●ユーザーに愛されるゲームを作ったレグゼ

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▲代表取締役の田中宏明氏(写真右)と、取締役の高橋章浩氏(写真左)

 少人数の家庭用ゲーム開発未経験者たちがソーシャルゲームで成功を収める。そんな“ソーシャルゲームドリーム”を実現した人たちがいる。Mobageで『伝説のまもりびとbyGMO』を開発、運営しているレグゼだ。GMOインターネットが主催するソーシャルアプリ開発支援サービス“アプリやろうぜ!プロジェクトbyGMO”に、たったふたりで参加。カードバトル系のソーシャルゲームが主流の中にあって、同社の『伝説のまもりびとbyGMO』は、タワーディフェンスタイプのゲームで、50万人以上の登録者数を誇り、月商1億円を超える勢いがあるという。その成功事例はソーシャルゲーム業界内では有名で、一部では“神運営”と称されるほど。

 そこで今回、『伝説のまもりびとbyGMO』を立ち上げたレグゼの代表取締役である田中宏明氏(以下、田中)と取締役の高橋章浩氏(以下、高橋)に直撃インタビューを敢行し、成功の秘密に迫った。

●運営も、楽しみながら作ることが大切

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――『伝説のまもりびとbyGMO』(以下、『まもりびと』)を提供開始(2010年8月開始)され、いまでも数多くのファンに愛されています。これまでを振り返っていかがでしたか?
田中 ユーザー数が50万人を超え、多くの人たちに遊んでいただけてよかったなと。月並みな言葉ですが、がんばった分だけの結果が返ってきたんじゃないかと思います。

――運営するなかで、とくに印象の強かったことは?
田中 資金が少ないなかでのやりくり、運営ですね。短期的な売り上げをチェックしながら、長期的なゲームのバランスを考える。短期的なことにとらわれてゲームバランスを変更すると、一気にしらけてしまいますから。ゲームと会社が死なないように両方のバランスを考える点は苦労しました。

――運営してきて、よかったことはありましたか?
田中 ユーザーの声が近いところです。不満や厳しい意見もいただきますが、逆に満足していると言ってくれるユーザーもたくさんいます。『まもりびと』をやめる人でも、ゲームがイヤだから、お金がかかるから、といった理由ではなく、ある程度やり切ったから気持ちよくやめる、という声をいただけると、やっててよかったな、と思いますね。

――私もプレイしていますが、ユーザーひとりひとりの熱量がすごいですよね。各ユーザーのプロフィールに書かれているコメントを見ても、ゲームに対する愛情が伝わってきます。
田中 細かいことではありますが、単純作業でボタンをポチポチ押していくソーシャルゲームでも、そういうユーザーの息づかいが感じられるメッセージがあると、ゲームが生きているような感じがすると思って、そういう仕様を随所に散りばめました。

――『まもりびと』が成功したのもそういう積み重ねがあればこそなのでしょうか?
田中 ソーシャルゲーム業界では“細かい工夫”というと、どうしても「売り上げを上げる」ことに偏りがちなのですが、僕らはそういうことだけを考えていてはゲームがおもしくなくなると思うんです。ゲームをより楽しんでもらうためにはどうすればいいかを考えたことが、結果につながったのではないかなと思っています。

――確かに遊び心が満載ですよね。画面の下にゲームのアドバイスや攻略法が表示される“TIPS”の欄でも、「製作者たちはラーメン好きらしい」って書かれていて、ゲームに関係ないじゃんって(笑)。
田中 意味わかんないですよね(笑)。そういったことも、ソーシャルゲーム業界的に見れば「何をやっているんだ」、「そんなことより、KPIのレポート見ろ!」、「離脱率を分析しろ!」と言われますから。だけど、それじゃつまらない。

●ゲームにハマっていた学生時代

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――お話を聞いていると、「ゲームのおもしろさ」を優先して作られている感じがします。ところで、おふたりは家庭用ゲームもお好きなんですか?
高橋 大好きです(笑)。ほとんどのゲームハードを持っていますし、子供のころから遊んでいました。週刊ファミ通も毎週読んでいますよ。ファミ通の有名プレイヤー“まじまじん”さんと『スーパーストリートファイターIV』を1時間ぶっ通しで対戦している時期もあったほどです。彼は全国クラスなので、負け続けましたが(笑)。

――ありがとうございます(笑)。格闘ゲーム以外でプレイされているのは?
高橋 スポーツとレース以外ならなんでも、という感じです。高校ぐらいまではずっとゲーセンに通っていたので、アーケードや格闘メインでした。じつはこの前、社内にプレイステーション3を置きまして。格闘ゲームで社員と戦っているんです。
田中 我が社の昇給試験です(笑)。

