クロスレビュー
良かった点
インタラクティヴ・シネマと称されるように、予め用意されたプリレンダムービーに行動分岐を加え、プレイヤー側の操作によってムービーが変わるため、自分が映画の中で主人公ローラ・ハリスとして動き回っているような気分になることが出来る。
ゲームもそれらを意識した作りになっており、シナリオは「異常殺人鬼と化した病院長の父の謎を追っていくホラーサスペンス」で、一般的な映画と同じく二時間という時間的制約がある。一般的なアドベンチャーに同じく、ゲームはシンプルな謎解き問題を解いていく、というもので、いくつかの謎の連鎖はあるものの、おおまかにステージ分けされており、アイテムの使用は複数回必要とすることがなく、ごちゃごちゃとしていないため、プレイしやすい。一部手のかかる謎はあるものの、謎を解く快感やシナリオの真相へと近づいていく緊張感や没入感は中々。
それから、個人的にいいなと思ったのが前述の二時間システムで、二時間を超えると自動的にゲームオーバーになり、最初からやり直さなくてはならない、というものなのだが、これにより謎解きで詰まってもプレイがぐだつかず、時間を意識しながらプレイし続けることが出来る。また、割りきって最初からやりなおしてみると、これまで着目していなかった部分が見えて来たり、改めてシナリオをスムーズに通してみることが出来るため、より世界観を反復して楽しむことが出来る。
また、このシステムに準じてゲームプレイ自体も二時間以内で完結する内容のため、短時間で濃密な体験をすることが出来、映画を観直すような感覚でプレイし直すことが出来るのも、アドベンチャーゲームとしては非常に嬉しいところ。
悪かった点
セーブ機能が存在せず、一度プレイし始めたら、クリアするためには最低二時間は確保しなければならないほか、途中までプレイしても、一度電源を切ってしまうともう一度始めからプレイしなおさなければならないのが難点。映画を意識したのはいいが、付いていて損のない機能を搭載しない理由が解らない。
当時はカクカクのポリゴンが主流だった時代だったこともあって、こうしたなめらかなCGプリレンダは綺麗だとして持て囃されたが、既にリリースから20年近く経過した今では、同じように綺麗だとか、よく出来てるという感想を持つのはおっさんか32bit黎明期のCGゲームファンくらいなもの(なお、自分は後者)。今の若い世代に見せたら笑われてしまいそうで怖い。
シナリオも二時間という制約にプレイを盛り込んだためか、実際の映画と比べると簡素すぎ、痩せすぎに見える。また、全編プリレンダムービーという特性上、ゲーム中で鑑賞できる部分はごく限られており、それがアドベンチャーゲームとしてのシンプルさにもつながっているのだが、一方で自由度が低く、コマンド形式のアドベンチャーと比べると、ゲーム性も低く、こうしたインタラクティヴ・シネマというジャンルも一長一短。
総評
決して手放しで褒められるゲームではないが、これまでコマンド式やテキスト分岐式が主だったアドベンチャーゲームにおいて、物語性を強化し、映像空間を操作していく点に特化したインタラクティヴ・シネマは、これまでのアドベンチャーにない目新しさがある。
現在ではハードウェアの描画性能の著しい上昇に伴い、PlayStation3の「ヘビーレイン」「アンチャーテッド」のような作品を除いて、あまり見られなくなったが、今作「Dの食卓」は、当時の32bitゲーム機の(とりわけ新興メーカーの)アドベンチャーゲーム製作に大きな影響を及ぼした一作で、32bitゲーム機時代のアドベンチャーを語る上では必須の作品だと言わざるを得ない。
WARPの消滅以後、配信なども一切無いため、現在プレイするには旧ハードを用意する他無いが、マルチプラットフォーム(3DO/SS/PS1)であり、また中古価格も極めて低いため、入手に難儀することは先ずないので、興味がある方は要素追加版であるPS1版を探してもらいたい。
クロスレビュー