およそ30年前……『ワンダーボーイ』や『モンスターワールド』シリーズなどを生み出したウエストン ビットエンタテインメントがアーケード用タイトルとして開発していたものの、“時流に合わない”との判断で開発中止になってしまった幻のアクション『時計じかけのアクワリオ』。

 そんな同作が、ビデオゲームの発掘と保護を行うドイツのパブリッシャーStrictly Limited Gamesの手により復活。2021年11月30日にININ GamesよりNintendo Switchとプレイステーション4向けに発売された。

 劇的な復活を遂げた『時計じかけのアクワリオ』に対する感慨を、改めてStrictly Limited Games 共同設立者であるデニス・メンデル氏に聞いた。デニス氏の『時計じかけのアクワリオ』に対する思いがとにかくアツい!

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困難に思えることがあってもあきらめずに続けていけば最後には報われる、まさに人生といっしょ

デニス・メンデル氏

Strictly Limited Games 共同設立者

――『時計じかけのアクワリオ』が発売されましたが、いまの率直なお気持ちを聞かせてください。

デニスヨーロッパのいち企業である私たちが本作品を日本の皆さんへ“お返し”できる機会をいただけたことをとても誇りに思っています。数年前までは多くの方が本作の内容すら知らなかったわけですが、ついに遊べるようになりました。数多くの方々のご協力を得て長年の夢が叶ったことがいまだに信じられず、夢の中にいるようです。

――長きにわたる開発期間で、とくに印象的だった出来事をお教えください。また、発表以降のフィードバックでとくに印象的だったものは?

デニスゲームを完成に近づける一歩一歩がとても思い出深いものですが、中でも印象的だったのは『ワンダーボーイ』シリーズが大好きなリード開発者のスティーブにソースコードを渡した数日後、ゲームのイントロダクションの3枚の写真を送ってきてくれたときです。「あぁ、本当に復活させることができるんだ」と強く確信したのがそのときでしたから。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」
『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」
『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」
こちらスティーブ氏が送った3枚の写真。デニス氏が『時計じかけのアクワリオ』の復活を確信した瞬間だ。

デニスそれから数週間後、ゲームの自動プレイとイントロダクションが収録された最初のビデオを手にしたとき、私は嬉しさのあまり少し泣き、いっしょに住む家族はそんな私を見て非常に驚いていました(あんなに色鮮やかでかわいらしい絵を見て家族が泣いているんだから、驚いても不思議ではないですね……)。

 日本でロケテストが行われていた当時、まだドイツの学生だった私は『時計じかけのアクワリオ』を遊ぶことができませんでしたので、「ロケテスト中に遊ばれた人たちは、当時こんなに素晴らしい映像を見ていたのか……」としみじみとそのころについて考えを巡らせました。そのたった数秒の映像はビデオゲーム史にとって非常に意味の深いものであり、そして私個人にとっては子どものころから憧れ続けたゲーム開発の先鋭チームが生み出した作品の衝撃的な一部分でした。そのときの喜びは言葉を尽くしても表現し切れません(ゲーム内のギャラリーにスティーブからのメッセージがあり、彼も開発の感想を述べています。ぜひ見てみてください!)

 それからかなり後で、SNSで『時計じかけのアクワリオ』の写真を数枚掲載したところ、本当にたくさんの世界中の方々からすぐにコメントが届きました。多くの人はこのゲームの存在すら知らなかったようでしたが、皆さんからのフィードバックは非常にポジティブなものでした。このゲームを楽しみにされている人が数多くいることを知って、私は発売に向けてさらにやる気が出たのです。また世界中のゲームを作られている側の人々からの反応も多く、ウエストンが業界に与えた影響力を再認識しました。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」
修復前のタイトル画面。
『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」
修復前のステージ。

――とくに日本のゲームファンには『時計じかけのアクワリオ』のどのようなところを楽しんでほしいですか?

