細田守監督の最新映画『竜とそばかすの姫』が2021年7月16日より大ヒット上映中。

 広大なインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で、主人公の女子高生・鈴と、“竜”と呼ばれる謎の存在の関わりが描かれる。

 そこに現れるのは近未来的なインターネット表現であり、「インターネット上で『美女と野獣』をモチーフに映画を作ってみたかった」と細田監督が語るラブストーリーでもあり、アクションありサスペンスあり、そしてまた、すず個人の悩みや葛藤を描いた成長の物語でもある。そのクライマックスはこれまでにないほどの映像表現と音響でどこまでも壮大に描かれる。

 本作は『サマーウォーズ』(2009年)以来、細田監督としては約10年ぶりとなる“インターネットモノ”でもあり、画面にはゲームファンにとっても興味が惹かれる描写やCG技術が多数登場する。その制作には数多くの名作を手掛けたゲーム業界出身のスタッフも関わっているとか……。

 日本のみならず世界でも注目を集める本作は、2021年7月に開催された第74回カンヌ国際映画祭“カンヌ・プルミエール”部門に選出され、ワールド・プレミア上映された。上映後には現地の観客によるスタンディングオベーションが約14分間にわたって行われたという。

 本作の監督を務め、カンヌから帰国直後の細田守氏に、オンラインインタビューを敢行。現地での反響や新たな映像美を作り上げた秘訣などをたっぷり語ってもらった。

細田 守(ほそだ まもる)

1967年生まれ。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社し、アニメーターを経て演出(監督)になる。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督としてデビュー。その後、フリーとなり、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)を監督し、国内外で注目を集める。11年、自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)で、ともに監督・脚本・原作を手掛けた。前作の『未来のミライ』(監督・脚本・原作)は、第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出され、第91回米国アカデミー賞の長編アニメーション映画賞や第76回ゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞にノミネートされ、第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞した。最新作『竜とそばかすの姫』(2021年)では第74回カンヌ国際映画祭で公式上映された。 (撮影/神藤 剛)

帰国直後、自主隔離中の細田監督にオンライン取材

――カンヌ映画祭での『竜とそばかすの姫』上映後に14分間ものスタンディングオベーションが行われたそうですね。

細田皆さんから熱烈といっていいほどの拍手をもらいまして、あれほど長くスタンディングオベーションを受けるのは生まれて初めてのことでしたから。感激しましたね。拍手で手が痛くなるんじゃないかと思うくらい、皆さんが「この映画おもしろかったよ」という気持ちを表してくれました。

 カンヌ映画祭での上映はワールドプレミアでお客さんに向けた初めての上映だったので、どういうふうに皆さん観てくれるだろうかと緊張していたのですが、楽しんでもらえて本当によかったです。

――熱烈な反響が。

 海外の配給の方から聞いた情報で、14分のスタンディングオベーションというのは、カンヌ史上8番目の長さだったらしいです。じゃあ、1位が何かというと『パンズ・ラビリンス』(2006年/ギレルモ・デル・トロ監督)で、22分ものスタンディングオベーションだったらしい。

――1位が22分ですから、14分というのはカンヌ映画祭の歴史でも珍しいことだというのがわかりますね。

細田そうですね、22分というのもすごいなと思いますけど。

新たに描かれるインターネット空間<U>

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――本作のインターネット世界である<U>の世界。これは2009年公開の『サマーウォーズ』で描かれた<OZ(オズ)>とはどういった点が異なるのでしょう。

細田僕は約20年前の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』と、約10年前に『サマーウォーズ』と、おおよそ10年ごとにインターネットをテーマにした作品を作っています。いまは技術の発達で、できる事も大きく変化したと思います。『サマーウォーズ』のころはどんな時代だったかというと、iPhone 3が出たばっかりなんですよね。

