になっていたんですよ。でもそれは、「なんかこの女の子気持ち悪い。ストーカーっぽくてヤダ」って(笑)。けっこう反対されたんだけど、こっちも粘って反対して、いまある形になった、という経緯がありました。

――それで、「好きだからゲームをやる」ではなく、「ゲームをやるうちに好きになる」に変わったわけですね。ということは恋のきっかけから成り行きから、一部始終描かれていくのですね。


伊藤 本編の問題が解決した後で、リアルのキャラクターたちにオチがつくっていう。

松山 ちゃんとそれが色恋の決着になってるという。これがね、自分たちで作っておいてなんですけど、まー脇の下に汗かきますよ(笑)。もうかゆくって(笑)

――いまどきの中学生の描写に悩んだとおっしゃっていましたが、恋愛模様も描くとなると、さらに難しかったのでは?

松山 議論したもんね。

伊藤 みんなで話し合ったっていうのもあるし、これを書いていたころは、うちの子どもが中学3年生だったんですよ。で、「コイツ、ふだんどうしてるかなぁ」っていうのをいろいろ見ていたら、「田舎の中学生ってたいしたことねーなー」って(笑)

――どちらにお住まいなのですか?

伊藤 うちは熱海なんです。で、仕事場が横浜で。

松山 息子さんは熱海ですよね。でももう大人だから大丈夫やろ(笑)

伊藤 いや、相変わらずぼーっとしてる。来年大学受験なんだけど。大丈夫なのかな。ダメかもしれませんねー(笑)

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――今回、主人公は普通の女の子なんですよね?

松山 はい、中学2年生のそらちゃんですね。有城そら。

伊藤 (メインイラスト左の少年を指さしつつ)これがR・田中一郎ですね(笑)。

松山 いやいや(笑)。でもコイツ、ちなみに田中っていいます(笑)。田中翔(たなかかける)です。そしてもうひとりが岡野智彦(おかのともひこ)。智彦とそらちゃんは幼なじみで、あるときこの中学に転校してきたのが田中です。田中は見た目通り冷静でクールな感じのキャラですね。優等生タイプで、ゲームがめちゃ得意で、The Worldの中でも有名キャラになっています。智彦は、クラスの中でも人気者というかムードメーカータイプで、まずゲームを通じてふたりがなかよくなり、やがてそらちゃんと3人でつるむようになります。

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――このイラスト、後ろのほうになんかいますけど(イラスト中央の黒いコートの男)……?

松山 いますね(笑)。彼はデビッドという名で、アメリカからやってきます。

――いかにもカギを握っていそうなキャラクターですね。

松山 そういう情報をまったく知らずに観ても楽しんでもらえる映画になっていますが、いままでの『.hack』ファンの方が興味を持ちそうなお話をしておくと、今回の物語の入り口は、“その後のアウラ”です。『.hack//Link』事件で、主人公のトキオによってアウラは破壊されているんですよ。そしてダメージを負ったアウラは、2022年の『Quantum』のときには姿をくらましているんですね。その姿をくらましていたアウラが、再び動き出すのが、今回の劇場版なんですよ。動き出さざるを得ない状況になります。そして今回、ある意味で、アウラ自身も何かを得ることになります。

――おおお! そういったプロットは、ストーリーの中心になるのでしょうか? それとも脇で匂わされるような……?

伊藤 映画というのは、何か問題が起きて、それを解決することで、ひとつ完結するわけで。アウラの話はその部分。後は、まわりの中学生たちの成長だったり、関係性のお話しだったり、というのが、それぞれ並行して描かれていくわけです。

――劇場版の物語について、もう少し詳しく教えてください。本作はPSPの『.hack//Link』の後の話になるのですよね?

