2011年8月に、アニメ制作会社ガイナックスに所属していた大塚雅彦氏、今石洋之氏、そして舛本和也氏が設立したアニメーション制作会社・TRIGGER。その成り立ちに深く関わる若林広海氏と舛本氏に、本スタジオがいかにして設立されたのか、そしてどのようにして名作を生み出していったのか。その歴史を、スタジオ設立前夜の『天元突破グレンラガン』制作時から、『キルラキル』など他作品制作の経緯を交えて、詳しい話を訊いた。2019年5月24日についに公開される劇場アニメーション『プロメア』が気になっている方はもちろん、すでに観たという方にもぜひ読んでいただきたい。

 なお、『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』、そして『プロメア』でもコンビを組む、監督の今石洋之氏×中島かずき氏の対談も掲載するので、こちらもお楽しみに!(2019年5月24日20時頃掲載予定です)

舛本和也氏(ますもとかずや)

TRIGGER取締役兼プロデューサー。ガイナックスでは、制作デスクなどを担当していた。(文中は舛本)

若林広海氏(わかばやしひろみ)

ガイナックスでは設定制作などを担当。TRIGGERでは企画、脚本、プロデュースなども手掛ける。(文中は若林)

『グレンラガン』から『キルラキル』へ

――まずは、TRIGGERを設立するにいたった経緯をお聞かせください。

舛本 ガイナックスで今石が監督を務めた、『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』(以下、『パンスト』)の放送が2010年12月に終了しまして、そのつぎのアニメをどうするのか、現在、弊社の代表を務める大塚と今石監督が話を進めていました。そこから、「今度は自分たちで責任を持つアニメ作りにチャレンジがしたい」と、独立して会社を立ち上げるという話に発展しまして。僕は当時、ふたりから会社のマネージメントを依頼されまして、僕自身、おもしろいことになりそうだという予感がありましたが、大塚、今石にとって会社を作る目的はあったものの、僕はアニメーションを制作するうえで、新たな会社を作る必要性を感じていなかったんですね。しばらく考えて、出した答えは「今石さんが監督をする2時間のオリジナル映画が作れる会社にするなら、参加させてほしい」というものでした。

――そのような経緯があったのですね。続いて、TRIGGERと今石監督の作品についてですが、ガイナックス時代に遡り、『天元突破グレンラガン』(以下、『グレンラガン』)は、どういった経緯で作られたのでしょうか?

若林 当時のガイナックスで、“『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ以来10年ぶりとなるロボットもののオリジナルテレビシリーズを作る”という企画が動いていまして。当初はまったく別のタイトルでテレビシリーズと劇場版を同時に制作する予定で企画が進行していました。その後、いろいろあって企画の内容やスタッフが代わり、改めて話を作り直すことになりまして、その脚本を中島かずきさんにお願いしたいということになり、「中島さんがやるんだったら」と、今石さんが監督に挙手をしたんです。その時点で決まっていたのは、鎧武者のような和風デザインのロボットが登場することと、兄貴分と弟分の絆を、ロードムービー的な物語で描くことで、当初は『グレンラガン』を象徴する“ドリル”要素はなかったんですよ。

――あのドリルは後付けだったのですね! そのころ、舛本は制作進行の管理を任されていたんですよね?

舛本 当時はたいへんでしたね。そのころは『トップをねらえ2 ! 』の企画も同時進行していまして、『グレンラガン』には若手のスタッフしかいなかったんですよ。『トップをねらえ2 ! 』は、ガイナックス史上初の単独制作アニメ企画だったんです。そして、テレビシリーズの単独制作初が『グレンラガン』でした。ガイナックス初の単独制作が、まさかの2本同時進行(笑)。

――となると、いわゆる“修羅場”も多かったのではないでしょうか?

舛本 毎週のように締め切りギリギリまで作業を続けるのが、当たり前でした……。

若林 でもみんな若かったから、やれちゃったんだよね。今石さんですら当時35歳で、それでも年齢的には現場でも上のほうだった。現場のスタッフの大半が20代でした。

――そしてTRIGGERを設立し、初作品となる『キルラキル』へとつながるわけですね。

若林 ありがたいことに、ファンの皆さんの支えで『グレンラガン』がヒットしたことで、超えなきゃいけないプレッシャーもすごかった。なので、デザインや構成に時間がかかりました。中島さんは、『キルラキル』では、ほぼ全話の脚本を担当するほど力を入れていましたね。

舛本 『グレンラガン』は、ある程度は中島さんも視聴者のことを考えて、ストーリーや脚本を作っていました。ですが『キルラキル』は、“人の話を聞かない人間たちの物語を、あれだけ好き勝手に描いて、そしてそれが視聴者に受け入れられるのか?”という、中島さんなりのチャレンジもあったと思います。

若林 結果的に新たな視聴者層にも愛してもらえる作品となり、今石さんと中島さんにとっても、ものすごい手応えになったと思います。

アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_04
『天元突破グレンラガン』

――“ヒットした前作超え”というハードルを飛び越えられた要因は何だと思いますか?