――作中で登場人物が使っていて、『サマーウォーズ』は「初めてiPhoneが登場したアニメ作品」とも言われますね。

細田そして現在はiPhoneいくつですか……(手もとのiPhoneを見て)……iPhone 12か! そのくらいの時間が経っていて、いろいろ変わりましたね。

――約10年でiPhoneが3から12まで出たと。

細田2000年初頭は、iモードなどの携帯電話サービスがあって、お年寄りからお子さんまで誰でもインターネットを使える状況になったころでした。

――ゲーム機がインターネットにつながるのが当たり前になり、作中でもゲーム機で<OZ>に接続する子どもたちが出ていました。

細田当時といちばん違うのは、いまはスマートフォンが普及しきっていて、現実とインターネットの世界がより近くなったところです。扱う情報量もインターネットを介してできる事も格段に増えている。なので『竜とそばかすの姫』では『サマーウォーズ』の<OZ>よりももっと巨大な規模になったインターネット世界を表現する必要がありました。ゆえに<U>の世界は、<OZ>の大型アップデートというか、フルモデルチェンジというか。

 『サマーウォーズ』のときは、<OZ>には10億人のアカウントが登録している設定にしていましたが、現在ではFacebookの登録アカウントが10億を超えたそうです。つまり現実がフィクションを超えてしまった。その現実を踏まえ、こちらもアップデートしなければいけない。50億人がログインしている究極のインターネット空間、それが<U>なんですね。

進化したCG表現

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――『サマーウォーズ』では、<OZ>空間にいるキャラクターは手描きのアニメーションで描かれていましたが、<U>ではキャラクターも3DCGで描かれています。これには何か狙いがあったのでしょうか?

細田この作品は、描く世界の違いで手描きとCGを使い分けています。<U>の世界はインターネット世界ですからCGで描くのが当然で、現実世界は手描きで描く。つまりコンセプトで描き分けているということです。

 一般的なアニメーション表現で3DCGを使う場合は、アクションシーンやアイドルのダンスのシーンなどで使われていますよね。ただ、そういった作品も感情表現は従来通り手描きで描くものがほとんどです。なぜかというと、CGはお芝居を描くのが難しくてぎこちない人形劇みたいになってしまいがちだからなんです。キャラクターに感情移入しづらいものも多い。

 でも『竜とそばかすの姫』ではそうしたくなかった。

――CGでのお芝居というのは時間を掛けたポイントになりますか。

細田かなりの試行錯誤を繰り返しました。映画としてちゃんと人物の気持ちが通じるように描きたかったんです。なんとかCG表現をそちらの方向に持っていきたいんですよね。

――細田監督が行きたい方向と言いますと。

細田これまで長い歴史を積み重ねて来た手描きアニメーションと比較したときに、日本で作られた既存のCGアニメは、僕から見ればまだまだ感情表現に成功しているとは言い難い。

 でも僕らは、なんとかして理想に近づきたい。非常にがんばって、ようやくベルの表情や感情を満足いく形で描けるようになった。それはCG制作会社のデジタルフロンティアと作品作りを続けてきて、やっと可能になったんです。同じスタッフと10年以上チャレンジを積み重ねてきて実現した結晶であって、一朝一夕ではないんですよね。

――僕はゲームメディアの人間ですからどうしてもゲームのことを考えてしまうのですが、CGキャラクターに感情移入するというのはテレビゲームでは日々やっていることで、改めてその難しさというのはゲームとアニメの違いを感じる部分ですね。

細田たとえばゲームと同じキャラクターのCG表現をそのまま映画に持ち込んでも、感情移入できるようにはならない例ってたくさんある。ゲームと映画の違いです。じゃあどうすれば観客が思い入れのできるキャラ表現になるのか、どうすればベルをかわいく描けるのか。トライアンドエラーを繰り返しながら、なんとか目標をクリアーできたんじゃないかな。

ゲームも作るスタッフが参加

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――ゲームと言えば、本作のCGディレクターである堀部亮氏は『龍が如く』シリーズの制作にも携わっていたり、『デス・ストランディング』の音楽制作を行っていたルドウィグ・フォシェル氏や『ファイナルファンタジー』シリーズの上国料勇氏など、本作の制作にはゲームの仕事を手掛けられていた方が多く参画していますね。