松山 『.hack//Link』の4年後ですね。The Worldも『Link』のThe World R:Xからバージョンが変わっています。『Link』と2022年に起きた“Quantum事件”(編集部注:OVA『.hack//Quantum』で描かれた物語)はつながっていて、『Quantum』と今回の劇場作品はつながっています。

――そう考えると、『.hack』の作品群は膨大な分、制約も大きくなりそうですね。

松山 いや、伊藤さんには「そこは気にしないで」ってお願いしています。そこをつなげるのはうちの役目なので。脚本に関してお願いしているのは、「とにかくおもしろい脚本、見た人間がちょっと幸せになれる物語を」ということです。そこに注力してやってもらわないと、いいものは生まれないので。

――ちなみに『Link』の特別映像(※)に映っていた人物は、本作の主人公だったわけですよね?
※『.hack//Link』をクリアーすると観ることができる“Untitled”と題された映像。

''松山 そうです。だからあのころ、『Link』を作っている真っ最中にも、社内ではガンガン作っていたわけです(笑)

――今回は3Dという点が従来の『.hack』の映像作品とは大きく違いますが、3Dの映像作品を制作するにあたって、いままでと意識の違いなどはあったのでしょうか。

伊藤 脚本側では、ぜんぜん意識していないです。完全に演出にお任せで。

松山 演出面では、今回、フェイスマウントディスプレイ(FMD)がすごくカジュアルでお洒落なものになっている時代の話なんですね。そして今回、メガネをかけて劇場で見るというのは前提なので、劇中でもFMDをかけるシーンをなるべく何度も入れたいと考えました。当たり前に、カジュアルにメガネをかける。かけること自体が、変なことには見えないような表現にしていきたいと。同時に、リアルパートとゲームパートで、立体の視差……奥行き感と飛び出し感の差を付けています。リアルパートのほうは、なるべくアニメタッチで暖かく、でも奥行きはそんなにない。そのかわり、いざFMDをかけてゲームを立ち上げると、中に広大なCGの世界が広がっていて、同時に奥行きが感じられる。そういうメリハリ、韻の踏みかたという部分は、かなり細かくやりました。

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●松山&伊藤コンビ誕生の秘密は“しつこかったから”!?

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――ここで、せっかくおふたりが揃っているので、『.hack』が誕生したころのお話しを聞かせてください。初代『.hack』のリリースは10年前ですよね。

松山 そうですね。いちばん最初に鵜之澤さんから、「脚本家はちゃんと立てろ」と言われて、「誰がいいんだ?」って話し合っているうちに、伊藤さんの名前が出てきたんです。それで「紹介してやるよ」って言われて教えてもらったのが『アヴァロン』(※)の試写会の住所ですよ(笑)。「……これ紹介っていうのか?」って思いつつ試写会会場に行って、「ネットで写真は確認したし、たぶんあの人だよな」とか言いながら、伊藤さんに挨拶をしに行きました(笑)
※伊藤氏が脚本を手掛けた実写映画。監督は押井守氏。2001年公開。

――松山さんが会いに行くというお話自体は、連絡を受けていたんですよね?

伊藤 たぶんあったかな。たださ、その前段階があったじゃん。あの、ダメな企画書(笑)

松山 ああ、“アリスランド”ですね。

伊藤 で、(“アリスランド”の)あいつらが会いたいって言ってるから、ちょっと会ってやってよって。そういう電話かメールはもらってた。俺は当然、会うとめんどくさいことになりそうだから、ってずーっと逃げ腰だったんだけども(笑)。まぁ会うだけなら、と。

松山 会ったときも、その距離感は感じました。この人完全にやる気ないな、って(笑)。ゲームは、ファミコンのころに一度手掛けていましたからね。

伊藤 そう。もうお腹いっぱいで。

松山 「もうゲームはいいや」って第一声で(笑)。「うわー」ですよ(笑)。「これはけっこう骨折れるぞ」と内山大輔(編集部注:バンダイナムコゲームスの.hackプロジェクト担当プロデューサー)さんといろいろ作戦を立てました。バンダイ社内に会議室を借りて、伊藤さんを連れて行って説明したんですが、正直、最初はやんわり断られましたからね。

伊藤 五反田からさらわれて(笑)

松山 会議室でプレゼンテーションをしたのですが、何を言っても「はぁ」「はぁ」って。「ひびかんなぁ〜! これは興味ねえぞー!」と(笑)。

――そのときプレゼンしたのは『.hack』の企画書ですか?

