アメリカはいま、建国以来最悪の状況下にある。大朝鮮連邦の勢いはいまだとどまるところを知らず、いまや国のあらゆる場所にKPA(朝鮮人民軍)が陣取り、あらゆる路地で労働収容所への強制収容が行われ、家族たちが引き裂かれている。かつてない漆黒の闇の日々に終わりは見えない。
 国内戦線、つまり“Home Front”とは、かつて戦争中の本土での体制のことを意味していた。だがいまや、その意味でこの言葉を使うことはできない。場所も知らないどこかよその大陸の戦線に我らの兄弟姉妹を送り出し、時折聞こえる“卑劣なゲリラ戦術”による犠牲に憤慨していた時代はもう消え去ったのだ。もはやこの国の重要な場所を防衛しているのはKPAであって、米軍ではない。この戦いにおいて各地で不意打ちのゲリラ戦を展開しているのはアジア人やアラブ人ではなく、アメリカ人なのである。
 この悲しむべき状況を決して忘れず、また我らの国、我らの家を再び我々のものとするために、本紙はこれより“HOMEFRONT EXPRESS”を名乗ろうと思う。新たな意味の国内戦線。戦場とは“ここ”であり、あなたの親愛なる隣人を支える場所も“ここ”なのだ。これから我々はできる限り定期的に、この国のあらゆる場所で自由と平和を取り戻すために戦う人々に向けて、最新の情報と状況を伝えていくつもりだ。
 KPA兵士によるアメリカ市民の労働収容所への強制収容は激しさを増し、悲惨を極めている。いたるところに抵抗を試みた者のなきがらが横たわり、ある場所では引き裂かれるカップルの悲鳴が、また別の場所では両親を射殺された子どもの泣き声が響きわたっている。いくら耳を洗ってみても、その絶叫はこびりついて取れない。これを読んでいるあなたは恐らくまだ連行されていないのだろうが、密告も横行しており、油断はならない。あなたの隣人が、明日もあなたの同志とは限らないのだ。
 ほんの15年ほど前、例えば2010年代前半に現在の状況を想定できただろうか? 海の彼方の独裁者に率いられた国が、かつて我々の隣人であった東アジア・東南アジアのあらゆる国を傘下に収め、2000万人もの大群となって2025年に侵攻を開始し、やがて西海岸にぞろぞろと上陸するとは、どんな最悪の預言者であっても考えていなかったはずだ。
 だが実際は、その原因は2012年まで遡ることができる。この年、原油価格が再び高騰。長期に渡って経済力が徐々に衰退し、市場の混乱を招いた。また、その結果として、2013年に国外に展開する軍備の縮小が行われ、兵器開発においてドローン(無人兵器)などの小型兵器に注力されるようになったことも重要な点だ。このせいで我々はアジアで大朝鮮連邦を食い止めることができず、このおかげでいまも各地で抵抗活動が続いているのだから。
 時を同じくして、2012年に当時の北朝鮮では新たな指導者への世代交代が行われた。強力なカリスマを持つ彼は、家族三代に渡る悲願、自らが支配力を維持したままでの南北統一を2013年に実現する。統一自体はあくまで平和的に行われたが、以降アジアでの影響力を高め、一転して武力的な拡大路線を取り、2018年に日本を、そして2021年には東南アジア諸国を傘下に収めている。
 この間もアメリカの国力衰退は留まらず、2017年には経済破綻により戒厳令が発令され、2021年には新型インフルエンザにより国内だけで600万人が死亡。この間にアメリカからメキシコへの難民が増大するという、あべこべな事態まで発生する。そして2024年、大朝鮮連邦はEMP(電磁パルス)兵器を搭載した軍事衛星を打ち上げ、2025年にはついに侵攻を開始。ハワイを一瞬で飲み込み、KPAの大軍勢はサンフランシスコ上陸を果たすこととなる。
終わりの始まり――北朝鮮政権の世代交代。あくまで平和的に民族統一という悲願を成し遂げて以降は、一転して拡大路線へと転じていく。
 分断された米軍や州軍が各地で抵抗を続けているが、その戦果はあまり芳しくない。だが本紙では、銃による自警に端を発し、KPA施設の破壊や物資の強奪といったレジスタンス活動を行うグループの存在を確認している。我々が知るあるグループは、比較的安全な地域にコミュニティーを形成し、DIY生活で自活しながら、武器と仲間を集めつつ活動を行っている。つい先日もKPAのバスを襲撃し、連行中だった元パイロットのアメリカ人男性一名を救出。その後この男は同グループに参加し、行動をともにしているという。市民から出てきた反抗の兆しを、本紙は最大限にサポートしていきたい。
 しかし、都市から離れた農地などで生活している自警集団には、自制心を失い、同胞であるべきアメリカ市民に対しても銃を向ける危険な輩も出てきているようだ。自由な外出が制限されている昨今、あまりそういったことはないだろうが、これまでの生活圏とは異なるテリトリーに行く際には注意されたし。
リアンナ(27)――父が元IRA(アイルランド共和軍)で、男性顔負けの戦闘技術を持っている。
 オンラインでは総勢32人での大規模戦闘が展開している。16人編成の兵士が、刻々と移り変わる戦況に応じて目標を制圧していく。次第に戦闘は激しさを増していき、しまいには大型車両が投入されるのが日常茶飯事で、米軍からはAH-64“アパッチ”などの戦闘ヘリや、M1A3エイブラムス戦車などが、最新鋭のドローンに混じって現役で戦っている。その模様は次号でより詳しくお伝えする。
激しい攻防戦――目標地点をめぐって戦闘をくり広げる両軍

