「2018年7月15日に『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)学生大会の決勝戦が開催されるんです」
そんな取材のお話をいただいた。全日本学生LoL選手権こと“JCC 2018 Unlimited FINAL”は、『リーグ・オブ・レジェンド』学生リーグ・無制限クラスの頂点を決める公式大会である。
当初、筆者は怒られることを承知で正直に吐露すると、『LoL』に詳しいわけでもないのに「学生大会かぁ……」とナメてかかっていた。おっさん世代にはよくある、プロと学生(アマチュア)を比べたがる症候群である。
いまはプロの試合や大会の配信を気軽に視聴できるご時世だ。“家にいながら”、“プロの試合”が楽しめる昨今、“生の会場で”、“学生さんの試合”を観戦することを、どう魅力的に伝えればいいのやら……と、悩ましく考えながら当日を迎えることになった。
会場となったのは、2018年4月にオープンしたばかりのLFS池袋 esports Arena。選手たちがプレイするブースの防音もしっかりしており、観戦や応援にも適した施設だ。
決勝戦のMCを務めてくれたのはUsya氏(近畿大学)、実況担当はいぇーがー氏(茨城大学)、解説がリクルート氏(埼玉大学)。学生大会ということもあり、出演者陣は全員が大学生となっていた。
筆者は、少しだけ彼らと面識がある。2年前の夏、彼らは『LoL』学生支援プログラム“LeagueU”の一環で開催された、“LeagueU実況解説ブートキャンプ”に参加しており、筆者はその取材を担当していたのだ。
※参考記事
『リーグ・オブ・レジェンド』その熱意が実況界を変えると確信! “LeagueU実況解説ブートキャンプ”の現場をリポート
あのとき、ブートキャンプに参加していた学生の皆さんの熱意には本当に驚かされた。そんな彼らが2年後のいま、ゲームや実況解説をちゃんと続けてきて、こうして立派に公式大会の進行を務めてくれている。
そのたしかな成果がうれしくて、ちょっと泣きそうになったのは秘密だ。
学生の頂点を決める熱戦! 何か胸に来るものが……。
おっさんの懐古話はさておき、決勝戦の内容もお伝えしていこう。
ここまで無敗で勝ち上がってきた“芝浦工大eSportsサークル(以下、SEC)”と、そのSECに一度は敗れつつもここまで勝ち上がってきた“東京工科大学e-SportsサークルA2Z(以下、TUT)”による、因縁の対決だ。
『LoL』最新の8.13パッチがどうのという話も大事だが、観客がその場で気になるのは、どの選手、どんな戦法に注目すべきか。実況・解説のおふたりは、しっかりその辺を試合開始前に説明してくれた。
ゲーム1(BO3、1試合目)
SECはチャンピオン選択の時点から徹底していた。Mademperor選手にマークスマンを使わせる以外の選択肢を与えず、以前の勝ち試合と同じ基礎を作ることに成功。試合開始後は序盤から速いゲームテンポで試合は進み、SEC側有利に傾いていく。
しかし、そこでTUTのOrangeNa選手が圧倒的に不利な状況からダブルキルを達成。SECもffujisawa選手がトリプルキルで取り返すも、最初のタワー破壊はTUTがもぎ取っていく。
チャンピオン・Yasuoを中心にタワーを取り返し、ふたたび勢い得たSEC。そのSECが深く攻め入ってきたところをTUT注目のMademperor選手が一気にキルを取り、布陣を崩す。
その後もNanaAlly選手とMademperor選手を中心にTUTの勢いは止まらず、ここまでのシャットダウンなどで得たゴールドの差を押し付ける形で、一気に勝負を決めた。
ゲーム2(BO3、2試合目)
BO3形式、つまり2本先取した方が勝利ということで、TUTが先に優勝へ王手をかけた。
一方、ミスが敗戦につながってしまったSECは、試合前にはリラックスしたムードを取り戻していた。チームの仲のよさがにじみ出ている。