松山 『.hack』の前身の“トレジャーハッカー”の企画書ですね。The Worldの代わりに、“アリスランド”というゲームが舞台になっていました。ネットワークゲームを舞台に、という仕組みそのものは同じだったのですが、The Worldではなかった。

――伊藤さんの薄い反応を受けて、松山さんはどうされたのですか?

松山 内山さんと相談して、「伊藤さんだったらどうします?」というように、言いかたを変えてみました。「うちらはこう考えているんですけど、おもしろくないですか?」と聞いてみると、伊藤さんは「俺はそうしない」と。「俺だったら、まぁこっちかな」みたいに違うことを言われるので、「なるほど……」と。正直、その場は空気が重いまま終わりました(笑)。でも一応名刺はもらったので、翌月になってから改めて伊藤さんに連絡して、「ちょっと直したので見てもらっていいですか? 話を聞くだけ聞いてもらってもいいですか?」とお願いして、また話を聞いてもらって。でもそこでも、「うーん、やっぱ違うと思う」とその都度ダメ出しをしてもらって、……それを半年くらいやったんですよね。

伊藤 最初は、“松山さん”って呼び方だったんですよ。

松山 私たちも、“伊藤先生”って呼んでましたから。

伊藤 「先生と呼ばれるのは好まない」というような話をして、途中から“伊藤さん”になったんだけど、そんなやり取りをしているうちに、「コイツ意外とバカだ」っていうことに気付いて(笑)。「お前なんか“まっちゃん”で十分だ」と(笑)。しかも”まつ”は漢字じゃなくてひらがなだと。漢字にするとダウンタウンの松ちゃんがいるから。だから「お前はひらがなのまっちゃんだ」と。そこらへんから、だんだんと打ち解けたんだよね。

松山 私たちも、「先生ってイヤだ」というのと、「お前なんかまっちゃんだ」という話になったときに、内山さんと「うっし!」ってガッツポーズですよ。「よしこれ行ける!」って(笑)。

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――でも伊藤さんも、ミーティングを重ねるうちに、これはおもしろいものになりそうだと感じられたわけですよね。

伊藤 ていうかね、まず企画よりも、コイツがおもしろそうだからっていう。「ちょっとつきあってみてもいいかな」っていう気分になったんだよね。

松山 そこで、「昔と違ってゲームの表現力も上がっていますし、いろいろおもしろいことができますよ」ということを伝えつつ、「とにかくウチらは、伊藤さんと仕事がしたいんです!」、「ガッツリできなければ、ウチらが書いたものに対してアドバイスしてくれるだけでもいいですから!」とお願いしました。

伊藤 そうやって騙された(笑)。最初はダメ出し要員だったんだけど、途中から面倒臭くなって、「いいや俺書くわ」って(笑)

松山 そのたびに、ビルの二階で「よっし!」って(笑)

――本当に『.hack』は、松山さんありき、伊藤さんありきで実現したプロジェクトなんですね

伊藤 とにかくね、あきらめが悪かったんだよ。

松山 だってね、コレで大成功できなかったら、「お前ら首ね。おしまい」って鵜之澤さんに言われたから(笑)

――ところで、そもそも「ぜひ伊藤さんに脚本を」となったのは、なぜなのでしょうか?

