2020年10月13日に全世界で発売されたワイヤレスVRヘッドセットのOculus Quest 2。そのローンチから3ヵ月余り経ち、Facebookからコンテンツの販売データが開示されたのは既報の通り。

 その内容はというと、現在Oculus Storeにラインアップされているタイトルの3分の1にあたる60タイトルが100万ドル(およそ1億円)以上の収益を上げているという驚くべき実績。合わせて、日本発のコンテンツも大いに存在感を放っていることがアピールされた。日本人クリエイターということで、わけても世界で高い評価を受けているのがエンハンスの水口哲也氏。2020年5月には『テトリス エフェクト』を、10月13日にはOculus Quest 2のローンチに合わせて『Rez Infinite』をそれぞれ配信し、いずれも好調なセールスを記録しているようだ。

 ソフトの販売状況などから見ても、順調なスタートを切ったと言えそうなOculus Quest 2だが、クリエイターサイドから見ると、Oculus Quest 2の船出はどのように映っているのか。水口氏に聞いてみた。

水口哲也氏

エンハンス代表

『Rez Infinite』Oculusストアページ
『テトリス エフェクト』Oculus Storeページ

Oculus Quest 2の発売で、『テトリス エフェクト』のアクティブユーザーが3倍に

――水口さんは、2020年5月に『テトリス エフェクト』を、そしてOculus Quest 2(以下、Quest 2)のローンチに合わせて『Rez Infinite』をリリースしていますが、手応えはいかがですか?

水口大きな手応えを感じています。とくに『テトリス エフェクト』が顕著で、Quest 2がリリースされてからマンスリーのアクティブユーザーが、それまでの3倍に増えているんです。Quest 2でたくさんのユーザーさんが遊んでくださっているのは、数字ではっきり見えています。SNSなどの反応を見ても、Quest 2に対する反応がポジティブな人が多いので、そこは一段ギアが上がったのかなという気はしています。

――インストールベースが着実に増えているのは間違いないということですね。

水口潮目が変わってきたなと思うのは、よりライトなユーザーさんの声が届くようになってきていることです。最近多かったのが、アメリカの何人かの高校の先生からメールが来ていて、「コロナ禍で、少しでも息抜きになるように生徒に遊ばせたい」といったご連絡をいただくようになったんですね。『テトリス エフェクト』の評判を聞いて先生がプレイしてみて、生徒にも遊んでもらってみたくなったようです。

 これは一例ですが、Quest 2の登場により、僕らが想定していなかった層にもVRがリーチし始めているのかなという実感があります。本当にふつうの方々で、そこまでたくさんゲームを遊ぶわけじゃないんだけど、VRを試してみたいという方が増えたようです。

 ゲームで楽しむ以上の“何か”を感じてくれているような気がします。たとえば、『テトリス エフェクト』を遊ぶことで、プラスの何かを得る。気分を安定させるとか……。最近の言葉で言うと、“マインドフルネス”(※)とかいろいろありますが、気持ちを安定させるとか、リラックスするとかいったような……。

 僕らのテーマである “シナスタジア”の共感覚的な体験をVRで楽しむことで、気分的にポジティブになれる。そんな感じのことを思ってくれているのではないかと捉えています。

※過去の経験や先入観などに捉われることなく、現実をあるがままに知覚して受け入れる心を育む練習のこと

――このコロナ禍もあり、癒やしのツールとして、『テトリス エフェクト』が機能しているということかもしれませんね。

水口そうですね。

――さらに言うと、Quest 2を購入して、最初にプレイしてみるソフトとして、『テトリス エフェクト』は最適な1本だったということは言えるかもしれませんね。

水口そうかもしれないですね。

水口哲也氏が語るOculus Quest 2への手応え。そしてコロナ禍でのゲーム開発に対する思い
Oculus Quest 2の発売以降、マンスリーのアクティブユーザーが3倍に増えたという『テトリス エフェクト』。

