2022年8月23日から25日にかけての3日間にわたって開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2022”。

 本記事では3日目に行われたセッション“リモートでも信頼関係を築くコツ!  ~新入社員教育から学ぶ、成長を促すコミュニケーション環境の作り方”の模様をお届け。バンダイナムコスタジオにおける、リモートワーク環境での新人研修について語られた。

 登壇したのはバンダイナムコスタジオの採用・研修担当の平野響子氏と、2021年より新人研修リーダーを務める澁谷美幸氏。セッションの途中には、配信中の無料タイトル『Goonect』にまつわるトークもくり広げられた。

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半年間の新人研修期間

 まず、なぜこのセッションをすることになったのかというと、2021年は例年以上に力を入れて新人研修に取り組んでみた結果、新入社員のほか偉い人たちからも高評価を得ることができたからだという。

 昨今の世界情勢的にも広がるリモートワークの波。決してこれが答えではないと前置きしたうえで、リモート環境で新人研修に取り入れた要素が披露された。

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 バンダイナムコスタジオは、半年間の新人研修期間を設けているという。細かい部分は職務によっても異なるが、基本的には一環したさまざまな考えかたや仕事のコツを、しっかりと学んでほしいと考えているそうだ。また、環境作りも大事だと語る。新人のうちは何も分からない状態でいることに不安があるものだが、それを取り払うように信頼関係を築いていくことで、ポジティブなスタッフに成長していくのだとか。

 また、研修担当者がいち社会人のお手本として振る舞うのも大事だそうだ。新入社員からして見れば、研修担当こそが社会人としてのモデルである。当たり前のことではあるが、そこをよりしっかりと意識すべきとのこと。

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 そうして構築した環境のもとで、研修中に実践、成功体験を積むことで実際の開発チームでも研修中に学んだことが現場で活き、さらに現場で成長していくことを願っているという。

 とはいえリモートの環境でそれを構築するのはなかなかに難しい。さらに新人たちもリモート中心の学生生活などを送っている場合があるため、“人といっしょに何かをする”という経験を積ませることが非常に大事だと、澁谷氏は語る。

 これらの学びを得るためにはやはり半年は必要だということで、長めの新人研修期間を取っているそうだ。

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 具体的な新人研修の内容も語られた。ざっくり分けると4月は社員としての基礎を学ぶ研修期間で、5月~6月は各職務に関するスキル習得をメインにした期間。7月~9月に実際にゲーム制作を研修の中で実施し、10月の全社試遊会を目指す……というのが当初の目標。2021年は予定にはなかったが、実際にゲームを1本リリースすることが決定。それが『Goonect』だ。

 制作研修は1チーム10人前後で制作し、年度によって人数が足りない場合は先輩社員などに仕事を発注することもあるという。昨今のゲーム開発は大規模化し、物量も多く開発自体も多人数で分業せざるを得ない。そのため、新入社員が配属しても、断片的な作業しか任せることができないのが実情なのだとか。

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 そうすると、新人ゆえにゲームの完成系が見えないまま作業をすることになったり、実際にゲームが完成した経験を持っていないままゲーム制作に挑むことになる。憶測ではあるが、それだと新人社員のモチベーションもなかなか上がりにくそうだ。そこを解消するためにも、研修期間中にゲーム制作をしているという。

 結果、2021年は4作品が完成。『Goonect』のほか、4人対戦しりとりアクションゲーム、一人称視点ホラーゲーム、ポップコーンを題材にした5対5のオンラインシューティングゲームを作ったそうだ。

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リモートで結ぶ信頼関係

 続いては、リモートワークについて。2020年4月、バンダイナムコスタジオは完全リモートワーク化になったという。そのため、これまで通りの新人研修が難しくなった。とくに共同作業を学ぶ場を設けるのが難しかったり、単純に社員どうしのコミュニケーションが少なく、いい関係性を築くのが大変だったようだ。

 研修ではさまざまなツールを導入することで、その問題に対応していった。ビデオ通話ツールのZoomや、チャットツールのSlackなどは会社の標準ツールとして使用されているもののほか、多人数で使えるミーティング用ホワイトボード・Miroや、バーチャルオフィスツールのGatherを導入。

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 Miroは付箋を貼ったり、動画、テキスト、図形などを参加者たちが自由に配置して共有できるツール。アイデア出しに便利なことから、打ち合わせやグループワークなどに使用したそうだ。

 研修のカリキュラムとしても使用されたほか、Miroの上で遊べるアナログゲームを作ってみる、という研修もあったのだとか。結果、Miroを導入したおかげでアナログでやっていたことよりも、円滑かつ効率的な研修が実施できたとのこと。

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 Gatherは、見下ろし型の2DRPGのような見た目をしたバーチャルツールで、アバターどうしが近づくことでビデオ通話カメラが表示されたり、会話が聞こえてきたりする仕組み。文字チャットのほか、エモート的な感情表現も可能とのこと。オフィスは自由に編集可能で、たとえば会議室を作れば会議室内にしか音声が聞こえないような仕組みにもできるという。

 Gatherのおかげで、オフィスで仕事をしている感を研修中に味わってもらうことができたそうだ。最初は試験的に一部の研修で用いたところ、非常に好評だったためどんどん部屋が拡張されていき研修全体に広がっていったのだとか。

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 さらに全社試遊会も、Gatherを使って会場設営をしたそうだ。部屋の制作自体も新入社員がやっているため、これ自体がゲームを制作しているような感覚で、ひとつの研修になっているように感じた。なお重要な会議などはZoomを用いており、Gatherはもっと気楽な場面などで使用していたとのこと。

 これにより、現実で起こっていたような「最近どう?」みたいなやり取りや、隣の話し声が聞こえてきてそこに参加するなどの現象が発生し、リモートワークでもコミュニケーションが活発に。また、新入社員との親睦を深めることにも役立ったため、研修のMVPとも称されていたという。

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 実際に使ってみての人気ぶりもあり、バーチャルオフィスツールの導入・検討が、バンダイナムコスタジオの開発チームなどにも広まっていったとのこと。

 仕事だけでなく部署間コミュニケーションや、社友会などにも採用されたGather。その使い心地もさることながら、各部署がリモートワークでのコミュニケーションをどうにかしたいと、以前から考えていたのが社内で流行したきっかけだろうと澁谷氏は分析していた。

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大事なのはコミュニケーション

 リモート環境の中での研修に力を入れた結果、リモート環境前の研修内容とほぼ同等の研修ができたほか、さらに期待以上に新入社員たちが成長。

 研修で制作したゲームはとてもクオリティーが高く、新入社員たちの実力と姿勢が大きく評価されたのだとか。そこから「ゲームを公開して、社外評価を受ける経験も積ませたい」という要望が、社員たちから挙げられたそうだ。それが、『Goonect』の無料リリースにつながったのだ。

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 こうした功績も、やはりリモート環境の中でのコミュニケーション構築に力を注いだ結果なのだろう。また、澁谷氏は新人たちから学べたことも多かったそうで、コミュニケーションの重要性を語っていた。

 ただ環境を用意するのではなく、コミュニケーションが生まれる場面作りにも積極的に取り組んだのだとか。とはいえ、まだまだ課題も残っている模様。

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 ゲーム会社のみならずほかの業種でも、新人研修はもちろんのこと、通常業務でリモートワークをしている人たちにも、参考になるセッションだったのではないだろうか。また、『Goonect』はPC(Steam)にて無料配信中。ふたりで遊ぶオンライン専用ゲームではあるが、気になる人はぜひ無料でダウンロードしてみよう。

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