『女流棋士の春』の画作りは“動く『428』”

 2016年10月22日、ゲームデザイナーのイシイジロウ氏が監督を務める自主制作映画『女流棋士の春』が、東京・新宿区のK's cinemaで行われたイベント“DROP CINEMA FESTIVAL vol.28”にて上映された。DROP CINEMA FESTIVAL vol.28は、演劇・俳優・映画監督を目指す人のための専門学校“ENBUゼミナール”の学生たちによる作品を集めたイベント。イシイ氏は勉強のため、同校に在籍しており、中間発表ということで『女流棋士の春』を制作したのだ。同作品には、主演を務める女流棋士の香川愛生さんや、音楽の坂本英城氏を始め、『アルティメット人狼』などでイシイ氏と親交のある人物が多数参加している。
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イシイジロウ監督作品『女流棋士の春』が下北沢トリウッドで上映決定! 香川愛生さんが歌う主題歌のデジタル配信も_01
イシイジロウ監督作品『女流棋士の春』が下北沢トリウッドで上映決定! 香川愛生さんが歌う主題歌のデジタル配信も_02
▲イシイジロウ氏は、『428 ~封鎖された渋谷で~』や『タイムトラベラーズ』などでゲームファンにはおなじみ。
▲香川愛生女流三段は、ゲーム好き女流棋士として知られる。今期もタイトル戦に出場するなど、本職でも活躍中。

■『女流棋士の春』あらすじ
 澤田一二三は同じ大学に通う女流棋士の賀川春に想いを寄せていた。高嶺の花である春に話しかける機会の作れない一二三。昼休み公園でベンチに一人座る春を見かけた一二三は、春に目隠し将棋を仕掛ける。「お願いします。7六歩」…将棋の勝負が決まるまでに一二三は春に想いを伝えられるのだろうか?
(K's cinemaサイトより引用)

 DROP CINEMA FESTIVAL vol.28が開催される2016年10月22日~28日のうち、『女流棋士の春』が上映されるのは、10月22日と25日の2日間。10月22日の回では、全5作品のプログラムのうち、4番目に上映された。
 すべての作品の上映が終わると、イシイ氏と香川さんが登壇。イシイ氏は、「お誕生日おめでとうございます」と、10月23日に誕生日を迎える香川さんの母親を祝うと、本記事のタイトルにもなっているふたつのニュースを発表した。

 ひとつ目のニュースは、『女流棋士の春』が、インディーズ映画の聖地“下北沢トリウッド”(『君の名は。』で話題の新海誠監督作品『ほしのこえ』が上映されたことでも有名!)で上映されること。期間は2016年12月17日~23日の予定で、12月17日の11時30分からの回では、イシイ氏と香川さんによる舞台挨拶も行うという。チケット予約は、2016年10月23日から可能だ。

■『女流棋士の春』下北沢トリウッド上映スケジュール
公開日:2016年12月17日(土)~12月23日(金・祝)  1週間
タイムテーブル:土日11:30 平日20:00
休映日:火曜定休
上映日数:6日間
上映回数:6回
予約:2016年10月23日(日)15:00~ 電話受付(03-3414-0433 ※営業時間内のみ、火曜日定休)

 そしてふたつ目のニュースは、香川愛生さんによる主題歌『女流棋士の春』が、iTunesとAmazonで配信されること。配信元はnoisycroakRECORDSで、2016年12月17日より配信開始予定となっている。