ゲーム2ではチャンピオン選択の段階から、観客席に大きなどよめきが走った。ゲーム1でSECに取られた強力なチャンピオン・YasuoをTUTが最初に選択したのに対し、SECはffujisawa選手がAniviaを選択。これに会場からも大歓声が上がる。
実況・解説陣いわく、ffujisawa選手と言えばAnivia。どんな相手に対しても有利な状況を生み出し、あらゆる試合でピックさせてもらえなかったほどの強さを誇るのだという。
運命のゲーム2がスタート。SEC側が序盤はレベル差をつけつつ有利となっていたが、最初の集団戦でうまくアルティメットスキルを発動できなかった。TUTはこの隙に付け込み、ファーストキルを取りつつ集団戦をものにする。
レベル差を埋めたTUTは、トップレーンでのガンク(奇襲)も連続で成功させ、盤石の態勢を整えていった。
その後は、キル数を始めとするほぼすべての面でTUTが有利になった。優秀な回復アルティメットスキルでも追いつかないほどのダメージ差を押し付けていく。それでも、SECは諦めない。3キルを返す、進撃を食い止めるなど、奮戦を見せた。
終盤、TUTはゲーム1と同じくNanaAlly選手とMademperor選手を中心に、果敢にキルを狙っていく。ドラゴンやバロンナッシャーなどのボーナスもしっかりと獲得する完璧な試合運びで、そのままTUTが2連勝を達成。“JCC 2018”アンリミテッド部門の頂点に輝いた。
会場内では観客の盛り上がりが印象的だった。だが、それ以上に、筆者としてはブースの中でひと息つく両チームの姿が目に焼き付いている。
完全に燃え尽きた様子の選手たちの姿に、なぜかプロシーンの試合のそれよりも、胸にくるものを自然と覚えたのだ。
アフターパーティーで納得した、学生×支援のタッグパワー
熱戦の後、会場には最初に70枚、さらに追加で30枚、計800ピースにも及ぶピザ(ピザハット提供)が運び込まれ、盛大なアフターパーティーが開催された。
アフターパーティーではMCのUsya氏と話す機会があった。せっかくなので、いろいろ質問してみることに。
Usya氏と話していると「esports選手の寿命が最近短い」という言葉が出てきた。おかげで、先ほど試合を観終わったあとに胸にきたものの正体がやっと分かった。ありがとう。
esports選手の現役寿命はたしかに短い。そして、“学生時代”となるとさらに短い。客観的に見ると、とんでもなく厳しいシーンだ。
そりゃあ1試合ごとに燃え尽きもするだろう。仲間たちと学生プレイヤーとして活動できる時間は限られている。やってしまったミスへの後悔や、敗戦へのくやしさはとてつもなく重いはずだ。
それなのに、試合を終えた学生プレイヤーに話を聞くと、必ずと言っていいほど「楽しかった」という言葉が出てくる。彼らは仲間とのゲームを心から楽しみつつ、真剣勝負に打ち込んでいる。彼らはなぜ『LoL』をプレイするのか。それは楽しいからだ。プロじゃないからこそ、心からそう言えるのではないか。
そうした心境を改めて理解すると、当日の試合の見方もまったく変わってくる気がした。なぜあらかじめ勉強しておかなかったのか。おっさん筆者、心底恥ずかしい限りであった。
これは選手だけの話ではない。話を聞かせてもらったUsya氏を始め、学生スタッフの皆さんにも同じことが言えるのだろう。楽しみたいから全力でがんばるその姿勢は、見ているだけでも胸にくるものがある。
学生の熱さと、それを見守る協賛企業の支援、このふたつが組み合わさると、ゲーム大会はここまで楽しいものになるのだなぁ……と、感心するばかりだ。
我々おっさんゲーマーにとっても見習う部分が多かった、今回の学生大会決勝戦。esportsシーンを盛り上げたいと口にするなら、まずは自問自答してみよう。ゲーム、楽しんでる? 楽しみたいと思ってる? 楽しませたいと本当に思ってる?
この先もゲーム大会を楽しく観戦させてもらうためにも、何らかの形で彼らの未来を支援したいと、心から思った。