『Rez』のこれまでとこれから

 2017年8月21日(現地時間)、ドイツ・ケルンメッセのdevcom会場にて、Enhance Gamesの水口哲也氏は“Why new technology keeps me coming back to Rez”(新しいテクノロジーが現れてもなぜ自分はRezに戻るのか?)と題した『Rez』の変遷を語るセッションを行なった。

 本セッションは、水口氏自身が「『Rez』は自分にとってライフワークと言える重要なプロジェクトであり、『Rez』をどう考えているのかを説明する」というもの。水口氏はまず、自身のキャリアを説明。27年前の1990年にセガに入社し、アーケードゲームからキャリアが始まったことを語った。『セガラリー』などのレーシングゲームを経験し、その後『ルミナス』、『Child Of Eden』などの新しいジャンルに取り組んだという。「新しいテクノロジー、プラットフォームが出るたびに新鮮なインスピレーションやアイディアが生まれた」と語る水口氏。

水口哲也氏が語る『Rez』の変遷【devcom 2017】_01

 2001年にサウンドバイブレーションを使った第一作目のオリジナルとなる『Rez』がプレイステーション2、Dreamcast向けにリリースされた。水口氏は「楽しいだけではなく、ミュージックに乗って心地よい感覚を味わえるゲームを作りたかった」と語り、続いて「ミュージックベースでリズムに乗ってスコアが取れるゲームはいろいろとあるが、そうではないものを目指した。音楽に乗ってダンスすると、ビート、グルーブを感じる。音楽にはパワーがあるからだ。サウンドエフェクト、ライトも効果があり、何か自分が変わったように思う。感情が高まる。ベースやドラムをプレイしたり、バンドでプレイしたりするとグルーブを感じるが、このメカニズムはどうなっているのか? 音楽のファクターを分析し、楽器演奏者が感じていることやDJがどのようにベース音を変えるのかなどを研究した」と『Rez』のコンセプトについて解説を行った。

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 続いて語られたのは、『Rez』の開発の原体験。GDC2016で行われたセッションでも語られていたように、水口氏の原体験は1997年にスイスのチューリッヒで行われたパレードにある。10万人の観衆が音楽に合わせて一斉に体を動かす姿を見て、音楽の持つパワーに感銘を受けたという。ひとりひとりがリズムに合わせて体を動かし、個のうねりが一体となって全体を生む。10万人の個が、音楽によってひとつの個となる。これが”Synesthesia”(シナスタジア)というキーワードに結びついたのだ。

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 水口氏の原体験としてもうひとつ語られたのが、ロシア出身の画家、ワシリー・カンディンスキーが1916年に描いた『モスクワ』。モスクワの街の音を聞き、さまざまなものから刺激を受け、すべてを融合させてキャンバスに表現したカンディンスキーの絵画に、テクノロジーのないアナログの世界での表現の最高峰を感じたという。では、デジタルの世界でキャンバスの代わりに新しい経験を作るにはどうしたらいいか? ゲームと音楽を結婚させるにはどうしたらいいのか? その表現に挑んだのが『Rez』であり、DJがトラックを変えていくようにリズムの変化を取り入れ、さまざまな実験ののち、サイバーワールドを救うというゴールを入れたそうだ。

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 1989年、NASAの写真に刺激を受けたと語る水口氏。写真にはヘッドマウントディスプレイを装着した女性の姿が映っている。「90年代初期、セガ、ナムコといったアーケードメーカーがVRに力を入れていたが失敗に終わった。自分もプロジェクトに関わったがテクノロジーが追いついていなかった。解像度が低く、レーテンシーの問題もあり時期尚早だった。だが、自分は何とかして作りたいと思った。最終的にはすべてのイメージを2Dテレビ画面に入れなくてはならなかったので不満があった。自分の中ではVRのようなイメージが広がっていた。将来VRテクノロジーが出てきたら新しいRez for VRを作ろうと思っていた」と『Rez Infinite』の原点が語られた。

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 続いて、水口氏は『ルミネス』、『Child of Eden』誕生の経緯を語る。「2004年にプレイステーション・ポータブルが登場し、ゲームを外に持ち出してどこでもプレイできるようになった。それまではいいゲームを作っても音楽とサウンドによい環境がなかった。プレイステーション・ポータブルはインタラクティブ・ウォークマン。ヘッドセットをつけてどんなゲームをやりたいか? 簡単に遊べて音楽を楽しめるもの、ここから『ルミネス』が生まれた」と水口氏は説明。一方、『Child of Eden』について、「『Rez』の精神を受け継いだゲーム」と語る水口氏。「Kinectテクノロジーを使ってコントローラーなしでゲームをプレイするもので、これは新しい経験だった。シンプルなゲームプレイ、サウンドエフェクトを使い、ミュージックとサウンドにフィジックスを取り入れてさまざまなテストを行なった。感覚はよかったが、フィードバックがないことが不満だったので、バイブレーションを入れてデザインした」と開発風景の写真を交えて説明を行った。

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 そして2016年、『Rez Infinite』が発売を迎えた。“AREA X”を初めてプレイしたときには涙が出たと語った水口氏。涙の理由は、「テクノロジーはまだ未熟だがイマジネーションには限界がない。新しい時代が来たと感じた」からだったという。『Rez Infinite』では、26個のアクチュエイター(振動素子)を内蔵して音を体感できる”Synesthesiaスーツ”、LEDライトを内蔵し、周囲の人々にも視覚的な刺激を与える”Synesthesiaスーツ2.0”、スクリーンに投射して多人数で体感する”Rez Infinite 4K”といったさまざまな実験的な試みが行われている。

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 水口氏は最後に、「表現したくてもそのボキャブラリーがないと感じているかもしれないが、新しい時代に入り、今後10年、20年のうちには多くの経験が共有できるようになる」と語り、Youtubeに投稿されているMicrosoft HoloLensにゲーム画面を投影し、『Rez Infinite』をプレイする動画を紹介した。「これを見ると将来がわかる。5年、10年後にはリアルタイム3Dイメージを共有できる。自分は、これまですべてのテクノロジーに影響を受けた。自分が表現するものは新しいテクノロジーによってもたらされた。新しいVRシステム、4K、8Kなどに期待している。10年後にはどんなテクノロジーが待っているのか。多くのアイデアが生まれることだろう。VRでコネクトして、シナスタジアも可能になる。シナスタジアは自分のライフテーマであり、テクノロジーを使って今後も進めていきたい」という言葉でセッションを締めくくった。

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