●男性女性、ともに安定した人気を誇るKLab

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▲KLab森田英克取締役。

 女性向けタイトルである『恋してキャバ嬢』や、男性向けタイトル『真・戦国バスター』など、男性女性ユーザーそれぞれで着実な人気を獲得しているKLab。Mobage、GREE、mixi、ニコニコアプリと、プラットフォームを問わず、人気タイトルをリリースし続け、各ランキングでも上位常連となっている企業だ。今夏、ソーシャルゲーム企業としては初となる東証マザーズへの上場を行い、ますます注目が集まっている。

 そこで今回は、同社のソーシャルアプリ事業の立ち上げから参加し、現在も第1線でソーシャルゲーム制作に携わっているという森田英克取締役のインタビューをお届け。数多くの人気タイトルを安定してリリース・運営し続ける秘訣に迫る。

●失敗から学んだ“内製”というやりかた

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――Mobage、GREE、mixiなどで数多くのヒット作を生み出されておりますが、2009年にソーシャルアプリ事業が立ち上がった経緯を教えてください。
森田英克氏(以下、森田) 2009年の春ぐらいに、mixiがモバイル・PCの両方でオープン化するらしいという話を聞きました。そこで、これからはモバイルが絶対くるだろうという代表の判断で、ここは一気に攻めるぞ、という意思決定がされたんです。結果、私を含め5名のメンバーが選抜されました。当時は1本のアプリを作る難易度や負荷が全然わからなかったので、とりあえず作るだけ作るかという流れで、4~5本ぐらいを同時に企画したんです。

――そこからソーシャルゲームを作り始められたわけですね。
森田 いちばん最初はmixiのPCでツールアプリみたいなものを出したんですけど、それがもう全然流行らなくて(笑)。もうモバイルでいくしかないよね、っていうところで出していったのが、『恋してキャバ嬢』と『トイボットファイターズ』、『モンスターバスター』というタイトルです。けど、結局全部のプロジェクトを外部のゲーム開発会社さんとやっていたが故に、うまくいかなかったポイントというのがたくさん出てきてしまって。『トイボットファイターズ』と『モンスターバスター』は、そもそもゲーム性がコアすぎてユーザーさんが全然ついてこれず、数字的に厳しかった。『恋してキャバ嬢』は、ユーザーさんの反応はものすごくよかったんですが、自社で開発してなかったので負荷対策ができておらず、3日ぐらいで止まっちゃったんですよ(笑)。ユーザーはどんどん入り続けるのに、サービスができない状態っていうのが結局2ヶ月ぐらい続いてしまったんですが、外部の開発会社さんだけだと問題を解決できなかった。そこで、うちの技術者から役員まで全部つっこんでプログラムの改修をやって、なんとか動くようになったのが2010年の3月ぐらいです。そこからはユーザーさんが一気に増えて、当時で言えば大ヒットと言っていい大成功だったと思います。そういう経緯があって、そこから先はすべて内部開発、内部運営に切り換えたわけです。

――男性向け、女性向けで新作が続々リリースされると、各タイトルともすぐにランキングの上位に入ってきます。それぞれで多くの支持を集めた成功の要因とは、やはり内製に切り換えたというのがひとつ大きな要因なのでしょうか?
森田 タイトルの人気にムラがない、というのは自慢要素ですかね(笑)。うちはゲームシステムを作るときに、ひとりでは決めないんですよ。プロデューサーひとりに、このゲームの内容は全部あなたにお任せします、出来上がるまで見ません、ということはしません。作っているプロセスをほかのプロデューサーとみんなで共有して、ブラッシュアップしていく、というスタイルをとっているんです。もちろん、スタッフ全員が参加するわけではないですけど、プロデューサークラスはほとんどの作品に大なり小なり関わっていく、みたいなイメージです。プロデューサーそれぞれがノウハウを蓄積していったとしても、人に依存して別々に獲得したノウハウを全部網羅して、すべてをキャッチアップして、毎作品ごとに盛り込んでいくことは、普通に考えるとかなり難しい。であれば、それぞれが見つけたことをシェアしながら、初期段階から一緒に作り上げることによって全体の力を上げましょうと。