※堀部亮氏……デジタルフロンティア所属のCGアーティスト。ゲームでは『メタルギア ソリッド 5 グラウンドゼロズ』のCG制作や『龍が如く3』などに携わる。神室町を作っていたとか。
※ルドウィグ・フォシェル(Ludvig Forssell)氏……KONAMI在籍時『メタルギア ソリッド 5 グラウンドゼロズ』、『メタルギア ソリッド 5 ファントムペイン』に、コジマプロダクション在籍時に『デスストランディング』の音楽制作に携わる。現在はフリー。
※上国料勇氏……スクウェア・エニックス在籍時、『ファイナルファンタジーXII』、『ファイナルファンタジーXIII』シリーズ、『ファイナルファンタジーXV』などでアートディレクターを務める。現在はフリー。

細田堀部さんは『サマーウォーズ』のころからずっと僕たちといっしょに映画を作ってくれている方です。

 ルドウィグ・フォシェルさん(ルドさん)はもともとKONAMIや小島秀夫さんの会社にずっといらして、独立されたタイミングでちょうど参加してもらいました。音楽監督の岩崎太整さんが、今回の映画の内容的にルドさんの世界観と合うだろうということで。話を聞くと、これまでのゲーム制作では作曲だけでなく、ダビング作業(※)もいっしょにしていたそうなんです。その経験がこの映画のダビング作業にも活かされています。

※ダビング……アニメ制作時、映像にBGMや効果音など音を付ける最終作業。

 上国料さんは<U>の世界の中にある、“竜の城”や“クジラ”をデザインしてもらいました。デジタル世界ならではの素晴らしい造形をしてくれました。

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――その3名が『竜とそばかすの姫』に参加したのは、それぞれ別のルートで。

細田そうですね、ゲームのお仕事ををしているからお願いしたということではなく、実力者にお願いしたら3人ともゲームの仕事にも携わっている方々だったということです。

――3名の仕事のここが好きだなというのはどういったポイントでしょう?

細田堀部さんは、僕が『竜とそばかすの姫』ですごくハードルの高いものをCGに求めていることを充分に理解してくれて、それに対してしっかりと応えてくれました。堀部さんと下澤洋平(※)さん、ふたりのCGディレクターがいるからこそ、実現可能だったんです。

※下澤洋平氏……デジタルフロンティア所属。『サマーウォーズ』、『バケモノの子』に参加。ゲームでは『鉄拳5』や『白騎士物語』にも携わった。

 これまで僕らの作品がゴールデングローブ賞やアカデミー賞にノミネートされる規模になっているということを踏まえると、当然ハリウッドのCGアニメーションと比較されるわけですから、たいへんなハードルだったと思うんです。でも、そのリクエストに見事に応えてくれました。

 ルドさんも、日本だけではなくグローバルな環境下の中で仕事をしている人なので、この映画が様々な国の観客が観ることになるという前提を踏まえて、音楽をどういう風に作るべきか、いっしょに考えることができました。

 とくに最初にすずがベルとして歌う『歌よ』という曲はルドさん作曲なのですが、非常に説得力を持った曲を作ってくれて、中村佳穂さんの歌唱も相まって、彼の力を見せつけられました。

 上国料さんは『ファイナルファンタジー』シリーズの美術監督で、ファンタジー世界の中でもリアリティーを感じさせてくれるデザイナーです。“竜の城”も、アイデアに溢れた見事な仕上がりになりました。

 “クジラ”も、“スピーカーで着飾ったクジラ”というお題で、いろんな人が案を出したのですが、上国料さんにお願いすると、すぐにあのデザインが上がってきたんです。 天女の羽衣のような布が取り巻いた、すばらしい造形です。

細田作品におけるクジラ・オオカミ問題

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――クジラをモチーフにしたキャラクターは『サマーウォーズ』にも『バケモノの子』のクライマックスにも出てきましたね。お好きなのです?