舛本 僕らも『グレンラガン』を制作していたころよりも、経験値は上がっていましたし、何作品か作品を生み出し、画面に対する絵作りやキャラクター制作には、さらに強いこだわりがありました。

若林 1キャラクターのデザインを作り上げるだけでも、前作以上の時間をかけて作っていました。また、キャラクターだけではなく、作品全体としてのビジュアルだったり、色彩、背景のタッチ、演出方法など、すべてを突き詰めていった結果が、『キルラキル』を皆さんに楽しんでもらえた要因のひとつかな? と。

――1970年代〜1980年代の少年マンガをオマージュしたような作風も、話題でしたよね。

若林 僕や副監督などを務めた雨宮くん(雨宮哲氏)は、世代じゃないからそのオマージュなどがわからないことも多かったんです(笑)。だからこそ、世代だった今石さんや中島さんたちがやりたいネタを、僕たちの世代というフィルターを通して同年代やそれ以下の若い世代の視聴者の皆さんにも、受け入れてもらえるようなアイデアを中心に出していました。

舛本 最初はセーラー服姿の女性どうしの戦いを描く、シンプルな学園バトルものでした。

若林 本編で言うところの“人衣一体”、いわゆる変身要素はなかったのですが、僕ら現場のデザインチームとしては『グレンラガン』におけるロボットと同等の何かがほしかった。そこでバトル演出を派手にする意味でも主人公たちを変身させて戦う設定を出したんですが、服を着るとパワーアップする設定なのにデザインではむしろ肌が露出している(笑)。そんな無茶な要求に、中島さんは理屈をつけて物語に組み込んでくれるわけです。

アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_01
『キルラキル』

そして『プロメア』へ

――TRIGGERの初期作といえば、『インフェルノコップ』はかなり問題作ですよね(笑)。

舛本 我々はつねに時間をかけて作品作りをしてきましたが、逆に“短時間でアニメを作る訓練”が必要でした。そこで、あえて制作時間を1週間に1時間だけに限定して作ったのが、『インフェルノコップ』でした。

若林 当時の感覚としては、テレビアニメの規制がきびしくなっていったこともあり、ネット配信なら何をやってもいいだろうと(笑)。だから、笑えるなら絵も動かなくていいし、脈絡もないストーリーでもいいでしょ! と。その後、海外のアニメイベントにゲスト出演して驚きましたね。北米を中心に海外のアニメファンの方々が『インフェルノコップ』をコメディー作品として異様なまでに評価してくれていたんですよ(笑)。これはうれしかったですね。

アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_06
『インフェルノコップ』

――『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』も、あえてFlashアニメのような“動かない”作風で話題を集めましたよね。

舛本 アニメ化のオファーをいただき、雨宮に話を持ちかけたら、彼なりに原作が誕生した経緯や文脈を考えて、ああいった表現でのアニメ化であればやることができますよという話になりまして、アニメ化が実現しました。キャラクターデザインを今石さんに担当してほしいというのも、雨宮監督の要望でした。

若林 当初は、まさかああいった作風にGOサインが出ると思ってなかったので驚きました。

――アイエエエ……。さすがですね(笑)。同じく、短編アニメとして作られた、『宇宙パトロールルル子』の制作時はいかがでしたか?

若林 当時、TRIGGERは『キズナイーバー』の制作がメインで、『宇宙パトロールルル子』は、社内総勢10人というごく限られたスタッフで作らなければいけなかったんです。限られた予算、スタッフ、時間の中でどれだけおもしろいものを作れるかというミッションを達成すべく、最初にルールをガチガチに決めて制作に入りました。その結果、ショート作品ながら密度の高い作品となり、今石監督を始めスタッフ的にもすごく愛着がある作品となりました。『ルル子』はいつか続編を作りたい作品の1本です。

アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_03
『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』
アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_05
『宇宙パトロールルル子』

――こうした今石監督とTRIGGERの歩みが、『プロメア』につながるわけですね。そんな中でも、『プロメア』を鑑賞する前に、ぜひこれを観てほしい! という作品はありますか?

若林 最新作『プロメア』は、これまで今石作品に触れてきていない方たちにも向けた内容になっているので、過去作を観ていなくとも十分に楽しんでいただける作品になっているのですが、一方で、これまでの今石監督作品の集大成と言える作風にもなっています。ですので、『グレンラガン』、『パンスト』、『キルラキル』、『宇宙パトロールルル子』を観ていると、物語的にもビジュアル的にもより味わい深い楽しみかたができると思います。

アニメスタジオ“TRIGGER”。『グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、その成り立ちと作品を語る――舛本和也氏×若林広海氏対談_02
『プロメア』