2019年9月19日発売のニンテンドースイッチ、プレイステーション4、PC用ソフト『AI: ソムニウム ファイル』(以下『AI』)。スパイク・チュンソフトが放つ、現代の東京を舞台にした、サスペンスアドベンチャーの完全新作である。本稿ではそのレビューをお届けする。

バイオレンス要素は控えめ

『AI』をプレイして1時間くらいでまず感じたのは、いい意味で想像していたものと違うぞ、ということだった。

 白状すると、最初はけっこうなバイオレンスものかもと思っていた。今回は“連続猟奇殺人事件”に挑むと言うし、ディレクター、シナリオ担当の打越鋼太郎氏が手掛けた前の作品『ZERO ESCAPE』シリーズでは、ちょっと油断するとすぐ主人公が殺されてしまうような、スリリングな展開を味わってきたからである。それはもう、ちょっとしたことで画面が真っ赤に染まる、スプラッタでグロロロロなストーリーが待っていると……。何しろ、Z指定(18歳以上のみ対象)だし。ヒィィィィッ!

 しかし、そんな危惧は無用だったと早々に知ることになる。

『AI: ソムニウム ファイル』レビュー。愛あり、涙あり、笑いあり、下ネタあり!? 濃厚なストーリーと遊びやすさを兼ね備えた名作の予感。_20
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ギャグあり。
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涙あり。
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そしてドキッとするシーンもあり!

 もちろん、連続猟奇殺人事件がストーリーの中心にあるのでコワめなシーンもあるのだが、『AI』のメインテーマは“アイ(目(eye)、愛、AI、I(自我))”。その言葉に嘘はなく、ストーリー中では家族愛や、登場人物たちの意識の内面への描写に多くのボリュームが割かれていて、涙が流れるのは怖いからでなく感動したから……という、人情味溢れる展開が楽しめた。

 全ルートをクリアーしたいまでは、大ヒットした『ZERO ESCAPE』シリーズ以上に、他人に勧めやすいタイトルだと確信している。

ストーリーを楽しみながらやり込み要素を満喫

 続いてはゲームシステムを見ていこう。

『AI』は各地を巡って事件の手掛かりを探す“捜査パート”と、重要参考人の夢の中へ潜入して、現実では知り得なかった情報を探り出す“ソムニウムパート”、ふたつのパートを行き来してストーリーを進めていく。と言っても、両者のボリュームはイコールではなく、プレイ時間の大半が捜査パートとなる。

 捜査パートでは、必要な情報をすべて集めたところでストーリーが進行していくようになっているが、あえて関係なさそうなところを調べたり、話し掛けたりしてみると、爆笑ものの展開が発生したり、トロフィー獲得のようなごほうびがあることも。しかも、その量がバカにならない。

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隠し要素が多すぎて、「あそこにも“隠し”があるかもしれない、あ、あっちにも……!」と気になって毎回画面のすみずみまで調べまくり、なかなか本編が進まないという、うれしい悲鳴(笑)。

 いろいろポチポチしまくっていると、さらに“サブキャラクターがいい味出し過ぎ問題”にも直面することになる。このゲーム、事件に直接関与しているキャラクター以外の登場人物は、誰も彼もが造型、性格含めだいぶトリッキーな設定で、話し掛けるたびに笑いを提供してくれるのだ。そりゃあもう、話し掛けないわけがない! そうやって、どんどんプレイ時間は膨らんでいくのである……。

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メイドさんやら、タクシー運転手やら、個性的なキャラクターがたくさん登場する。同じ世界線に生きている人間なのかと疑いたくなる(笑)。

 なお、冒頭の捜査パートにも登場する“カガミ”さん、そして某事務所の受付嬢などは、出会ったらとにかくしつこく話し掛けてみることをオススメする。

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みずきと受付嬢。みずきに話し掛けることでストーリーは進むはずなのだが、ついつい受付嬢のほうをクリックしてしまうのはなぜだろうか。

 一方、ゲームの目玉として紹介されてきた“ソムニウムパート”では、簡単な謎解きに挑むことになる。このパート、毎回ヒントがあるようでないような、ふわっとした状態で始まるのだが、基本的にはトライ&エラーを重ねて少しずつ正しい(効率のいい)ルートを探し出して、先に進んでいくことになる。

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さまざまな夢世界が登場するが、基本的にやることはいっしょ。