――ローンチから3ヵ月を経て、Quest 2というデバイスに対する改めての感触を教えてください。

水口“気軽に手に取れる使いやすいデバイス”という印象は変わってないです。ワイヤレスということがとにかく大きくて、どんなスタイルでも、どこでも遊べるという感じがいいですよね。家族でも、すぐに遊んで手渡しで、「遊んでみたら?」とすすめることができたりもします。その手軽さが、すごく大きいなあというは、改めて思います。

 ことに日本の方はまだまだVRを触れたことがない方も多いので、Quest 2により、手軽に触ってみる機会が増えるということはあるかもしれません。

――Quest 2からは、日本でも量販店などで店頭販売をしていて、実際に試せる機会も増えますしね。量販店でもコンスタントに販売されているという話は聞きます。

水口あとやはり、お手頃な値段というのはあるかと思います。この値段ですべて楽しむことができるというのは、ユーザーからすると非常に魅力的ですよね。

次回作では、感動のレベルをさらに上げていきたい

――この3ヵ月を経て、Quest 2に接してみて、改めてクリエイティビティが刺激されたといった部分はありますか?

水口僕がこのコロナ禍で強く感じたのは、XRのデバイスおよび体験が、これからもっともっと重要になってくるだろう、ということです。VRやAR(拡張現実)、MR(複合現実)なども含めた新しい現実ですね。XRにおいては、体験として、人と人とがつながる“解像度”が、全体的に上がってくる。

 そうやって人がつながることで、孤立しなくて済んだりもする。人と人がフィジカルに出会えない状況の中で、より解像度の高いコミュニケーションを取れることが重要になってきていると思うんです。それは、みんなが幸せな気持ちでいられることを実現するにはどうすればいいのかということでもあるのですが……。

 このコロナ禍が落ち着いたとしても、フィジカルな現実とデジタルな仮想の世界が融合したところに、いろいろな未来があるというイメージは、皆さん強く持たれているのと思うのですが、この流れは加速すると考えています。

 きっとそれって、人間の生存本能というか、本能のような気がします。突然こうしてコロナで絶たれてしまったときでも、みんながふつうに仕事をして、勉強をして、生活をするということを、高いクオリティーで維持するという。この1、2年で何か大きいきっかけになるとは、思っています。

 それがゲームも変えていくでしょうし、ワークスタイルも含めた、いろいろなことのライフスタイルも変えていくでしょう。この変化のスピードは早くなっていくと僕は実感しています。

 こういった日々で、僕らも気づきをもらっているのですが、それが実際のクリエイティブとして反映されて世の中に出てくるまでには、もう少し時間がかかりますが、確実にそういう世の中になっていくし、僕らも向かっていくことになると思います。

――そんな中、水口さんの果たすべき役割というか、ゲームの進むべき道はどこになりますか?

水口そうですね。それは、いままでやってきたことの延長線上にしかないのですが、エンハンスで言うと、“共感覚的な体験”ですね。“シナスタジアの体験”と、よく言うのですが、とくに僕らは音楽や音を視覚化したり、触覚に変えたりするという体験を、ゲームデザインに織り込んでいくことを得意としています。それによって、おもしろいゲームを、より感動できるゲームに変えたいという思いがあります。『Rez Infinite』のつぎに来るものだったり、『テトリス エフェクト』のつぎに来るものを、粒度を上げていきながら、感動のレベルをもっと上に上げていきたいです。

 そのためには、XRの技術の進化はとても重要ですし、解像度も大切です。言ってみれば、いろいろな粒度(りゅうど)ですよね。それが上がってきてほしいです。

 当然、コンソールも次世代機が去年の年末に出揃ったので、新しいジェネレーションで、つぎのゲームを開発していきたいと思っていますし、実際にプロジェクトも動き始めています。

 とくに、『Rez Infinite』の“Area X”に関しては、“次作へのプロローグ”という位置づけで開発しましたので、あのコンセプトをつぎのジェネレーションのコンセプトやXRの技術を持って、全体的な解像度を上げて、もっときめ細かいゲームを作っていきたいですね。

水口哲也氏が語るOculus Quest 2への手応え。そしてコロナ禍でのゲーム開発に対する思い
かねてからプロローグである『Rez Infinite』の“Area X”のつぎを明言している水口氏。体験できる日が来るのが待ち遠しい。

――ちなみに、この場合の解像度というのは、グラフィクの解像度に留まらない意味を持つわけですよね?