細田クジラという動物は、ほかの動物とはすこし違う特別な存在だなと思います。どう違うかと言うと、社会的に人間にイメージ付けられた動物であるという点においてオオカミとクジラは共通していて……あっ、僕はオオカミの出てくる映画を作ったことがあるんですけど。

――はい(笑)。

細田オオカミというのは人間社会の中でずっと悪者として描かれていますよね。

――『赤ずきん』とか、『3びきのこぶた』とか。

細田なぜそうなるかと言うと、オオカミを悪者化する物語によって、人間という存在を世界の中心であると位置付ける必要性のためです。人間によってイデオロギッシュな意味づけをされる。

 同じようにクジラもそうです。『白鯨』という小説を読むと、非常に悪魔的に描かれていて、“人間が自然を克服すべき象徴”とか、“打倒すべき存在”とか、そういう意味づけをされるわけです。

 そして現代では手のひらを返してピースフルなもののイメージを押し付けられたりね。ですから人間に一方的に搾取されてきた存在とも言えるんです。

 で、僕は、どちらかというと人間側ではなく、オオカミ側だったりクジラ側に寄り添いたくなるんです。人間中心的な考えがどうも傲慢に思えてしまうんでしょうね。

細田守とゲーム、VR

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――最近はゲームをプレイすることはあるのですか?

細田それが、ゲームどころか映画も観られないような状況でして。

――激務の日々で。

細田唯一、下の子といっしょに携帯でオセロゲームとかやっています。上の子はいま『Minecraft』にハマってます。世界中で流行っていると思うんですけど、我が家もご多分に漏れず。

――おお。プレイはNintendo Switchで?

細田iPadでやってますね

――子どもがタブレットPCを使いこなしてゲームを遊ぶ、本当に『サマーウォーズ』みたいな図ですね(笑)。

細田上の子はいま8歳ですが、これから成長するに従ってどんどんゲームに詳しくなって、僕も子どもからゲーム情報を仕入れるなんてことになっていくんでしょうね。大きい子どもがいる親って、子どもから最新のエンターテインメント情報を受け取ることもあると思うのですが、いよいようちも始まったなと。

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――別のインタビュー記事で、主人公のすずが<U>にログインする際、耳につける近未来的な機器を採用した理由として「女子高生がヘッドマウントディスプレイはあまり付けないのではないか」と語っていましたが、VR機器は監督も試されたことはあるのですか?

細田もちろん。5Gの展示会で。広い展示会場の中でゴーグルをしてVR体験しました。VRというのはゲームとすごく親和性が高い技術ですね。

――テトリスをVR空間で遊ぶ『テトリスエフェクト』といった作品など、日本のクリエイターが作った作品も世界で高い評価を得ていたりします。

細田僕が思い出すのはあれだな、任天堂の3Dの、赤い……。

――バーチャルボーイ。

細田そうそう! ありましたよねえ。3D空間でのゲームプレイという夢がきっとゲーマーにはずっと昔からあって、それがいまの技術とゴーグルで実現した時代ですよね、現代は。

 10年前にサマーウォーズの時にファミ通さんに取材してもらったときも言ったのですが、仮想空間になるとバトルは欠かせない。『バーチャファイター』をずっとプレイしていた者としては、肉弾戦、ストリートファイトがないとVR空間じゃないなと思うくらい、仮想空間の中ではゲーム的な要素が欠かせないなと。

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――『サマーウォーズ』で、VR空間の中で佳主馬がゲームが強いから“キングカズマ”と呼ばれ非常に尊敬を集めているという、eスポーツの流れみたいなものが、本当にこの10年で実現していますよね。

細田実現しましたね。現実がそういう風になってしまったので、『竜とそばかすの姫』では逆に<U>の中でeスポーツ感を出さないように描きました。10年前の『サマーウォーズ』の方が、eスポーツとは言わないけれどもはっきり描いていましたよね。

――2009年ではフィクションとしておもしろいものだったけど、現代ではふつうにあるものになっているから。

細田そのうちeスポーツも、eスポーツとすら呼ばれなくなるのではないかという気がしますね、ふつうになりすぎて。そうなっていくんじゃないかな。

――『竜とそばかすの姫』の作中では描かれませんが、<U>の中でeスポーツ的なバトルのクラスタというか、盛り上がっている人たちというのはきっといるんでしょうね。

細田「数か月前、<U>の武術館に突然現れた」というセリフがあって、竜が現れた武術館というのが<U>の中でeスポーツ的なことをやっている場なんです。<U>の中の“天下一武道会”みたいなものだと思うのですが。

細田映画をゲーム化するなら?

――架空の質問なのですが、もしご自身の作品をゲーム化するとしたら、どの作品をどんなゲームにしたいですか?

