●ファン待望のイベントでヒミツのアブナイ話も……?

 2011年10月30日、サイバーコネクトツー東京スタジオにおいて、『.hack//』完全設定資料集『.hack//Archives_03』の発売記念イベントが開催された。イベントの内容は、サイバーコネクトツー代表取締役社長で、『.hack//』のディレクターを務めた松山洋氏によるサイン会とトークショウだ。『.hack//』制作の裏話からサイバーコネクトツー新作の近況まで、多岐に及ぶ松山洋氏のトークに湧いた、イベントの模様をリポートしよう。

 改めて説明すると、このイベントは、PS2の『.hack//』(全四巻)、いわゆる『.hack//』無印の完全設定資料集『.hack//Archives_03』の発売を記念して開催されたものだ。【コチラ】でもお伝えした通り、当初の参加募集枠がすぐに定員に達してしまったため、急遽午前の部と合わせて2回開催になったとのこと。発売から10年が経過した『.hack//』の根強い人気には驚かされるばかりだ。

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▲『.hack//』完全設定資料集『.hack//Archives_03』(右は限定版)はサイバーコネクトツーの公式オンラインショップ、CC2ストアで購入可能。ちなみに本書に収録されている貞本氏のイラストには、貞本氏自身が手を入れた最新版のものもあるそうだ。

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▲グッズ販売コーナーには順番待ちの列が。『.hack』シリーズオリジナルポストカード(8枚組)は、この日優先先行発売されたものだ。

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▲リラックスした様子で、イベント参加者と言葉を交わす松山氏。

●『アスラズ ラース』、『ナルティメットジェネレーション』の発売日は……?

 たっぷり一時間近くかけての松山氏サイン会が終わると、いよいよお楽しみの松山氏によるトークショウが始まった。最初の話題は、松山氏の近況についてだ。先週から今週にかけて、『アスラズ ラース』のプロモーションのため、ロンドン、パリ、サンフランシスコと世界を飛び回り、やっと昨日帰ってきたばかりだという松山氏。最近はTwitterでつぶやく話題も「これから飛行機に乗りますとか、いま福岡に着きましたとか、ただの移動日記みたいになっちゃってるね(笑)」(松山氏)という状態なのだとか。しかしフォロワーは8600人を超えているとのことで、それだけ精力的に活動する松山氏の動向から目が離せない人が多いということなのだろう。ちなみにTwitterから深読みするコツとして、「ロンドンにはカプコンの本拠地があって、フランスにはバンダイナムコゲームスの本拠地があるんです。だから、ロンドンに行きます、というときはアレ絡みで、フランスならコレ絡み……わかりやすいですね(笑)」(松山氏)だそうだ。

 なおこの話の流れで、『アスラズ ラース』については、すでに海外のメディア向けに発表されている通り、欧州地域で2011年2月24日、北米では2011年2月21日に発売されることが改めて説明された。基本的に全世界同時発売を謳っているため、日本でもほぼ同じタイミングでの発売になるとのこと。同週の木曜日なら、2011年2月23日ということになるが、「カプコンさんからの正式発表をお待ちください」(松山氏)とのことなので、予約に走るのはもう少し後まで待つ必要がありそうだ。
 さらに、現在サイバーコネクトツーが開発しているもうひとつのタイトル、『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム ジェネレーション』の発売日も、第4四半期の1月以外、つまり2011年2月か3月になる可能性が高いとのことで、「ヘタをすると同じ日に2本発売される、なんてことになるかもしれません」(松山氏)と、若干複雑な表情を見せていた。サイバーコネクトツーファンの人は、いまから購入資金の準備を進めておいたほうがいいかも?

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●いま明かされる貞本義行氏との日々

 続いては、この日の本命とも言える『.hack//』の裏話が語られていった。今回の話題の中心は、キャラクターデザインを担当した貞本義行氏について。以前にファミ通.comで掲載した、脚本・伊藤和典氏と松山氏の対談記事(【コチラ】)では、伊藤氏に仕事を引き受けてもらうまでがいかにたいへんだったかが語られていたが、貞本氏との仕事は、それに輪を掛けてたいへんだったようだ。もともとは、バンダイナムコゲームスの鵜之澤伸氏に「誰でも好きなキャラクターデザイナーを選んでいいよ。紹介してあげるから」と言われたため、いちばん仕事をお願いしたい人、ということで貞本氏を指名したのだが、いざ貞本氏と会ってお話しをしたところ、けんもほろろに断られたのだそうだ。その理由は、「ゲームのことがよくわからないから、自分のデザインがどう再現されるか想像できない」こと、もっと言えば「ゲームは嫌いだから、とはっきり言われてしまいました(笑)」(松山氏)。

