2019年12月末、ゲーム業界の片隅や一部のゲームファンがざわつきました。話題は、家電量販店の雄、ヨドバシカメラが毎年新春1月1日に恒例で売り出す、ボックス形式の福袋“夢のお年玉箱”についてです。

 例年、「お値段以上のものが手に入る」と評判のこの箱ですが、2020年はそのうちのひとつ、“ニンテンドースイッチの夢”がゲームファンにとって図抜けておトク度の高いものでした。ひと足先にネット販売分を手に入れた人が、その中身をSNSなどで公開すると、豪華さに「神箱!!」と絶賛され、ざわついたのです。その中身はというと……。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_01
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_02
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_03
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_04
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_05
商品画像はすべてヨドバシ.comより引用

 福袋というと、偏見ですが在庫処分のイメージすらあるのに、この福袋のニンテンドースイッチは、バッテリー持続時間が長くなった新モデル!! そこに2019年を代表する名作タイトルが4本加わり、本来なら税込の合計価格が60000円以上するものが、皆さん、35000円ですよ! 35000円!

 さらに通常であればニンテンドースイッチ本体は、ヨドバシで使えるゴールドポイントの還元率が1%ですが、この福袋ではなんと10%付くんです!! 35000円のものに10%のポイントが付いて実質31500円。60000円以上が31500円になるんだから、28500円以上おトクとも言えます。

 だったらこのビッグウェーブに乗らないと! と2020年の年明け早々にヨドバシカメラマルチメディアAkiba(以下、ヨドバシAkiba)の福袋行列に並んできました!!  “ニンテンドースイッチの夢”が手に入ったら、今年大学に入る甥っ子に、“神箱”ならぬ、遊びの誘惑をする“悪魔の箱”として贈るのさ。

ヨドバシ福袋の行列はいつからスゴくなった?

 このヨドバシの福袋と聞くと、テレビのニュースやネットの記事で「行列や爆買いがスゴい」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか? まさにそのとおりなんですが、じつは行列と爆買いがものスゴくなったのは、ここ5、6年の話なんです。

 自分が初めてヨドバシAkibaに並んだ2011年元旦は、午前4時前に到着した時点で整理番号が146番。2020年はお年玉箱も50種類以上から選べましたが、当時は15種類だけでした。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_06

 2013年は午前3時前に到着して251番。自宅から秋葉原はそこまで遠くなく、NHK紅白歌合戦で、ももいろクローバーZの『行くぜっ!怪盗少女』(6人Version)をゆっくり観てから出る余裕がありました。この年は、9800円の海外ノートパソコンが一番人気でしたね。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_07

 2014年は前年より30分ほど遅れ、午前3時過ぎに到着。すると700番台に。“トミカプラレールの夢”を整理券1番でゲットしています。後述しますが、まず並んだ順に割込防止券をもらい、後ほど狙っているお年玉箱別に整理券と引き換える仕組みです。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_08

 2015年は紅白歌合戦の視聴を途中で切り上げ、午後11時前には到着しましたが……300番台後半に。この年から割込防止券や整理券に、中国語と英語で注意書きも記載されるようになりました。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_09

 なぜ、ここまで人が増えていったのでしょう?

  • おトクな商品内容によってリピーターが増加した
  • お年玉箱の種類も年々増えてバリエーションが豊富になった
  • スマートフォンとフリマサイトの普及で、個人でも簡単に転売可能な環境ができた
  • ともすれば競合となるApple Storeの福袋“Lucky Bag”の販売中止(2016年以降)や、百貨店の正月営業の見直しがあった

など、さまざまな影響が考えられます。

 そんななか、2018年にヨドバシAkibaの行列は、ついに臨界点を突破しました。それまでの“前日の閉店後に並ぶ”というルールが破られ、閉店前から行列が形成されたのです。

 この行列は、店の意向である閉店前の行列禁止を無視し、既成事実を狙っていた海外からのグループたちの手によるものでした。店側はこれに臨機応変に対応。意向を無視した行列とは異なるところに開始位置を定めるという“いい仕事”をし、民族大移動が発生しています。そして開店まで地下駐車場で待つ形に変化したのです。