細田何でしょうね。でも「『サマーウォーズ』の<OZ>を現実化したい」という熱意がある若い人が何人もいるというのは聞いたことがあって、そういう風に思ってもらうのはうれしいなと感じますね。

 あと僕の携わった作品だと『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』がありますから、それは携帯液晶ゲームの『デジタルモンスター』がアニメ化した作品ですよね。

――ああ、作品のゲーム化を考える前に、もともとゲームのアニメ化作品を手掛けていた(笑)。

細田『竜とそばかすの姫』でシミュレーションゲームのシーンもありますし、ゲームをしてきた時間も人生の一部みたいな感じで、僕と僕の作品の連続性の中にあると思います。

現代インターネットと誹謗中傷

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?

――「いまのネットは誹謗中傷がメインストリームになってしまっている」という発言も別のインタビューでありました。ちなみに、細田監督はエゴサーチなんてされるんですか。

細田まったくしないですね。

 いまはもうエゴサーチなんてするような時代ではないかな。このぐらい誹謗中傷が広がっていると、マイナスなことばかりですから、やめておいた方がいいでしょう。エゴサーチで自分のメンタルを削っている場合ではありません。自分の心のHPをきちんと守ってクリエイティブに使った方がいいと思います。

――なるほど。

細田誹謗中傷というのはインターネット上で一種社会問題化してますよね。でもそれは、現実とインターネットが限りなく近づいている証だと思います。人間の色々な面が可視化されて拡大化されているということなので。

  でも、ここ最近のインターネットをみていると、その攻撃性というのは尋常じゃないし、常軌を逸しているように感じます。あの攻撃性・暴力性っていうのは、いかにいまの社会が抑圧の中にあるかということでもあり、僕はそちらの問題のほうを考えたいんです。

――どういうことでしょう。

細田正義の名のもとに行われる、インターネット上でのその攻撃性の激しさというのは、いかに僕らが社会から不利益を被っているか、不平等感を味わわされているかということでもあると思うんです。

 そういう攻撃を行う人、「社会がしんどいな」と思っている人に対して映画やゲームが一服の清涼剤になりえるのか? 自由を感じてもらえるものになり得るのか? それを僕たち作り手は考えるべきだと。

 映画を観ている人が、ほっとできたとか、ワクワクする高揚感を味わったとか、いっしょに恋した気分になったとか、めくるめく絢爛豪華な世界を見たとか……そういうのを提供するのが僕らの役目なんじゃないかな。

 このような状況下だからこそ、抑圧から解放されたいと誰もが思っていて、そんな気持ちに応えてあげられるようなおもしろい映画を作っていけたらいいなと思っています。

作品情報

映画『竜とそばかすの姫』映画祭から帰国した細田守監督インタビュー。ゲーム業界の才能も参画した映画で目指したものとは?
  • タイトル:『竜とそばかすの姫』
  • 2021年7月16日より大ヒット上映中

キャスト

  • すず(内藤鈴)、ベル:中村佳穂
  • しのぶくん(久武忍):成田凌
  • カミシン(千頭慎次郎):染谷将太
  • ルカちゃん(渡辺瑠果):玉城ティナ
  • ヒロちゃん(別役弘香):幾田りら
  • 合唱隊(吉谷さん、喜多さん、奥本さん、中井さん、畑中さん):森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世
  • すずの父:役所広司
  • 竜:佐藤健

スタッフ

  • 原作・脚本・監督:細田守
  • 企画・制作:スタジオ地図
  • 作画監督:青山浩行
  • CG作画監督:山下高明
  • CGキャラクターデザイン:Jin Kim
  • CGキャラクターデザイン:秋屋蜻一
  • CGディレクター:堀部亮
  • CGディレクター:下澤洋平
  • 美術監督:池信孝
  • プロダクションデザイン:上條安里
  • プロダクションデザイン:Eric Wong
  • 音楽監督・音楽:岩崎太整
  • 音楽:Ludvig Forssell(ルドウィグ・フォシェル)
  • 音楽:坂東祐大
  • 衣装:伊賀大介
  • 衣装:森永邦彦
  • 衣装:篠崎恵美