CEDEC+KYUSHU開幕に寄せて

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_22

 2016年10月22日(土)に、九州大学大橋キャンパスにて開催されたCEDEC+KYUSHU 2016。当日はあいにくの雨となったが、会場となる九州大学には多数の受講者が集った。9時から開会式が行われた多次元ホールには、立ち見の参加者が多数出るほどの盛況振りに! 肌寒い日だが、ホール内は文字通り熱気と期待に満ちることとなった。そんな中、日野氏の開幕講演に先立ち、まずはCEDEC+KYUSHU 2016の実行委員長も務める日野氏による開会の挨拶が行われた。

 開幕と同時に登壇した日野氏は、今回のCEDEC+KYUSHU 2016が、これまで九州で開催されてきたCEDECを大きく超える、約1500人もの受講申込者が集まり、会場に入りきらずに募集を締め切ったほどだったことを開かし、その盛況振りに驚きを見せた。

 日野氏は、「福岡の人はシャイな人が多いので、イベントを開催してもなかなか人が集まらないのに、これだけの受講者や講演のためにクリエイターたちが集まってくれたことはめずらしい」と語り、九州で開催されるCEDECが、”CEDEC+KYUSHU”として新たなスタートを切ったことで、「ガツンと盛り上がれるイベント」になったことへの実感を語った。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_02
▲日野晃博(ひの あきひろ)レベルファイブ代表取締役社長/CEO。多数のメディアで同時にコンテンツ展開を進める独自の戦略、クロスメディアプロジェクトで国民的大ヒットを記録した『妖怪ウォッチ』を始め、『イナズマイレブン』シリーズや『レイトン教授』シリーズなど数多くのヒット作を世に送り出してきた。現在新たなクロスメディアプロジェクトとして、『スナックワールド』や『メガトン級ムサシ』を制作中。

開幕講演で語られた、会社の財産はIPそのものであるという思想

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_01

 講演は開幕の挨拶に続き、そのまま日野氏による開幕講演へ。”新しいものをつくろう ~新規IPを作る意義~” と題された本講演では、新規IPがもたらす価値はどのようなものなのか、という点についての意見が語られた。

 レベルファイブといえば、『妖怪ウォッチ』の大ヒットも記憶に新しい、多くの新規IPを立ち上げてきたヒットメーカーだ。日野氏は「新しいものを作ることにはこだわりがある」と語りながら、「まずは軽く自慢から(笑)」と、はにかみつつもレベルファイブがこれまで手がけてきたタイトルを紹介。高い売り上げを記録しているデータを披露した。

 レベルファイブは『ドラゴンクエストVIII』の開発を手がけて以降、初の自社パブリッシングタイトルとなる『レイトン教授』シリーズを始め、『二ノ国』シリーズ、『イナズマイレブン』シリーズ、『ダンボール戦機』シリーズ、そして国民的大ヒットを記録した『妖怪ウォッチ』シリーズと、ヒットタイトルを生み出してきた。そして、これらを眺めて驚かされるのが、どれも新規IPとして立ち上がっているものばかりであることだ。

 「レベルファイブは10人ほどのスタッフで始まったゲーム会社だった」と語る日野氏。だが、いまではこれら自社タイトルの制作を通じて、ゲーム会社という枠にとらわれずに、多くのIPを保有するコンテンツホルダーへと会社の役割が変化しつつある、と自社を位置づける。

 ここで、日野社長は、まさにレベルファイブの大ヒット作品であり財産でもある『妖怪ウォッチ』の実績を、“某妖怪もの”が生み出した成果、として紹介。この国民的大ヒットを記録したシリーズの成果は、なんと初期投資は7.5億円からスタートした作品が、現在累計で市場規模3400億円の結果を生み出しているという、驚くべきものだ。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_05
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_04
 ▲ちなみに、初期投資の7.5億円は通常の新規IP立ち上げ費用としては少ないほうであるとのこと。これらの費用には、アニメ制作などの資金も含まれるとのことで、本来自分たちだけでプロモーションをかけるには、もう少し費用がかかるらしい。

 この結果は、『妖怪ウォッチ』がレベルファイブのゲームとしてだけではなく、原作としてアニメやコミック、おもちゃなどと同時に展開していくクロスメディアプロジェクト戦略によって、総合的なエンターテインメントになったゆえでもある。

 日野社長は、こうした誰でもが知っているような、国民的大ヒットIPを自分たちで世の中に送り出すというエキサイティングな体験ができたことや同時にヒット後に生まれるさまざまな問題についても、その難しさを経験したという。しかしそれでも、自社IPを創出することは重要なのだと語る。

『イナズマイレブン』IPに驚異的な期待が集まる理由とは?