■主題歌『女流棋士の春』
歌:香川愛生
作詞:イシイジロウ
作曲・編曲:坂本英城
マスタリングエンジニア:加藤浩義
ディレクター:陣内優希

配信サービス:iTunes / Amazon mp3 ほか
価格:未定
配信予定日:2016年12月17日(土)
配信元:noisycroakRECORDS

 これらの発表を終えると、イシイ氏と香川さんがそれぞれ映画の感想を述べる。イシイ氏はもともと、アクション映画を撮りたいと思っていたという。しかし、イシイ氏らの作品を監修した映画監督の市井昌秀氏から、「学生たちの中には女の子を撮りたいと思って入ってきた子もいる」と聞いたイシイ氏は、それもいいなと方向転換。身近にいるかわいい女の子ということで、香川さんに白羽の矢を立てたのだそうだ。
 そんな経緯で主役に抜擢された香川さんは、「まさか自分が映画館のスクリーンに大きく映し出されて、しかもその前に立っている日が来るとは」と、想像していなかった未来に驚く。出演オファーをもらった際は、将棋を知ってもらうためのアプローチとしては映画という方法もあるな、と考えたそうで、「15歳で女流棋士になって以降、将棋のことばかり考えてきました。これからも将棋のよさを伝えていきたいです」と抱負を述べた。

監督&出演陣にインタビュー

 プログラム終了後、監督のイシイ氏、主演の香川さん、主人公の父親役で出演した安西崇氏(スクウェア・エニックス在籍。『ドラゴンクエストX オンライン』チーフプランナー)にインタビュー。人狼ゲームなどで記者がふだんお世話になっている方々ということもあり、ざっくばらんにお話をうかがった。若干のネタバレを含むので、それを考慮しつつご覧いただきたい。

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▲写真左から、安西氏、香川さん、イシイ氏。

──『女流棋士の春』公開おめでとうございます!

イシイ ありがとうございます。さっき、緊張して言い忘れたんですが、最初は坂本さんと、アイドル映画を撮ろうと言っていたんです。昔の角川映画みたいな感じで、主題歌が映画のタイトルそのままだったりして、しかも主演女優が歌うという。でも、作っていくあいだにどんどんマジになっていって、ドラマ的にちゃんとしたものになった。マジメな路線になったのは、「もうちょっといい映画にできるんじゃない?」という香川さんからのプレッシャーもあって(笑)。

──アイドル映画は違う、という(笑)。

イシイ 「これだと、春の気持ちがわからない」とか言われまして。それで何度も何度も改稿して、香川さんのチェックを受けて。作中で一二三と春が最後にどうなるのかとか、ラストのほうのシナリオも彼女のアイデアだったりします。

──おふたりが綿密に打ち合わせをする中で作品ができてきたわけですね。

イシイ そうですね。曲の詞もシナリオも直していただいて、香川さんありがとうございます(笑)。

香川 そこは、ちょっと語弊があるので私の口から説明したいんですけど(笑)。初めて女優に挑戦するということで、イシイさんが描いているものが自分にできるかなという不安がずっとありました。できないことを引き受けてしまって、結果的にあまりよくない方向に行くのが嫌だったんです。でも、最初のシナリオをいただいたときに、春はお父さんを亡くしているという設定だということがわかって。じつは私も父親がいなくて、母にずっと育ててもらっていたので、春の気持ちがわかるかもしれないという思いがありました。春と同じ気持ちで演じたかったので、自分がわからないところはひとつひとつ監督に相談していきましたね。結果としてワガママに内容を変えてしまったのは、本当に申し訳ないですけれど(苦笑)。

イシイ でもね、そのおかげで内容が本当によくなったんです。僕も父親がいないのですが、ふたりで相談して深いところまで詰めていって。安西さんとの回想シーンをあのクオリティーで撮らなきゃいけないと思ったのは、お互いに父親がいないからかな、という……。すごいマジメな映画みたいな話になっちゃいましたけど(笑)。

──いや、マジメな映画じゃないですか(笑)。

香川 でもけっきょく、父親というテーマがあったから、私も全力で心を込めて演じられたと思います。いままで出会ったいろいろな人が出演したり関わったりしてくれて、将棋の映画を作れたということが本当にうれしいです。

イシイ 演技の面では、澤田拓郎さんや真山勇樹さんが現場を引っ張ってくれました。

香川 真山さんは、ハイラム(人狼ゲームの舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』で澤田さんが演じる役名)が呼んでくれて。

イシイ 人狼やゲーム業界で親交がある方で映画を作ろうと集まったら、案外ちゃんとできてしまったんです。

──そんな中、ゲーム業界から来た安西さんは、物語で重要な役割を担う、春の父親を演じられていますね。

安西 私は今日、完成版を初めて見たんですが、いろいろと驚きました(笑)。

──あ、今日初めてご覧になったんですね。安西さんが出演することになったとき、プロットはある程度完成していたんでしょうか?