松山 当然『パトレイバー』が好きだったというのもありますが、『攻殻機動隊』を書かれていたというのは大きいですね。我々が作ろうとしているゲームも、電脳世界を描くということは決まっていましたから。『アヴァロン』もゲーム世界を描く作品でしたし、ちょうど伊藤さんがそういうチャンネルになっているだろうと。

――なるほど。そのころ、伊藤さんはそういう方面に興味を持たれていただろうと。
伊藤 ていうかむしろ、「うわ、また?」っていう感じだったよね(笑)

松山 そりゃそうですよね。『アヴァロン』がやっと終わったのに、って(笑)

――では伊藤さんは、題材に惹かれたわけではなく、やっぱりひとえに松山さんの情熱に惹かれたわけですね。

伊藤 いや、しつこかったから(笑)。情熱とか、「あ、コイツは熱いやつなんだ」っていうのは、また後の話。

松山 鵜之澤さんも、よくこのプロジェクトにゴーを出してくれたと思うけど、やっぱりそれもしつこかったからなんだろうなぁ(笑)

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――『.hack』は本当に大きなプロジェクトですからね。成功の影には相応の労力があったのも当然ですよね。

伊藤 あのころ、すっげぇ仕事したぜ。最初の『.hack』のとき。

松山 いちばん仕事したんじゃないですか、『パトレイバー』以降だと。

伊藤 この10年で言うとそうだね。

伊藤 自分史の中で、エポックになる作品ってあるんですよ。俺でいうと、いちばん最初のエポックって『ガメラ』(※)なんです。あれで独り立ちできたというか。それまでは押井守さんとセットで語られることが多かったんだけれども、『ガメラ』以降は、脚本家伊藤和典、というようになって。ただ実写をやったら、とたんにアニメから声がかからなくなった、っていうのがあったりするんだけど(笑)。『ガメラ』3部作の後で、ちょっとシュンってなってた時期があって、そこでつぎのエポックが『.hack』だった。
※1995年公開の『ガメラ 大怪獣空中決戦』。好評を受けて、『ガメラ2 レギオン襲来』が1996年に、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』が1999年に公開された。これらは“平成ガメラ三部作”と呼ばれ、数々の映画賞を受賞した。いずれも伊藤氏が脚本を担当している。

――それは周囲の、伊藤さんへの見かたが変わったということですか?

伊藤 今度はね、「伊藤君、ゲームのほうにいっちゃったんだ」って(笑)

松山 ああ、そうなるんだ(笑)

伊藤 行っちゃったわけじゃないんだけど、ゲームはやってたから。それでますます仕事の幅が狭まった、っていう感じはあったんだよ。そのあと『ピストルオペラ』(※1)とかやって。あとで樋口真嗣(※2)に言われたのはね、「普通、ゲームのほうに行っちゃうとなかなか戻ってこないんだけども、この人は行ったり来たりしているちょっと変わった人なんだ」って(笑)。つぎのエポックは『MM9』(※3)なんです。そういうしがらみを、一度ぜーんぶなしにして、“伊藤和典完全復活!”っていうのが『MM9』で。順番でいうと、今回の映画は『.hack』期の最後の作品になる。『MM9』の直前に書いたのがこれなんです。そういう意味では、自分的には『.hack』の総決算です。

※1 2001年公開の実写映画。監督は鈴木清順氏。
※2 平成ガメラシリーズでは特技監督を担当。『日本沈没』などの監督としても知られる。
※3 2010年に放映された山本弘氏のSF小説を原作とするテレビドラマ。伊藤氏が脚本、樋口真嗣氏が総監督を務めた。

――それにしても、伊藤さんが脚本を書かれた『.hack』作品は、初代4部作と、それに同梱されていたOVAの『.hack//Liminality』、それにアニメ『.hack//SIGN』が2クール。これだけの物語が生み出せるというのはすごいですよね。それは『.hack』の構造の妙もあるのでしょうか。

伊藤 構造というかね、設定なのかな。“ゲームと、ゲームをプレイしているリアルの誰かさん”という設定だけで、無限に物語は生まれていくわけですよ。だって、この人を変えればいいだけだから。

