2020年9月2日~4日まで、CEDEC公式サイトのオンライン上にて開催された日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンスCEDEC 2020。

 本記事では、2日目におこなわれたディライトワークスによるセッション“多様性を許容するリモートワーク環境のつくり方と働き方デザイン”のリポートをお届けする。

 リモートワークといえば、昨今のコロナ禍の中で採用する企業も多く、ゲーム開発者でなくとも、参考になるような考え方が披露された(もちろん、所属する会社の方針によるところが大きいとは思うが)。

 セッションには、ディライトワークスの、DELiGHT Arts Studio副ジェネラルマネージャー・今井仁氏、DELiGHT Arts Studioジェネラルマネージャー・直良有祐氏、研究開発室ジェネラルマネージャー・對馬正氏、研究開発室マネージャー・長坂千嘉夫氏、研究開発室・リサーチエンジニア・石田氏臣氏が登壇した。

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前回のセッションの振り返り

 そもそもディライトワークスは、以前から“働き方デザイン”というものに取り組んできた。働き方改革ではなくデザインと称しているのは、働き方改革が国が決めたルールや原則などに沿って目指す改革のことだ。働き方デザインというのは、ディライトワークスが自分たちで考えて、自分たちの働き方を変えていくというもの。

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 直良氏はジェネラルマネージャー自ら、デスクトップPCなどを持たず、iPad Proのみで仕事するようにした。また直良氏は故郷である島根県で仕事をすることが多く、東京都での勤務とは半々だった。これによりデスクを用意する経費を浮かせながら、成果物のクオリティを担保できたし、直良氏が東京に縛られることも少なくできた。

 ディライトワークスは、育児をしたい新人社員のためにリモートワークの環境用意するなど、コロナ禍以前からすでにリモートワークを促進していた。そのおかげもあり、現在は社員の7割がリモートワークだという。

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 そしてリモートワークを継続している社員たちから、課題を抽出。社内コミュニケーションや、時間管理、労働時間についてなど、社員から募ったアンケート結果を披露していた。

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 リモートワークでの社内コミュニケーションのやりやすさについては、「難しくなった」という意見が約半数ほどあったことから、施策のひとつとして、社内報を社員たちによるライブ配信にしてみたという。とくに新入社員が一定期間毎日配信してみたところ、前評判はまったく期待されていなかったのに、開始してみたところ毎日おもしろい社内報となり、社内での大人気コンテンツになったそうだ。おかげでコミュニケーションもとりやすくなったのだとか。

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 また、リモートワークで肉体的負担が増えたという意見も多かったことから、リモートワーク手当などを支給するようになったという。というのが、去年のセッションから今年のセッションに至るまでの振り返りだ。

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リモートワークを交える働き方の多様性

 続いては、社員たちの働き方のケースを交えて、ディライトワークスが採用した多様性のある働き方が紹介された。

 研究開発室のマネージャー・長坂千嘉夫氏のケース。長坂氏は共働きの5人家族で、薬剤師の妻が急には休みにくい中、簡単なものなら自炊できるほどの長女、まだまだ自立しておらず、家でひとりにするのは不安な長男、そして入園できる保育園がない待機児童として週に2回一時保育へ登園する次女がいる。

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 妻は育児休暇明けで仕事に復帰しつつも、次女が待機児童になってしまったため、一時保育に週最大2日しか預けられない。長男をひとりにするのも不安があるし、長女がいたとしても弟の面倒を見切れるほどではないそうだ。

 最大の問題が、小学2年生の長男がひとりで家に居る状況が最大2日間あることだ(もちろん両親の勤務終了前のお話)。ディライトワークスは基本的にリモートワークと出社型を選択可能。通常の働き方の場合はオフィス出社を選択していたそうだが、長男がひとりになってしまう期間をリモートワークに変更したそうだ。

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 このような例として、こういった選択ができるから、子どもをひとりにさせない、または子どもが熱を出してしまった、というようなときにも急遽仕事の休みを取らなくても対応できる可能性も生まれる。

