新型コロナウイルス感染拡大がデジタルコンテンツ業界にどのような影響を与えるのか? 

 2020年5月13日、ソニーの決算発表会が行われた。そこでは、2019年4月から2020年3月までの業績をもとに、発表や今後の展望が語られたわけだが、新型コロナウイルス感染拡大の現今の影響や、今後についても触れられた。

 その決算および今後の試算には、コロナウイルス感染拡大がエンタメ業界に与えた、今後与えるであろう影響が如実に現れており、また、質疑応答においても、多くの時間がコロナウイルス関連の質問と回答にあてられた。

 新型コロナウイルス感染拡大がデジタルコンテンツ業界にどのような影響を与えるのか? 

 ゲーム・映画・音楽・電子機器等々、幅広くエンターテイメント分野を手がけるソニーグループの決算は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考えるのに最適だろう。

 ソニーの決算発表を詳細に見ていくことで、エンターテインメント業界全体の現状をわかりやすく捉え、また、多面的に考えられるのではないだろうか?

 本稿は、ソニーの2019年度決算・業績説明会資料の内容や、質疑応答から“アフターコロナ”時代のエンタメ産業、コンテンツ産業を展望してみようという試みだ。

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決算・業績説明会(ソニー公式サイト)

ソニーの2019年度連結売上高には、4Q(第4四半期)に新型コロナウイルスの大きな影響が

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 まずはソニーの2019年度連結売上高について。

 2019年度全体では、売上高及び営業収入は前年度から5%減の8兆2599億円、連結営業利益は5%減の8455億円、純利益は前期比36%減の5822億円となった。

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 より直接的に新型コロナウイルス感染拡大の影響が出たであろう、2020年の1月・2月・3月の、2019年度4Q(第4四半期)を見てみると、売上高及び営業収入は前年同期比で18%減の1兆7487億円、営業利益は57%減の354億円、純利益は86%減の126億円となっている。

 いずれも大幅に減少しており、新型コロナウイルスの影響の大きさを感じとることができる。

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 分野別の“新型コロナウイルス感染拡大の営業利益への影響額の試算”では、事業を以下の6分野に分けて試算が行われている。

  • ゲーム& ネットワークサービス(G&NS)
  • 音楽
  • 映画
  • エレクトロニクス・プロダクツ& ソリューション(EP&S)
  • イメージング& センシング・ソリューション(I&SS)
  • 金融

 いくつかの分野においては増収も期待されるものの、全体としては682億円の減収と試算している。

 決算においては、株主に向けて次年度の事業見通しを発表するのが通例だと思われるが、今年度の業績全体の見通しについては、新型コロナウイルス感染拡大の影響により「合理的な算定が困難」として、今年度は発表を見送りつつ、“2020年6月末に感染拡大がピークアウトし、7~9月にヒト・モノの移動制限が緩和され、事業活動も段階的に正常化に向かう”場合などの仮定をおいた上で、“試算”を発表している

 分野別の内容については、つぎに個別に解説していく。

ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)ダウンロード販売/ネットワークサービスの増収が見込まれる

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 ゲームファンとしてもっとも気になるであろう“ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)”は、2019年度が前年度比で大幅減収となっている。

 だが、その一方で、“新型コロナウイルス感染拡大の営業利益への影響額の試算”においては増収の試算を出している。

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 増収見込みのおもな要因は“ゲームソフトウェアのダウンロード販売、ネットワークサービスの増収”という、外に出ずとも購入して楽しめるデジタルコンテンツ需要の伸びだ。

 それにともない、オンラインプレイに必要なプレイステーション Plus(PS Plus)の増収もあげられている。

 これは筆者の考察となるが、外出自粛・抑制の流れが世界的にあるなかで自宅で楽しめるものの代表格としてゲームの需要が高まっていることがまずあり、流通や配送・運送の乱れや遅延もあり、それらの影響を受けず即座に購入できるデジタルコンテンツ利用も高まっているのだろう。

 また、在宅でのテレワークやオンライン授業生活であれば“家での趣味の時間を取りやすい”という事情も考えられる。

 これはゲームに限らず、音楽、映画などにも言えることだが、例えばテレワークなら、仕事の時間が終わったら即座に家での趣味の時間に移行できる。ちょっとした休憩時間でも、ゲームをプレイしたり、映画を観たり、好きな音楽を聴いたり、ということがしやすい。