――ああ、なるほど。最初の『.hack』でいうと、それが少年漫画的なヒーローだったわけですね。

松山 そうですね、巻き込まれ型のヒーロー。英雄のそばにいたから事件に巻き込まれたんです。

――対して、『.hack//G.U.』の主人公は特殊でしたね。

松山 真逆ですね。最初から復讐が動機でしたから。

――そうやって主人公を変えていくことで、物語が生み出せるわけですね。

伊藤 たとえば『パトレイバー』は、第二小隊の連中がいないと成立しないんですよ。レイバーと新しい第二小隊のメンバーでは、『パトレイバー』にはならない。なんかやっぱり、ちょっと違うモノになっちゃう。でも『.hack』は、The Worldと、それをプレイする誰か、っていうのさえあれば、『.hack』の物語としては無限に語り続けられる。

松山 実際のオンラインゲームだと、人のプレイにはそもそも興味を持たないものです。自分のプレイと、自分の身の回りにいる友だちと共有できる経験がすべて。普通は、向こうのほうでやっている上級者の人のバックボーンに何があるかなんて興味を持たないですよね。でも実際には、すべてのプレイヤーが「自分はすごく特殊な経験をしているな」と思っていて、やっぱり人の数だけ物語があるものなんですよ。それを第三者が見ても興味が持てるような物語にするのが、『.hack』のおもしろさだと思います。『.hack』は匿名性がすべてで、ほかのファンタジー世界のRPGとも、リアルを描いたものとも、どれとも違っていて、目の前で動いているこの少年、この犬が、「本当は誰なんだ?」というのがちょっとしたミステリーになる。この匿名性が、『.hack』の心臓というか。ずっと、「これは発明や!」っていうのは、10年前から言っているんです(笑)

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●意外や意外、松山洋は……!?

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――松山さんは今回、監督という立場で作品を作られたわけですが、いままでの物作りと意識を変えた部分はあるのでしょうか?

松山 スタッフに対して言っていることは変わらないですね。ただゲームと違うのは、映像って、最初の5分、15分ですべて決まるんですよ。観ている皆さんが、「この作品は自分の敵か味方か?」というのを、15分で決めてしまう。そこまでの段階で感情移入できていなければ、そこから先は、「で、どうやって楽しませてくれるの?」というくらいの、ちょっと“敵側に回った気持ち”になってしまうんです。でも、そこまでにググッと掴めてさえいれば、そこから先は自分にとって大切な作品として、最後までお付き合いいただける。

――なるほど。さすがにゲームを遊ぶ場合に、最初の15分で見切りを付けるということはないですね。

松山 ゲームでも当然、冒頭はとても大事ですが、ゲームでは、まず説明しなければいけないこと、システムがいっぱいありますから。対して映像は、説明することよりも、感情をノセることを冒頭からやっていかないといけない。見ている人が興味を持てない演出が続くと、もうそれはアウトになってしまうので。かといってハリウッド映画みたいに、いきなり列車事故から始まったりするのは乱暴過ぎですけどね。目を離せない大事故、大爆発、大戦争を描くことで心を掴んだように見えても、それはアバンが明けて、タイトルが出て、本編が始まったときには、みんなすっかり忘れてしまっていますよ(笑)

――そのほかに、ゲーム制作との違いを意識された部分はありますか?

松山 ゲームクリエイターが作る映像と、いわゆる映画マンが作る映像と、アニメ屋が作る映像って、それぞれやっぱり違うと思うんですよ。我々は、ゲームクリエイターらしい“もてなしの心”というのを持っていますし。

伊藤 (笑)

松山 持っていますよ、本当に(笑)。お客様のために、作り直すこともへっちゃら……と言ったら誤解を生むかもしれないですけど、普通は映像の現場って、上から下に流れていくんですよ。脚本があって、絵コンテがあって、レイアウトがあって、原画があって、動画があって、これらは全部違う人が担当しているんですね。この人の作業が終わったら、つぎはこの人、という流れになっている。だから、コンテから直すとか、原画から直すということはありえないんですよ。それをやると、動画がつながらなくなってしまう。でもゲームの場合、呼び戻し、やり戻しは当たり前です。当然、データの入力し直しというのもあって、それを映像でやったら、たいへんなことになってしまいましたが(笑)。でもその分、ほかの映画と違っていて、我々らしい、ゲームクリエイターのもてなしの心がたっぷりつまった、すごく見やすい、やさしい作品になっていると思います。