デニス鮮やかな2Dのドット絵やかわいらしいキャラクター、アーケードゲーム特有の難しさやゲームプレイの楽しさ、そして優れた音楽……人によっては懐かしかったり、逆に新鮮だったりするこの不思議な作品をもちろん手に取ったすべての方に楽しんで遊んでいただきたいです。また、世界中の若いゲーマーたちが新しいジャンルに出会い、それについて話すきっかけになればと思います。ですが、日本のゲームファンの方々は本作を通して、さらに具体的で特別な感覚が芽生えるのではないでしょうか。

 私の生まれたドイツでは18歳未満の子どもがゲームセンターに入場することが禁止されていますので、私は恥ずかしながら子ども時代にゲームセンターの思い出がほぼありません(ドイツ連邦政府がこの点を早急に改善することをつねに願っています)。しかし、日本のゲームセンターには大人も子どもも含めた長い伝統がありますね。もしかしたら、日本のゲーマーの皆さんは本作をプレイした際、当時学校や会社の帰り、または休日にゲームセンターで過ごした懐かしい“あのころ”を思い出すかもしれません。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」

 その上、『時計じかけのアクワリオ』は当時の懐かしさだけでなく、新発売のゲーム特有の新鮮な楽しさも持ち合わせています。こういった新旧二重の感覚を具体的な思い出とともに回想できるのは、“ゲームセンター”が深く現代文化に根付いた日本だからこその感覚です。残念ながらドイツで育った人間が本当の意味で同じような感覚に浸るのは少し難しいでしょう。

 また、最近では多くのゲーマーがスマートフォンを使ってゲームをプレイしていますね。もちろん、これらも素晴らしいゲームで私も大好きです。しかしそれらは“ゲーム史”という大きな流れの一部に過ぎません。ゲームという一大産業がどうやって発展してきて、日本文化がそれらに対してどのような影響を与えたか、そういった点はゲームファンならずとも日本の方々が興味深く楽しめる視点ではないかと思うんです。本作がきっかけとなって、ビデオゲームが失なわれてはならない文化的な宝として関心を持ってもらえたらいいですし、日本のファンの皆さんにはこういった点も合わせて楽しんでもらえたら嬉しいです。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」

――改めてのご質問となりますが、『時計じかけのアクワリオ』の魅力をお教えください。

デニス『時計じかけのアクワリオ』は一般的な現代のゲームとは異なります。タイムマシンのようなもので、作品を通して当時のゲームや開発の雰囲気を覗き見ることができます。しかし同時に、非常にモダンな新鮮さも与えるのです。

 その新鮮さの理由のひとつとして、『時計じかけのアクワリオ』は新発売のゲームながらかなり練習が必要な難易度で、セーブができず、限られた数のライフしかないということが挙げられるのではないでしょうか。このような高い難易度は、少しフロム・ソフトウェアの“ソウルライク”ゲーム(『Demon's Souls』、『Dark Souls』、『Bloodborne』など)のような難易度との共通点を想起させるのではと個人的に思います。時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚です。日本の有名な歌謡曲にもあるように「まわるまわるよ、時代はまわる」です。すべてのライフが失われた後も楽しくて何度もプレイしたくなるゲームですから、困難に思えることがあってもあきらめず続けていけば最後には報われるでしょう。なんだか本当に人生のようですね。

 そして、もしあなたがこのジャンルのファンではなかったとしても、美しい2Dグラフィックやコミカルなアニメーション、そして素晴らしい音楽は遊ぶ者を魅了します。あらゆる意味でとてもポジティブなゲームですので、自分でプレイしても誰かのプレイを見ても笑顔が生まれると思っています。ゲームセンターに置けたら皆さんでワイワイ遊べて、本当に素晴らしかったでしょうね……。ここにすべてを書ききれませんが、魅力が満載の作品です。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」