 今後、経済活動が段階的に再開されていってもテレワークを継続する企業やオフィスそのものを縮小するという動きも見られる。

 また、新型コロナウイルスにおいても第2波、第3波への懸念もある。家で楽しめるエンターテイメントを充実させたいという需要や、デジタルコンテンツ需要の高まりは引き続き続くのではと予想される。

 なお、ソニーはプレイステーション5の発売も控えているが、それについては下記の記事にてお伝えしているので、そちらをご覧頂きたい。基本的に当初の予定通り、年末商戦期に投入されるとのことだ。

 発表資料では“ゲームソフトウェア開発で顕在化している大きな問題は現時点ではなし”としているが、これについて、筆者からすこし補足したい。

 現状、ゲーム開発現場にまったく問題がないということはなく、各ゲーム開発会社では、緊急事態宣言下での混乱はもとより、ハイスペックな開発環境が必須な専門のクリエイティブ職のテレワーク移行が難しいことなど、開発の乱れやスケジュールの遅れは確実に発生していると耳にする。

 また、“密”である収録スタジオの利用ができず、声優によるボイス収録が困難になり、まだまだスケジュールの見通しがきかない事情もあるという。本稿執筆時の2020年5月中旬時点では、ようやく「それら問題に対応できつつある、もうすぐ再開できるかもしれない」という様子なので、影響が顕著になっていくのはむしろこれからではないかと想像される。

音楽ライブイベント展開で大きく減収のなかストリーミング配信などデジタルコンテンツは増収見込み

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 2019年度の前年度比では、売上高は増収、営業利益は大幅減益で、トータルでは減収となっている“音楽”分野。モバイル向けゲームアプリ『Fate/Grand Order』の減収もこちらに含まれている。

 “新型コロナウイルス感染拡大の営業利益への影響額の試算”でも減収としており、その最大の要因は、レストランやバーといった店舗での楽曲の使用機会が減少して楽曲使用料の収益が減収すること、そしてライブイベントの延期中止だ。

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 このほかにも新型コロナウイルスの影響として、

  • レコーディング等への影響による新曲リリース延期
  • 外出制限に伴うCD等の販売減少
  • イベントの延期/中止によるライブ興行や物販、映像ビデオの販売の減少
  • 広告縮小や映像コンテンツ制作遅れによる楽曲使用料の減少

 などが挙げられている。

 販売から使用機会、なによりもここ数年の“モノ消費からコト消費へ”という大きな流れがあった中で、音楽分野の大きな軸と言えるライブ興行の中止・延期は非常に大きな影響を与えている。

 そうしたなかでも“ストリーミング配信の売上増加などによる音楽制作の増収”が増収見込みのポジティブとして記載されている。やはりデジタルコンテンツ提供だ。

 ここからは筆者の考察となるが、そもそも音楽そのものの需要を考えると、テレワークのなか家でこそ楽しみやすいものであり、不安を払拭させてくれるものとして、コロナ禍のなか、需要の高まりは想像される。しかし、ライブイベントは軒並み中止だ。となると、サブスクリプションサービスで音楽を聴いたり、好きなアーティストの過去のライブ映像を観たりして楽しむというスタイルになるだろう。ゲーム分野の項でも書いたように、今後も“家で音楽やライブ映像・配信を存分に楽しむ”というライフスタイルへの変化は続いていくのではないだろうか。

 今後は、これまでのように来場者を密集させてのライブイベントというのは、少なくとも当面は難しいだろうし、秋・冬にはまた感染リスクの高まりがあるかもしれない。アフターコロナでは、ライブは来場者数を減らしつつ安全面への配慮やコストは高いという高価で貴重なものとなるかもしれない。コロナ以前よりも、ライブよりネット配信やデジタルコンテンツでの収益にバランスを構築していくことになるのではないだろうか。

映画劇場上映など興行の収入は大きく減収。だが、デジタル販売が好調

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 2019年度の前年度比でも増収していて、新型コロナウイルスの影響試算においても、ゲームに次いで増収としているのが“映画”だ。

 2019年度においては劇場興行収入の増加や、テレビ番組作品のライセンス収入の増加が利益に大きく貢献していたが、この流れは新型コロナウイルスの影響によってドラスティックに変化しそうだ。

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 “映画館の閉鎖や製作遅延による作品公開の延期”、“劇場興行収入をはじめとする収益の減少”など劇場での興行、つまりはライブ体験型の提供は、新型コロナウイルスの影響で大幅に落ち込む。