 2004年にハーバードビジネスレビューで発表されたレポートでは、多様性のあるチームのほうが技術革新を起こし易いという。多様性が許容されている働き方だからこそ、仕事効率の向上やモチベーションの向上にも効果的だと、長坂氏はアピールした。

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ひきこもっても健康を保てる

 つぎは研究開発室のリサーチエンジニア・石田 巨氏が、リモートワークの問題点の改善を解説。リモートワークではほとんど外に出ないので、運動不足に陥ったり、精神的に気が滅入るなど、ネガティブなイメージも多い。感覚的にはその通りに思えるが、ひきこもりながら健康になれるのではないかと、研究開発室の仕事でふだんからやっている方法で、問題を検証することにしたという。

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 まず運動不足で不健康になるというイメージのひとつが、カロリー消費が減り、体重も増えてしまうということ。では運動とは何なのかと調べたところ、普段の掃除や洗濯も運動に値するのではないか? と考え、実験に移したそうだ。

 まず6ヵ月間、石田氏はできるだけ引きこもって、外出回数を抑えてみたという。するとこれまでの1日の平均歩数が8000歩だったのに対し、1日平均400歩にまで落ちたそうだ。それにより、1日の消費カロリーは約200kcalから、1日約10kcalに落ち込んだ。

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 そこで、石田氏は家事のほかに、10分程度の体操を取り入れたほか、通勤後に飲んでいた炭酸飲料1本を飲まなくしたという。これだけのことで、1日平均8000歩だった1日の消費カロリーとほぼ同じになったので、体重も変わらないのだという。正確なデータではなくファジーな計算ではあるものの、かといって数値自体にそこまで差は生まれないだろう。逆に言えば、生活習慣をひとつ変える、炭酸飲料を1本飲む程度でひっくり返る差とも言えると石田氏は語った。

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 この結果から、外に出て運動をしなくては健康になれないわけではないので、漠然とした不安や思い込みを解消できた。また、逆に室内だからこそ、誰にも見られない恥ずかしい変な動きで運動できたりと、良い面も見えたという。また、運動や家事は仕事の合間に挟むと効果的だったそうだ。

 このように、リモートワークの抱える問題点というのをひとつひとつ洗ってみたところ、代替案を用意することができた。この方法を試すことで、問題点を改善できるかもしれないと石田氏は語る。なお、これは石田氏の経験から生まれた一例であって、外での運動を否定するものでもない。

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リモートワークで会話が減る

 続いては、“働き方デザイン”と名付けた、直良氏の働き方。このケースでは、今井氏が事前に傍聴者たちから寄せられた質問を受け取り、直良氏に直接リモートで質問していく、という方法で働き方を解説していた。

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 まず、直良氏は出雲市(島根県)を拠点にしており、代表取締役を務めるIZM designworksも出雲にあるし、家族も出雲に住んでいる。なぜ働き方デザインと名付けたのかというと、数年前に出雲大社の近くに妻とランチに行って、その帰りにデザインワークのための取材で出雲大社の写真を撮る、という一連の流れの中で、自分の仕事の仕方もデザインできるのではないかと考えたからだそうだ。

 今井氏が驚いたのは、直良氏がiPad Proだけでイラストレーションの仕事を完結していることだった。通常のイメージだと、液晶タブレットなど高価な機材を用いて、取り組んでいる感じだろう。直良氏はiPad Proですべてを完結させている。技術の進歩のおかげもあるそうだが、そもそも直良氏はパソコンのメンテナンスなどが苦手だし、場所に縛られて仕事をしたくないので、iPad Proでの作画を選んでいるそうだ。

 なお参考として、過去にインタビューで実際に使い込んでいるiPad Proを拝見したことがあるので、再掲載しておく。

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 また、新卒のデザイナーを育てる際のために、マニュアル化できるところはすべてマニュアル化したそうだ。リモートワーク下での新人教育は、マニュアル化できるところをマニュアルにしてしまうのが手っ取り早いと、直良氏は語る。