水口そうですね。もちろん映像の解像度もありますが、たとえば音にも解像度があります。その音も、いままでだとステレオという考えかただったのが、“空間オーディオ”という捉えかたになってきたりしています。空間の中で、鳴っている音がいろいろな方向から聞こえてきて、それがハーモナイズして楽曲になっていくといったパターンを考えたときに、単純にステレオの音とは違う次元になるんです。あらゆるものが空間化していく。あらゆるものが3Dになっていくという、その粒度や解像度が上がっていくのは、体験自体を大きく揺さぶるというか、変えていくんです。

 そこにハプテックス(触覚技術)などが入ってくると、ビジュアルや音や触覚の総合的な統合の体験が、それまでの何倍というレベルではなくて、何乗というレベルで押し寄せてくるんです。そうなると、昔は「ゲームでこんな気分にはならなかった」ということが起こってくるんです。「起こせるようになる」と僕らは信じていて、その階段をひとつひとつ登っている感じです。

――『テトリス エフェクト』や『Rez Infinite』をプレイしての没入感もすごいですが、まだまだ先があるということですね?

水口そうですね。まだまだぜんぜんできていないなあ……という感じです。ぜんぜん足りていなくて、頭の中のイメージは先行するのですが……。「こういう世界を作りたい」という理想が実現するには、もっともっと時間を要することになるかと思うのですが、技術もどんどん追いついてきますし、逆に進化のし甲斐はあるかなと(笑)。

――Quest 2は、そんな進化の大きな一歩ということかと思うのですが、あえて、今後に向けての要望などはあったりしますか?

水口デバイスとしての魅力は十分にあるので、あとは多くの人に知ってもらうことしかないんじゃないかなと思います。“体験してもらう”ということしかないと思うのですが、その機会が増えていけば、ユーザーベースもおのずと広がっていくのではないかという気はします。

 あとは、アメリカのケースを考えてみると、ゲームユーザーはもちろんですが、日本に比べてさらに一般的な広がりを見せているんですね。日本でも、さらに広がりを見せる可能性は大いにあると思っています。VRならではの体験をしてもらいながら、ユーザーベースを増やしていくことが活路になるのかもしれません。

――まだまだQuest 2はリリースされたばかりですしね。

水口『テトリス エフェクト』に関して言うと、僕たちが期待した以上の反響となっています。「かなり多くの人が遊んでくれているな」というのが数字でも出ています。それからすると、日本のVR市場はまだまだこれからの段階で、体験していない人がまだまだいるという印象を受けます。そういう意味では、「前からVRを体験したかったけれど、手軽にはできない」「値段的にもちょっと高い」と思っていた人も40000円台で購入できる状況にあるわけです。一方で、コンテンツも『テトリス エフェクト』や『Rez Infinite』以外にも揃ってきましたし、VRを試すには、けっこういいタイミングなんじゃないかなという気はします。

 VRで得られるワクワク感というのは、昔はゲームセンターやテーマパークにいかないと得られなかったものに近い体験だと思っています。VRだと、家の中で、それに近い体験ができる。自分の部屋が、ぜんぜん違う世界に変わってしまうんです。しかも3Dで。これは昔では考えられない話なので、ぜひ楽しんでいただけたら、我々もうれしいですし、いろいろと可能性が広がるのではないかと思っています。

水口哲也氏が語るOculus Quest 2への手応え。そしてコロナ禍でのゲーム開発に対する思い
世界中のQuest 2ユーザーに親しまれている『テトリス エフェクト』。