 だが、“映画作品のデジタル販売は好調”と、やはりゲーム・音楽同様にデジタルコンテンツ提供の伸びが期待されており、劇場公開延期によるマーケティング費用減少なども含めて、映画分野はトータルでは増収見込みとしている。

 筆者の推測ではあるが、実際のところ、この数ヵ月に「家で映画をたくさん観た」という方も多いのではないだろうか。今後は、劇場公開などでのライブ感をもったプロモーション戦略から、デジタルコンテンツに付加価値をつけて需要を高める戦略が求められると考えられる。テレワーク移行が長期化するにつれ、家庭で楽しむ充実した視聴環境を作る人も増えるだろうし、それらを伴いつつさらに映画のデジタルコンテンツ需要が伸びていくことだろう。

スマートフォン・カメラ・テレビなど電子機器等スマートフォン市場の減速など、製造への影響も需要への影響も大きく減収

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 エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)とイメージング& センシング・ソリューション(I&SS)についてはまとめて記述していこう。

 EP&Sはスマートフォンやカメラなどの映像機器、テレビなどオーディオビジュアルなどソニーブランドの製品。I&SSはモバイル機器向けなどのイメージセンサー提供だ。

 この2分野は電子機器製造・販売において、世界情勢なども含めて様々な事情や要素が絡むため見通しが難しいが、2019年度の前年度比から落ち込んでいる“スマートフォン・テレビの販売台数の減少”がさらに続くとして大幅減収を見込んでおり、一方で、2019年度の前年度比では大幅増収であったモバイル向けイメージセンサーの販売においても、“スマートフォン市場の減速を注視”として、試算では減収見込みに転じている。

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 また、製品の製造においても、一部製品の生産遅延や世界的な販売店舗の閉鎖・休業による販売減少など、製品供給から実店舗での販売に至るまで影響は大きいとしている。販売店舗においては、やはり実店舗の数が減少傾向に入り、オンライン販売需要が引き続き高まっていくのではないだろうか。

 筆者の考察としては、家庭で気張らしに求められるデジタルコンテンツの伸びとは裏腹に、例えばテレビの買い換え需要などの“必要に迫られているわけではない製品の購入”は控えられていそうだ。根底には世界的な景気低迷や先行きへの不安感から、一定以上の高価な新製品においては購買意欲の低下が否めないかもしれない。

金融

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 ソニー銀行やソニー生命などを含む金融ビジネス分野だが、本稿の主旨とは異なるものなので資料の掲載のみに留めて割愛させて頂きたい。

質疑応答

 最後に、決算・業績説明会にて行われた質疑応答の内容をお伝えしよう。質問は前半が各報道メディアからのもの、後半はアナリストおよび投資家からのものとなっており、本稿ではその全てを書き起こした。プレイステーション5は報道メディア、投資家からの注目度も高く、質問に多く登場している点にも注目だ。

メディア陣からの質問

Q1:新型コロナウイルスの影響でゲームや映画・音楽に対する消費者の需要はどう変わると見ていますか。

A1:外出リスクの中でもデジタルエンターテインメントへの需要は基本的に伸びており、この動向は、しばらく継続するのではないかと考えています。

Q2:テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブ・エンターテインメント・カンパニーとして、制作の遅れなどの難局をどう乗り越えるお考えでしょうか。

A2:テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブ・エンターテインメント・カンパニーとしての活動ということですが、私どもとしてこういったときだからこそ、クリエイターの皆さんを支援していくべきという趣旨で、たとえば2020年4月の初旬には、1億ドル規模の新型コロナウイルスおよびグローバル支援基金を設立いたしました。

 音楽・映画・ゲーム・アニメの業界でコンサートやライブの中止、それから映画やテレビ制作の中断の影響を受けているクリエイターの皆さん、アーティストの皆様、その他パートナーの皆さまの支援をさせていただいております。

ソニー、1億USドルの新型コロナウイルス・グローバル支援基金を立ち上げ(ソニー公式サイト)

Q3:プレイステーション5の需要の見通しと、出荷台数など生産動向に新型コロナウイルスが及ぼす影響について教えてください。

A3:生産についてはほぼ予定通りに進んでいるということでございます。

 一方、その出荷や需要については、これまでもコメントは控えさせていただいておりますので、現時点でのコメントは控えさせていただきます。

Q4:新型コロナウイルスによる業績への影響は金額にしてどの程度に及ぶのか? 今季の影響について見通せる範囲内で教えてほしい。

A4:2019年度については厳密にコロナウイルス感染拡大と、それ以外の要因に分解することは難しいですが、連結の営業利益に対しては約680億円のマイナスの影響があったという風に見ております。