――なるほど。ちなみに、ソーシャル事業に関する現在の社内体制はどのようになっているのでしょうか?
森田 KLabGames1部2部というふうに分かれていて、私は1部の担当をしています。1部は海外向けのゲームとIPもののタイトルをお預かりしてゲーム化し、2部は国内向けのゲームを作っています。ただ、クオリティ管理だったり、KPI(重要業績評価指標)の分析といったところは一括して横軸で組織を作って、まとめてみんなで見ています。また、コアメンバーは週に2回ぐらい集まって新しいアイデアやイベントの企画を出し、悪いところがあれば何が原因なのか、みんなでいろいろ分析したり仮説を出したりしています。

――では、そのコアメンバーの下にいる人数はどれぐらいなんでしょうか?
森田 ソーシャル関係だけで150~60人ぐらいで、その内、企画とクリエイティブが100人ぐらいです。で、開発が5、60人。稼動しているラインは15本くらいですかね、開発中も含めて。運用で10ライン、新規で5、6ラインってところです。

●取締役、兼、ライター!?

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――御社のタイトルは、イラストが魅力的なものが多いですが、イラストも内製ですか? 線画だけ描かれて、色付けなどを分担されていると聞きました。
森田恋して彼氏』や『恋してキャバ嬢』は、基本内製ですね。『戦国バスター』や『三国志バスター』はイラストの量が多すぎるので、一部外部の方にお願いしています。シナリオも内製ですよ。ソーシャルゲームの中でお話を読ませるポイントやコツって、わかりにくいんですよね。やはり、お話の切りどころって大事じゃないですか。ユーザーさんが気になるところで終わっていて、文章は長すぎず、且つ、回りくどい表現は使わないとか。

――システムを知っていると、その辺りがわかりやすいというわけですね。
森田 そうなんですよね。内製だと、画面内に一度に表示できるのは何文字×3行とか、そういうところまで知ったうえで書けますから。それと、PCゲームやコンシューマーゲームの感覚だと、わりと細かい描写を書いてユーザーさんにストーリーの背景などを想像してもらいながら、小説を読むような感覚で読ませるものになるじゃないですか。けどケータイゲームだと、ちょっと前の話を覚えてないんですよ、多分そんなに(笑)。複線を張りすぎると、何のお話だったのかサッパリわからなくなってしまう。シンプルでわかりやすく、パッと読んでパッと頭に入ってくる物語の作り方、文章の書き方みたいなものは、意外と難しいと思います。逆に、すごくケータイのソーシャルゲームに慣れていらっしゃるライターさんがいたら、ぜひご紹介してください(笑)。ちなみに、けっこう自分でも書いてるんですよ。『三国志バスター』と『真・戦国バスター』はほとんど書いています。

――ご自分でシナリオを? そんな会社はなかなかないですよ!(笑)
森田 ですよね(笑)。『真・戦国バスター』は最初から狙って書いているんです。普通に史実を意識して、真面目に歴史ものの物語を作っても、Mobageユーザーさんは多分読まないだろうと。ファンタジー要素が入っているとか、少年マンガみたいな感じが好きそうだ、というのを想像していまして。ちょっとカッコイイセリフを時々織り交ぜながら、ストーリー展開もつぎが気になるようにしたり、一週間待って最新のシナリオを読んだときでも、過去の話がわからなくならないようにシンプルなストーリーにしたりと、緻密に計算して書いてるんです。ソーシャルゲームで、どのくらいのユーザーさんがシナリオのクオリティーを求めてるかわからないですけど(笑)。

――そういう少年マンガ的な描写や、カードが進化するとどんどんカッコよくなっていく、というのは、単純ですけどハマりこむ要因ですね。
森田 たとえば『三国志』のようなややこしい話を、いかにシンプルにまとめて、キャラクターの魅力を伝えていくか、というところですが、史実に基づいて壮大なストーリーを書こうと思うと、元々が複雑なお話なんで、ケータイの小さい画面で詳細なストーリーを表現しても、『三国志』に初めて触れるユーザーさんにとっては、ちんぷんかんぷんになってしまいます。なので、登場人物に焦点を絞って、いかにカッコイイことを言わせて、いかにカッコイイエピソードをわかりやすいお話として作っていくかを意識しているんです。『三国志』ファンにとってはおなじみの登場人物でも、そこまで深くお話や人物のことを知らないと感情移入しにくいですが、ストーリーの中で登場させることによってキャラクター付けをして、ユーザーさんの認知度を高めてから、強いカードとしてガチャにリリースするとかは意識しています。『恋してキャバ嬢GP』がまさにそういうやり方で、キャバ嬢の女の子のカードがたくさん出てくるんですけど、ただイラストが100枚あっても、なんの魅力も持っていません。でもストーリーの中で、ちょっと意地悪な子なのか、主人公を助けてくれるいい子なのか、みたいなものを描写することで、「欲しい」という気持ちを少しは増幅できるのではないかと。ここはユーザーさんの感情をコントロールしていく部分なので、明確な答えはデータとして取れないからわからないんですけどね。

