『攻殻機動隊』らしさがFPSに見事に融合
NEOPLE Inc.が開発、ネクソンが運営を担当し、2016年11月2日からオープンβテストを開始したPC用オンラインFPS『攻殻機動隊S.A.C. ONLINE』。人気アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の世界をベースに、電脳技術により個の概念が失われつつある近未来を、FPSで再現した作品となっている。
『攻殻機動隊』の昔からのファンであり、FPSも大好物の筆者としては、頼まれずともこのテストには参加せざるを得ない。というわけで、初日からさっそくダイブし続けてみてのインプレッションをお届けする。
インプレッションに入る前に、まずは本作のシステム面について軽く紹介しておこう。オープンβテスト時点でプレイできるゲームモードは以下の3つ。
<チームデスマッチ>
敵プレイヤーを倒すとスコアが入り、先に一定値に到達したチームが勝利。
<デモリッション>
爆弾を仕掛ける側と解除する側に分かれて戦うモード。ほかのFPSでは“爆破モード”とも言われ、緊迫した戦いが楽しめる。
<コンクエスト>
多脚戦車タチコマを活用しつつ、占拠した端末の数で勝敗を決めるモード。スピーディーな試合展開が特徴。
ゲームのジャンルは世界的に人気の高いFPSで、『攻殻機動隊』ファンでなくても非常にとっつきやすい。注目は『攻殻機動隊』らしさと本作独自のおもしろさを両立させている“スキルシンク”システムだ。
本作で操作できる公安9課のキャラクターたちは、以下のようにそれぞれ独自のスキルを持っている。移動スピードや耐久力と言った性能類は全キャラ共通なので、スキルそのものがキャラクターの違いと言える。
◇素子……光学迷彩
光学迷彩で姿を消す。半透明になり、敵からは非常に視認しにくくなる。
◇バトー……アームランチャー
強力なロケット弾を撃ち込む。強力な兵器や車輌も一撃で破壊できる。
◇トグサ……シーカードローン
敵を発見すると自動追尾し、自爆しつつ閃光効果を発生させるドローンを設置する。
◇サイトー……ヒートセンサー
熱源感知で、壁の向こうや遠くに離れた敵の位置を一定時間視認できる。
◇イシカワ……セントリーガン
範囲内の敵を自動で攻撃する、セントリーガンを設置・回収する。
◇ボーマ……ナノゲルアーマー
体力の上限が増え、効果時間中は体力が自動回復する。
◇パズ……加速疾走
効果時間中、移動速度が大幅に上がる。
ゲーム開始時点で使えるキャラクターはひとりだけだが、プレイヤーレベルが5に達すると、もうひとりアンロックできる。後述する武装のカスタマイズや購入は全キャラクター共有になる。
そしてキャラクターごとのスキルを“共有”できる本作独自の要素が、スキルシンクというシステムだ。
敵プレイヤーを倒して画面左下にあるTierゲージを一定量まで溜めるとスキルを使用できる。Tier1まで溜めれば使用可能だが、最大のTier2まで溜めると効果時間が長くなるなどのメリットがあるほか、一部のスキルは周辺にいる味方プレイヤーが共有して使えるようになるのだ。これがスキルシンクである。
このスキルシンクが、シンプルなシステムながらじつにおもしろい。味方がどのキャラクターかによって、マッチングごとにまったく異なるプレイ感覚が楽しめる。
たとえば、筆者はパズを最初に選択し、いまなお愛用中。自分の加速疾走スキルを使いつつ、味方の素子が使った光学迷彩とボーマが使ったナノゲルアーマーをスキルシンクで共有させてもらったことがある。
この状態だと、筆者のパズは高速で動くうえに視認しにくく、さらに自動回復能力持ちというとんでもないキャラクターになるわけだ。それはもう無敵にでもなった気分で、「銃なんかいらん!」とばかりにナイフキルを何度もさせていただいた。この快感はほかのゲームではそう味わえないだろう。
本作ではスキルでキャラごとの個性が表現されており、加えて武装のカスタマイズでプレイヤーごとの個性が出せる。銃器にレーザーサイトやフォアグリップなどのパーツを装着できるのだ。これらのパーツは対戦でポイントを貯めてアンロック、並びに購入していくのだが、性能を表わすステータス名が“正確度”、“安定性”など、じつにわかりやすい。
初心者がチンプンカンプンになりがちな“集弾率”などのFPS専門用語が使われていないので、FPS初心者でも直感的に好みのカスタムガンを組み上げられるだろう。
これが真のチームワークなのか!? 荒巻課長の名言が甦る!