 ストーリーの後半になるにしたがって制限時間の縛りがキツくなり、トライ&エラーの回数は増えるものの、脱出ゲームのようにトンチを効かせたり、手先の技術を必要とすることはない。最悪、しらみつぶしの要領で選択肢を潰していけばクリアーできるので、何度もやり直していけば誰でもクリアーできるはずだ。

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画面上部の“TIMIE”を活用しながら、効率のいい解法を見付け出そう。なお、3回まで途中からやり直せるが、回数が尽きてもソムニウムパートの最初からやり直せる。

 アドベンチャーゲームというと、近年ではひたすらストーリーを読み進めていく“ノベルタイプ”や、推理やギミック解除に力を注ぎながら合間のストーリー進行を楽しむ“謎解きタイプ”、そしてその両方の特性を持った作品などに分類できる。『AI』は、ざっくり分類すると“ノベルタイプ寄り”の作品と言える。

“推理パート”で各地を巡って手掛かりを探したり、“ソムニウムパート”では夢の世界でさまざまなギミック解除に挑むなど、つねに何らかの介入要素、インタラクティブ性を持たせつつも、個人的な感触としては、それらをアクセントとしてよりストーリーを楽しませる、深く読ませる構成になっていると感じられた。

 また『AI』ではソムニウムパートでの行動によって、ルートが分岐することがある。ただし、分岐条件は特定の行動を取るか取らないか、だけなのでわかりやすく、条件を探すためにゲーム進行がストップすることはないはず。ルート自体は複数存在するが、それらをコンプリートするために何度も同じルートを通らなければならない、ということもない。

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どこで分岐が発生したか、ソムニウムパート中のフローチャートでわかる。

シリアスも下ネタもこなす主人公とその相棒

 もうひとつ注目しておきたいのが、コザキユースケ氏が描くキャラクターである。とくに女性キャラクターは妙齢のレディーから少女まで、じつに魅力的に描かれており、正統派の美女が多い。

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左岸親子や伊達の上司“ボス”(本名はどこかのルートで明かされる)など、魅力的な女性ばかり。

 その中のひとり、ネットアイドル“A-set”こと左岸イリスは、随所でそのかわいらしさを発揮してくれる。本作では、その場にいるが会話に参加していないキャラクターが、会話の内容に応じてリアクションを取ってくれるという細かい演出が仕込まれており、とくにイリスの反応のかわいらしさといったら破壊力500メガトンなのである。

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ファンから“あせとんちゃん”と呼ばれる、ヒロインのイリス。ヤバイ、カワイイ、ヤバイ……(語彙消失)。

 なお、プレイしているとすぐに判明するのだが、主人公の伊達 鍵(だて かなめ)はイラストからはクールそうな二枚目という印象を受けるが、事あるごとに三枚目な一面をチラつかせてくる残念なイケメンだったりする。ゲーム内でほぼ唯一の下ネタ要員でもある。

 さらに、伊達だけではなく彼の義眼であり相棒のAI“アイボゥ”もすぐ悪ノリしてくる。「連続猟奇殺人事件を追っているはずなのに、なんだこの明るさは……」とプレイしながら罪悪感を覚えてしまうが、この漫才コンビとともに挑む捜査パートはじつに楽しい(笑)。

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『AI』をプレイしていて感じたのは、とにかく“遊びやすい”ということ。ただストーリーを読むだけでなく、捜査やソムニウムパートを通じて自分も作品世界に参加できるようになっているし、しかも無理のない難度。さらに、多少SF要素は入っているものの、現代を舞台にしていて設定的にもすんなり理解できるものになっているので、気軽に楽しめるのもうれしいところだ。

 ルートの解放条件がシンプルになって、逆に「もうちょっと複雑な謎解きがしたかった!」という人もいるかもしれないが、個人的にはストーリーを楽しむためにはこのくらいでいいかなと思っている。ボリュームに関しては、全エンディング制覇だけなら20時間前後で達成できると思われるが、トロフィーにも関わるネタ要素探しも全部こなせばもう少し遊べる。そんな所要時間も、ちょうどいい感じ!

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シナリオライターの打越鋼太郎氏と、イラストレーターのコザキユースケ氏。ふたりの強みが合体した結果、見た目も個性も優れた究極のキャラクターが生み出されたと言える。