スクウェア・エニックスで『スターオーシャン』シリーズや『ヴァルキリープロファイル』シリーズなどを手掛けてきた山岸功典氏。同氏は、2017年3月31日にスクウェア・エニックスを退社し、現在はモノビットでVRゲーム事業部部長に就任している。そんな同氏が開発指揮を行ったVRゲーム『Trip Trap Travelers』が、東京都豊島区東池袋のシネマサンシャインにある“VR PARK TOKYO IKEBUKURO”で稼動開始したということで、さっそく体験させてもらった。

『スターオーシャン』シリーズなどを手掛けた山岸功典氏によるVRゲーム『Trip Trap Travelers』を体験! 構想中のVR-MMORPGについても訊いた_08
今回は特別にモノビットのVRテストルームで体験させてもらった。

 『Trip Trap Travelers』は、数々の罠やモンスターの攻撃を避けつつ、ゴールを見つけだしクリアータイムを競う多人数対応型VRゲーム。同作は最大4人までの同時プレイに対応しており、モノビットのリアルタイム通信エンジン“モノビットエンジン”により、ボイスチャットでコミュニケーションを取ることも可能だ。

 操作は、HTC VIVEコントローラーを両手にひとつずつ持ち行う。右手のトリガーを引けば、物や敵となるスケルトンをつかむことが可能。左手のトリガーを引いて、ポインターが出た後に離せば、ファイアーボールを放つことができる。移動は、左右どちらかのトラックパッドの上部分を押すことで、自分が向いている正面の方向に表示されるマーカーの場所にワープするような形となる。なお、一度の移動で最大3回分の入力が行え、連続で入力することで一気に遠くまで素早く移動できる。また、左右どちらかのトラックパッドの下を入力すると視点が180度後ろを向くようになる。

 これらの操作を駆使しながら、ダンジョンからの脱出を目指すことになるのだが、ダンジョン内には、トラばさみや吊り天井、槍壁など、さまざまなトラップがそこらじゅうに仕掛けられている。その中でも振子のトラップは、VRで見ると想像以上に迫力があり、怖気いて進むことを躊躇してしまったほど。当然ながら、トラップに当たってしまうと体力が減り、ゼロになるとゲームオーバーになってしまうため、慎重に進む必要があるのだが、制限時間が限られているため、急がなければならないという、緊張感が堪らなかった。

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 2回プレイさせていただき、1回目は体力がゼロになってしまいゲームオーバー、2回目は仲間(開発スタッフ)の皆さんの助けもあり、なんとか脱出に成功することができた。スタッフの方によると協力プレイ時には、すべての仕掛けをひとりで解除しようとするのではなく、ボイスチャットでコミュニケーションを取りながら役割分担をすることがクリアーのポイントということだった。また、操作はシンプルしながらも、難易度は少し高めに設定しているとのこと。その分、脱出できたときの喜びもひとしおなので、ぜひ何度もプレイしてより早いタイムでクリアーを目指してほしい。

【施設情報】

  • 施設名:VR PARK TOKYO IKEBUKURO
  • 所在地:東京都豊島区東池袋1-14-4 シネマサンシャイン3F
  • 問い合わせ先:Tel 03-5396-3320

※VR PARK TOKYO ポータルサイト

 記事の最後に本作を手掛けた山岸功典氏のインタビューをお届けしよう。VRゲームを作ろうと思ったきっかけや、『Trip Trap Travelers』のコンセプトだけではなく、構想中のVR-MMORPGについても訊いた。

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モノビット VRゲーム事業部部長 山岸功典氏(文中は山岸)

――これまでおもにコンシューマーゲーム機向けにRPGを手掛けられていた山岸さんがVRゲームを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
山岸私は、いままで『ヴァルキリープロファイル』や『スターオーシャン』という、いわゆるコンシューマーRPGをメインに制作していました。スクウェア・エニックスを退社する前には、『ヴァルキリーアナトミア ジ オリジン』というソーシャルゲームも担当していましたが、RPGであることは変わりありません。そんなとき、モノビットからお話をいただきました。もともと、私は先進型のゲームにとても興味があり、VRにも「新しいゲームの流れとしておもしろい」と注目していたので、挑戦することにしました。

――では、VRに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?
山岸やっぱり、時代の流れですね。『サマーレッスン』など、いくつかのタイトルが発売前から注目されていましたよね。VRの根本は一人称視点のゲームと似ていますが、それを空間的に360度に広げることで、脳が誤認をして、実体験のような感覚を得られるというのはおもしろいなと。当時は『ソードアート・オンライン』などでVRが話題を集めて始めていた時期で、そのあたりから興味を持ちました。

――『Trip Trap Travelers』のコンセプトを教えてください。
山岸じつは『Trip Trap Travelers』は、もともとコンシューマー向けの作品として考えていて、『ウィザードリィ』のようなゲームコンセプトで企画を進めてたんです。しかし、ロケーションVRタイプの市場が早いタイミングから盛り上がっていたので、そちらにシフトしました。そのときに、アドアーズさんとも相談して、どちらかというとふだんはあまりゲームをプレイしない方がお客さんに多いということだったので、ゲーム性を少し抑えて、ゲームというよりも遊園地のアトラクションのようなアドベンチャー感や体験感を強くすることにしました。あとは、やはり酔わないようにすることを意識しています。

――企画当社は『ウィザードリィ』のゲームをイメージしていたということで、ひとり用のコンテンツを想定していたと思いますが、最大4人での協力プレイというスタイルにしたのも、客層などにあわせた形ということですね。
山岸そうですね。自宅にプレイステーション4とプレイステーション VRを4台持っている人はいないでしょうから。そういう意味で、アミューズメント施設でしかできないVR体験として、複数の人数で遊べるタイプのゲームにすることにしました。