――ソーシャルゲームがこれだけ出ていて、業界全体がレッドオーシャンなんじゃないかと言われていますが、しっかりマーケティングをして、その中でもブルーのところを探されると。
森田 いや、僕らはレッドだとは思ってないんですよ。いまあるゲームよりいいものを作ればレッドではなくなるので。単純に、“戦国ゲームが20個あったら、そこに戦国ゲームを被せて売れないのか?” 『真・戦国バスター』を出す前はやっぱりそう思い、ちょっと不安でしたけど、結果的に戦国ゲームの中では、DeNAさんの『戦国ロワイヤル』とKONAMIさんの『戦国コレクション』のつぎくらいには、ユーザーさんが付いてくれました。実際、最後発ですよね、その中で言うと。このように、よりいいものを作ればユーザーさんは付いてきてくれる、ということがある程度わかってるので、全然レッドオーシャンだとは思いません。そんなに市場は小さくないですし、どのジャンルのゲームを出しても、そこそこ当てられる自信はあります。

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▲社内に貼られた各タイトルのポスター。KLabのソーシャルアプリ事業成功を決定づけた『恋してキャバ嬢』のほか、いろいろなポスターが飾られている。

――ちなみに、自社のゲームはどのくらいプレイされていますか?
森田 本数が多いので全部はできていないんですけど、『真・戦国バスター』とか『三国志バスター』は上位ユーザーになるぐらいはやってますよ。他社さんのゲームと併せて、課金は毎月3万円ぐらいですかね。社内では10万円くらいつぎ込んでる人間もいますよ、自費で(笑)。研究のためだからと、自社のゲームにつぎ込む人間も多いです。自分たちでアイテム付与できるんですけど、みんな嫌がるんですよ。実際にお金をかけないとユーザーさんの気持ちがわからないって(笑)。

――御社に就職を希望している人材も数多くいると思います。そういった人たちや、これからソーシャルゲーム業界を目指す人たちにアドバイスをお願いいたします。

森田 基本的に小手先のスキルとかはどうでもよくて、どれだけ頭を使って、いろんな物事を考えて分析して、アイデアをいろんな角度から出せるか、みたいなところに尽きると思ってます。それさえできる人だったら、スキルなんて後から付いてきますし。創意工夫をする、小さい違和感を覚えるポイントを見逃さない、主観に入り込まずに一歩引いて客観的に物事を見られる、ユーザーさんの気持ちを考え、お客さんに出すものは最高のものを出すというこだわりを持って自分の仕事をする、そんなところが重要かと。スキルじゃない分、難度は高いかもしれません。ベーシックな地頭っていうんですかね、そこがいちばん大事です。地頭がいい人だと、入って半年もあれば普通にディレクターとかやれちゃうんですよ。実際、いろんなスキルや経験みたいな枝葉の要素はすごくなくても、人として、幹の部分がしっかりしている人が活躍していますし。思考停止してしまうとか、プライドが高すぎて自分を一度リセットできない人は多分向いてないですね。そういう意味では、僕らは自分たちのことをゲーム屋さんだと思っていません。ゲームを作ってはいますけど、お店をやっているイメージです。いかにお店にお客さんに入ってきてもらうか、そこから品物を買いたくなるような導線設計をどのようにするか、定期的にイベントを打っていくかとか、そういう運営が一番重要だと考えています。ということは、商売のセンスがある人が一番向いているのかな、って思いますね。

※世界市場を狙う業界の風雲児・gloops梶原吉広社長インタビュー【ソーシャルゲームの成功者に訊くVol.1】
※“神運営”とも称されるソーシャルゲームドリームの体現者たちに直撃【ソーシャルゲームの成功者に訊くVol.2】