医者として人々を救い、吸血鬼として血を啜って殺す。

 海外パブリッシャーのFocus Home InteractiveがE3でプレゼンしていたアクションアドベンチャー『Vampyr』を紹介しよう。本作は海外で2017年11月にPS4/Xbox One/PCで発売予定。開発するのは、日本でもスクウェア・エニックスから発売されたアドベンチャーゲーム『ライフ イズ ストレンジ』などで知られるDONTNOD(ちなみに同作の前日譚『Life is Strange: Before the Storm』を手掛けるのは別のスタジオ)。

 本作では超能力×苦い青春物語だった『ライフ イズ ストレンジ』からテイストをガラッと変え、スペイン風邪の流行に悩まされる20世紀初頭のロンドンを舞台に、吸血鬼となってしまったドクター“ジョナサン・リード”がロンドンっ子たちを救うべく活躍する、アクションRPG的な要素強めのアクションアドベンチャーとなっている。

DONTNODと“プレイヤーの干渉によって変わってしまう運命”

 しかし、ゲームがゴスなテイストに変わっても、DONTNODのゲームの核となる物語要素は変わらない。それは“プレイヤーの選択によって変わる運命”だ。DONTNODの処女作『Remember Me』(日本未発売)ではハッキングによる記憶改変、続く『ライフ イズ ストレンジ』では時間操作による現実への干渉をストーリー上のギミックとしてきた。
 どちらの作品も、主人公が持つ強力な力で人々の運命を変えてしまうことで、真実を知る自分だけが世界に取り残されたような感覚に陥ったり、あるいは能力の結果が逆に不幸をもたらしてしまったりして、「これで本当に良かったのか、何が正しいと言えるのか」と考えさせるような作りになっていた。

吸うべきか、吸わざるべきか。ゲーマー本能も吸血に惹き寄せられる

 そして今回はもちろん、吸血行為がカギとなる。街中には60人ものストーリーを持ったNPCがおり、主人公は特定の場面で彼らを吸血することが可能。しかも下手に戦闘するより経験値を稼げると来ている。
 では片っ端から吸いまくればいいのかと言えば、そういうわけにもいかない。死人が増えれば街は荒廃していく。NPC同士が家族や恋人などの場合は別のキャラにも影響が出る。場合によってはクエストが消滅したり、街中の商人役がいなくなってしまうこともある(そして恐らくバッドエンドに近付いていく)。それに、吸い散らかしてロンドンを死の街に変えるのは、医師として疫病を駆逐して人々を救わんとする主人公ジョナサンの考えにも反する。

ヴァンパイア・ドクターが病める倫敦の夜を往く。その目に映るのは救うべき人々か、それとも血の晩餐か? アクションアドベンチャー『Vampyr』_01

 となれば倫理観に頼り、ムカつく野郎だけ我がエサになってもらうのが常道と言えそうだが、タチの悪いことにNPCの血の質は得られる経験値が異なる。それによってどんなことが起こるのか? 今年のE3デモでフィーチャーされていた、とある老女とその家族にまつわるミッションがいい例となっていたので紹介しよう。

 貧しいながらも慎ましく暮らす彼女には、酔っぱらいのボンクラ息子のほかに、実の息子のように目をかけているホームレスの少年がおり、3人と会話していくことで、ボンクラ息子がホームレスの少年を妬んでいるのに対して、少年もまた老女を家族のように慕っていることがわかる。
 しかもジョナサンの探索の過程で、ボンクラ息子がシリアルキラーであることが判明。もうこうなったらボンクラ息子のアルコール臭い血を飲むのが彼らにとってもベストの気がするが、血の価値がもっとも高いのは老女なのだ。そしてデモで吸血する対象として選ばれたのは彼女だった。

 「ジョナサンが強くなることでより強大な悪を打ち倒せる」と言い訳できるかもしれないが、血で濡れた口でそんなことを言っても説得力はない。このように本作では、キャラクターの吸血鬼の本能だけでなく、プレイヤーのゲーマーとしての本能に訴えかけることで、吸血行為へと誘うのだ。

ヴァンパイア・ドクターが病める倫敦の夜を往く。その目に映るのは救うべき人々か、それとも血の晩餐か? アクションアドベンチャー『Vampyr』_05

探索で都市に潜む病巣を見つけ出せ

 アドベンチャー的な要素の部分には、バンパイアの優れた感覚で生者の位置を透視したり、死体を引きずった跡などの血痕を浮かび上がらせるといった探索用の能力も用意されている。それまでのプレイで得た関連情報があれば会話シーンで使うことができたり、またそれによってNPC住人たちの隠れた秘密を知ることで経験値を得ることもある(吸血と比較すると少ないが、足しにはなる)。

 一方で、ロンドンには吸血鬼のなり損ない“Skal”や、バンパイアハンターなどが各所にいる。ロンドンはフルのオープンワールドではないものの、目的地まである程度の範囲を歩き回れるセミオープンワールド的な構成になっているので、彼らを避けて裏道を通ったり、瞬間移動能力で階上や対岸に渡ってすり抜けるといったステルス的な戦術も重要だ。

ヴァンパイア・ドクターが病める倫敦の夜を往く。その目に映るのは救うべき人々か、それとも血の晩餐か? アクションアドベンチャー『Vampyr』_03

 戦闘は、ちょっと『ダークソウル』系のアクションRPGっぽいシステム。体力、スタミナ、そしてバンパイア能力を使うためのゲージがあり、近接武器と銃、そしてバンパイア能力を組み合わせて戦う。鋭い爪を伸ばして近接を強化したり、ワープにより一瞬で相手の間合いに飛び込んだり、あるいは地面から複数の柱のようなものを召喚して敵の動きを止めたり、さらには血の力を解放して一気に周囲の敵を倒したりと、バンパイア能力にはさまざまなバリエーションがある(血の吸いがいもあるってもんだ)。見た限りでは去年のデモよりシステムも戦闘のテンポも洗練されていたので、この手のゲームを遊んだことがある人ならすんなり入っていけそうだ。

ヴァンパイア・ドクターが病める倫敦の夜を往く。その目に映るのは救うべき人々か、それとも血の晩餐か? アクションアドベンチャー『Vampyr』_02

 とまぁそんな感じに、ストーリーベースのアクションアドベンチャーを軸にさまざまな要素が組み込まれている本作。
 キャラクターもいい感じに陰鬱とした人物が揃っており、今回のデモの冒頭ではジョナサンが務めるペンブローク病院の院長スワンジーも、彼を訪ねてきた手練れのバンパイアハンター“マッカラム”も、どうやらジョナサンがバンパイアということを知っている節があったり、吸血病に感染したことを神の意志と信じる狂信者じみたキャラクターがいたりと、不穏な空気に満ちていて、ひと波乱もふた波乱も起こりそう。以前ご紹介した同パブリッシャーの『Call of Cthulhu』同様、こちらも国内パブリッシャーとの契約やローカライズが決まるといいなぁと思う次第だ。

ヴァンパイア・ドクターが病める倫敦の夜を往く。その目に映るのは救うべき人々か、それとも血の晩餐か? アクションアドベンチャー『Vampyr』_04
▲聖書を引用し、「取れ、これは私の体である、と主も言ったではないですか」と語る“ショーン”というキャラ。目がイッちゃってて怖い。