 リモートワークのデメリットも感じているそうで、コミュニケーションが減るのが問題だそうだ。直良氏はコミュニケーションとはその人と貯金をしていくものだと考えているそうで、リモートワークになればコミュニケーションが減っていくので、その貯金を切り崩していくしかないという。コミュニケーションには雑談も必要だと思う中、それができないのは明確なデメリットとは言えないが、気にするところだという。

 直良氏はコロナ禍の中で、完全に東京へ行くことはなくなってしまったが、とくに仕事上の問題はないようだ。ただ、東京にあるオフィスを、まったく使わなくなってしまったので、完全に家賃が無駄になってしまったのだとか。

ワーケーションを試してみた!

 つぎは研究開発室のジェネラルマネージャー・對馬 正氏が、ワーケーションを実践してみたお話。昨今話題になっているのが、バカンスを楽しみながら仕事に取り組む、ワーケーションという方法だ。ちなみに、このセッションの最中も、對馬氏は新婚旅行中で、湖でボートを漕ぎながらセッションに参加していた。

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 對馬氏は仕事の連絡が入ると休暇を満喫できないのでは? 自分にしかできない仕事もあるし、長期休暇なんて取れないのでは? と考えていたが、ディライトワークスにはワーケーション制度はないにも関わらず、実際にワーケーションを試してみたという。

 制度がない、ということは別に禁止されているわけではないので、自分で試せる方法を探したそうだ。ただ、試行結果に応じて、ちゃんとワーケーションがどうだったのかは、説明責任があると思ったそうだ。

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 仕事の連絡のせいで休めなさそうな問題については、休暇中にプッシュ型通知はすべてオフにしたとのこと。本来業務外というのは、プッシュ型連絡通知というのは不要なのである。ただ、チャットやメールは1日1回だけにしたそうだ。これは、欧米在住者との仕事のやり取りで、1日1回でのチャット&メールで基本済ますことができたので、取り入れたものだという。

 自分にしかできない仕事があることについては、そもそもそれが間違っていると判断。おかげで属人的な仕事が洗い出された。その結果、すべての仕事を、ほかの人でも任せられるように今後改善していくという。

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より多様性のある働き方を目指して

 最後のケースは、今井氏が抱える大きな問題。それは、今後発生するかもしれない母親の介護だ。まず、昨年から取り組んでいた今井氏、そしてディライトワークスのリモートワーク化は順調。

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 ただ、地元の新潟県に住む今井氏の母親は、2014年に肺がんを発症。新型コロナウイルスに感染した場合、どのようになるのか心配なことだ。いまのところ自分が帰省しないというのが、いちばんの感染リスクを下げることなのだが、今後介護という問題が出てくるので、やむを得ない帰省も視野に入る。

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 ディライトワークスならばリモートワークが許されているが、管理職ではリモートワークで仕事に支障が出ると今井氏は考える。たとえば、母の介護を中心とした生活になるため、ほかのスタッフたちとの業務時間とかみ合わないだろう、と推測する。

 リモートワークでも仕事ができることは分かったので、そのつぎにやるべきなのは、スタッフたちと勤務時間を同期せずとも仕事のクオリティが下がらない、非同期ワークなのでは? と今井氏は考える。ただ、そこについてどんどん考えを深めていく中、「いやでも、母はまだ元気なのだから、それは一旦忘れよう」と考えたそうだ。

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 ただ、そこで思考停止すると「管理職としてどうなのよ?」と今井氏は考えなおす。もしこういったケースがほかのスタッフたちに発生した場合、すぐに対応してあげるのが管理職の役目だ。まだ起きていないから対応しないのではなく、みんなが安心して働けるように、起こりうる事象に対応できるよう、さらなる多様性を作ることを今後今井氏は目指していくそうだ。

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 なお、ディライトワークスでは今後も未来をさらに見据えた働き方というのを、研究していくという。そういった取り組みの一環として、Delight Remote Worksという、新たな取り組みを行っていると紹介し、セッションは終了となった。

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※画像はオンライン講演の模様をキャプチャーしたものです。