――昇給のハードルが高そう(笑)。田中さんはどうでしたか?
田中 僕は、中学生のときに『バーチャファイター』と『バーチャストライカー』にハマっていました。先生にバレないよう、自転車で30分かけて別の市のゲーセンに通っていたんです。そして我が家にはメガドライブがあったので、僕の兄に「セガは最高だ」と洗脳されながら『ソニック ザ ヘッジホッグ』などを遊んでいました(笑)。のちにプレイステーション2を買ったのですが、セガ信者だったので非常に抵抗感があった思い出があります(笑)。

――(笑)。そういったゲーム体験が、『まもりびと』に活かされているんですね。
高橋 家庭用ゲームを知っていると、ゲームっぽい絵や雰囲気がつかみやすかったりとかあります。現在いるスタッフ8名のうち、ゲームを本格的に遊ぶのは半分くらいなのですが、今度採用するとしたらゲームしているかどうかをまず聞きます(笑)。
田中 仕事ができないとかそういうわけではないのですが、やっぱり話が早いんですよね。

――なるほど。では、『まもりびと』の制作にあたり影響を受けたゲームはありますか?
田中 『まもりびと』は武器の作りかたが特徴的なのですが、あれはPCゲームの『ディアブロ』を参考にしています。あとは『モンスターハンター』シリーズの“みんなと遊べる”という部分や、地道にコツコツ素材を集めて武器を作るという部分など、細かいところを参考にしています。
高橋 僕も『ファンタシースターオンライン』とか『シールオンライン』とか『クロスゲート』といったオンラインゲームを、50本くらい遊んで参考にしました。「ユーザーはどういうアイテムが欲しくなるか?」を身をもって経験したという感じです。
田中 実際にオンラインゲームをたくさん遊んで、「コレがおもしろかった」と思った部分ばかりをつめこんでいますね。超レアな武器を手に入れたときの快感などを感じられるようにしたかったんです。

――プレイしていても、そういった快感、達成感などを感じることが多いです。
田中 仲間を連れて行ける時間を制限しているのも、オンラインゲームのイメージです。オンラインゲームはリアルタイムなので、相手がログインしなければ当然連れて行けない。「あの人が来てくれた! 今のうちにアイツを倒そう!」という感覚を演出したくて、ログインしてから何分以内、というシステムを入れてあります。「こいつを倒しに行きたいから、ちょっとこの装備にしてくれない?」というのもオンラインゲームではふつうにありますしね。

――まさにそうやって遊ばせてもらっています(笑)。ちなみにイベントの制作から実装までの期間はどれくらいなんですか?
高橋 ひらめいたら即提案、というかたちなので、思いついて準備して実装で、1週間ぐらいですかね。早いものなら3日で実装します。

――は、早い!
田中 大きなアップデートは1ヵ月くらいかかりますが、緊急任務くらいなら1週間です。それぐらいのペースでどんどんやっていかないと、ユーザーのゲームの進み具合がとても早くて、すぐに追いつかれてしまうんです。
高橋 始まったばかりのゲームを遊んでいて2週間以上何もイベントがなかったら、僕はやめちゃう。“何もイベントをやっていない期間”を1週間でも作ってしまうと、それだけでユーザーは離れていってしまうんです。せめて予告を出さないと、「この運営やる気ないのかな」って思われてしまう。そういう意味で、スピード感は重要だと思います。

●チャンスをつかむためには、努力が必要

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――何名で運営されているんですか?
田中 常駐の人間は、プログラマー、デザイナー、あとはお問い合わせの対応とかで、僕含めて8人です。

――8人はすごく少人数に思えます。
田中 最初は僕と高橋のふたりでした。あとサーバーなどを見てくれる人間が外部におり、何かあれば連絡をくれるのですが、何か不具合が起こるとそれより前にサークルが炎上するので、「ヤバイ」と思って対応します(笑)。

――ゲーム開発や運営は過酷なイメージがあるのですが、勤務時間はどれくらいなんですか?
田中 定時は午前10時から午後7時です。でも、僕らがやっていることは“ものづくり”で、しかもここまでやれば完成! というラインがないので、必要なときに必要なだけやる、というスタンスですね。大げさかもしれませんが、音楽や絵を描くと言った“芸術”に近いな、と思っています。時間に縛られていてもいいものはなかなかできない。でも時間には限りがあるし、全部やろうと思っても無理なので、妥協している部分がいっぱいあります。ソーシャルゲームのいいところは後で直せるところなので、まだ人数が少なかったころは、ここはクオリティーが低いけど仕方ない。より重要なこっちに力を使おうという、“選択と集中”を意識していました。

――運営にあたって心がけている部分は?
田中 おそらく家庭用ゲームよりもユーザーの声がリアルタイムだと思うので、サークルや掲示板とか、お問い合わせとかをずっと見ています。その声に対して直接的に答えが出せなくても、ずっと聞いていると、全体の雰囲気とかニュアンス、ユーザーが何を求めているのかがわかってくるというか。数値化はできませんが、そういったことが土台になるので、意識して心がけています。