 さらに2019年には“働き方改革”の影響を受けたのか、ヨドバシ.comでの先行販売分が、元旦の発送から前年12月末の発送に変更されました。この変更により、それまで元旦になってからのお楽しみだった箱の中身が並ぶ前にわかるようになり(※)、結果、店舗に早く並ぶと確実に欲しいものが選べるようになりました。これがさらなる行列の前倒しを引き起こしたのです。

※一部の商品は、ネットと店頭では内容が異なる場合もあり、その悲喜こもごもも福袋ならではです。

 そんなこんなで年々とお年玉箱争奪戦は加熱していきました。今年2020年は、2019年の大晦日からもうスゴい人! インターネットの某匿名掲示板の関連スレッド(※)をチェックしていたところ、夕方前に「すでに500人以上の行列ができている」という情報が、現場の写真とともに入ってきたのです!!

※家電製品板の1スレッド。大手家電量販店の福袋の中身、行列の状況などの情報交換をしつつ、あえて偽情報を混ぜて転売ヤーやライバルを惑わす高度な情報戦がくり広げられており、“福袋ガチ勢”や“福袋エンジョイ勢”のサロンと化している。1月3日を過ぎると次の福袋情報が解禁される12月頭まで過疎化する。

地下駐車場という密室で、元旦早々人生を見つめる

 そんな夕方の行列発生から遅れること半日。例によって紅白歌合戦を観た後に、携帯用の椅子、カイロ、暖かいお茶を入れた水筒などの準備を整え、自宅を出発。午前2時30分ごろに現地に到着しました。ですがすでにこのとき一番人気の“サーフェスの夢”は売り切れ!

 ところが、さっそく件の地下駐車場に向かおうとしたら、店のスタッフに「お年玉箱ですか?」と聞かれ、お店の入り口で待つことになりました。しばらくして自分を含めたお年玉箱目当ての客が5~7人ほど集まると、

前●〇〇〇〇〇〇●後
(※●店員、〇客)

という形で列の前後をガッチリと抑えられ、静まり返った店内を通って地下駐車場へ移動することに。

 ふだんは多くの人で賑わっている店内ですが、このときは当然自分たち以外は誰もおらず、夜の闇と静けさがことさら強く伝わってきました。そういうひっそりとした闇の中を、知らない人たちといっしょに無言で地下に向かっていると、これから人生の逆転を懸けた“デスゲーム”に挑むような気分になります!

 そんな高揚感もつかの間、地下駐車場に到着すると、駐車場入り口にいる受付担当のスタッフから“割込防止券”を渡され、指定された場所に2列で並ぶことになりました。番号は8XX番です。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_10

 ちなみにこの割込防止券は、地下駐車場の外に出たいときは出口に待機しているスタッフに返却しなければならないため、何度も外に出て、ひとりで複数枚持てない仕組みになっています。つまり、“いまの順番を確保したいなら、朝まで地下駐車場で待機”しなければなりません。

 そんな徹底管理された状況で案内された地下駐車場はこんな様子です!

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_11

 最終的に地下駐車場だけでも1100人以上が列を成しました。行列への参加者は、日本人とともに中国の人が多い印象。ですがインドあたりや東南アジア、南米が出身と思われる人たちもいて、じつに多国籍です。

 さらに忘れちゃいけませんが、これは元旦ですよ! 元旦!! 1年でもっとも「おめでとうございます」が飛び交うおめでたい日の未明です。これは言うなれば家庭の温もりにあえて背を向けた人たちが日本の秋葉原の片隅に集まり、“正月限定難民キャンプ”を形作っているような様相。もはやここは“年越し福袋村”です。

 もっと詳しく様子を見ましょう。ゲーム機やスマートフォン、タブレットなどで時間を潰している人、何かの勉強をしている社会人、カードゲームに興じる大学生、ひそひそと話をする恋人たち(うらやましい!)などに混ざり、住所不定の流浪の民と思われる出で立ちの人や、分厚い札束を数えながら携帯電話でちょくちょく会話をしているブローカーらしき人なども。“福袋エンジョイ勢”から“転売ガチ勢(組織・個人を問わず)”に至るまで、じつに多様性のある空間となっていました。

