タクティカルFPS『VALORANT』の公式国際大会“VALORANT Champions Tour”が日本初開催となった。その名も“VALORANT Champions Tour 2023 Masters Tokyo”(VCT 2023 Masters Tokyo)。

 激闘は2023年6月11日から開幕。6月24日~25日には、王者を決する戦いの火ぶたが切って落とされた。決戦の舞台は幕張メッセ。

 日本で国際大会が実施されることについて、個人的に不安に思う部分もあった。だが、そんな心配は杞憂となり、最高の戦いと観客たちを目にすることができたので、ぜひ紹介していきたい。

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日本開催なのに日本代表が不在

 まず、開催前に懸念点があったのは出場チームについてだ。VCT 2023 Masters Tokyoには、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ地域)、アメリカ、アジアパシフィック、中国のリーグを勝ち抜いた全12チームが出場。しかし、この12チームの中に日本代表チームの姿はなかった。

 アジアパシフィックからの出場3枠をかけた公式リーグには、日本からZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeが参戦していたのだが、トップ3に入ることができず、出場権を逃していたためだ。

 ZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeは日本で絶大な人気を誇るeスポーツチーム。その両チームが不在となったら、日本で行なわれる国際大会に観客は足を運んでくれるのか、会場の盛り上がりはどうなるのか。そんなことを筆者は心配していた。

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超満員となった会場・幕張メッセ。

 サッカーのワールドカップが日本で行なわれたとして、そこに日本代表が不在というのはいまでは考えられないと思う。そういった事情を想像すると、「ちょっとまずいですね」という気持ちを理解してもらいやすいだろう。

 「開催国の特別出場枠はないの?」と思われた方もいるかもしれないが、『VALORANT』のeスポーツは出場機会が公平な設計となっており、規定大会を勝ち抜き実力を証明したチームのみが出場できる仕組みなのだ。

 しかし、実際に大会がスタートすると、会場には日本のみならず世界各地から多くの『VALORANT』ファンが集結。熱い応援で心配を吹き飛ばしてくれた。

対戦相手は敵ではなくリスペクト対象。シーン全体を応援

 大会の会場は平日開催の試合においても多くの観客が駆けつけ、連日満員となった。

 会場には自由に記入できる応援ボードが用意され、ファンたちは愛のあふれるメッセージやイラストを描き込み、推しの選手とチームを応援。日本では、アイドルコンサートさながらに凝った作りの応援アイテムを持ち込むのも定番だ。他国の開催ではあまり目にしないこともあり、公式の配信や写真ギャラリーでも頻繁に紹介されていた。

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ファンたちが応援グッズを自作して持ち込んで応援している。

 会場が一体となった応援コールや歓声のすさまじさに加えて、選手やチームを全方位で応援する日本のスタイルは非常に好評。選手や関係者、来場客といったあらゆる方面から、公平に注がれる愛ある応援を絶賛する言葉が相次いだ。

 2023年3月にブラジルで行なわれたひとつ前の国際大会“LOCK//IN São Paulo”では、開催国ブラジルを応援する勢いが非常に強烈だった。「対戦相手は敵」というような雰囲気も感じられるほどだ。

 日本でも自分が支持するチームや選手(推し)を全力で応援する点は変わらないが、対戦相手は敵ではなく、「自分の推しチームと対戦するすばらしい存在である」とリスペクトが込められていることが多い。少なくとも筆者はそう感じる。

 『VALORANT』は対戦相手がいて初めて成立するゲームだ。対戦相手がいなければ、どんなチームも輝けない。両チームを含む全体を応援する、いわゆる“箱推し”文化は海外勢からの高い評価につながっている。

 そして、大会の最終決戦が行なわれた幕張メッセでは、ファンたちのさらに驚くべき姿を目にすることとなった。

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世界のスーパースター選手を、目の前で見ることができるのは本当に貴重な体験だ。

