2016年は大躍進の年
韓国の釜山にある大規模ホールBEXCOにて、2016年11月17日~20日の期間開催されたゲームショウ“G-Star 2016”。同イベントにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(以下、SIEJA)デピュティプレジデント(アジア統括)の織田博之氏のインタビューを敢行。韓国での注力ポイントやその手応えをうかがった。
織田博之氏(文中は織田)
――今回のG-STARでSIEJAはどういった出展をしているのか、そしてどのような部分をアピールしたいのかを教えていただけますか?
織田 『ファイナルファンタジーXV』など、ハングル化された新作ソフトを前面に押し出しています。それに加えて、プレイステーション4P ro専門のブースやプレイステーションVRが体験できる特設ブースも出展させていただいております。プレイステーション4Proについては、先日発売させていただいて以降、アジア全域で入手困難な状態でして、G-STARの会場では、毎日50台ほど限定販売させていただきました。
――プレイステーション4 Proもプレイステーション VRもアジア全域で好評ですね。
織田 デジタルガジェットは、東南アジアよりも韓国、台湾、中国などの東アジアのほうが「体験したい、買いたい」と言ってくださるお客様が多いので、今回はそういったものを集中的に出展させていただいております。また、韓国のディベロッパー様に作っていただいたゲームもだいぶ出てきましたので、そのあたりも試遊台を多めに用意して、実際に遊んでいただけるようにしています。
――韓国市場におけるプレイステーション4やプレイステーションVitaの手応えはいかがですか?
織田 プレイステーション4は2013年12月に発売(※韓国の発売日)してから、非常に手応えがあります。今年も引き続き対前年比率2桁以上アップの売上を継続していまして、過去すべてのプレイステーションプラットフォームの中でいちばん力強さを感じています。プレイステーション Vitaに関しては、韓国ではリモートプレイでプレイステーション4を遊ぶお客様がたくさんいらっしゃるため、非常にステープル(※主要・重要)な商品になっています。これはほかの地域に比べて少し特徴的ですね。
――これまでの韓国市場はPCゲームのイメージがありましたが、プレイステーション4はその中でも人気を獲得しているということで、どういったところに注力したのでしょうか?
織田 まずひとつは、韓国はe-sportsがすごく盛んな国ですので、プレイステーションでも積極的にe-sportsに取り組んでいます。今回のG-Starでもカプコンプロツアー(世界各地で開催されるカプコンUSA公認の大会)のアジアファイナルが開催されますし、そういったところに注力しています。
――e-sportsは、『ストリートファイターV』を中心とした対戦格闘ゲームが中心なのでしょうか?
織田 韓国のe-sportsはPCの『リーグオブレジェンズ』やFPS、対戦格闘ゲームがメインですので、まずは対戦格闘ゲームから入って広げていこうと。
――韓国のゲームファンには、どういったタイトルの人気が高いのでしょうか?
織田 『ブラッドボーン』が人気で、韓国で突出しているのは『ラストオブアス』ですね。アジア全域で売れてはいますけど、韓国では初めてプレイステーション4を買う人に、ショップの店長がもっとも勧めやすい“マストバイアイテム”になっているほどです。意外だったのは、『ダークソウル3』のようないわゆる“死にゲー”と呼ばれる高難度のゲームも売れていることです。それほどコアファンもいらっしゃるという表れなのでしょう。ちなみにG-Starの試遊では、『仁王』の人気が高いようです。
――さきほど韓国ではe-sportsが盛んとおっしゃっていたので、PvP(人対人で行う対戦)系のゲームが主流かと思いましたが、そういうわけではないのですね。
織田 ひとつのジャンルに偏ることはなく、幅広く売れています。ひとつ言えるのは、韓国以外でもそうなのですが、アジア全域ではいわゆる“洋ゲー”と呼ばれる欧米パブリッシャー様のタイトルの売れ行きが強いですね。ファーストパーティーのタイトルですと、『ラストオブアス』、『アンチャーテッド4』、『グランツーリスモ5』などの人気が高いです。
――プレイステーションブースでは、『ファイナルファンタジーXV』にすごい行列ができていましたが、RPGの人気はいかがでしょうか?
織田 RPGも根強い人気があります。さきほども言いましたが、本当に幅広いジャンルのゲームが人気です。それだけゲームファンの層が厚くなっているんだと思います。プレイステーション3時代ではあまり見かけなかった、恋人どうしだとか、仕事終わりのサラリーマンだとか、そういった一般層の方もプレイステーション4を購入してくださっているようです。
――ライトユーザーには、プレイステーションVRの人気も高そうですね。
織田 韓国ではVR産業への興味が国民的に高いんです。
――これまで中国や台湾でのローカライズに注力されてきましたが、ハングルへの対応はいかがですか? また、ローカライズの体制はどうなっているのでしょうか?
織田 ハングル化したことによって非常に売り上げを伸ばしたタイトルが増えてきましたので、ここ1年くらいは積極的に取り組んでいます。現在はローカライズプロデューサーのような者がソニー・インタラクティブエンタテインメントコリア内にいまして、パブリッシャー様と密なやり取りをさせていただいております。これによりハングルのタイトルが増えてきまして、プレイステーション4の人気と相まって、非常にたくさんの方にお買い求めいただいています。
――ローカライズも好評ということでしょうか?
織田 ご評価いただいた結果だと思います。ローカライズは通訳とは違い、ゲームをやっている中での独特のニュアンスや表現がありますから、単に翻訳するだけではあまり評価をしていただけません。
――韓国で人気の高い日本タイトルはありますでしょうか? また、それはどこが評価されているのでしょうか?