 そんななか、列の前方から、50代くらいと思われる女性の怒号が中国語で聞こえてきました。彼女は整理券を配っているスタッフにものスゴい勢いで食いかかっていたのですが、中国語がわからない自分は何を言っているのかはさっぱり。ですが、香港映画の“拳法家の旦那が殺され、敵に食って掛かる妻”っぽい音の響きから、ものスゴく怒っているらしいことは想像がつきます。その怒声は5分以上続きましたが、結局その拳法家の妻は列の最後尾に回ることになりました。返り討ちに合うところも、とても香港映画っぽいですね。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_12
男性率が8割強ほどあるので、女子トイレではなく男子トイレに長蛇の列ができます。自動販売機も、“あたたか~い”は即完売状態に。

毎年アップデートされるスタッフの対応力

 今年は地下駐車場の入り口で“割込防止券”を渡す方式だったため、夕方の行列開始から列が駐車場に移動するまでの状況はわかりませんが、自分が駐車場に入ってからは大きな混乱はなかったようです。

 ここ10年で7回ほど並んでいますが、回を重ねるごとに行列の人数は確実に増えています。ただそれ以上に、整理券の配布のしかたや、列の作りかた、誘導方法、クレームへの対応など、毎回ブラッシュアップされていくヨドバシスタッフの行列対策や手際にも驚かされます。しかもルールを守らない客には毅然と対応していて、ものすごく頼もしいんです!

 たとえば2018年は地下駐車場に5列に並んでから整理券を渡す形でしたが、横入りする大陸系と思わしき人たち(その多くが年配者)が結構いました。具体的には、列の前方に並んでいる知人に世間話をするテイで近づいて話しかけ、隙を見てそのまま列に紛れ込むという手口。これはスタッフが注意するタイミングが難しく、見慣れてしまうと、“あたかも最初からそこにいた風”に見えるので、地味だけど結構巧妙なんです。そのほか、「コトバ、ワカリマセーン」という感じでそのまま居座る“パワー系横入り”をしていた南米系っぽい人たちの姿もありました。

 ですから当時、自分は並んだときにまず最初に行列の写真を撮り、“横入り”が発生するたびに近くのスタッフに声をかけ、写真を見せて横入りした人をそのつど正してもらっていました。これを10回ほど繰り返していたところ、ついに横入りする人が途絶。すると近くに並んでいた中国からの留学生ぽい若者に感謝されました。“横入り”にモヤモヤする気持ちは、当然ですが国籍は関係ないんです。

 ちなみに中国では旧正月が彼らの真の正月ですので、1月1日は単なる祝日のひとつです。つまりありふれたいつもの休日なので、芸能人や凶悪事件などの裁判の傍聴席の券を引くだけのアルバイトと同じような“休日を活かした簡単なバイト”感覚で並んでいる留学生も多いんだろうなと思います。その人たちから見れば、“正月から並んでいる日本人”のほうが信じられない存在なのかもしれません。

 そうそう、今年はロープで区切られた列と列の間に整理券の入ったカートを通し、最初に配った割込防止券と最終的な整理券を引き換えていましたが、これが膨らみがちになる列の整理を兼ねていて、とてもいい感じでした。というのも待機列が膨らむと、ほかの列との境目が曖昧になり、横入りの危険が高まるからです。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_13
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_14
カートが通るたびに行列が整理され、まるでモーゼを迎え入れた葦の海のようにキレイに道ができました。

 また、整理券は割込防止券の番号順に渡すことが徹底されていて、さりげなく列の前のほうに紛れようとしていた“横入り勢”も番号順に並び直さざるを得なくなります。欲望の赴くままにルールを破っていた彼らも、結局は整理券がほしいので、国籍や世代を問わずみんなスタッフの指示に対しては従順。こうした一連の光景は、自分がロープで区切られた牧舎の中で餌(引き換え券)が来るのを待っている動物みたいだなーと思ってしまうほどシステマチックでした。