 ここまで根本的に拒否されてはしかたがない……とは考えないのが松山氏のスゴイところで、「バンダイナムコゲームスの内山大輔プロデューサーと作戦会議をして。ゲームのことがわからないと言うのなら、わかってもらおうということで、1ヵ月後に、PS2上で綾波レイを再現したCGモデルの映像を持って、もう一度会いに行きました」(松山氏)と、すぐに再チャレンジしたそうだ。しかしそこでも、「ほらね、だからCGはダメなんだよ、と言われました。正面から見れば似ているけど、横から見たら綾波レイじゃない、と」(松山氏)と、徹底的にダメ出しを食らってしまう。もともと2Dで、立体を意識して描かれていないイラストから3Dモデルを作り出せば、どこかで整合性がとれなくなるのは当然のことのようにも思えるが、それに対する貞本氏の答えは、「立体でちゃんと表現することはできる。たとえば、あげたゆきおさんの作った綾波レイのフィギュアを見れば、どこから見ても完璧な綾波レイが表現できていることがわかるはず、と言われました」(松山氏)というものだった。そこで松山氏は、すぐにあげた氏のフィギュアを秋葉原で購入し、研究に研究を重ね、改良した綾波レイの3Dモデル映像を、再び1ヵ月後に持参。そこでもダメ出しを食らい……といった具合で、この過程をくり返すことになる。そしてようやく半年後に、「それで、何をやるんだっけ? と、ようやく仕事の話を聞いてもらえるようになりました。おかげで、PS2上で完璧な綾波レイも完成しましたよ。もちろんゲームには登場しませんが(笑)」(松山氏)。

 ちなみにここで貞本氏に指摘されたCGとアニメの違いというのが非常に興味深かった。たとえば戦闘機が旋回するシーンで、3次元的に正確な描写をするなら翼は機体に隠れて見えなくなっているはず、という場合でも、「見えたほうが格好よければ、翼を描く。それがアニメだ、と言われました」(松山氏)だそうだ。松山氏とサイバーコネクトツーの代表作のひとつ、『ナルティメット』シリーズでは、“超アニメ表現”として、通常ではありえないような、キャラクターの骨格をゆがませたり、伸ばしたりする技法を使うことで、躍動感ある表現を実現しているが、そうした技術で業界の最先端を走ることができているのも、こうしたアニメ界のクリエイターとの共同プロジェクトを通じて、技術と表現を磨き続けているからこそなのだろう。

 さて、ついに仕事の話をしてくれるようになった貞本氏からは、つぎつぎとアイデアが提案されていく。そもそも、貞本氏が最初に断ろうとした理由のひとつに、プロットや脚本などがほどんど決まっているプロジェクトに、キャラクターデザイン画だけを描く仕事ではおもしろくないから、というのもあったそうだ。「もとのキャラクターのプロットは、『Solatorobo(ソラトロボ) 〜それからCODAへ〜』のディレクターを務めたWAKAが描いたんですが、それをもとに、「シルエットはいいけど頭身はもっと低いほうがいいね」とか「ダボダボのズボンはいいけど、軽快さを出すために脛から下は出したほうがいい」とか。このあたりは、非常にロジカルに話が進みましたね」(松山氏)とのことだった。しかし、当時の貞本氏は、『新世紀エヴァンゲリオン』の漫画を描きながら、アニメ『フリクリ』の制作を進めるという超多忙な時期。松山氏と内山氏は、貞本氏の生活ペースに合わせて、午後9時ごろから貞本氏が勤務するガイナックスに赴き、翌午前4時まで、貞本氏のデスク脇のゴミ箱をいす代わりにして座り、作業をする貞本氏に『.hack//』の内容や進行状況を説明する……といったことを続けていったそうだ。

 その後も順調にはいかなかったようで、「やがて、貞本さんが……居留守を使うようになりました(笑)」(松山氏)。そこで、「一度遊びにいらっしゃいよ、ということで、福岡行きのチケットを送りました」(松山氏)と、貞本氏を、サイバーコネクトツーの本社がある福岡に招いたりもしたそうだ。「1日目は、うちのスタッフを紹介したり、あちこち連れて行ったり、おいしいものを食べてもらったりしてね。で、2日目からはスタジオに軟禁して仕事をしてもらいました(笑)」(松山氏)。ちなみにピロシ3などのキャラクターは、こうして福岡に招いたときに仕上げてもらったキャラクターなのだそうだ。