伊藤 俺は3Dチェック用の仮音声が入ってるやつでしか、つながった映像は見ていないんだけど、ちょっと思ったのは、まっちゃんって、意外や意外、「壊す人じゃなくてまとめる人だったんだ」っていうのはちょっと感じた。

松山 今回、まとめることはすごく意識しました。

伊藤 壊すタイプと、まとめていくタイプとあって、てっきりもう、壊すタイプの人だと思っていたんだけど。意外や意外、まとめるタイプで。

――それは、いままでいっしょにゲームを制作された中では見えてこなかった部分ですか?

伊藤 うん。

松山 まとめたのは、たぶん今回が初めてだと思いますよ。よく「サイバーコネクトツーのゲームって、映像はすごいけどシステムはいまいちだよね」って言われることもあって、じつはおっしゃる通りのところもあると思っているんです。でも、システムがすべてじゃないですよね、ゲームって。システムが70点で粗があろうが、そもそも、「おもれー!」っていう気持ちになって遊べるかどうかが大事じゃないですか。初代『.hack//』シリーズにしても『G.U.』にしても、システムとしては、正直粗いですよ。『TRILOGY』のときも、どちらかというと壊す側だったと思います。「ここだけは絶対とんがらせろよ、そうするとみんな夢中になれるから」という作りかた。……まああれは、予算も時間もなかったので、粗くても見ている人間にやけどさせるような、そういう作品を作ろうぜ、という意図がありましたが。

――それが今回、まとめる方向で制作されたのは……?

松山 今回は、全国劇場公開で、ひとりでも多くの人に見てほしいわけですよ。そして見ていただく以上は、絶対に損はさせないし、やっぱり、ほんのちょっとだけですけど、幸せな気持ちになってもらいたい。そういう作品ってそうそう巡り会えないじゃないですか。「この映画はあたりだったなー」って思えることって、1年に数回どころか、数年に1回だったりしますよね。なので絶対に、見てくれたお客さんには「見てよかったな」と思ってもらえるように、とにかくしっかりまとめようと。そして、極力ムダを省く。必要なことだけを、すごい高いレベルで計算してはめていく。そのために、何回もクラッシュ&ビルドしましたから。

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――それでは、最後に読者に向けて、本作の見どころなどメッセージをお願いします

伊藤 完成品見てね−、と(笑)

――もうひと押し、見どころをおねがいします!(笑)

伊藤 俺的には、中学生の人間模様かなぁ。あとは、ファミ通の読者さん向けで言えば、ネットゲームを初めてやったときの戸惑いとかを、もう一回体験できるように書きましたと。

松山 私は、主演の桜庭ななみさんに言われた言葉が印象的で。彼女はゲームをあまりやらないそうなのですが、アフレコ収録をするときに、映像の中で、主人公のそらちゃんも初めてゲームに触れてドギマギするんですね。そこで桜庭さんが、「たぶん、私がいまからゲームを始めたら、そらちゃんとまったく同じことになっちゃうと思う」というようなことを言ってくれたんです。我々は、ゲームを初めて遊んだ人の気持ちを想像して、失敗したり、うまくいったり、恥ずかしい思いをしたりっていう気持ちを詰め込んでいこう、と思って作りました。それが主演の桜庭さんに、そう感じたと言ってもらえたのはうれしかったですね。ファミ通を毎週読んでいる熱心な……まぁ、男性の読者が多いと思いますが(笑)、たまには女の子を連れて観に行ってほしいですね。きっとその子も喜んでくれると思います。ちょっと甘酸っぱくて、汗をかくと思いますけど(笑)

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