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_07

 日野氏は改めて「オリジナルタイトルは、社の財産である」とし、「ゲームをヒットさせることに留まらず、たったひとつのIPが未来を生むことに繋がるのでそれを大切にしている」と語る。
 ここで、レベルファイブが持つ自社IP作品をもう一度スライドで紹介。注目は、『レイトン教授』シリーズや『イナズマイレブン』シリーズなど、何年も前に生み出された自社IPタイトルが、何作品も代を重ねながら、現在も最新作が作られているという点だ。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_06
 ▲カッコ内はリリースされたシリーズタイトル数。現在最新作が制作中のものも多いことに驚かされる。
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_08

 さらに日野氏は、そのなかでも『イナズマイレブン』にフォーカス。6作品続いてから、3年間の休止を経て復活した最新作が、多くのファンたちから高い期待を得ていることを紹介した。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_10
▲LEVEL5 VISION 2016での、新作発表直後のPV再生数。『イナズマイレブン』最新作のパイロットフィルムがファンに何度も視聴されて、発表間もなく高視聴数を記録!
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_12
▲ちなみに、『イナズマイレブン』最新作の人気ぶりを示す上のスライドは、奇しくも11(イレブン)枚目。偶然!?
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_13
▲『イナズマイレブン アレスの天秤』公式番組”イナズマウォーカー”も、高い再生数と満足度を記録。早くも日本有数の人気番組になった。

 日野氏はこの『イナズマイレブン』シリーズについて、「6作目で宇宙に行ってしまって、ちょっとやりすぎたかな?」と苦笑いしつつも、7作目にして最新作となる『イナズマイレブン アレスの天秤』への期待と前評判の高さに言及。10年前に企画した『イナズマイレブン』という自社IPが、いま最新作を発表したところ、こうした高い期待を得たということについて、「ファンを獲得したIPは、何十年たっても会社の財産として大活躍してくれる」と語り、その理由については「シリーズの開始当時は中学生だったファンが、いまでは大学生など大人になっている」と分析。ひとつの新規IPを生み出すことで、これだけ長くビジネスを展開できるという点を強調する。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_14

ビジネスと種火を未来に受け継ぐために

 そうしたIPの例として、ドラえもんやウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムなどの人気長寿コンテンツを紹介しながら、子どものころに楽しかったものが、時を超えて大人になったころに復活すると人気コンテンツになると力説。ヒットした自社IPは、何度でも復活できる“ビジネスの種火”になるとの意見を示した。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_16
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_15

……と、ビジネスにとっての自社IPを保有するメリットを語った講演だったが、じつは、新規IPを立ち上げることは、そうしたビジネス上のメリットを上回る喜びがあるのだという。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_17

 それは「自分たちで生み出した作品の記憶が、次世代へと受け継がれていくことだ」と日野氏は語る。確かに、『イナズマイレブン』シリーズのファンは、子どものころに夢中になった記憶とともに、大人になって復活する最新作を楽しみにしている。きっと、大ヒットを記録する『妖怪ウォッチ』シリーズも、今後何十年にも渡って記憶に残り、楽しまれていくIPになることだろう。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_18

 「レベルファイブは、未来に向けて新しい作品を考えていきます」と続けた日野氏。講演の最後には、立ち見で受講する受講者も続出する会場内に向かって、「おもしろい講演が満載なので、ぜひ存分に楽んで学んで、創造力を刺激して、レッツ新規IP!」と、苦労も大きいけれど、新しいIPを作ることこそが、エンターテインメント業界の醍醐味であると結んだ。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_20
自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_19

 某妖怪ものならぬ、誰もがその名を知る『妖怪ウォッチ』のようなメガヒットを連発するレベルファイブ。そのお膝元である九州で開催されたCEDEC+KYUSHUの開幕講演は、実際に新規IPでヒットをとばしてきた日野社長だからこそ語れた内容だったと言えるだろう。

その証拠に、講演の途中には、先日開催されたレベルファイブの大型新作発表会LEVEL5 VISION 2016 -NEW HEROES-で新たに発表された『スナックワールド』、『メガトン級ムサシ』、そして同社初となる女性向けスマートフォン用RPG『オトメ勇者』といった新たなIPの紹介も行われた。新しいものを作ろう、と言うのは簡単だが、実際にこうして新規IPの創出を続けていくのは、いまのゲーム業界では並大抵のことではないはずだ。

自社IPが生む『イナズマイレブン』最新作への驚異の期待値や“某妖怪もの”の市場効果も公開! 日野社長の開幕講演リポート【CEDEC+KYUSHU 2016】_21

 ちなみに、日野社長がこうして毎年必ず新しいIPを立ち上げつづけている理由のひとつには、かつて週刊ファミ通の編集長だった浜村弘一氏(カドカワ取締役、ファミ通グループ代表)が、まだレベルファイブが無名だった時代に、「レベルファイブさんには、毎回新しい作品を発表して、業界を驚かせてほしい」と言った、その言葉もあるのだという。

 若い学生やクリエイターが詰めかけ、朝から立ち見が出るほどに盛況だった日野社長の開幕講演。もしかしたら、この受講者のなかからレベルファイブのような未来に受け継がれるほどに、新しい熱気を持った新しいIPが生み出されるかもしれない。