 さらにプロジェクトの終盤では、パッケージイラストがなかなか上がってこなかったため、ヒヤヒヤさせられたのだとか。『.hack//悪性変異 Vol.2』では、「背景を描く時間がないから、真っ白でいい? と言われたんですが、いやいや、『Vol.1』も真っ白だったでしょと(笑)。イメージカラーは『Vol.1』が白、『Vol.2』がオレンジ、『Vol.3』が青、『Vol.4』が金って決めてたでしょ、ということで、非常に困りました」(松山氏)と、発売日が迫るなかで困った事態になっていたそうだ。最終的には、松山氏がみずから手掛けた“ネットスラム”のCGモデルを背景に使うことに。結果として、『Vol.2』のパッケージイラストは、松山氏と貞本氏の合作によるものということになる。

 『Vol.4』のパッケージイラストについてはもっと深刻で、締切を過ぎてもあがらないどころか、貞本氏が完全に音信不通になってしまう。バンダイナムコゲームス社内では、「『Vol.1』から『Vol.3』までのパッケージイラストをコラージュして作るしかないか、なんて話も出ましたが、これが最後なんだし、ちゃんとやらなきゃあかんと。でも貞本さんとは連絡が付かないし……」(松山氏)と、絶体絶命の事態に。そんなある日、松山氏が、ガイナックスのホームページ内に、とある告知がアップされているのを発見する。それは、貞本氏の原画展が、貞本氏の地元・名古屋で開かれるのに合わせて、貞本氏のトークショウが開催される、というものだった。「これだ! と(笑)。この日、この時間に名古屋に行けば、貞本さんがいるってことじゃん! って(笑)」(松山氏)ということで、急遽福岡から飛行機で東京に行き、内山氏と合流して新幹線で名古屋に。そこから電車を乗り継いで会場に乗り込んだ松山氏。楽屋の扉をノックして中に入ると、「いましたよ、そこに。貞本さんも、「ここまで来るとは思わなかった」とさすがに観念してくれて、その場でラフを仕上げてくれて、東京に戻った後にすぐ着彩も済ませてくれました(笑)」(松山氏)。

 と、ここまでの話を聞くと、まるで貞本氏が嫌々仕事を進めていたかのように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。松山氏によると、貞本氏はとにかく新しいデザインを追い求めることに対してどん欲な人だそうで、車やバイク、自転車などは複数所持しているし、さまざまなガジェットのカタログを海外からも取り寄せて見ていたりするのだとか。そんな貞本氏が、後には「「僕が知らないゲームやCGの話を夜通ししてくれたのはおもしろかったし、ゲーム制作者ってこういうことを考えているんだ、とわかったのはとても楽しかった」と話してくれました」(松山氏)のだそうだ。そうした体験が、貞本氏の創造活動において少なからず収穫をもたらしたであろうことは、想像に難くない。もちろん松山氏にとっても、「直接アニメーターさんと、ああでもない、こうでもない、と言いながらモノを作り出すのは初めての経験だったので、とても勉強になりました」(松山氏)とのことだった。

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▲苦心の末完成したパッケージ。ちなみにぎりぎりで間に合った『Vol.4』のパッケージイラストだが、後日貞本氏から、「オルカの顔がロゴで隠れちゃってるよ!」と不満をぶつけられたそうだ。「そんなこと言われても、そこにロゴが入るって、あらかじめ言ってあったでしょ、って(笑)。ロゴを上に移動すると、今度はアウラが隠れちゃうし。ここはオルカに泣いてもらいました(笑)」(松山氏)

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▲後に発売されたPlayStation2 the Best版では、2本セットになった関係でロゴの位置が移動したため、晴れてオルカの顔が見えるようになっている(右の画像左下)。

 最後に、注目の『.hack』プロジェクトの今後の展開について語られた。2012年1月には劇場用3Dアニメーション『ドットハック』の公開が控えているが、こちらの正式タイトルが、『ドットハック セカイの向こうに』に決まり、今後どんどん情報が公開されていくとのこと。松山氏は、「来年は映画が公開されて、そして……ね。きっといいことがあるよ、と。思いたいな、と(笑)。あんまり余計なことを言うと、本当に怒られるので(笑)。でも、皆さんが応援してくれる限り、『.hack』は不滅です!」と含みのある発言をしていたが……まずは映画の公開を楽しみに待ちたい。