――『スペシャルパック』にはさまざまな特典がついていますが、とくに注目してほしいポイントをお教えください。

デニス選ぶのが非常に難しいですね……。なぜならスペシャルパックのアイテムは、それぞれ異なる理由でそれぞれが重要だからです。たとえばアートブックには当時の重要な資料が多数掲載されており、ゲーム内のキャラクターのグラフィックデザインやアニメーションにも多くの労力が入っていることに気が付かされます。優れたキャラクターは決してゲームの中から勝手に出てくるものではなく、グラフィックアーティストが何度も何度も検討を重ねて生み出しているものだと再認識させられますし、開発チームが当時あらゆる工程で試行錯誤した跡が見て取れる貴重な資料です。

 また、当時の資料が“手書き”という点も非常に味わい深いです。そしてもちろん、サウンドトラックからもプレイヤーの体験を聴覚から補強する音楽がいかに重要であるかを知ることができます。このゲーム、アートブック、サウンドトラックのコンビネーションは、旧ウエストンのバランスのよい“チームワーク”をよく表しています。メンバーは全員がそれぞれの分野でのエキスパートであり、全員が協力して初めて特別なものを作ることができるのです。そんなところが少しでも特典から感じ取っていただけましたら、パブリッシャーとして嬉しい限りです。

――最後に、『時計じかけのアクワリオ』を楽しみにしている日本のゲームファンにメッセージをお願いします。

デニス『時計じかけのアクワリオ』を楽しみにしてくださった皆さん、本当にありがとうございました。お互いに長い長い時間を待ちましたね。しかし、やっと思う存分遊べるようになりました。UnityやUnreal Engineのような開発ツールやゲームエンジンが登場するずっと前に、日本ゲーム業界がどんなにクリエイティブなことをすでに行っていたかを思い出させてくれるゲーム、それが『時計じかけのアクワリオ』です。約30年前にこの素晴らしいゲームを生み出して下さった元ウエストンの西澤龍一さん、栗原孝典さん、坂本慎一さん、盛岡三奈さん、齋藤勝夫さん、大空真紀さんを始めとする関係者の皆さん、この機会を共有できたことをたいへん誇りに思います。彼らこそが真のスターであり、私には彼らの功績を伝えることしかできません。

 このゲームをきっかけに、日本の皆さんがレトロゲームにもっと興味を持ってくださると嬉しいです。アメリカでの“アタリショック”の後、当時の日本のヒーローたちがいかにしてビデオゲームを今日のような“文化”へと押し上げていったのか……少しでも考えるきっかけになれば嬉しいです。なぜなら過去は未来を考える上でとても重要であるにもかかわらず、私たちはしばしばその存在を忘れがちだからです。

『時計じかけのアクワリオ』復活の仕掛け人が熱く語る。「時代が一回転して本作にカチッと当てはまったのかのような感覚」

 映画でも音楽でも絵画でも、初期から現在まで世界中の人が知っている功労者が数多くいます。しかし、日本のゲーム業界における初期の巨匠たちについては、残念ながらいまだあまり語られていないように感じます。彼らが作ったゲームのタイトルは知っているのに、彼らのゲームに触発されてできたタイトルが国内外にたくさんあるのに……です。そういった意味で日本のゲーム開発者のストーリーを世界に伝えることは、ゲーム史の流れを知ってゲームの未来を考える上で非常に重要であり、私の使命のひとつだと思っています。私は日本のゲーム業界に恩を感じていますし、彼らについてもっともっと伝えたいことがたくさんありますから。

 約30年に開発が始まったゲームが突然、世界中のゲーマーに素晴らしいインスピレーションを与えることができる……これがまさにゲームが使える“魔法”です。多くの日本のゲーマー、とくに若い方々がこういった素晴らしいゲーム、素晴らしい人たちを知るきっかけになればこんなに嬉しいことはありません。皆さんが完成したゲームを遊んでどのような感想を持たれるのか非常に興味があります。ですが、とにかくまずは楽しんでください!