 今年度への影響についてはなかなか見通すのが難しいですので、今回は試算という形で示しております。

Q5:新型コロナウイルスの影響を極小化するため、従業員の安全を守るためなど、働きかたを含めて経営のありかたを大きく変える企業も出てきている。サプライチェーンの見直しや週休3日制の導入などいろんな案も出てきている。ソニーとして新たな対策について考えていることがあれば教えてほしい。

A5:新しい働きかたの施策そのものについて、いますぐに具体的にお答えできるものはないのですが、まずは社員の安全を第一に、全世界で原則在宅勤務というような形で現在は業務を行っております。こういった在宅勤務のような形で、場所にとらわれない働きかたということを通じて、新しい働きかたという改革が進んでいくのではないかと考えております。

Q6:プレイステーション5について、サプライチェーン等への影響があるようでしたら教えていただけますが。また、ゲームに限らず今回の新型コロナウイルスを基に、サプライチェーンを見直される計画がありましたら教えてください。

A6:プレイステーション5に関してのサプライチェーンへの影響では、在宅勤務や海外への渡航制限といった制約がありますので、一部の検証作業や生産ラインの確認などに制約が出ている部分がありますけれども、これに対する必要な対策を講じていますので、大きく見ていただけると今年の年末商戦における発売に向けて遅滞なく準備を進めています。

 サプライチェーンを見直す計画があるかということですが、従来から生産拠点についてはさまざまな事業リスクを考慮しながら検討してきております。とりわけ、新型コロナウイルス感染拡大に関しては全世界的な問題であるということもありますので、これによる具体的な生産拠点の変更は現時点では検討してはおりません。

Q7:ゲーム・映画・音楽などコンテンツ分野、そしてエレクトロニクスにおいて、新型コロナウイルスの影響による納入・市場投入の遅延は、現状どうなっているのでしょうか? また今期への影響は限定的だと考えられるが、次期以降の見通しはどうでしょうか。

A7:ほとんどの事業において、新型コロナウイルスの影響で納入や市場等に遅延は現状どうなっているのかということですが、たとえばゲームに関して言うと、ファーストパーティー、サードパーティー共に開発という面では現時点では顕在化している問題はありません。

 ただいろんな制約の下で開発を続けていますので、効率が落ちるという側面はあります。スケジュールに遅れが発生するリスクは注意深く見守っているということです。

 コンテンツ分野について申し上げれば、映画・音楽はやはり収録ができないという環境にありますので、こういったコンテンツの映画の製作や音楽でも、とくにビジュアルを伴ったコンテンツの制作は難しいということになります。それは現状起きていますが、今期以降も影響が出てくるということになります。

Q8:ゲーム分野についてハードウェアの販売数は予定通りなのか。新型コロナウイルスの影響下で増えたにも関わらず前年比で減収なのか、それともこの状況かにあってさらにマイナスなのか状況を解説していただきたいです。

A8:プレイステーション4の販売数については堅調に推移していると申し上げてよろしいかなと思います。

 とくに第4四半期については、ほぼ予定通りであったと思います。現在もかなり需要は強いと聞いております。

アナリスト・投資家からの質問

Q1:【EP&S分野】リーマンショック時は翌四半期に1,000億円超の構造改革費用を計上したが、今回も2020年度第1四半期から何らかの手を打つのか?それとも、コロナ禍が収束するまで待つのか。また、EP&Sが赤字に転落するリスクと、事業ポートフォリオを見直すことも鑑み、コロナ収束後にEP&Sの事業としての位置づけが変わりうるか?

A1:まず前提として、リーマンショックとは状況がかなり異なっていてEP&Sについては、人員数や固定費のレベル等は、当時とはずいぶん違う。

 いずれにしても、こういった状況で需要自体が当初の予定よりも減っているので、売上規模に準じたマーケティング費用の見直しや間接部門を中心とした経費削減、コストコントロールの徹底ということは、やっていく。

 これはとくにコロナの収束を待つということはなく、現時点から始め、収益の維持には全力で努めていきたいと考えている。

Q2:【G&NS分野】次世代ゲームコンソールに関するマーケティングは、マイクロソフトに比べて、ソフトウェアラインアップの紹介なども含め、やや劣後しているとの声も聞かれる。これまでのPS5のローンチに向けた活動に対して合格点との評価をしているか。もし合格点とするのであれば、どのあたりがうまくいっているのか。また、年末のローンチに向けて、今後はどのようなテーマを持って宣伝活動をしていくのか。