――会社自体を今後どのようにしていきたいと思いますか? やはり人員を増やして、会社を大きくしたいのでしょうか?
田中 あまり考えたことないですね。もともと僕らはやりたいことをやるにあたって、会社というものが必要だったので作っただけです。会社をこうしたい、という思いはあまりなくて、自分たちが作っているもの、いまは『まもりびと』をよりよくしていく、大きくしていくということがメインです。必要があれば会社を大きくしますが、そうでなければ意味なく大きくすることもないと思っています。

――なるほど。そんなレグゼさんは業界で注目の会社だと思います。憧れる人も多いと思うのですが、これからソーシャルゲーム業界に入りたい、参入したいと思っている人たちにアドバイスなどはありますか?
田中 ソーシャルゲーム業界はアプリタイプとブラウザタイプに分かれるのですが、ふたつは技術的な内容も違ってくるので、どの分野でやりたいかによって大きく変わってきます。Webやインターネットへの興味があるか、勉強してみたいかどうかが重要だと思います。レグゼに入社していただくなら、ちゃんと動くしっかりとしたシステムの制作に関して力を貸してくれる人がいいですね。

――家庭用ゲーム以外で、参考にしている、実際に遊んでいるソーシャルゲームはありますか?
高橋 Mobageの『東京魔法戦争』をやっています。ちょっとやりすぎてランキング1位を取ってしまいました(笑)。あとはアカツキさんの『絆のファンタジア』やGloopsさんの『大争奪!!レジェンドカード』も遊んでいました。『大争奪!!レジェンドカード』は課金に手が伸びて、歯止めが効かなくなりそうでした(笑)。

――そのなかでも一番長くプレイされていたのは?
高橋 『絆のファンタジア』ですね。2〜3ヶ月くらいはやっていました。最近イチオシになっているタイトルは、なぜか長続きせず……。イチオシのタイトルは、ライトユーザーでも遊びやすく、たくさん人が集まっていておもしろいからイチオシにもなるのだと思うのですが、ゲーマーとしてついついコアなものを探してしまいます。

――やはり、根っからのゲーマー気質なんですね。
高橋 そうですね……そろそろカードゲーム以外も遊びたいです(笑)。

――今後はスマートフォンへ移行するに従って、リッチコンテンツのゲームが増えていくような気がしますね。
高橋 スマートフォンでは触っておもしろいのももちろん大事なのですが、僕としてはシステムをおもしろくしてほしいなって思います。ゲーマー向けのゲーム、出ないかなぁ、なんて思いながら日々を過ごしています。

――ちなみに、そんなゲームを作るご予定というのはありますか?
田中 『まもりびと』は、『Eight Defender's』という、高橋が作ったブラウザゲームが元ネタになっているのですが、最初は『Eight Defender's』をそのままやろうとしたんです。でも、ケータイでは限界があったので「もういっそ、何も操作しないやつにしよう」となり、いまのかたちになりました。スマートフォンではやれることが増えているので、その辺をうまく活用したいですね。だけど、ただタッチしてそれで終了、というものは作る気はありません。それはそれでおもしろいとは思いますが、作るならちゃんとした”ゲーム”を作りたいです。新作は、近いうちに発表できるといいなと考えています。新作は、ほぼ確実にスマートフォン対応です。

――楽しみにしています!
田中 ありがとうございます。完成度の高い、より楽しいものを提供できるようにします。

――最後に、ソーシャルゲーム業界で成功したおふたりの姿に憧れる読者へ、ひと言アドバイスをお願いします。
田中 アドバイスなんて、そんな偉そうなことは言えないのですが……僕らは運がよかった、というのは間違いなくあるのですが、そういう運やチャンスは誰でも平等に、必ず来ると思っています。ですが、それを活かせるどうかは自分次第です。自分が興味ある分野を作っておくことと、それに対して常に自分を高いレベルで保っておくこと。でないと、せっかくチャンスが巡ってきても、発揮できるものがないと運が逃げて行ってしまうと思います。僕らも決して、楽して成功したとは思っていません。去年も死ぬほど努力しましたし、それまでも6、7年ほどWeb系の技術者として勉強し、努力をしてきました。そういった土台や積み重ねがあったからこそ、いま、最大限にその経験を生かしていますし、僕は自分でがんばってきた、という自信があります。……あとは、いままでゲームをやってきた経験も活きています(笑)。
高橋 ゲームのエリート教育を受けた、揺るがない重厚な土台があります(笑)。
田中 それらが今回はうまく融合したのかなと思いますね。常に自分を高めてアンテナを張り、チャンスを逃さないことが大切だと思います。ソーシャルゲーム業界にはまだまだそういう土壌がある分野だと思うので、皆さんもぜひ挑戦してみてください。

※世界市場を狙う業界の風雲児・gloops梶原吉広社長インタビュー【ソーシャルゲームの成功者に訊くVol.1