いままでの日本で見たことがない観客の熱狂

 海外で行われるeスポーツの世界大会では、観客が総立ちとなり大歓声を送る様子を目にすることも多い。一方、日本は対照的。ファンはルールやマナーを守り、非常に礼儀正しく指定された席に座って大人しく観戦するのがこれまでのスタイルだった。

 近年、その様子は少しずつ変わり始めている。先に紹介した応援ボードやスティックバルーンのようなアイテムを使うことで、試合観戦と応援を能動的に楽しむ姿が増えてきた。

 そんな中、今回のMasters Tokyo会場では、これまでに見たことのないファンの行動を目にした。

 試合の決着がつくたびに、ファンたちがものすごい勢いで席から飛び出し、ステージや入退場の花道にかけよって選手たちに声援を送ったり、スマートフォンで写真や動画を撮影していたのである。

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 念のため補足しておくと、防犯・安全上の都合もあるため、こういった行為は手放しで褒められたものではない。ステージや花道に観客が詰め寄ることは基本的にはNGだ。セキュリティスタッフは「席にお戻りください」、「選手たちのプレッシャーになってしまいます」と、くり返し呼びかけて安全確保に務めていた。

 それでも彼らの熱狂は20年以上もeスポーツシーンを追う筆者の胸に響いた。これまでの日本開催大会であれば、みんな席に座りながら拍手を送るのが当たり前だったからだ。

 なぜこのようになったのかは不明な部分もあるが、海外からの来場者増も関係しているかもしれない。海外ファンのアクティブな応援や行動スタイルに影響を受け、こういうのもありなんだという集団心理から、日本のファンたちも追従したのではないかと感じている。

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自国のチームがラウンドを取るたびに腕立て伏せを10回する、と宣言して実行していた海外ファン。このような応援スタイルもおもしろい。むしろ本人たちが応援されていた。

 選手たちも笑顔を見せたり手を振ったりと、ファンたちの温かい応援に応えていた。試合後の会見においては、観客たちの応援は最高だったという選手からの言葉もあった。

今後も日本での国際大会開催に期待高まる

 “推し活”を主体とする全方位的な愛ある応援と海外ファンの熱さがミックスされた、おもてなし力あふれる今回の体験は、筆者の20年以上のeスポーツ観戦経験の中でも最高の部類に入るものだったと感じている。

 決勝戦で決着がついた後、Fnaticに敗れたEvil Geniusesの健闘をたたえるべく、自然発生的に生まれた「EG! EG! EG!」の大合唱にも胸が熱くなった。

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優勝したFnatic(左)。準優勝のEvil Geniuses(右)にも惜しみない声援が送られた。

 日本のおもてなし精神とアクティブな応援スタイルの融合による観戦体験。それは今後のeスポーツ観戦も楽しいはずと予感させるに十分なものだった。

 今回の日本における『VALORANT』国際大会の開催は大成功だったと思う。日本の人気チームが不在であることが、地元での国際大会でマイナスに働かなかったことも大きい。これにより、日本で開催しても観客が来ない、盛り上がらないといった評価の回避につながったため、『VALORANT』国際大会の再びの日本開催は十分に期待できるだろう。世界のeスポーツ関係者にも、日本での開催はプラスにとらえられたはず。

 今後も『VALORANT』のeスポーツ展開は目白押しだ。インターナショナルリーグヘの参入権をかけたアセンショントーナメントが7月7日(金)にタイ・バンコクで開催され、日本からはSCARZが出場する。

 同じく7月には女性大会“VALORANT Game Changers Japan 2023”が開幕するほか、公式世界大会への出場枠を競い合う“Pacific Last Chance Qualifier”も実施される。そして、8月には年間王者決定戦“VALORANT Champions 2023”がアメリカで開催されるなど、目が話せない展開の連続だ。

 ここで日本チームが活躍することによって、日本の『VALORANT』シーンはさらに世界の熱視線を集めていくことになる。今後の展開を、ぜひ見守ってほしい。