さて、こうして準備も整えたところで、さっそくクイックマッチを活用し、ひたすらあらゆるゲームモードで対戦をくり返してみた。
先述のとおり、筆者のファーストキャラクターはパズ。武器は最初は好みでアサルトライフルのM4A1を使っていたが、速度がウリのパズは移動しながら撃つことも多く、その場合は弾がバラけやすい。そこで、より安定しているサブマシンガンに鞍替えした。
そうして対戦を続けてみたが……なぜか勝てない。敵チームのエースにトリプルスコアを付けられることも珍しくない始末。
FPS自体をここ1ヵ月近くサボっていたせいもあるだろうが、FPS好きとしては少々情けない。そこまで孤立したり突出したりすることはせず、味方と集団行動を心がけ、スキルも味方が多くいるときやここぞという場面に備え、Tier2になるまで温存しているのに……。
さすがにテンション下がるわー……と思っていたところで、オープンβテスト開始から数日後に、本作の開発会社NEOPLE Inc.のチェ・ジョンイク氏にインタビューする機会をいただけた。
このインタビューの席でコンセプトを訊いたことで、自分のプレイの問題点があっという間に判明した。それはもう、目の前の霧が一気に晴れた心地だった。
最近の対戦ゲームでは、シールド役や回復役など、役割がキャラクターごとに決まっていることが多い。筆者もそういうFPSに慣れていたため、パズのスピードを活かした斬り込み役というよりは、味方にスキルを提供するチームワークを意識して立ち回っていた。
たとえば、加速すれば逃げ切れる場面でも、「ここで使うより温存して、味方の突撃に合わせて使おう」と、スキルを温存したままキルされていたわけだ。
だが、そんな都合のいい言い訳はダメなのだ。荒巻課長が原作でもこう言っていた。
「我々の間に、チームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすれば、スタンドプレイから生じるチームワークだけだ」
チェ・ジョンイク氏によると、本作は『攻殻機動隊』の哲学をこだわって再現しているとのこと。スキルシンクで再現された、“個の行動が集団的意識に沿っていく”という、スタンドアローンコンプレックス(S.A.C.)現象。そんな哲学で作り上げられた本作では、原作の公安9課のように、チームのためにプレイするのではなく、プレイすることでチームに貢献するべきだったのだ。
そう意識してみると、途端にプレイ感覚が変わった。Tier2にできそうなときは狙ってもみるが、積極的に「使いたい」ところで加速スキルを使ってみる。
するとどうだろう。スコアがみるみる上がっていくではないか! パズの本来の性能を、筆者は温存などというチームワークへの言い訳で封じていたのだ。何ともったいない……。
そして、いままでは、自分がスキルを使うタイミングばかり気にしていて、気付かったことも浮き彫りになった。対戦中には頻繁に、味方からのスキルシンクのチャンスが発生しているのだ。そのスキルを借りつつ、自分の加速も積極的に使うとどうなるか。
結果、光学迷彩と加速、ヒートセンサーで敵の位置を把握してからの加速など、スキルシンクによるコンボもさらに多く活かせる機会が増えていく。こうなるともう自分のキャラクターが強くてカッコよくて仕方ない! 全員ひとりでブッ倒してやるぜぇー! とばかりに、突っ込みたくもなるというものだ(調子に乗って突っ込むのはさすがにダメだが)。
そしてさらにおもしろかったのが、自分がTier2の加速疾走を使って相手の裏を突くために(いわゆる裏取り)突入しようとしたとき。味方の援護などはとくに意識していなかったのだが、近くにいた味方ふたりがこちらのスキルをスキルシンクで共有し、突入に同行してくれたのだ。
裏取りに行った場所には敵が3人もおり、単独では確実に返り討ちにされていただろう。だが、加速した味方の援護もあり、無事一掃に成功。意識していないのに勝手にチームプレイが成立するという、まさに『攻殻』原作そのままの理論が見られた。