 こうして整理券をもらった後は、目当ての商品が購入できることに安堵するのか、駐車場全体を包んでいたちょっとした緊張感も消え、全体的に緩んだ雰囲気になります。朝まで床にそのままゴロ寝する強者も多く見られますが、コンクリートの床に大きな物体がゴロゴロ転がって列をなしている様は、築地のマグロの初セリのようでもあります。もはや常連の自分にとっては、これも日本の正月の新しい名物風景です。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_15

本当の戦いはここから──“おかわり”狂騒曲

 朝7時を過ぎると、行列の先頭から順々に、駐車場に案内されたときと同じ“デスゲーム”スタイルで商品売り場に移動します。

 パソコンは1F、カメラは3F、オーディオは4Fというように、購入する商品のジャンル別に売り場に案内され、開店の8時までレジの前で待機することになります。多くの人が徹夜明け独特の気だるい感じで販売開始を待つなか、“組織系転売ヤー”だけは違います。それぞれ別の売り場に分かれてしまった買い子たちに1枚のゴールドポイントカードを使い回して購入させるため、携帯電話でせわしなく指示を出している姿は、毎年よく見かける光景です。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_16
2020年は“サーフェスProの夢”、“アップルウォッチの夢”、“ニンテンドースイッチの夢”、“ミラーレス一眼デジタルカメラの夢”、“アイパッドの夢”の順に売り切れました。
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_17
“ニンテンドースイッチの夢”は自分のちょっと前で売り切れ、最終的に“アイパッドの夢”を購入しています。

 そしてついに迎えた朝8時。無事に商品を購入して終了──────

 ……と、皆さん思っていませんか? じつは、ここから第2ラウンドが始まるんです!!

 お年玉箱は一度にひと箱しか購入できませんが、再度行列に並び直せば、ほかのものも購入可能。その“お年玉箱おかわり勢”と、朝から新たに求めに来た人で、ヨドバシAkibaの周りにはものスゴい行列が発生します。

【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_18
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_19
実際に行列をたどってみましたが、「ここがいちばん後ろかな?」と思った場所に“中間地点”という看板が!!
行列はさらにもっと続いています。
【神袋】ヨドバシAkibaの福袋行列に10年間で7回並んでみた。毎年最適化されるスタッフの手際がスゴい【リポート】_20
結局行列は、ヨドバシの外周から昭和通りまで、右回りに1周してここまで伸びていました。

 地図で示すとこんな感じです。

 自分も実際におかわりで並んでみましたが、整理券の配布場所にたどり着くまでに1時間!! その1時間のあいだに欲しいモノが売り切れたので、結局整理券をもらわずに帰りました。帰り際に行列の最後尾を見にいくと、先ほど自分の前に並んでいた中国人らしき中年男性が、“2回目のおかわり”のために三たび行列に並んでいる姿を発見。すごいバイタリティです!

 そして衝撃的だったのは、ほどなく帰宅して“行列エンジョイ勢”のサロンとなっている福袋スレッドを確認したところ、元旦の朝8時からヨドバシ.comでお年玉箱を販売していたとの情報が載っていたことでした(ネットでの元旦早朝発売は、今回が初めて)!! そこには件の“ニンテンドースイッチの夢”や、一番人気の“サーフェスProの夢”などもあった模様。もしかしたら、並ばずに家にいたら“ニンテンドースイッチの夢”が買えたのかも!? そう言えば、2018年には店頭で売れ残ったお年玉箱からパソコンを取り出してのゲリラ販売などもありましたし。購入後も、油断ができないんです。

 このように、「今年はそう来たか!」という予想外の展開もヨドバシ福袋の楽しみのひとつです。毎回、ちょっとしたおトク感とワクワク、そして年々洗練されていくスタッフたちの手際と、それでも予測不可能なハプニングで楽しませてくれる福袋行列。この記事を読んだ人、興味を持っても来年は並ばないでくださいね。ライバルが増えちゃうから!!