イシイ いえ、最初は写真だけで出演してもらう予定でした。でも、父親というテーマを突き詰めていくと、最終的に映像出演が必要ということに。

──そうだったんですか! 対局シーンもありましたが、駒を動かす所作も練習されて?

安西 はい。香川さんや村中さん(将棋監修の村中秀史六段)に教えていただいて。

香川 安西さん、すっごく震えてたいへんだったんです(笑)。

安西 撮影の日は、朝からコレ(駒を指す手つきをする)だけをずっと練習していましたね。

──トップ棋士という役どころですから、手つきがおぼつかないと問題ですものね。

安西 これはたいへんな役を引き受けてしまった、と思いました(苦笑)。

香川 撮影当日、(安西さんが)すごい暗い顔をしていて。

イシイ 僕、冗談を言ったら香川さんに怒られたんですよ。「いやいや、安西さん大丈夫っすよ!」なんて言っていたら、「ダメですよ! 緊張しているんですから!」って。

──安西さんは、ふだんはご自身が作ったものを楽しんでもらうという立場ですから、ご自身が演者になるという経験はなかなかないですものね。

安西 そうですね。いざ本番になってみると、自分がやりたいことや思っていることの何分の一もできないものだなと痛感しました。「俺のシーン、大丈夫かな?」って、ずっと心配だったんです。

──でも、立派に棋士を演じられていて、すばらしかったです。

安西 そう言っていただけるとうれしいです(笑)。

香川 対局のシーン、娘が目の前に座っていると思いました?

安西 そうだね。あそこは、「娘と将棋を指したらどうなるのかな」ということだけを考えて演じていました。

イシイ あのシーンは、本当によくできていたと思います。あそこは褒める!(笑)

香川 私もそう思います。もし父に将棋を教わることができたら幸せなんだろうな、という気持ちで盤の前に座っていました。映画館で観てほしいなと思う、いちばんのシーンです。

──主題歌についてもお聞きします。ちょっと失礼な言いかたかもしれませんが、主題歌が流れたとき、「いい歌だな、誰が歌っているんだろう」と本気で思って。その数秒後に、「ああ、香川さんじゃん!」となったわけですが(笑)。

安西 本当にね、いい歌ですよね。

イシイ 香川さん、ドヤ顔してる(笑)。

──香川さんに歌ってもらおうというのは、最初の構想だったアイドル映画の流れで?

イシイ そうです。歌とか歌ってもらって。あと、「アイドル映画だったらメイキング映像とか入れるか!」なんて言っていて、おもしろ映像もいっぱい撮ったんですが、案外いい映画になっちゃったと。そこにおもしろ映像を入れると台なしになるので、やめることにしました。

香川 今回の歌は、本当に宝物だと思います。すごく尊敬している坂本さんとイシイさんが作ってくれて。

イシイ 詞も2回くらい(香川さんに)直させられましたよ。

安西 ハッハッハ(笑)。

香川 尊敬はしていますけど、あれは……ちょっとボツ。

イシイ でも、おかげさまでいい詞になりました! やっぱり、いい結果を呼ぶ女だね、香川さんは。

──楽曲はデジタル配信されるということで、ぜひ多くの方に聞いていただきたいですね。では最後になりますが、イシイさんからファンの方にメッセージをお願いいたします。

イシイ この映画は、“動く『428』”みたいな画作りになりました。映画館に来てよかったなと思っていただける作品になっていると思いますので、本当に皆さんに観ていただきたいです。また、棋士の方々に協力していただいていますので、将棋にも興味を持ってもらいたいですね。下北沢トリウッドでの上映が始まったら、ぜひ観に来てください!