A2:PS5については、非常に戦略的に物事を考えているので、残念ながらあまりコメントできることがない。

 合格点か合格点でないかということでいえば、これは結果がすべてなので、ローンチした後に判明することではないかと思っており、我々としては全力を尽くしていくということに尽きると思う。

Q3:【映画分野】メディアネットワークにおけるポートフォリオ見直し費用は2020年度も前期並みに計上される計画か。

A3:メディアネットワークにおけるポートフォリオ見直しは、継続的に検討していくが、現時点で決めている大きなものはない。

Q4:【連結】2021年3月期の売上や営業利益見通しについて、(2020年)2月に作った予算があると思うが、その時点で、セグメント別でどう見ていたのか。

A4:いまは前提が変わってしまったため、コロナウイルスの影響がなければどうだったかという説明をするのは基本的には難しいと考えている。

 しかし、我々としては今期の業績を踏まえ、さらにワンステップ上に行くにはどうしたらいいかを考えながら予算を作っていたことは申し上げておきたい。

Q5:【連結】コロナ後、もしくはコロナとの共存の世界で、ゲーム、映画、音楽を取り巻く事業環境が構造的にどう変化し、ソニーを含む、参入企業の収益にどのような影響を及ぼす可能性があるのか。それに対するソニーの戦略は。

A5:いろいろな説はあるが、すくなくとも在宅時間が増え、外出時間が減り、より多くの人々の行動がネットワーク、リモートを鍵にして変わっていくということではないかと思っている。

 我々もネットワーク、リモートに関するビジネスは多くやっているが、たとえばプレイステーションネットワークは大きなオンラインコミュニティーなので、これはさらに強化していく可能性があるし、大きくなっていく伸びしろがあると思っている。

 それから、5Gなどを使った映像コンテンツ制作自体をフィジカルではなくて、オンラインで行うようなこと、それから、医療領域でも我々が持っているリアルタイム技術が活躍する分野があるのではないかと思っている。そのようなところが、我々が今後注視していかなくてはならないことではないかと思っている。

 映画は劇場公開が非常に重要で、今回のコロナウイルスの影響がひと段落して劇場公開したとしても、いきなり以前のように人々が戻ってこないかもしれない、時間がかかるかもしれないということは考えられるため、これが長期化した場合は新たな作品の公開方法もクリエイターときちんと協議しながら検討していく必要もあるのではないかと思う。

 また、ライブやイベントでは我々のオンラインのテクノロジーやリアルタイムのテクノロジーが使えるのではないかと期待している。

Q6:【I&SS分野】サプライチェーンの在庫に関連して、スマートフォン向けは、顧客によっては販売が芳しくないモデルもありそうだが、今後の動向次第で、過去にも発生したようなBS在庫の評価減リスクは念頭においた方がいいか。また、現時点で商談ベースでのイメージセンサーの価格動向、大判化、マルチ化トレンドへの影響についてどのように考えているか。

A6:在庫は昨年12月末時点ではタイトだったが、第4四半期になってコロナウイルス感染拡大による販売減少もあり、3月末時点では適正な水準に近づいている。

 この在庫は、2020年度に十分に出荷できる見込みなので、重要な評価減の計上は見込んでいない。現時点での商談に対する、今回のコロナウイルス感染拡大による影響はおもに3つ。

 ひとつ目は、スマートフォン市場の減速に伴う販売数量への悪影響がある。それから、サプライチェーン上で在庫が増加しているので、販売数量自体は2019年度と比べて増加する場合であっても、増加率は2019年度に比べて緩やかなものになるのではないか。

 市場自体の足もとの減速が、ハイエンドスマートフォンからミドル、それからローへのシフトを促す可能性は十分にあるので、イメージセンサーの製品ミックスが悪化するということもある。

 2019年度は急激に大判化のペースが上がったわけだが、スピードがダウンする可能性は十分にあり得る。細かい点だが、ソニーの0.8μのセンサーは量産開始2年目に入るので、価格については、やや軟調になるという感じはしている。

Q7:【I&SS分野】半導体の在庫、稼働率、投入枚数、生産能力について、実績、計画の見通しを教えてほしい。

A7:イメージセンサーの設営ベースのキャパシティーと投入量は、2019年度第4四半期末時点で、マスター工程の設営ベースでは、月産 123k。前回想定は月産124kだったので若干の減少になるが、プロセスミックス等で若干の差異があるので設営が遅れているわけではない。