――実際に制作をさせてみて、コンシューマーゲームとVRゲームとの制作に違いはありますか?
山岸コンシューマーゲームでは、プレイヤーの反応がある程度予想できるので、事前にバランス調整などを行えるのですが、VRではダイレクトに人間の感覚に訴えかけるので、どう反応するのか、実際にやってみないとわからないというところがあります。手も足も動かせますし、移動もできてしまうので、こちらが想定していない動きをされてしまうこともあるので。ですので、VRはゲームというよりかは、アトラクションに近い作りかたをしないといけないと感じています。

――『Trip Trap Travelers』プレイされたお客さんの反応はいかかですか?
山岸女の子たちが、「キャーキャー」と言いながらプレイしてくれていてうれしいですね。今回は、モノビットエンジンを使用して、ゲーム中にボイスチャットでコミュニケーションが取れるようになっているので、「キャーキャー」騒いでいるのをお互い確認できますし、見ているお客さんも騒いで様子がわかります。そこが、アミューズメント施設などのオープンスペースで展示されているおもしろいところかなと。先ほどお話した予想外の動きということでは、本来ならタイミングを見計らって一気に通過する振子の仕掛けをしゃがんで避けようとする方がいらっしゃいましたね(笑)。

――VRコンテンツを制作するにあたり、楽しいことや苦労したことを教えてください。
山岸新しいことを挑戦しているのでとにかく楽しいですね。苦労した点というと、先ほどもお話しました通り、ユーザーさんの反応が予想できないので実証実験が難しいことですとか、『Trip Trap Travelers』の場合は、複数人集まられないとデバッグができないところはたいへんですね。

――山岸さんはモノビットに入社されたときに、「VR-MMORPGを作りたい!」と宣言されていましたが、現時点で構想など話せることがありましたら、お聞かせください。
山岸いまは、ミニマムのゲームの部分を試行錯誤しながら、追求しているところです。たとえば、MMORPGになると多人数になるので、『Trip Trap Travelers』の4人協力プレイは、多人数で加わったときにどういう風になるのかという実証実験でもあります。また、現在のVRゲームでは、自由に歩き回れる作品はあまり多くないと思っています。でも、RPGとなると歩き回れることが前提なので、『Trip Trap Travelers』ではそこにも挑戦していますが、いまの移動方法が100%正解だとは思っていません。そのほかにも、『Trip Trap Travelers』の原型では剣を持っていましたが、最終的にはゲーム性を考えて外すことにしました。ですので、剣を持つ技術はすでにあります。ただ、そうすると今度は「剣の交換はどうしよう?」という問題が発生します。そういうことを試しながらMMORPGに最適なゲームバランスを取っていきたいと考えているところです。

 あとは、本城(※モノビット代表取締役社長の本城嘉太郎氏)がモリカトロンというAIの会社を作っています。AIはNPCの処理以外にも、マップ全体を管理するメタAIにも絶対的に必要になってくる技術です。また、現在使用しているモノビットエンジンも数千人規模のアクセスを処理するためには、もっと高速で処理しないといけないという問題も出てくるはずです。その知見や技術が、複合的に組み合わさっていくことで、うまく形になっていくと思っています。

――以前に、魔法を使うときはコマンドを選択するのではなく、スペルを描くようなことで発動するというようなことも考えていると話されていましたよね?
山岸そうですね。これまでのほとんどのゲームがパッドでプレイしていて、パッドは便利なのですが没入感が削がれてしまうところがあると思っています。ただ、現在のVRゲームで主流となっている両手にコントローラを持つことで没入感を高めることはできるものの、すべての操作が行えるのかというとそうではないんです。たとえば、その解決策としてグローブ型のコントローラを作れば、物を取る、剣を握る、魔法を指で描くというようなことができるようになりますが、今度は移動する方法に問題が発生します。そういう意味では、ここから先のハードウェアが重要になってくると思うので、そういう将来を見越した開発を考えています。

――VR-MMORPGとなると長時間プレイすることになると思いますが、そこへの対応は考えられているのでしょうか?
山岸そこも考えなくてはいけないところだと思っています。よく言われるのが、VRだけで処理するタイプのゲームにするのかどうかですね。たとえば、同一ゲームでもVRでプレイする局面と、VRを外してプレイする局面を作ったほうがいいかもしれないですよね。ふだんはVRでプレイしていて疲れてきたら、VRを外してスクリーンで続けられるようにするとか。逆の考えかたをすると、VRでなければできないような局面での戦闘を、VRでプレイしたほうが有利に進められるように作るという方法もありだと思います。そういったことをしっかり考えていかないといけないなと。VRデバイスが進化して、付けていてもほとんど気にならず、疲れないようなものが登場すれば、完全にVRに特化した作品もできそうですよね。そうなると現実世界に帰って来られなくなるかもしれないですけど(笑)。

――そこも将来の技術を見ながら検討中ということですね。
山岸そうですね。さまざまなデバイスを試しながら、研究や企画会議などをしています。

――最後にファンの方にメッセージをお願いします。
山岸VR-MMORPGの完成には、もうしばらくお時間をいただくことになると思います。VRは、新しい技術で新しい体験ができるものなので、ゲーム以外にもさまざまなものに応用されたコンテンツが出てくると予想しています。VR酔いになってしまうという人もいらっしゃいますが、FPSが登場し始めたころに酔ってできなかった方でも徐々に遊べるようになってきたはずです。VRも同じで慣れていくものだと思うので、機器もどんどん値段が安くなっていきますし、ぜひVRに慣れた体を作りながら楽しみに待っていてください。