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▲最後は、『ドットハック セカイの向こうに』を制作しているサイバーコネクトツー・チームsaiのプロジェクトリーダー、二塚万佳氏が合流。映画の出来映えをアピールした。


 最後に、トークショー終了後の松山氏と二塚氏がお話しを聞かせてくれたので、その内容をお届けしよう。

――今日はかなりしっかり時間をかけてサインをされていましたね。

松山 そう?(笑) 今日は早かったでしょう。1時間以内に終わりましたから。

――いやいや、ひとりひとりとお話しをしながら、っていうのは松山さんならではだと思います。

松山 そうなの? でもサイン会なんて、自分のしか知らんからなぁ(笑)

――見たところ、リピーターというか、御社のイベントに何度も足を運んでいる人も多いようですね。

松山 そうですね。だいたい年に1回ですけど、設定資料集が出るたびにやっていますから。Twitterを見ていると、「会社説明会がこの日にあるから、この日あたりにやるな」とか、皆さん予想するようになっているみたいです(笑)

――グループで来ている人も多いようですね。

松山 イベントって、ひとりじゃ行きにくいですよね。だからうちのイベントは、同伴者オーケーにしているんですよ。それでだと思うんですが、「私が好きだから、あなたも絶対好きになるはずだよ」って、お友だちを連れてきてくれるんですね。おかげで、だんだんイベントを重ねるごとに、お客さんが増えてくれるので、本当にありがたいです。

――なるほど。ちなみに今回は、午後の部の定員がすぐに埋まってしまったそうですね。

松山 うれしいですよね。ちなみに設定資料集は、いままで年に1冊が限界だったんですが、ちょっと体制を変えて、年に2冊出せるようにしようとしているんですよ。今年は、6月に『.hack』の完全設定資料集が出て、12月に『ソラトロボ』の資料集が出ます。そして来年は、『ソラトロボ』の資料集のVol.2とVol.3を出そうと思っています。そしてこういったサイン会やトークショウも、年に2回はやれるようにしたいですね。

――それなら、参加できるチャンスも増えそうですね。

松山 ただやっぱり、どうしても東京と大阪が中心になってしまうのが難しいところです。いま考えているのは、サイバーコネクトツーは、東京スタジオと福岡スタジオのお互いの様子を、大型のテレビモニターでリアルタイムに見られるようになっていますよね。それを利用して、福岡スタジオに人を集めて、東京で開催したイベントを見られるようにしたいと。

――それはおもしろいですね。

松山 来年は、こうして直接ユーザーさんにお話しを聞いてもらえる機会を定期的に作ろうと考えています。それは、いま宣伝チームと企画を練っているところです。

――映画『ドットハック セカイの向こうに』についてですが、以前に発表会では、ほとんど完成していると仰っていたように思いますが……。

松山 はい、ほぼ完成しています。ずーっと、ほぼ完成している状態が続いています(笑)

――ではひたすら仕上げ、ブラッシュアップの作業を続けているということですね。

松山 そうです。だから、グングンクオリティーが上がっていますよ。編集はすでに終わっていますが、絵の差し替えと、立体視の部分の調整ですね。それをひたすらやっています。

――二塚さんは、仕上げの作業で、いま苦労されているところはありますか?

二塚 それはもう、ディレクターのこだわりの部分を、いかに具現化するかで(笑)

松山 (笑)

二塚 あとは松山も言ったとおり、立体視の調整という部分で、どうしても欲張りになってしまうんですよ。「ここはすごくいいから、もっとよくしよう!」って。そこの最終調整は、「ここまで!」って言われるまでは、どこまでもやりたくなってしまうんですよね。あとは、松山の時間を確保するのがしんどいです(笑)。

――では二塚さんから、締めのメッセージをお願いします。

二塚 映画『ドットハック セカイの向こうに』は、いままでの『.hack』とひと味違うものになっていて、『.hack』のファンの方はもちろんですが、『.hack』を知らない人でも、いっしょに楽しめる作品になっています。ですから、ぜひまわりの人を誘って観に行ってほしいです。松山の言葉の通り、皆さんが応援してくれれば、「『.hack』は不滅です」と言える展開になると思いますので。よろしくお願いします!

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