 2020年第1四半期末時点で月産133kとなる見込み。3ヵ月かけて徐々にキャパシティを増やす。投入枚数については、2019年度第4四半期については、3ヵ月の単純平均で月産約122kとなっており、フル稼働で前回の想定通り。2020年第1四半期は、3ヵ月平均で月産約127k。モバイル向け、デジカメ向けで若干の生産調整を見込んでいる。もう少し長いレンジでは、2020年度末にマスター工程のアウトプットベースの生産能力は、138kに引き上げると、従来から申し上げているが、この計画には基本的に変更はない。

Q8:【連結】キャッシュポジションの現状と、現環境下におけるアロケーションの考え方のスタンス等について教えてほしい。

A8:2020年3月末時点での手元現預金は9623億円で、未使用のコミットメントラインが5700億円強ある。それに加えてコマーシャルペーパーが1兆円の枠、銀行のアンコミットの借入額が2300億円で、いずれも使っていないので、このくらいの資金余力があれば、経済環境悪化の場合でも十分企業活動が継続できると思っている。

 アロケーションのスタンスは、いままで申し上げている通りで、戦略的な投資、M&A、自社株買いといったことで最適な使いかたをしていくポジションに変化はなく、転換社債(当社が発行した130%コールオプション条項付第6回無担保転換社債型新株予約権付社債)についても、現状積極的に何かをするということは考えていない。

Q9:【連結】2020年度の営業利益試算について、5部門それぞれで新型コロナウイルスの影響と、それ以外で分けて説明することは可能か。固定費増減の方向性を含めて教えてほしい。

A9:2020年度の営業利益試算については5部門で新型コロナウイルスの影響とそれ以外という形で特に試算をしておらず、(コロナウイルスの)影響がなければということを話すことに近いことになるため、大変申し訳ないが(回答を)控えさせていただく。ただし、第1四半期の決算発表のときにはきちんとした見通しをお示しするのでご理解をいただきたいと考えている。

Q10:【I&SS分野】イメージセンサーについて、大判化による単価上昇/多眼化による数量拡大/ToFの拡大の方向性について変化がないか、スマートフォンの最終需要停滞に伴い、生産能力拡大のスケジュールに変化がないかを教えてほしい。

A10:イメージセンサーの方向性については、基本的に大きく中期的な方向性が変わるということは考えていない。ただし、現在のスマートフォンの需要は今回の(新型コロナ)ウイルスの影響を受けて落ちていることは事実なので、需要減が及ぼす影響、プロダクトミックスによる悪影響は2020年度については見ていかなくてはいけないと思っている。

 それによる生産能力の拡大のスケジュール(の変化)について、(中期計画)3ヵ年の投資についてはスピーチでも申し上げた通り全体の8割については意思決定しているが、残りの20%については投資判断の時期を後ろにずらすという選択肢があるので足もとの需要に合わせて必要なタイミングで行っていければと考えている。

まとめ:新型コロナウイルスがデジタル化への移行を強烈に促し、今後の価値観を変えていく

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 ソニーの決算について、各分野の2019年度の業績、2020年度の試算を詳細に見た。

 やはり新コロナウイルス感染拡大の影響は、各分野に如実に現れていることが見て取れたのではないだろうか。全体に通じるのは“ライブの減収”だ。音楽はイベントやライブ・コンサート、映画においては劇場での上映など、ライブ体験は軒並み大きな変化を求められる。

 一方でコンテンツ需要が減っているわけではなく、「自宅で楽しみたい」という欲求はむしろ高まっており、テレワークなどで在宅時間が伸びると、合わせて在宅でのコンテンツ消費時間は増えると考えられる。その結果、ゲーム・音楽・映画のデジタルコンテンツ販売は伸びていくことがと予想される。

 この数年はデジタル販売へのシフトが緩やかに伸びていたが、新型コロナウイルスがこの変化を決定的なものにする、転換点となるのかもしれない。

 新型コロナウイルスの影響がデジタル化への移行を強烈に促し、価値観を変化させた。今後も、技術や進化の方向においてもライブを補完するものとしてドラスティックな変化を起こしていくのかもしれない。

 質疑応答でも触れられているように、その変化にソニーグループはさまざまな形で進化を促し、寄与していくということだ。コロナ禍の時代、ウィズコロナに、デジタルエンターテインメント企業はどのように価値を創出していくか、興味深く見守っていきたい。