織田 韓国では、長い間日本のタイトルで遊んでいただいている方が非常に多いんです。それこそ初代プレイステーションのころからです。ですから、まもなく発売される『ファイナルファンタジーXV』など、日本でも非常にファンの多いタイトルは韓国でも根強いファンがいらっしゃいます。
――韓国の開発会社は、プレイステーションに対してどれくらい積極的に取り組んでいるのでしょうか?
織田 多くの開発会社様が積極的に取り組んでくれるようになりました。プレイステーション4の発売からだいぶ風向きが変わった感じです。ひとつは、韓国ではPCオンラインゲームの市場がたいへん大きいのですが、開発環境が整備されたことによってそういったタイトルが移植しやすくなりました。また、新しい体験としてコントローラーを使って遊ぶことが浸透してきたんだと思います。それから、冒頭で軽く触れましたが、韓国ではVRの注目度が非常に高く多くのユーザー様に興味を持っていただいております。これらの要素が組み合わさったことで、積極的に開発に取り組んでいただけるようになったんだと思います。発売したものも含めて30タイトルが開発中です。
――インディーメーカーの動きはいかがでしょうか?
織田 こちらも非常に多いです。韓国では大手のパブリッシャー様とも話をさせていただいていますけれども、VRとなるとインディーメーカーの方々が積極的です。
――そこでもやはりVRなんですね。
織田 中国や韓国はVR熱がとくにすごい地域ですね。VRはアイデア勝負の部分があるので、アイデアがハマれば一気にブレイクするかもしれません。おそらく、そういったところが非常にクリエイターのモチベーションになっているんだと思います。
――クリエイターのお話が出ましたが、「このジャンルを作ろう」という開発者の好みや傾向というのは、あるのでしょうか?
織田 どちらかといえば、FPSや格闘ゲームの方面が強いですが、やはりジャンルは幅広いですね。バラエティーに富んだゲームタイトルをプレイステーション向けに作っていただいている印象を受けます。
――アジア全域に目を向けて、プレイステーションプラットフォームの2016年を振り返ってみていかがですか?
織田 2013年にプレイステーション4が発売されて3年が経ち、非常に力強さを感じています。力強さというのは、コアなゲーマーだけではなく、ファミリーやカップルであったり、たくさんの新しいお客様に来ていただいて、非常に堅調な売り上げを継続していることですね。そういった意味ではプレイステーションフォーマットの広がりを感じています。
――期待以上の成果を得られた地域というのはありますか?
織田 じつは韓国ですね。PCオンラインゲームの大国であり、まだコンソールゲームの市場は小さいですけれども、勢いという意味では非常に期待以上のものがありました。2016年の韓国は大躍進と言っていいでしょう。
――PCオンラインゲームの中に割って入れたんですね。
織田 いえ、正直に申し上げて、PCオンラインゲームからスイッチした方はいないと思います。PCオンラインゲームをやりながら、新たにプレイステーション4でも遊びたいと買い足した方がほとんどでしょう。
――ということは、プレイステーション4ならではのタイトルが出てきたというのが大きいのでしょうか?
織田 大きいですね。韓国は人口約4500万人の中で、ゲーマーは1000万人以上いるというデータもありますので、非常にゲーム人口が多く、ゲーム文化も浸透しています。ですので、コンソールゲームのポテンシャルはあると思います。
――それだけゲーム人口がいれば期待も大きいですね。
織田 韓国では流通も変わってきています。エレクトロマートというEマート系の家電量販店が、ドローンや3Dプリンタのようなガジェットだけを集めた独特の売り場を展開しているんです。じつはこの売り場の中にお酒が飲めるバーがあるんですよ。それがいろいろなショッピングモールの中に入っていて、家族で訪れた際に、お父さんがお酒を飲みながら時間を潰せるんです。これが“キダルト”(キッドとアダルトを足した造語)コーナーといって韓国でちょっとしたブームになっています。まだ日本の家電量販店は物を買いに行くところなんですけど、キダルトコーナーは物を買いに行くというより週末の時間を過ごすような滞在型の場所なんです。我々はこういった場所になるべく商品を置いてもらうことで、幅広いお客様に見てもらえるように進めています。
――これから年末商戦、旧正月、お正月などが控えています。その中で注力していくポイント、戦略などをおうかがいできますか?
織田 アジア全域で言うと旧正月、中国の旧正月がいちばんの商戦期になります。この時期には、11月末に発売される『ファイナルファンタジーXV』を筆頭に、たくさんの名作が登場しますので、実際にお客様に体験いただき、お買い上げいただけるようなセールスプロモーションをいろいろ仕込んでいます。もっとも力を入れて進めているのは、ソフトと本体をセットにした“バンドルパッケージ”です。コアゲーマーの方向けにタイトルに特化したバンドルパッケージはもちろんのこと、お子様にも遊んでいただけるような『リトルビッグプラネット』ですとか、そういったタイトルを複数セットにしたクリスマスパッケージやホリデーパッケージのようなものもご用意いたします。
――では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
織田 プレイステーション4のみならず、長い間プレイステーションを支持していただき本当にありがとうございます。プレイステーション4ProとプレイステーションVRの品切れでたいへんご迷惑をおかけしていますが、一日も早く皆様にお届けできるよう努力いたしますので、今後とも応援よいただけますようよろしくお願いします。