  アメリカ人は、“アメリカ”という環境を徹底的に大事にする。大量生産、大量消費が前提の物に溢れた生活システムを是とし、このシステムを自国以外にまで徹底して持ち込む。 世界各国に駐留している米軍が良い例だろう。生活習慣、消費スタイルが全く異なる他国だろうとアメリカはお構いなしだ。他国の一部をフェンスで囲い、その中に"アメリカ"を築く。

 在日米軍の基地内には、日本では展開していない外食チェーン(Taco Bell、Popeyesなど)が沢山存在する。ドルが使用可能な大型スーパーも建ち、WalmartやTargetさながらの買い物ができる。アメリカからやってきた米兵とその家族達は、その駐留先がどこであろうとアメリカと同じ生活が保障されるのだ。水より安いコーラを買い、タコスを食い、TROJANのコンドームを付けてセックスをする。突然戦場行きが任命されても安心だ。砂漠の戦地には、プレハブ建てのマクドナルドがあるのだから。

DIYライフ――バーベキューセットを使って何やら工作中のレジスタンス

 アメリカ人はアメリカ国内を旅するだけでも、このシステムから離れようとしない。仕事をリタイアした多くの人たちは、キャンピングカーを買って全米を旅するのが夢だという。実際フリーウェイには沢山のキャンピングカーが走っているが、その規模の大きさは異常だ。

 日本の路線バスほどある巨大なキャンピングカーは、停泊場所に着くと車体側面が大きく外側にスライドし、車内スペースが倍ほどになる。キャンプサイトには水も電気もあり、Wi-Fiも飛んでいる。細かい飲食物などは、キャンピングカーの後ろに牽引してきたピックアップトラックで近所のスーパーに買いに行く。日本人のちょっとしたキャンプ旅行なら、このピックアップ1台で済むだろう。

 『HOMEFRONT』は、このアメリカ人が世界で最も素晴らしいと思っている、過剰なまでの豊かさが完膚無きまでに破壊された世界を描く。しかも、それを破壊したのは現時点で最も貧しい国の一つである、北朝鮮だ。

 燃油価格の高騰、金融危機、そして疫病の流行。危機的状況にあったアメリカは、北朝鮮によるEMP(電磁パルス)攻撃で電気システムが完全にダウンし、遂に国家は崩壊。2025年、有史以来初めての本土攻撃を受け、国土を侵略される。

ポルノ鈴木 Porno Suzuki

 本作は、この侵略に対抗するアメリカ人レジスタンスたちの活躍が軸となる。侵略され、物が枯渇し、生活インフラが壊滅したアメリカで、レジスタンスたちはどうやって暮らしているのか。それはDIYを基本とする、自給自足の生活であり、本作はこの部分をゲーム中で丁寧に描写している。

 アメリカは、大量消費社会でありながら、DIY精神が深く根付いた国でもある。賃貸住宅は入居時自分で内装を塗装したり作り上げるのが当たり前。家屋にガレージがあるのも一般的なので、クルマを中心としたリペア作業や、物作りの為の空間が常に自宅にあるのも大きい。“開拓”によって国を作ってきたアメリカではDIY精神もまた、美徳なのだ。

 しかし近代アメリカのDIYは、やはり巨大な消費システムに支えられている。HOME DEPOTやLOWESといったホームセンターの床面積は膨大で、家一軒分の材料がここで揃うほど。アメリカのDIY精神は、厳しい開拓の時代を経て、何でも買えて、何でも作れて、すぐに捨てるという消費サイクルに飲み込まれてしまった産物に過ぎない。

 だからこそ、『HOMEFRONT』が精密に描く、占領下のアメリカ人たちの生活の姿は強烈に映る。割れた窓ガラスにビニールを貼り、洗剤の入っていたポリバケツはプランターになり、無駄にカラダを鍛える為のツールだったステッパーは、水を汲み上げるポンプとして活用される。食物も自給自足。全ては、本当に必要だから自分たちで賄っていく。物に溢れていた時代の、残骸を使って。

 『HOMEFRONT』は、アメリカ対北朝鮮という構図も強烈だが、それによって描かれる"アメリカ"らしさを、アメリカ人自身がシニカルに捉えているところが見所だ。“アメリカらしさ”とは、糖分と油分にまみれた食事のことなのか。プロテインとTシャツなのか。それとももっと別の何かなのか。

 肥大し続けた超大国アメリカが、その芯の周りに纏ってしまった余計な何か。皮肉にも他国による侵略という行為で、それが取り払われたとき、そのアメリカの芯には何が残るのか。本作がどういう形でそれを見せてくれるのか、期待したい。

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